止まりかけた歯車が再び動きだした
MCプロ 江藤達也(えとう・たつや)
プロローグ
79歳(昭和14年生)。40年前、腰の骨に腫瘍。九州大学で、開腹手術。第2腰椎の椎体を切除、骨盤の一部を移植、腰椎1・2・3番を固定。定年後のことを考え、整体の勉強を 10 余年。指導員になったあと、事故で右腕切創。正中神経と尺骨神経を切断。治療師への道を断念。64 歳でサラリーマン生活を終える。その年、インストラクターのオーディションに応募、合格。ピラティスと整体、リンパドレナージュの資格を統合し、「整体ピラティス」という独自ブランドを立ち上げる。現在も、北九州市を中心に、カルチャーセンターや病院関係、市民センターなどで毎日2~3回、ひざ痛、股関節痛、腰痛、肩こり、坐骨神経痛、便秘、尿もれ、頻尿などの改善を目的とした体操を指導。しかし、体操だけでは、歩行困難者、とりわけ高齢者が再び歩けるようになるには限界があった。自分自身も、5年ほど前から、腰椎固定に起因する「脊柱管狭窄症」により、跛行(はこう)現象が起きるようになった。
ポールウォーキングとの出会い
そんなジレンマの2014年夏。たまたまスイッチを入れたテレビで、五輪スキーの葛西選手が「ノルディックウォーキング」を指導していた。
「コレダ!」。
博多(福岡市)で開かれた講習会を受講した。実技のとき、「自分が求めるものとは違う」ことがわかった。期待が大きかっただけに、失望感も大きかった。後日、ネットで、「ポールウォーキング」なるものにいきあたった。「ノルディックウォーキング」とは、似て非なることもわかった。早速、熊本市でのベーシック講習会に参加した。ご指導いただいた元プロ野球選手・村上良次先生自身、介護施設でポールの指導をなさっているとのこと。講習の内容も的確で、「ポールウォーキング」に確信を持った。受講を重ね、マスターコーチプロの資格も得た。朝日カルチャーセンター(北九州校)で「ポールウォーキング」の講座をスタート。自分の体操教室でも野外レッスンを始めた。
歩行困難者への指導の特異点
高齢者運動機能改善指導士として、歩行困難者が、ポールを使うことで、歩けるようになるための指導をするなかで、自分自身が歩行困難者であるということで気付くことも多々ある。
まず「歩き方」の指導に重点を置く。「足の爪」の切り方、かかとから拇指球へ体重移動するときの「指先の角度」など基本的なことから始める。「素足」で指導するときもある。また、腰痛の人については、上半身と下半身をひねるのではなく、上半身と下半身を固定して、体全体をローリングする歩き方を習得させ、歩幅を狭くして、足の裏・指裏でしっかり踏みしめるよう指導している。
O脚でひざ内側に痛みがあり、杖をついて体操教室に来た80歳の女性。それまでの外足歩行を改善しながら、ポールを使った歩行訓練を続けた。2年後、82歳で北九州マラソン短距離の部に参加できるまで改善した。
健常者もそうだが、「歩き方」が間違っていれば、ポールウォーキングといえども、健康づくりにはつながらない。「歩き方」の指導とあわせ、下半身の筋肉トレーニングも重視している。ほかに、ポールを使って、足やお尻、背中の筋肉をほぐしての「リンパ体操」や肩甲骨まわりをほぐしての「肩こり改善体操」などもおりまぜている。
「ポール」が支えてくれる
現在、50 人ほどの生徒さんが、歩行困難者は日常の歩行時に、健常者もそれぞれポールウォーキングで健康増進に励んでいる。教室によっては、時折「ポールで歩こうかい」と称して、グループで楽しんでいる。
私自身のことで言えば、跛行現象が日増しに強まってきた。手術を決断した。日程まで決まった。しかし、腰椎固定部4か所に狭窄があり、手術をしても必ずしもいい結果が得られるとは限らないとの最終診断だった。手術を取りやめ、保存療法を選択した。一時、あきらめかけたインストラクター業も再開することとなった。歩行困難者のためにとの思いで習得、指導してきた「ポールウォーキング」が、将来にわたって、私を支え続けてくれることになった。「ノルディックウォーキング」との偶然の出逢い、それを通じて安藤邦彦会長が開発された「ポールウォーキング」にたどり着いた。講習会では、多くの先生方にご指導をいただいた。すべてに、感謝。おかげで、止まりかけた歯車が、「私の人生」が再び動き出した。
今後、健常者による健康づくりのための「ポールウォーキング」が普及していくなかで、医療関係者との結びつきが生まれ、行政とタイアップして、歩行困難者が「ポール」で歩くことへの理解も広がっていくであろう。私自身、歩行困難者のためのポールウォーキングのパイオニアの一人として、「お尻をしめて・胸はって・ひざうらのばして・元気よく」と口ずさみながら闊歩していく所存である。
朝日カルチャーセンターのウォーキング教室
(後ろは小倉城、先頭の素足・セッタ履きに注目、筆者です)
出典:NPWA会報誌Vol.17(2018/12/25)
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