コロナ禍で高齢者の社会活動は未だにコロナ前の水準には戻ってはおらず、新たな価値の創造が求められています(筑波大学山田先生)。
今月の学術ニュースは、「がん免疫療法」に関する最新の話題と、岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学情報をお届けします。
1.2025年7月の活動状況
NPWA会員は、暑さの中でも、様々な社会活動の機会・場を設けています。
・田村 芙美子さんの投稿
7/1 いよいよ文月です。午後の強烈な雷雨のあとは、涼しくなったように感じました。今朝の火曜サークルは外歩きを変更して室内でポールストレッチ、筋トレのあとは、ステップエクササイズに励みました。少しずつ高さを上げて太股をしっかり上げて1-2、1-2! 徐々に回数も増やし夏休み中の自宅で出来る中強度運動に。 酷暑のため9月まで休暇に皆さん異議なし! 我が家は笹に襲われ中🎋 七夕飾りの枝 たくさんあります。
・台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
台灣健走杖運動推廣協會邀請指導員、教練們一起線上交流~ 【線上團練教室】 主持人及主講人:姜智兼 主題:日本健走杖協會參訪暨佐久市健走分享 教練分享: ⏰日期:2025/07/01(二) ⏰時間:20:00~21:00 🟩線上團練連結: https://meet.google.com/vuq-mujc-zyk (7:55pm開放入場) 非常歡迎教練們在發展健走杖推廣或教學上有任何想要更了解或交流的主題,請填寫表單,讓交流會安排更符合大家的需要。 https://forms.gle/FQoEDw2muJbjU2W28
・佐藤 ヒロ子さんの投稿
【暑さ薄れるウォーキング法】 2025/7/1 『#呼吸筋ストレッチ』と 『#呼吸筋活性化ウォーク』 この時期に意識を呼吸に移すと 体幹も心も整います #船橋ウォーキングソサイエティ #県立行田公園 #美姿勢ウォーキング
・遠藤 恵子さんの投稿
介護予防運動教室からの(╭☞•́⍛•̀)╭☞からの~ 午後はサロンワーク!! 加圧トレーニングセッション!! ひまわり🌻いい感じに成長中🫶
・田村 芙美子さんの投稿
7/2 北鎌倉赤の洞門。 今日は介護予防教室を親子サークル(ネイルサロンも併設)の皆さんとスペース共有して 多世代交流会状態で 賑やかに楽しくエアーポールエクササイズ・チェア🪑筋トレ・脳トレゲームなど楽しめました。
・柳澤 光宏さんの投稿
新幹線佐久平駅下りホームの看板を新しくしました。創業100年の看板を5年間も変えずに張っておりまして・・・。既に創業106年目、伝えたいことはいろいろありましたが、一点突破、思い切ってポールウォーキングに振り切りました。 ポールウォーキングをはじめよう!”健康と美” いかがでしょうか(^.^)?
・佐藤 恵さんの投稿
毎年この時期に担当させてもらっているヨガ教室ですが、今年が一番暑かった‥。どんなに暑くても参加率が高く、逆に元気をもらいました😌
・田村 芙美子さんの投稿
7/4 今日は渋谷区介護予防 PW教室2025年度2期初日。15名定員ですがお二人を除いて私より若いかたばかり。(私が高齢過ぎる?!)今日は計測日。教室休み明けの渋谷駅前のハチ公広場はハチ公の銅像を残して後ろの和風庭園などすっかりなくなっていました。34年度には新「ハチ公広場」となるそうです。
・水間 孝之さんの投稿
スキルアップ研修会IN佐久開催しました‼️ 安藤名誉会長にも参加いただきました。 坪井MCPRO,新地MCPROの正確な指導と参加者の真面目な受講姿勢に良好ですのお言葉いただきました‼️ 暑い中、皆さんお疲れ様でした‼️
・中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 本日7月駒場PW例会でした。 佐久も朝から熱中症予防情報が出ている中、集まってくれた60名の参加者で公園〜牧場の木陰を選んでのポールウォーキングでした。 午後はNPWAコーチスキルアップセミナー(佐久会場)で 佐久の地元勿論、埼玉や千葉から#のコーチも集まってのお勉強会でした。 名誉会長/安藤先生も終始同席されPW考案者の立場より的確・明快な返答や指導を頂きました❗️
・佐藤 ヒロ子さんの投稿
令和7年7月7日 シニアポールウォーキング 「この夏も元気に乗り切る」 そんな気迫みなぎる定例会 になりました #呼吸活性化ウォーキング #インターバルウォーク #ラダーとマットでコグニサイズ エアコンの効いた室内は 身体もしっかり動きます #船橋ウォーキングソサイエティ #シニアポールウォーキング
・田村 芙美子さんの投稿
7/8 今日の三浦ネットPWの活動は中止といたします。 ・・・・・・☀️・・・・・ 神奈川県に熱中症警戒アラートが発表されています。 本日は厳しい暑さが予想されます。 運動は原則中止し、外出はできるだけ控え、こまめに水分補給を行い、エアコン等を活用し、熱中症予防対策の徹底をお願いします。 また、炎天下の車内は大変危険です。わずかな時間であっても子どもを残したまま車から離れないようお願いします。 (市民健康課)
・長岡智津子さんの投稿
写真1件
・柳澤 光宏さんの投稿
柳澤 光宏さんの動画
・山下 和彦さんの投稿
今日から志木市の健康ポイント事業の計測会🦶多くの方がご参加されます! フットフレイル対策に加えて、オーラルフレイル対策がスタートします👄
・スマイルチームさんの投稿
ポケゴミスマイルの日。 #スマイルチーム #ポケゴミスマイル #ポールウォーキングしながらごみ拾い #日本財団海と日本プロジェクト #blueship #ブルーサンタ #記録 #20250710
・田村 芙美子さんの投稿
7/10 猛暑日対策 「涼める場所あります」←市内に何ヵ所かありますね。今日のPW教室の会場のなごやかセンターには電動運動器具も沢山あり自由に利用できます。今日は欠席者が多くいつもの部屋が広々した感じ。他サークルのラダーをお借りしました。
・スマイルチームさんの投稿
2025.7.7〜11 活動記録 ☺︎スマイルチーム光が丘 19名 チェア体操 ☺︎令和7年度シニアサポートスタッフ養成研修(相模原市 高齢・障害者支援課) ☺︎親子ふれあい体操 15組 (10ヶ月〜32ヶ月.双子1組) ☺︎青少年指導委員ブロック研修 欠席 ☺︎上鶴間公民館青少年部部会 ☺︎8月日赤救急法短期講習会チラシ作成、申込受付開始 ☺︎ポケごみスマイルチーム 10名 ポールウォーキングdeゴミ拾い #BLUESANTA ☺︎ブルーシップ活動報告レポート提出 (SNSにてアップ) ☺︎相模原市文化協会会議 (9/14の文化協会祭について) ☺︎青空ポールウォーキング 11名 ☺︎スマイルチーム文化協会祭打合せ ☺︎文化協会祭ゲストチーム・ダブルダッチ Millennitm Collection 打合せ
・佐藤 ヒロ子さんの投稿
【やるのは今でしょ! 私の番がきたのね】 町内では段々とご年配の方々が旅立ち、或は施設入居やデイサービスへ 在宅でも身体も思うようでは無さそう… 若い家族は赤ちゃんのお世話! 共働きと忙しいのがわかります ごみステーションのカラスよけネットもボロボロ 道路の草も時としてぼうぼうに! 町はちょっとの事を手出ししただけで気持良くすごせる! できる人ができる事をしなくては 【今が私の番】 2025/7/11
・校條 諭さんの投稿
2本のポールで西荻街歩き 夏場の気ままにポール歩き(気まポ)は、猛暑を考慮して「夕暮れウォーク」にしています。はじめはナイトウォークと呼んでいたのですが、7時頃まで明るいので呼び名を変更しました。 先日の雨のあと気温が下がって、当初の予想よりもずっと快適なウォーキングとなりました。合計12000歩。5km強のつもりだったけど、6kmくらいになったと思われます。 JR西荻窪駅南口に集合、まず仲通街を南下して駅方面にもどって、駅の北側の骨董屋などが並ぶ通りを経て、東京女子大、善福寺公園へ。池のまわりは人気少なく、暗くもなってきていたので、1人では怖そうだなんて言いながら。 帰りは、「はだしのオアシス公園」や「トトロの樹」と呼ぶ大ケヤキのある公園を通って駅近くのレストラン「バルタザール」へ。1階が有機野菜の八百屋で、その2階。3階は書店まで同じ経営です。 バルタザールでは、話題の映画「国宝」の話などで盛り上がりました。見た人3人から、ぜひとお勧め。月内に見るつもりです。 今回、会の常連北村さんが西荻に詳しいので、立ち寄りスポットや打ち上げの店の紹介などでお世話になりました。
・佐藤 ヒロ子さんの投稿
雨天に悩まされた 1期の火曜日定例会でした 2025/7/15 本日も不安定な天気です 「しっかり運動したい」 声に応えて屋内ならではのメニュー #サーキットトレーニング #片足立ちバランスウォーキング #継足ウォーク #バックウォーキング #呼吸筋活性化ウォーキング #ペットボトルで体幹ウォーク #脳トレ 足の先から頭の中まで 動かしてみました #船橋ウォーキングソサイエティ #美姿勢ウォーキング
・みんなの元気学校さんの投稿
「ポールウォーキング 1日体験会」開催のお知らせ | 研究・産学連携推進本部
・中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 梅雨明け〜 本日パラダPW散策でした。30℃越えの中、 参議院選挙投票を済ませた?60名越えの参加頂きました。 南パラダ/アスレチックコース〜セラピーロードと暑さを逃れての?癒しのPW〜❗️ マイナスイオンいっぱい〜 パラダ様より温泉券とキッズランド1日パス券の提供も有り皆さん堪能出来た散策となりました。
・田村 芙美子さんの投稿
7/23 北鎌倉介護予防クラス 昨日楽動教室にも参加されたメンバーは連日出席!熱いのに偉いです。仲間と顔を合わせお喋りするのが楽しみかな。会場まで往復歩いて、認知症予防に有効ですね。チェア🪑オーラルエクササイズは嚥下予防です。70代2名のほかは80代の方々ですが皆さん回を重ねるごとに明るく笑顔で元気を増してタフです。毎週計測を続けていますが、暑い☀️連休明けにもかかわらず全員筋肉量アップしていて感心しました。
・株式会社シナノ(sinano)さんの投稿
【令和7年度 佐久市1日有償仕事体験事業】参加学生を募集します!
・田村 芙美子さんの投稿
7/24 東京に比べると鎌倉は2~3℃低いようです。それでも暑いです。挨拶は皆共通「暑いね✨☀️✨」 腰越貯筋サークルでは包括さんの月イチ体測日。皆さん筋肉量upで素晴らしい🙌けれど握力が全体的に低いのはなぜでしょう。今日は1メンバーさんの発案 <行司スクワット>と7秒スクワットで汗を流しました。ローリング歩行はもうしっかりマスターです。次回はお盆休みなのでかき氷で暑気払いをしました。皆お元気で!
・佐藤 ヒロ子さんの投稿
本日も覚悟の暑さです! 思い切ってお家を飛び出したメンバーでひとしきりの運動です #船橋ウォーキングソサイエティ 1期最後の定例会は #2本のポールを使うウォーキング ポールは今日は自宅でお留守番 クーラーの中で頭の中から爪先まで しっかり運動です! 2025/8/24 チェアエクササイズは #ふなばしシルバーリハビリ体操 その場でできる #サーキットトレーニング 狭い場所でも歩ける #バラエティウォーキング 認知症予防に #脳トレエクササイズ お口の体操は #夏休みの過ごし方 8月は夏休みです☀ 9月に元気に会うことを誓って 暑さと上手に付き合いながら お家トレーニングに励みましょう 💪🏝️🔥✨
・田村 芙美子さんの投稿
7/25 連日熱中症警戒アラーム💥 消防署ではいつもの梯子の点検が行われていました。渋谷教室の会場 かんなみの杜はこのお隣です。包括支援センターや老人施設と同居なので共用部分はマスク着用😷です。室内はキンキンに冷えて寒いくらい。少し温度を上げて、今日はウォーキングの足の運び方!かかと接地(着地)↔ 後ろ足の踏み込み練習をびっしり練習しましたら全員歩幅が広くなり姿勢もきれいになって大喜び🎵😍🎵 ポールがあればみんな大股🚶♂️🚶♀️🚶 鎌倉から通ってる、っていうと皆びっくりですが湘南ライン1本で55分で楽勝です。車と違って眠れるし、何より楽しい🎶
・スマイルチームさんの投稿
20250725. スマイル星ヶ丘。 ポールウォーキング。リハビリポールウォーキング。ウォーキングポールでエクササイズ。 熱中症警戒アラート🥵発令中につき、外歩きはせずに室内でじっくりたっぷりエクササイズしました。 #ポールウォーキング #リハビリポールウォーキング #ウォーキングポールでエクササイズ #
・台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
#2025健走杖輕旅行
・スマイルチームさんの投稿
福祉✖️スマイルチーム。 居宅介護支援事業所様からのご依頼を受け リズムダンス等,元気いっぱい体を動かす目的の活動がスタートしました。 ダウン症、自閉症,知的障害,発達障害、既往症、、、 若い世代の皆さん約30名とスタッフさんとで 約1時間半。 歌って踊って喋って、、、汗だく💦 そしてみなさんからたくさんの刺激をもらいました❣️ 次回も楽しみです😊 #福祉 #スマイルチーム #要介護1〜5 #居宅介護支援事業所 #相模原市 #sagamihara #20250725
・田村 芙美子さんの投稿
7/27 時が経つのは本当に速い! もう7月最後の日曜日です。夕べ 7、8月の逗子PWは猛暑のため中止にすると連絡がありました。開始時間を繰り上げる予定でしたが連日の熱中症警戒アラームへの対処です。事故の心配なくなりひと安心です。時間が出来たので出掛けたいのですが こう暑くては・・・家でみちのくを味わいます。
来月以降の開催
・柳澤 光宏さんの投稿
今年も開催します。生プルーン食べ放題の佐久ぴんころウォーク(^^)皆さんのご参加お待ちしています!
関連情報
1)筑波大学山田実先生は、「ポストコロナ時代のフレイル対策」理学療法の歩み35巻1号 (2024年3月)で、「ポストコロナの今、これまでの介護予防・フレイル対策を踏襲しながら、新しい価値を創造していくことが求められており、介護予防・フレイル対策領域におけるセラピストの需要および期待度は高まり続けている。」と述べられています。
また、ご自身が主催されている『Web版集いのひろば』でも、「コロナ禍の影響」と題して、ポストコロナ時代のフレイル対策について配信されています(同①:2025年7月7日配信、同②:2025年7月14日配信)。下図は配信①で示された「コロナ禍の活動の変化」です。
・コロナ禍1年目で両活動は大きく制限され、
・2年目以降穏やかに回復した。
・身体活動は完全回復したが、社会活動は制限が残存したままである。
2)英国からの研究では、「パンデミックにより感染しなくても脳の老化は進み、しかも、この脳の老化の加速は,男性や高齢者,あるいは教育レベルや収入,健康状態が低いとされる社会的に不利な立場の人々でより強く現れており,認知機能の低下は感染によりさらに深刻になる。」と報告されている(後掲の下畑先生のCOVID-19:最新エビデンスの紹介(7月26日)をご参照下さい)。
2.PW関連学術ニュース
2-1)がんおよび自己免疫疾患の治療のための生体内CAR T細胞生成
手術、放射線、抗がん剤に次ぐがんの「第四の治療法」と呼ばれる「がん免疫療法」は近年目覚ましい発展を遂げているようです。その最新の話題をお届けします。
(1)CAR-T細胞療法とは?
**宮坂昌之大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授の2025年5月28日のFB投稿です**
CAR-T細胞療法とは、がん細胞を攻撃するT細胞を遺伝子導入によって新たに作り、それを増やして、がんを攻撃させるという新しい治療法です。CARというのはchimeric antigen receptor、すなわち、遺伝子導入によってT細胞に導入するキメラ抗原レセプター(人工的抗原レセプター)のことです。この治療法は、難治性の血液系の悪性腫瘍に対して大きな治療効果を示します。ただし、患者自身のT細胞を集めて、がんを攻撃するように体外で遺伝子改変を施して同じ患者の体内に戻すという、非常に高度な個別化医療であるために、治療の実施には厳格な施設要件があり、日本では60ぐらいの施設でしか使えません。しかし、アメリカではすでにかなり広く使われるようになっていて、多くの医療機関や製薬会社が参画して、現時点でも1兆円以上の市場規模があるようです。
最近のNatureのNews Featureという欄に、いかにして治療効果と安全性が高いCAR-T細胞を作るか、特に、いかにして安く、そして早く作るかなどについて、わかりやすくまとめられています(https://www.nature.com/articles/d41586-025-01570-6)。導入細胞をT細胞だけでなくて、マクロファージやNK細胞などを標的にする治療も試験的に始まっています。医学は日進月歩の世界です。
(対象記事)
NATURE NEWS FEATURE
27 May 2025,Correction 04 June 2025
Cancer-fighting immune cells could soon be engineered inside our bodies
Manufacturing CAR T cells in the laboratory is expensive and time-consuming. An in vivo approach could get the powerful therapy to more people.
By Cassandra Willyard
がんと闘う免疫細胞が近い将来、体内で作られるようになるかもしれない
CAR-T細胞を研究室で製造するには費用と時間がかかります。生体内でのアプローチにより、より多くの人々に強力な治療を提供できる可能性があります。
著者:カサンドラ・ウィラード
(2)mRNA封入脂質ナノ粒子を利用して生体内でCAR-T細胞を作り、自己免疫疾患を治療する。
**宮坂昌之大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授の2025年6月21日FB投稿です**
CAR-T細胞療法とは、がん細胞を攻撃するT細胞を遺伝子導入によって新たに作り、それを増やして、がんを攻撃させるという新しい治療法です。CARというのはchimeric antigen receptor、すなわち、遺伝子導入によってT細胞に導入するキメラ抗原レセプター(人工的抗原レセプター)のことです。この治療法は、難治性の血液系の悪性腫瘍に対して大きな治療効果を示します。
(https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid02DGDGvMcKVcYKoZpbNKG9TnfcSqyvNgLCWn3fDR86qM8DmLvDjuavTYbNmdsFtEGgl)。
最近は、この方法が自己免疫疾患の治療にも応用されて、自己抗体を作るB細胞を殺すことができるようになり、まだ試験的段階ではありますが、かなり良い結果が得られつつあります。
ところがこの治療法の一番の問題は、患者のT細胞を集めてきて体外で特定の遺伝子を導入してさらにそれを増やして患者に戻すということをするので、非常に複雑で高価であるということです。
そこで、アメリカの研究グループが、なんとか患者の体内で遺伝子導入ができないかと考え、新しい技術を開発しました。具体的には、mRNAワクチンで開発された脂質ナノ粒子を利用して、その中にB細胞を殺すのに必要なCAR遺伝子をmRNAの形で封入し、さらにこの粒子が患者のCD8 T細胞(いずれキラーT細胞になる細胞)だけに導入されるようないくつかの工夫をして、生体内でCD8 T細胞だけにCAR遺伝子が発現されるような技術を開発したのです。
つまり、これは体外ではなくて体内で選択的にCD8 T細胞に遺伝子導入を行い(=外来遺伝子を発現させ)、そのT細胞を使って、悪い自己抗体を作るB細胞(=自己免疫疾患を起こすB細胞)を殺そうとする試みです。
その結果が最新号のScience誌に論文として発表され(https://www.science.org/doi/10.1126/science.ads8473)、さらに、その論文に対するコメント記事が同じ号に出ています(https://www.science.org/doi/10.1126/science.ady7928)。
その方法は、①まず、B細胞を破壊するためのCD19-CAR遺伝子(mRNA)を封入した脂質ナノ粒子を作るのですが、それだけではなく、さらに②その粒子表面にヒトのCD8 T細胞(いずれキラーT細胞となる細胞)だけに結合する抗体を結合させ、また、この粒子が血流に注射された際に肝臓にたくさんと取り込まれる可能性があるので(肝臓は血中の不要物を捕捉する役割がある)、③粒子表面の脂質の構造を改変して肝臓に捕捉されないようにする、などのいくつかの工夫がこらされています。
現在はまだ動物実験の段階ですが、①ヒトB細胞を持つマウスにこの粒子を血液内に投与するとヒトB細胞だけが数時間内にほぼ消滅すること、②カニクイザルで同様の方法を用いると、やはりB細胞だけが選択的に約1ヶ月間大きく減っていた、ことが示されています。
ただし、ナノ粒子内に封入されたCAR遺伝子は、mRNAなので、体内では数日間で壊れてしまい、この方法によるB細胞破壊効果は2,3週間ぐらいしか続かず、ふたたびB細胞が元のレベルにまで増えてきます。しかし、この方法は繰り返し用いることができるので、反復投与によってB細胞レベルを低い状態に保つことができるはずです。困るのは、自己抗体を作る悪いB細胞だけでなく、すべてのB細胞が破壊されてしまうのですが、これに対しては、免疫グロブリン(抗体を含む血中蛋白質)を投与することにより患者の液性免疫(=B細胞による免疫)レベルを保つことが可能です。
以上、「ナノ脂質粒子を使って体内で遺伝子導入を行い、できたCAR-T細胞を使って目的の細胞を選択的に殺す」という試みが始まっています。現在のデータを見る限り、これはかなり有望な方法かもしれません(ただしmRNAワクチンがお嫌いな方々には「とんでもない方法だ」と思われるかもしれませんが…)。
いずれにせよ、医学は日進月歩の世界です。
(対象論文)
表題:がんおよび自己免疫疾患の治療のための生体内CAR T細胞生成
In vivo CAR T cell generation to treat cancer and autoimmune disease
著者:Theresa L. Hunter https://orcid.org/0000-0002-6494-1294, Yanjie Bao https://orcid.org/0000-0002-8194-6230, Yan Zhang, Daiki Matsuda, Romina Riener https://orcid.org/0000-0001-5005-112X, Annabel Wang https://orcid.org/0009-0009-6250-1226, John J. Li, Ferran Soldevila https://orcid.org/0000-0001-9472-623X, David S. H. Chu, […] , and Haig Aghajanian https://orcid.org/0000-0002-8317-0157+30 authors Authors Info & Affiliations
掲載誌:Science 19 Jun 2025 Vol 388, Issue 6753 pp. 1311-1317
編集者の要約
キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法は、B細胞悪性腫瘍の治療において大きな成功を収めており、自己免疫疾患の治療にも可能性を秘めています。しかしながら、複雑な製造および前処置レジメンが、その利用しやすさと拡張性に限界をもたらしています。Hunterらは、抗CD19 CAR mRNAを担持したCD8標的脂質ナノ粒子を投与することで、体内でCAR-T細胞を生成する遺伝子送達システムを報告しています(PecheとGottschalkによる展望記事参照)。げっ歯類および非ヒト霊長類(NHP)モデルのデータは、腫瘍制御を実証しました。自己免疫モデルでは、NHPの血液および組織においてB細胞の深刻な一過性枯渇が観察され、「免疫リセット」が起こりました。このような戦略は、体外CAR-T細胞免疫療法に代わる、既製品で非ウイルス性かつ拡張可能な代替手段となる可能性があります。—Priscilla N. Kelly
要約
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、B細胞悪性腫瘍の治療を変革しました。しかし、複雑な製造プロセスとリンパ球除去化学療法の必要性により、その幅広い適用が制限され、患者へのアクセスが制限されています。本研究では、標的脂質ナノ粒子(tLNP)を用いて特定のT細胞サブセットにメッセンジャーRNAを送達するin vivoエンジニアリング戦略を紹介します。これらのtLNPは、健常ドナーと自己免疫疾患患者の両方のサンプルでCD8 + T細胞を再プログラム化し、in vivo投与によりヒト化マウスの腫瘍制御とカニクイザルのB細胞枯渇をもたらしました。カニクイザルでは、枯渇後に再構成されたB細胞は主にナイーブであり、免疫系のリセットを示唆しています。複雑なex vivo製造の必要性を排除することで、このtLNPプラットフォームは、CAR T細胞療法をよりアクセスしやすく、より多くの臨床適応症に適用できるようにする可能性を秘めています。
(コメント記事)
表題:Engineering immunotherapy from within
Lipid nanoparticles are designed to generate therapeutic T cells inside living animal models
内側から免疫療法をエンジニアリングする
脂質ナノ粒子は、生きた動物モデル内で治療用T細胞を生成するように設計されている。
著者:Vivek Peche and Stephen GottschalkAuthors Info & Affiliations
掲載誌:Science 19 Jun 2025 Vol 388, Issue 6753 pp. 1273-1274
要約
患者自身の免疫細胞を利用して病気と戦い、健康な細胞には影響を与えない治療法は、養子免疫療法と呼ばれ、強力な治療選択肢と考えられている。確かに、体内で疾患原因細胞に誘導するタンパク質(キメラ抗原受容体(CAR))を発現するようにT細胞を操作するタイプの免疫療法は、20年以上研究されてきた(1、2 )。しかし、CAR T細胞は体外で生成されるため、これらの療法には相当規模のインフラが必要となり、費用がかさむ。今月号の1311ページで、Hunterら(3 )は、標的のB細胞を効果的に枯渇させるナノ粒子を使用し、体内(動物モデル)でCAR T細胞を設計したことを報告している。この成果は、B細胞悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療に影響を与え、体内での免疫エフェクター生成の探究を前進させ、CAR T細胞を用いた免疫療法をより広範な臨床用途へと前進させるものである。
関連情報
宮坂先生は2025年7月8日のFB投稿で、Cell誌に載った論文『CAR-NK細胞が自己免疫疾患の実験的治療に使用され始めた』を紹介されていらっしゃいます。
(3)Copilotに聞いてみました。
Q1:「がんおよび自己免疫疾患の治療のための生体内CAR T細胞生成」について解説して下さい。
A1:「生体内CAR T細胞生成(in vivo CAR-T cell generation)」は、がんや自己免疫疾患の治療において注目されている次世代の免疫療法アプローチです。従来のCAR-T細胞療法と比較して、より簡便かつ低コストでの治療が期待されています。
🔬 CAR-T細胞とは?
CAR-T細胞(Chimeric Antigen Receptor T cells)は、T細胞にがん細胞などの特定の抗原を認識する人工受容体(CAR)を導入したもので、がん細胞を強力に攻撃する能力を持ちます。
🧬 生体内CAR-T細胞生成とは?
従来のCAR-T療法では、患者からT細胞を採取し、体外で遺伝子改変・増殖させてから再び体内に戻す必要がありました。これには高額な費用と時間がかかります。
一方、生体内CAR-T細胞生成では、遺伝子導入用のベクター(例:ウイルスやナノ粒子)を直接体内に投与し、体内のT細胞をその場でCAR-T細胞へと変換します。これにより、製造工程を大幅に簡略化でき、より迅速な治療が可能になります。
🧠 自己免疫疾患への応用
自己免疫疾患では、免疫細胞が誤って自己組織を攻撃します。生体内CAR-T技術を応用することで、自己反応性T細胞を標的にして除去するCAR-T細胞を体内で生成し、病態の改善を図る研究が進んでいます。
⚠️ 課題と展望
・標的の選定:がんや自己免疫疾患において、適切な抗原を選ぶ必要があります。
・安全性:体内での制御が難しいため、過剰な免疫反応(例:サイトカイン放出症候群)への対策が不可欠です。
・技術の進展:人工サイトカイン受容体の導入などにより、治療効果と安全性の両立が模索されています。
この技術は、CAR-T細胞療法の「個別化医療」から「普遍的な治療」への転換を可能にするポテンシャルを秘めています。もしご興味があれば、具体的な疾患や最新の臨床試験についても掘り下げてご紹介できますよ。
Q2:最新の研究成果について教えてください。
A2:最新の研究では、CAR-T細胞療法の効果と安全性を同時に高める革新的なアプローチがいくつか報告されています。以下に注目すべき成果をまとめました:
🧪 1. 人工サイトカイン受容体の開発(慶應義塾大学)
慶應大学の研究チームは、IL-6とIL-7の機能を融合した人工サイトカイン受容体を開発しました。
IL-6受容体:副作用の原因となるIL-6を吸着・分解し、サイトカイン放出症候群(CRS)を抑制。
IL-7受容体:T細胞の長期生存を促進し、治療効果を持続。 この人工受容体をCAR-T細胞に導入することで、副作用を抑えつつ高い抗腫瘍効果を示すことが、白血病や膵臓がんモデルで確認されました。
(関連情報)
表題:CAR-T細胞療法の効果と安全性を高める人工サイトカイン受容体
発表日:2024年10月01日 記事公開日:2024年10月01日
執筆者:籠谷勇紀(先端医科学研究所がん免疫研究部門)
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/science/202410/
🧬 2. CCR4標的CAR-T細胞療法(国立がん研究センター × ペンシルバニア大学)
成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)などのT細胞性がんに対して、CCR4を標的とするCAR-T細胞療法の開発が進行中です。
日本で多いATLLに対する新たな治療選択肢として期待されており、固形がんへの応用も視野に入れた臨床開発が始動しました。
(関連情報)
表題:細胞白血病リンパ腫(ATLL)などへの細胞療法開発が始動―国立がん研究センターとペンシルバニア大学が共同保有する「CCR4標的キメラ抗原受容体T細胞療法」特許を国がん発ベンチャー企業へ実施許諾
発表日:年7月11日
発信者:開発法人国立がん研究センター
ARC Therapies株式会社
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2024/0711/index.html
🧠 3. 神経毒性を予測する新規バイオマーカー(九州大学)
CAR-T療法の重大な副作用であるICANS(神経毒性)を、治療前の髄液検査で予測可能にするバイオマーカー「C1RL/FUCA2」を発見。
予測精度はAUC 0.95と非常に高く、個別化医療の実現に貢献する可能性があります。
(関連情報)
表題:CAR-T細胞療法の神経毒性を予測する新規バイオマーカーを発見!~九州大学病院の質量分析プラットフォームによる革新的解析~
著者:医学研究院 﨑 祐哉 教授
発表日:2025.03.11
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1221
これらの成果は、CAR-T細胞療法をより安全かつ効果的に進化させる大きな一歩です。もし特定の疾患や技術にフォーカスしたい場合は、さらに深掘りしてご紹介できますよ。どの方向に興味がありますか?
Q3:新規バイオマーカーがどのように個別化医療に貢献するのか?
A3:バイオマーカーは、患者ごとの治療反応や副作用リスクを事前に予測する手がかりとなるため、個別化医療(Precision Medicine)の中核を担います。特にCAR-T細胞療法のような強力だが副作用の大きい治療では、その意義が非常に大きいです。
🧠 九州大学の研究:ICANS予測バイオマーカー「C1RL/FUCA2」
CAR-T療法の重大な副作用である免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、発症すると命に関わることもあります。九州大学の研究チームは、治療前の髄液中タンパク質の比率(C1RL/FUCA2)を測定することで、ICANSの発症リスクをAUC 0.95という高精度で予測できることを発見しました。
🧬 個別化医療への貢献ポイント
・リスク層別化(Stratification):高リスク患者を事前に特定し、治療計画を調整(例:用量調整、予防的ステロイド投与)できます。
・治療選択の最適化:バイオマーカーに基づいて、CAR-T療法が適さない患者には他の治療法を選択する判断材料になります。
・モニタリングと早期介入:バイオマーカーを用いたモニタリングにより、副作用の兆候を早期に察知し、迅速な対応が可能になります。
・新規治療標的の発見:バイオマーカーの機能解析を通じて、ICANSや他の副作用のメカニズム解明や新薬開発にもつながります。
このように、バイオマーカーは「誰に、いつ、どのような治療を行うべきか」を科学的に導く羅針盤のような存在です。もしご希望であれば、他の疾患領域におけるバイオマーカーの活用事例もご紹介できますよ。
(4)腸内細菌は樹状細胞を介して腸から離れたがんの免疫環境に影響する~免疫チェックポイント阻害薬の作用に関与する新たな腸内細菌を同定~
国立がん研究センター等からの2025年7月15日付プレスリリースです。
プレスリリースの「発表のポイント」
・現在、さまざまながんで免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療が実施されていますが、長期間にわたり治療効果が得られる患者さんは20%程度に限られており、治療成績のさらなる改善が求められています。
・免疫チェックポイント阻害薬の治療効果には、腸の細菌(腸内細菌)が関係することが報告されていますが、腸に存在する細菌がなぜ腸ではない臓器 (肺など) に発生したがんに影響を及ぼすのか等の詳細な機序は分かっていませんでした。
・本研究チームは、免疫チェックポイント阻害薬の作用に関与する新たな腸内細菌としてルミノコッカス科に属するYB328株を同定、さらにその培養に成功し、作用メカニズムを解明しました。
・YB328株が腸内で免疫応答の司令塔である樹状細胞を活性化し、その樹状細胞ががん組織まで移動することで免疫効果を発揮するとともに、腸内細菌叢の多様化を通じた樹状細胞のさらなる活性化により、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める可能性が示されました。
・本研究成果により、YB328株が、免疫チェックポイント阻害薬だけでなく免疫細胞療法などでもがん免疫療法の作用を高める可能性が示唆され、次世代のがん免疫療法への応用が期待されます。
論文
Nina Yi-Tzu Lin、et al.「Microbiota-driven antitumour immunity mediated by dendritic cell migration」Nature 14 July 2025
DOI;10.1038/s41586-025-09249-8
URL;https://www.nature.com/articles/s41586-025-09249-8
ニーナ・イーツー・リン他、「樹状細胞の移動を介して媒介される微生物叢主導の抗腫瘍免疫」Nature 2025年7月14日
Copilotとの質疑応答(一部改変)
Q1;以下の表題の論文の要旨を教えてください。Microbiota-driven antitumour immunity mediated by dendritic cell migration
A1;🧬この論文「Microbiota-driven antitumour immunity mediated by dendritic cell migration」は、腸内細菌ががん免疫に与える影響を新たな視点から解明した画期的な研究です。以下に要旨をまとめます:
🧠研究の背景と目的
・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)はがん治療に用いられていますが、長期的に効果があるのは約20%の患者に限られています。
・腸内細菌がICIの効果に関与することは知られていましたが、腸に存在する細菌が肺など腸以外の臓器に発生したがんにどう影響するかは不明でした。
🔍主な発見
・YB328株(ルミノコッカス科)という新たな腸内細菌を同定し、培養に成功。
・YB328株は腸内で樹状細胞(DC)を活性化し、これらのDCが腫瘍組織に移動することで抗腫瘍免疫を誘導。
・活性化されたDCはPD-1陽性CD8陽性T細胞の誘導を促進し、ICIの効果を高める。
・YB328株はTLR(Toll様受容体)シグナルを介してCD103陽性樹状細胞の分化と活性化を促進。
・マウスモデルでは、YB328株の投与により腫瘍縮小効果が確認され、ヒト腫瘍組織でも同様の免疫細胞浸潤が見られた。
🌍臨床的意義と展望
・YB328株は、ICIが効きにくい患者に対しても腸内環境を改善し、治療効果を高める可能性がある。
・日本人の約20%が自然に保菌していることが示されており、安全性も期待される。
・次世代の経口アジュバント(免疫賦活化剤)として、がん免疫療法への応用が期待される。
この研究は、腸内細菌が腸から離れたがん組織にまで影響を及ぼす仕組みを世界で初めて可視化し、がん免疫療法の新たな可能性を切り拓くものです。
Q2;この論文の発見と、CAR-T細胞療法との関係を教えてください。
A2;🧩この論文の発見は、CAR-T細胞療法の限界を補完する新たな戦略として非常に注目されています。以下に、両者の関係を整理してご説明します:
🔬この論文の主な発見
・腸内細菌YB328株が樹状細胞(DC)を腸内で活性化し、これらのDCが腫瘍局所に移動してPD-1陽性CD8⁺T細胞を誘導。
・このプロセスにより、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果が増強される。
・YB328はTLRシグナルを介してCD103⁺DCの分化と活性化を促進し、抗原提示能力とT細胞応答の質・量を向上させる。
🧠CAR-T細胞療法との関係性
CAR-T細胞療法には非常に革新的な面がある一方で、いくつかの重要な課題があります。それぞれについて、今回のYB328株の研究成果がどう関係するかも織り交ぜて整理しますね。
・固形がんへの効果が限定的(CAR-Tは主に血液がんに効果的だが、固形腫瘍では腫瘍局所への浸潤が困難):YB328株は樹状細胞(DC)を活性化して腫瘍組織へ移動させ、免疫環境を改善
・T細胞の疲弊(exhaustion)(CAR-T細胞が過剰な抗原刺激で機能低下):YB328株はPD-1陽性CD8⁺T細胞を適度に誘導し、T細胞応答をバランスよく活性化
・抗原提示の非効率性(腫瘍細胞が標的抗原を十分に提示しないケースがある):YB328はCD103⁺樹状細胞の誘導により、クロスプレゼンテーション能力を高める
・腸内細菌叢による治療効果のばらつき(個人の腸内環境がCAR-Tの有効性に影響):YB328は腸内細菌叢の多様性向上・均質化に寄与し、反応性を高める可能性
🔄補完的役割の可能性
• YB328の投与により、T細胞応答の質と量が増強されることで、CAR-T細胞の標的攻撃効率が向上する。
• YB328が誘導するDC移動・活性の可視化は、CAR-T投与後の免疫環境の変化をモニタリングする手法にも応用可能。
• 今後、CAR-T細胞の腫瘍内浸潤を促す前処理としてYB328株を使う戦略も臨床的に検討されるかもしれません。
このように、YB328株はCAR-T療法の“弱点”を突いて免疫システム全体の調整役として機能しうる存在です。もし、CAR-Tの副作用(CRSやICANS)との関係や、YB328との併用モデルが気になるなら、さらに掘り下げてご案内できますよ🧪✨
どの方面で続けましょうか?臨床応用?免疫ネットワーク解析?それとも細胞動態追跡の話など。
関連情報
当該論文については、大阪大学の宮坂昌之先生が2025年7月16日のFBに解説記事を投稿されています。
2-2)岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学情報(2025年7月)
・アウシュビッツで考えた科学と倫理
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月1日のFB投稿です**
パリでの学会(https://charcot2025.fr/)に参加する前に,週末を利用してアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所を訪れました.リベラルアーツ研究会で「夜と霧(https://amzn.to/46lteC8)」を取り上げた際に関連資料を読み漁ったため,知識としては理解していたつもりでしたが,実際にその場に立つと,まったく異なる感情がこみ上げてきました.毒ガス・チクロンBが投げ込まれたガス室,そして通路一面に貼られた被収容者の顔写真を前にしたとき,胸が押しつぶされるような苦しさを覚えました.戦争は人間をここまで残虐にするのかという思いが改めて浮かびました.
科学者の狂気についても深く考えさせられました.チクロンBを開発したドイツ出身の物理化学者フリッツ・ハーバーはノーベル賞受賞者です.最近読んだ『天才の光と影』(https://amzn.to/4kjFKWj)という書籍では,ノーベル賞受賞者23人の人物像が紹介されています.ノーベル賞を受賞するほどの科学者と聞くと,優れた人格者であると考えがちですが,実際にはそうとは限らないことがわかります.冒頭で紹介されるフリッツ・ハーバーは,化学肥料の原料となるアンモニアの合成に成功し,1918年にノーベル化学賞を受賞しました.しかしそのアンモニアは,第一次世界大戦中には硝酸へと化学変化させることで火薬の原料として用いられました.さらに晩年のハーバーは毒ガスの開発に没頭し,ドイツ軍においてチクロンBを含む化学兵器の開発指揮を執るようになります.彼の行動を「科学的才能を大量殺戮兵器に費やしている」と批判したアインシュタインに対し,ハーバーは「毒ガスで戦争を早く終わらせることができれば,結果的に無数の人命を救える」と反論したといいます.
この本のあとがきに次のような一文があります.「実は,社会的地位が高ければ高いほど,あるいは高学歴であればあるほど,いったんオカルトを信じ込むと,自分の知性や権力を総動員して『妄信』を弁護しようとするため,さらに自分が間違っていることを自覚できなくなる.彼らは社会的影響力を持っているため,結果的にさまざまな分野で,恐ろしいほどの害悪を社会にもたらしてしまうわけである.ここで私たちはもう一度,『いつでも最も大事なことは,自分の頭で“考える”ことです』というポーリングの“教訓”を胸に刻む必要があるだろう」
本書には量子力学と核兵器開発についても詳しく述べられています.科学が社会に与える影響の大きさと,その危うさを実感しました.現代ではバイオ技術やAIでしょうか.科学者には専門性だけでなく,人間性を育む教育が不可欠であると感じました.そして,私達もまた権威ある他者の意見であっても盲信することなく,自分の頭で『考える』ことが大切であると改めて思いました.
・シャルコー生誕200年記念式典に参加しています
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月3日のFB投稿です**
ジャン・マルタン・シャルコー(Jean-Martin Charcot;1825–1893年)は,フランスの神経病学者であり,その名は多くの疾患や症候に残されています.彼の業績は医学にとどまらず,芸術や文学など広範な文化領域にまで影響を与えました.本年は,シャルコー生誕200年の節目に当たるため,第29回国際神経科学史学会(ISHN)は「シャルコー生誕200年記念式典」を兼ねて,パリのサルペトリエール病院内にあるICM Institute for Brain and Spinal Cordにて開催されています.
これまでに2日間の講演が行われ,シャルコーの研究やその後の神経学への影響について多くを学びました.なかでも本領域の碩学であるWalusinski先生,Christopher Goetz先生による講演は特に印象深いものでした.Goetz先生は,シャルコーの現代神経学への貢献を次の3点に整理されました.すなわち,①臨床症状と解剖学的病変を結びつけるという診断学的アプローチの確立,②病理学・写真術・生理学・歩行分析などの新しい技術を神経学に導入した革新性,③神経疾患の理解における遺伝学的説明の重要性を高めた点です.
本日3日目は,Charcot libraryの見学と,シャルコーゆかりの地をめぐるバスツアーが予定されています.私は最終日4日目に講演をしますが,シャルコーの晩年の弟子のひとり三浦謹之助先生を通して,その師弟関係が日本の神経学の発展にどのような影響を与えたのか,フランスをはじめ世界のシャルコー研究者の先生方にお伝えしたいと思います.なお,この学会で得られた知見については,第19回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ)の2日目の「シャルコー生誕200年記念シンポジウム」において,今回の講演をご指導くださった岩田誠先生のご発表(シャルコーのパーキンソン病)のあとにご報告させていただく予定です.
・講演,無事に終わりました!@シャルコー生誕200年記念式典
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月5日のFB投稿です**
お蔭さまで,無事に講演を終了しました.終了後,多くの先生が集まって来られて,Congraturations!と言っていただき大変驚きました.これまで経験のないことで感激しました.三浦謹之助先生とシャルコー先生の師弟関係に心を動かされた先生が多かったのかなと思いました.
今回の講演「Kinnosuke Miura and Jean-Martin Charcot: A Master-Disciple Legacy in Modern Japanese Neurology」の一部の動画とスライドを以下にアップロードいたします.
スライド
https://www.docswell.com/…/800…/K12VD2-2025-07-05-163527
ほかにCharcot libraryや,院内外のシャルコー先生ゆかりの場所も訪ねました.写真の1枚目はあの「火曜講義」の手書きの初版本!,2枚目はシャルコー先生の生家,3枚目は大会長でシャルコー研究の権威のWalusinski先生との写真です.
関連情報
下畑先生は、第19回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(大会長:都立神経病院 高橋一司先生)にて,「シャルコー生誕200年記念シンポジウムに参加して」と題した講演をされています(7月25日のFB投稿より)。
・COVID-19により引き起こされる網膜のアルツハイマー病様アミロイド蓄積 ―アミロイドβ抗菌仮説の証左?―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月12日のFB投稿です**
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染がアルツハイマー病発症のリスクを増加させるという複数の研究が報告されていますが,最新のScience Advances誌に報告された研究は,網膜においてアルツハイマー病様のアミロイドβ(Aβ)病理がCOVID-19によって誘導されることを示したもので注目されます.米国イェール大学眼科などの共同研究です.
著者らは,死後短時間内に採取されたヒト網膜組織およびヒトiPS細胞から作成した網膜オルガノイドを用いて,SARS-CoV-2感染がAβの沈着を促進するかどうかを調べました.図Aでは,CRANAD-28という蛍光プローブを用いた染色により,COVID-19患者およびアルツハイマー病患者の網膜において,健常者と比較してAβ沈着が増加していることが示されています.図BではAβ沈着面積の定量解析により有意な差が確認されています.さらに図Cでは,SARS-CoV-2のスパイクタンパクとAβの二重免疫染色が行われ,一部のAβ沈着がスパイクタンパク質と共局在していることが示されています.この結果は,COVID-19がアルツハイマー病様の神経変性変化を網膜レベルで誘導しうることを示唆します.また,スパイクタンパクの受容体の一つであるneuropilin-1(NRP1)を薬理学的に阻害することで,網膜におけるAβ蓄積が有意に抑制されることも明らかになりました.これは,今後の治療的介入の標的となりうることを意味しており,Long COVIDの神経症状の病態理解や治療戦略にもつながる可能性があります.
以上の知見は,Aβが感染防御の一環として微生物を取り囲むように沈着するという「アミロイドβ抗菌仮説(amyloid-β antimicrobial hypothesis)」に整合するものです(Alzheimers Dement. 2018;14:1602–1614).この仮説は,Aβは単なる老廃物や神経毒性物質ではなく,体内に侵入した細菌やウイルスなどの微生物に対する免疫反応として働いているという仮説です.Aβは微生物の表面に結合し,それを取り囲んで凝集させることで感染拡大を防ぐとされており,いわば「天然の抗菌ペプチド」としての役割が想定されています(PLoS ONE. 2010;5(3):e9505).この仮説に基づけば,感染に反応してAβが過剰に生成されることがアルツハイマー病の初期病理に関与する可能性もあり,SARS-CoV-2によるAβ産生の誘導はまさにこの仮説の臨床的な証左と考えられます.
もしこの仮説が正しければ,Aβを標的とする抗体療法には慎重な姿勢も求められます.Aβが脳内の感染防御に関わっている可能性がある以上,過剰な除去はかえってウイルスや病原体への脆弱性(例えばHSV1やVZVの再活性化に伴う神経障害)を高めるおそれがあるためです.病的Aβを特異的に除去することが求められるように思います.
Miller SJ, et al. SARS-CoV-2 induces Alzheimer’s disease–related amyloid-β pathology in ex vivo human retinal explants and retinal organoids. Sci Adv. 2025 Jul 4;11(27):eads5006.(doi.org/10.1126/sciadv.ads5006)
・血漿リン酸化タウが最も高値なのは新生児であり,高濃度リン酸化タウが凝集や神経障害を来さない防御機構が存在する!
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月15日のFB投稿です**
非常に驚いた報告です.スウェーデンを初めとするなど多数の研究機関が参加した国際共同研究です.チームは,「タウ蛋白のリン酸化が脳の発達と神経変性の両方に重要な役割を果たす」という仮説のもと,新生児を含む健常者とアルツハイマー病(AD)患者における血漿リン酸化タウ217(p-tau217)濃度を比較しました.
対象は,健康な新生児(n=161),早産児(n=14),健常成人,およびAD患者(軽度認知障害を含む,n=163)でした.結果として,新生児の血漿p-tau217の濃度は,思春期・若年成人・高齢者いずれの年齢群よりも有意に高く,さらにAD患者よりも高値を示しました.具体的には,コホート1の新生児の平均値は10.19 pg/mL,コホート2では9.14 pg/mLであり,AD群(3.68 pg/mL)の約2.5〜3倍とかなり高値です(図1).一方,思春期・若年成人・高齢者の間ではp-tau217濃度に有意差はありませんでした.
また早産児14名に対し,出生後140日間にわたり血漿p-tau217を測定したところ,出生直後には,より高値を示し,時間の経過とともに減少し,生後3〜4か月で若年成人レベルに達しました(図2).これはp-tau217の高値が生理的な現象であり,神経発達の過程において重要な役割を果たしている可能性を示唆しています.またこのような変化は非リン酸化タウやNfLでは観察されず,タウリン酸化特有の生理的調節機構が存在することが示唆されます.
興味深い点は,新生児においてアミロイドβの蓄積が全く認められないにもかかわらず,p-tau217が極めて高いレベルで存在しているという事実です.つまりリン酸化タウの上昇がアミロイドβ非依存的に生じうることを示しています.有名な「アミロイドβの蓄積がタウの異常リン酸化を引き起こす」というアミロイド仮説では説明できず,本文でも「リン酸化タウはアミロイド非依存的なマーカーである可能性がある」と明記されています.
この論文は,①p-tau217が神経発達と神経変性の両方に関与する「二面性」を持つことを明確に示した点,②アミロイドβ→タウリン酸化以外の経路があることを示した点,③新生児期のように高濃度のリン酸化タウが存在しても凝集や神経障害が起こらない未知の防御機構が存在することを示した点において重要と思います.とくに③はタウオパチーに対する新たな治療戦略へとつながるかもしれません.
Gonzalez-Ortiz F, et al. The potential dual role of tau phosphorylation: plasma phosphorylated-tau217 in newborns and Alzheimer’s disease. Brain Communications. 2025;7(3):fcaf221. https://doi.org/10.1093/braincomms/fcaf221
・ミクログリアとシナプス:進行性核上性麻痺の病態理解を深める2つの研究
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月20日のFB投稿です**
進行性核上性麻痺(PSP)は,中脳や大脳皮質にタウが蓄積し,運動障害や認知機能障害を引き起こすタウオパチーの代表的疾患です.これまで,神経炎症とタウの脳内伝播が病態進行に関与すると考えられてきましたが,その直接的証拠は限られていました.今回紹介する2つの研究は,TSPO PET画像と死後脳との対応づけ,およびタウのシナプス伝播機構の可視化というアプローチで,PSPの病態理解を大きく進めるものです.
1つ目の研究(Wijesingheら,Brain 2025)は,生前にTSPO PET(¹¹C-PK11195)を受けたPSP患者8名の死後脳を用いて,PETシグナルの細胞学的起源を追究しています.TSPOは近年,神経炎症の指標としてPETで広く使用されていますが,実際にどの細胞に由来するのかは議論の余地がありました.この研究では,TSPOは血管および血管外に存在するものの,病的増加に関してはミクログリアに由来することを示しています.つまりミクログリアマーカー(IBA1)とTSPOの共局在が顕著であり,アストロサイト(GFAP)との共局在はわずかでした(図1左).さらに,生前のTSPO PETシグナルは,死後のCD68陽性の貪食型ミクログリアの量と有意に相関していました(図1右).以上より,PSPにおけるTSPO PETシグナルは主にミクログリア由来の神経炎症を反映していることが明らかとなり,TSPO PETがタウオパチーにおける信頼できるバイオマーカーとなり得ることが示されました.
2つ目の研究(McGeachanら,Nature Neuroscience 2025)は,PSPにおけるタウのシナプス伝播と,それに伴うシナプス消失のメカニズムに迫ったものです.PSP患者の死後脳の中脳黒質および前頭葉を用いたアレイ・トモグラフィー(超薄切片を連続的に撮影し,それらを立体的に再構成する顕微鏡技術)により,リン酸化タウ(AT8)やオリゴマー性タウ(T22)が,シナプス前・後終末の両方に蓄積する様子が可視化されました(図2).特に,前終末にタウを含むシナプス対では,後終末にもタウが存在する割合が,前終末に含まない場合と比べ86倍高く(図2iの0.33%と28.4%の比),タウがシナプスを介して伝播していることが示されました.さらに,アストロサイトがタウを含むシナプスを貪食している様子が電子顕微鏡でも確認され,ミクログリアよりもアストロサイトがシナプス消失に寄与していることが示されました.また,PSP脳抽出物を生体ヒト脳スライスに添加すると,オリゴマー性タウがシナプス後終末に取り込まれ,アストロサイトが活性化し,シナプスを貪食する現象が再現されました.つまりタウオパチーに対するタウ抗体療法が「シナプス内タウ」に焦点を当てるべきであることが示唆されます.加えて,著者らはプロテオーム解析を行い,シナプス内でclusterinが増加しており,オリゴマー性タウと10nm以内の距離で共局在していることを示し,clusterinがタウのシナプス伝播を媒介している可能性を指摘しています(治療標的になるかもしれないということです).
これら2つの研究は,一方はPSPではミクログリアによる神経炎症が生じていることを示し,もう一方はタウの伝播とアストロサイトによるシナプス喪失を示しました.ミクログリアとアストロサイトも病態に関わっているということです.またいずれの研究にも共通する点として,明確な仮説を持ち,それを示すために古典的な病理学的手法と最新技術(PETやプロテオーム解析)を併用していることが挙げられます.非常に参考になると思いました.
1. Wijesinghe SS, et al. Post-mortem validation of in vivo TSPO PET as a microglial biomarker. Brain. 2025;148(6):1904–1910. doi:10.1093/brain/awaf078
2. McGeachan RI, et al. Evidence for trans-synaptic propagation of oligomeric tau in human progressive supranuclear palsy. Nature Neuroscience. 2025. doi:10.1038/s41593-025-01992-5
・新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(7月26日)
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月26日のFB投稿です**
今回のキーワードは,long COVIDに対する抗ウイルス薬の単独使用では短期間での症状改善は見込めない,パーキンソン病患者ではCOVID-19罹患により長期的予後が悪化する,COVID-19後に現れる新たな片頭痛様頭痛―2年後も続く後遺症としての頭痛,Long COVIDと筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群では共通する病態として「酸化ストレス」があり女性に顕著である,パンデミックにより感染しなくても脳の老化は進むが認知機能の低下は感染によってさらに深刻になる,です.
コロナ後遺症と臨床像が似ていると言われてきた筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)ですが,いずれの疾患でも女性の末梢血単核球において酸化ストレスが顕著で,免疫細胞のエネルギー消費を増加させ,ATP枯渇を招くことで慢性的な疲労につながることが示されました.ME/CFSは医療者側の理解不足・偏見もあって診断や支援に困難がある現実が存在しますが,いよいよ病態が明らかになってきました.つぎは診断バイオマーカーの実用化を期待したいと思います.あと注目すべき研究はUKバイオバンクの研究で,パンデミックは感染しなくても脳の老化を加速させ,とくに高齢者,教育レベルや収入,健康状態が低い社会的に不利な立場の人々で顕著であったことが示されたことです.感染すればなおさらです.いずれにせよパンデミックは脳に大きな影響を与えたことがよく分かりました.
FBで読みにくい方はブログ(https://pkcdelta.hatenablog.com/entry/2025/07/26/090204)をご覧ください.
◆long COVIDに対する抗ウイルス薬の単独使用では短期間での症状改善は見込めない.
Long COVIDの病態仮説としてウイルス持続感染があり,抗ウイルス療法は有望なアプローチとなる可能性がある.このため経口抗ウイルス薬ニルマトレルビル・リトナビル(パクスロビド)の有効性を検討した二重盲検無作為化プラセボ対照試験(PAX LC trial)が米国イェール大学を中心に行われた.対象は18歳以上の患者100名で,米国本土28州から参加者を募集し,完全遠隔型試験として実施された.ニルマトレルビル・リトナビル(300 mg/100 mg)を15日間投与する群と,偽薬・リトナビル群に1対1で割り付けた.主要評価項目はPROMIS-29という患者報告アウトカム指標による身体的健康サマリースコア(PHSS)の28日目までの変化とした.試験の結果,PHSSの平均スコアの変化は,ニルマトレルビル・リトナビル群で0.45(95%CI −0.93〜1.83),偽薬・リトナビル群で1.01(−0.30〜2.31)であり,調整後平均差は−0.55(−2.32〜1.21)で有意差は認めなかった(p=0.54).図1のバイオリンプロットにより,各時点(Day 15,Day 28,Week 6)でのスコア変化の分布が示され,Day 28では両群に明確な差は見られないことが分かる.副次評価項目のメンタルヘルス,疲労,睡眠障害,認知機能,痛みなども有意差なし.著者らは,ニルマトレルビル・リトナビルの有効性を否定するものではなく,今後はより長期間の投与が必要と述べている.
Sawano M, et al. Nirmatrelvir–ritonavir versus placebo–ritonavir in individuals with long COVID in the USA (PAX LC): a double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 2, decentralised trial. Lancet Infect Dis. Published online April 3, 2025.(doi.org/10.1016/S1473-3099(25)00073-8)
◆パーキンソン病患者ではCOVID-19罹患により長期的予後が悪化する.
パーキンソン病(PD)では対照群と比較して,COVID-19急性期の予後が不良であることが知られているが,感染後の長期的な予後についてはほとんど明らかになっていない.ニューヨーク・ブロンクスのPD患者3,512名における,COVID-19感染後最大3.5年間の臨床転帰を検討した後方視的研究が報告された.この地域はパンデミック初期およびその後の感染流行の中央地であった.結果として,COVID-19罹患群は,非罹患群と比較して,死亡(aHR=1.58[95%CI: 1.03–2.41]),認知機能検査であるMACEの低下(aHR=1.57[1.19–2.07]),呼吸困難,倦怠感,転倒のリスクが有意に高かった(図2).感染後には,レボドパの用量調整がより頻繁に行われていたことから,PD自体が感染のより悪化した可能性がある.以上より,PD患者における感染予防と,感染後のケアの改善の必要性が示唆された.
Hadidchi R, et al. Impact of COVID-19 on long-term outcomes in Parkinson’s disease. Eur J Neurol. 2025 May;32(5):e70013. doi: 10.1111/ene.70013. PMID: 40329907; PMCID: PMC12056498.
◆COVID-19後に現れる新たな片頭痛様頭痛――2年後も続く後遺症としての頭痛
COVID-19感染後に新たに出現するde novo頭痛については不明な点が多い.ポルトガルから,パンデミック初期にCOVID-19と診断された732名を対象とした,新規発症頭痛の特徴を明らかにするための前向きコホート研究が報告された.24か月の調査を完了したのは448名で,感染時年齢は51.6歳,女性は272名(60.7%)であった.頭痛の既往歴ありは115名(25.7%)であった.新規の持続性頭痛を認めた患者は,頭痛の既往の有無にかかわらず,若年で女性が多く,COVID-19急性期に嗅覚障害・味覚障害・頭痛を呈する割合が高かった.図3はCOVID-19感染後,それまで頭痛を有さなかった者が,どの程度の割合で新規発症持続性頭痛を有するようになったかを示している.頭痛の既往がなかった患者のうち,24か月時点で評価できた240名の22.5%が新規持続性頭痛を呈した.その多くは,国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の片頭痛あるいはprobable migraineの診断基準を満たしており,migraine-like headache(MLH)と分類された.また頭痛既往のなかった333名のうち,新たに持続性頭痛を発症したのは54名(16.2%)で,うち35名(64.8%)がMLHと診断された.このMLHの年間累積発症率は,1000人あたり42人であった.以上より,COVID-19感染から2年を経ても新規の持続性頭痛の発症は一定数存在し,多くがMLHの診断基準を満たしていた.COVID-19の罹患数の多さと,片頭痛がQOLや疾病負荷に与える影響を踏まえると,本研究は重要な意義を持つ.
Silva L, et al. Long-Term Persistent Headache After SARS-CoV-2 Infection: A Follow-Up Population-Based Study. Eur J Neurol. 2025 May;32(5):e70130.(doi.org/10.1111/ene.70130)
◆Long COVIDと筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群では共通する病態として「酸化ストレス」があり,女性に顕著である.
Long COVIDと筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は共に疲労感や労作後の増悪を呈することから,共通する病態機序として酸化ストレスの関与を検討した米国スタンフォード大学からの報告である.ME/CFS患者27名,Long COVID患者20名,健常者25名の末梢血単核球を用い,フローサイトメトリー,RNA-seq,質量分析などを行い,免疫細胞の代謝特性と酸化ストレスの程度を比較した.その結果,ME/CFSおよびLong COVID患者では,女性において,CD4T細胞,CD8T細胞,B細胞において活性酸素(ROS)の上昇がみられた(図4).加えてT細胞の過増殖傾向が認められ,この免疫細胞の活性化が慢性疲労の一因である可能性が示唆された.
図5にはROSの生成と除去に関わる代謝経路が示されている.女性のME/CFSおよびLong COVID患者では,ミトコンドリア内のカルシウム濃度が上昇しており,これが電子伝達系の活性化を介してROSの産生を促進していると考えられた.一方,ROSの除去に関与する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)の発現は,Long COVID患者において男女ともに低下しており,抗酸化防御機構が不十分であることが示唆される.また,ME/CFSおよびLong COVIDの両患者群においてグルタチオン(GSH)濃度の上昇が認められたが,女性患者ではROSの増加がGSHによる中和能を上回っており,酸化ストレス制御の破綻がより深刻であることが明らかとなった.
このような女性患者における酸化ストレスの過剰は免疫細胞のエネルギー消費を増加させ,宿主のATP枯渇を招くことで慢性的な疲労感につながると考えられた.特に女性患者においては,ROSによるT細胞の異常増殖が顕著であり,この過剰な免疫活性化が疲労の重要なドライバーとなっている可能性がある.論文ではこの過増殖を糖尿病治療薬であるメトホルミンにより抑制できることも示されており,今後の治療標的となる可能性がある.メトホルミンは過去にもLong COVIDに対する有用性が報告されていた.
Shankar R, et al. Oxidative stress is a shared characteristic of ME/CFS and Long COVID. PNAS, 2024;121(25):e2308697121.(doi.org/10.1073/pnas.2308697121)
◆パンデミックにより感染しなくても脳の老化は進むが,認知機能の低下は感染によりさらに深刻になる.
パンデミックが脳に及ぼした影響を検討した研究が英国から報告された.UKバイオバンクを活用し,パンデミック前後にMRI検査を受けた996名の健康な中高年者を対象に「脳年齢」の変化を追跡した.脳年齢とは,MRI画像から推定される「脳の見た目の年齢」で,実年齢との差(Brain Age Gap;BAG)が大きいほど,脳がより老化していると判断される.結果として,パンデミック期間をまたいだ群では,年1回あたり平均5.5か月分の脳の加齢が加速していた.驚くべきことにこの加速は,コロナ感染の有無にかかわらず起きていた.特に興味深いのは,この脳の老化の加速が,男性や高齢者,あるいは教育レベルや収入,健康状態が低いとされる社会的に不利な立場の人々でより強く現れていたという点である.
認知機能への影響に関しては,感染した人に限って,遂行機能を測る「トレイルメイキングテスト(TMT);紙に書かれた数字や文字を順番につないでいく課題」の成績が有意に低下していた.図6の右下のTMT-B ×白質モデルで最も顕著であるが,感染した人では白質BAGがある程度以上高くなると, TMT-Bの成績が急激に悪化する非線形的な変化を呈する.つまり白質の老化がある程度まで進行すると,遂行機能が急激に損なわれる可能性を示す.すなわち,「感染しなくても脳の老化は進むが,感染によってさらに深刻になる」ということが分かる.この研究の最大の意義は,パンデミックという社会的イベントは,感染がなくても脳の構造的変化を引き起こしうること,そしてその影響が社会的な脆弱性により増幅される可能性を示した点にある.社会的ストレスや孤立,経済的困窮といった要素が,脳の健康に直結することを裏づけるものである.
Mohammadi-Nejad AR, et al. Accelerated brain ageing during the COVID-19 pandemic. Nature Communications. 2025;16:6411.(doi.org/10.1038/s41467-025-61033-4)
・妊娠初期の薬剤と先天奇形リスク ―移行医療でも重要な知識―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年7月28日のFB投稿です**
抗てんかん薬(Antiseizure Medication;ASM)は,妊娠中の使用に際して胎児への影響を十分に考慮する必要があります.2025年に発表された北米抗てんかん薬妊娠レジストリ(North American Antiepileptic Drug Pregnancy Registry)のデータから,妊娠初期に使用された薬剤ごとの主要な先天奇形のリスクが報告されました.図左に示されているように,主要奇形のリスクは以下の通りです:
バルプロ酸(Valproate):9.2%
フェノバルビタール(Phenobarbital):6.0%
トピラマート(Topiramate):5.1%
ラモトリギン(Lamotrigine):2.1%(比較基準)
レベチラセタム(Levetiracetam):2.0%
オクスカルバゼピン,ガバペンチン,ゾニサミド:1.3〜1.5%
ラコサミド:0%(ただし症例数が少なく評価困難)
この研究では,ラモトリギンが比較基準として用いられました.これは,ラモトリギンが妊娠中によく使用され,かつ比較的安全性が高いとされているためです.他の薬剤と比較してどの程度リスクが高いかを,相対リスク(Relative Risk)として評価しています.たとえばバルプロ酸は,ラモトリギンの約4.4倍(RR=4.35)の奇形リスクがあるとされました.またトピラマートは口唇裂のリスクが高く,この研究でも妊娠初期に単剤で使用した510例中7例(1.4%)で口唇裂が報告されました.一方,ラモトリギンやレベチラセタム,ゾニサミドなどは,リスクがラモトリギンと同等あるいはそれ以下であり,妊娠中にも比較的安全に使用できる薬剤と考えられます.
さらに,図右では,各薬剤の平均1日投与量と奇形リスクの関係が示されています.バルプロ酸やトピラマートでは,投与量が増えるとリスクも上昇しており,明確な用量依存性が認められましたが,ラモトリギンやレベチラセタムでは投与量にかかわらずリスクは比較的一定でした.
このような安全な抗てんかん薬についての情報は広く認識されてきたと思います.ただ個人的に小児科から移行してきた妊娠可能な女性患者さん(およそ15歳以上)の中に,バルプロ酸を継続使用している例を複数経験したことがあります.小児科領域では,妊娠に関する教育機会が少ない可能性や,移行医療(トランジション)がうまく機能していないと,思春期や若年成人女性に対して,妊娠を見越した薬剤選択がなされないまま成人となる可能性もあるのかもしれません.妊娠可能年齢になった場合,薬剤の再評価と適切な情報提供を行い,必要に応じて薬剤の切り替えを検討することが必要だと思います.
Hernandez-Diaz S, et al. Use of Antiseizure Medications Early in Pregnancy and the Risk of Major Malformations in the Newborn. Neurology. 2025;105:e213786.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000213786)
関連情報
1)前回の「新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(3月20日)」は、2025年3月のニュースに掲載しています。
2)岐阜大学医学部下畑先生は最新の医学情報を活発に発信されています。前月中のFB投稿については2025年6月のニュースをご覧下さい。
(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)