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LGI1抗体脳炎 アミロイド抗体療法 アルツハイマー病「発症前治療」 アルツハイマー病と血流障害 アルツハイマー病新治療:除去から排出へ しびれ せん妄 マイクロプラスチック 切り替えスイッチ 妊娠中のてんかん診療 環境神経学の時代 知的活動と認知症 腰痛 自己免疫疾患

2026年4月のニュース

2025年には超高齢社会になると予測された台湾でも、ポールウォーキングは普及し出しています!
関連学術ニュースは、「積極的に頭を使うことによって認知機能の低下が遅くなるだけではなく、認知機能がむしろ向上し、認知症の発症が遅くなる!」という実証研究報告の論文紹介と、岐阜大学下畑先生からの最新医学情報です。
特別企画『AIに訊く』では、新たにスタートさせる「連載シリーズ:切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論」のイントロ・第1回をお届けします(AIとの共作論文は当サイトのトピックスに順次掲載してゆきます)。

1.2026年4月の活動状況
スマイルチームさんの投稿
20260403 スマイルチーム上鶴間 天気予報によると今日が最後のお花見日和、、、らしい日に 参加下さった皆さん、ありがとうございました☺️ 体の細かいところを理解しながらのエクササイズ。 かなりの脳トレになるリズムエクササイズ。 体の隅々までのストレッチ。 時間内たっぷりと頭も体も動かすことができました。 お疲れ様でした😊 #スマイルチーム上鶴間 #相模原市南区 #上鶴間公民館

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
🎬✨ 會員大會圓滿落幕|精彩瞬間回顧 2026 台灣健走杖運動推廣協會 第二屆第一次會員大會,圓滿完成!🎉 從報到的熱絡問候、 會議中的專注與交流, 到戶外健走杖運動會的歡笑與活力, 每一個畫面,都是我們一起走過的美好瞬間。💚 因為有你們, 這不只是一場活動, 而是一段彼此連結的旅程。 謝謝每一位到場的夥伴, 下一段路,我們繼續一起走!🚶‍♀️🚶‍♂️ #台灣健走杖運動推廣協會 #雙杖在手健康跟著走

田村 芙美子さんの投稿
昨夜 あの渋谷のスクランブル交差点で🔥🔥🔥 渋谷区介護予防ポールウォーキング教室新年度1学期が始まりました。抽選をクリアした15名の方々。このクラスを申し込まれた理由は・・ ・姿勢を改善したい ・脊柱管狭窄症で片足が痺れて歩きにくい ・人工股関節をいれたので歩くのが不安 ・以前教室を覗いたら楽しそうだった ・T字杖を使用しているが身体が傾くようで不安 etc.   皆さんの不安を安心に! 筋バランスを整え姿勢良く転ばないよう安定して歩けるように 愉しく運動しましょう。 鎌倉段葛は🌸が満開です。

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 4/5(日) 本日2026年度PW歩き始め〜❗️ 定例会場/駒場公園に60名越えの参加者を迎え、少し汗ばむ公園〜牧場の散策が出来ました。 初心者🔰6人の体験コースや健脚〜ユックリコースの3コースでの歩き染め。来週は桜満開?の別な公園散策です❗️ PS:新MC pro/遠藤パパ〜 この3月誕生で資格授与もありました〜❗️ 当協会発展の為ご活躍を期待しま〜す⁉️

Masako Shinchiさんの投稿
☘️佐久といえば、この風景☘️ 雪が消えた浅間山、桜の蕾がうっすら赤くなり始めた駒場公園、そしてポールを持って歩く人たち 家から出てみれば、この風景のおかげで、うつむいてはいられない。

遠藤 恵子さんの投稿
【本日の介護予防運動教室にて】 体操終了後、 初めてご参加くださった方が 涙を浮かべながら声をかけてくださいました。 「先生の体操、とっても良かったです。 お話も精神的にも本当に良くて… 良いお話が聞けて嬉しかったです。 ありがとうございました。」 そう言っていただけて、 とても嬉しくて、励みになりました。 私自身の経験も交えながら、 新年度はじまったばかりなのでお話多め セロトニンについてや脳トレ… 「この運動は何のために必要なのか」 をお伝えしました。 ただ身体を動かすだけでなく、 心にも届く時間になっていたら嬉しいです。 今日も素敵な出会いに感謝です✨ ⁡ さっ 次の講座へ移動🚙💨

校條 諭さんの投稿
最高気温27度予報にもかかわらず快適ポール歩き 4月の気まポ(気ままにポール歩き)は、当初予定していた石神井川沿いを歩くのをやめて、主として石神井公園の中を歩くコースに急遽変更しました。川沿いは緑が少ないので。 公園内は木陰が多く、湿度も低かったので、とても気持ちのよいウォーキングでした。2つの池を一周すると、次々に開ける視界がさまざまに変化するので飽きません。 途中、少しだけ公園から離れて、三宝寺という寺に寄りました。ここには四国八十八箇所をインスタントにお遍路できる場所があります。

水間 孝之さんの投稿
中台科術大学 許秀貞先生のチェアエクササイズ 楽しい❣️

Masako Shinchiさんの投稿
〜ウォーキングポールを相棒に仲間と巡る小さな旅〜 ぽる旅 第4弾🌷 霞ヶ浦総合公園で霞ヶ浦のキラキラ光る湖面を眺めつつ、チューリップに元気をもらう旅、です! 常磐線土浦駅下車、市内周遊バスで20分 シンボルの大きな風車の前には色鮮やかなチューリップが。 このチューリップは誰のものなんですかねー?と、昭和14年生まれFさんの渾身の振りに誰も気付けず、30秒後に「オランダ〜‼️」😄遅っ。 今日は土浦市在住の関コーチが駆けつけてくださいました。股関節の手術を終えリハビリ中の関さんから、日頃歩いたりストレッチ、筋トレをしていたことでリハビリがスムーズに進んでいるというお話が。みんな真剣に聞き入りました。 ポールで歩くことでこうした交流ができるのは本当に嬉しいです😊また一緒にに歩きましょうと約束をしました。 花も光も人にも力をもらいました。さぁ気持ちよい季節は歩きましょう!

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より PW散策年度初め〜❗️ 桜🌸満開の〜さくラさく小径公園〜をポールウォークで闊歩。 桜見頃を測った参加者70名越えの皆さん、ドンピシャの桜🌸🌸🌸〜 皆さん日頃の行い良好にての結果、ワンコ連れやランドセルnew〜newのピカピカの小学生写真撮りやら楽しみ満喫の公園PW3〜5kmの散策でした‼️

水間 孝之さんの投稿
台湾ポールウォーキング協会設立4年目に入りました。会員コーチ75名になり始めての台湾におけるスキルアップ研修会を開催‼️ 気温30度日本からの参加者はかなり😥厳しいなか、台湾の皆さん元気に研修会完了しました。 ありがとうございました😊

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
2026年04月12日【日本健走杖健走初階教練(BC)培訓課程】圓滿結束! 這次也是協會開辦課程三年以來,首次有日本健走杖健走協會(NPWA)專業教練來台共同參與教練培訓課程!日本協會肯定我們在健走杖運動上的努力成果,也非常開心台灣學員的優秀表現,以及學習上的熱誠與積極。初階教練(BC)是進入日式健走的敲門磚,而進階教練(AC)則是讓我們能帶領更多人一起走出健康的專業通行認證。接下來在五月,即將開啟的進階教練培訓課程,提供更深入的專業訓練,期待更多人一同加入推動全齡健康的健走杖運動!❤️

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
三年前的今天(2023/4/13),是我們重要的起點。我們與日本健走杖健走協會(NPWA)正式締結合作協議,取得授權,在台灣展開「日式健走杖健走」的推廣任務。從那一天起,一顆種子悄悄落地,開始在台灣生根發芽。而在三年前,4/14~4/16日這三天,日本專業教練來台的研習會後,台灣也有13位日本健走杖專業教練(Master Coach)取得認證。日本和台灣都面臨人口老化問題。健走杖健走,不僅僅是一項運動,從預防衰弱、降低運動傷害與跌倒風險,到透過穩定支撐改善姿態與體態,進而運用健走杖的輔助同時鍛鍊上半身與下半身肌肉,都一再讓我們感受健走杖運動帶來的價值與影響。三年來,我們持續努力、穩健步伐前進。 未來,也將繼續把這份來自日本的專業與理念,在台灣深耕、茁壯。 台灣、日本,一起加油!! 讓更多人因為「走」,而更健康、更幸福❤️

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
🎬✨ 2026 教練提升課程|Skill up 花絮回顧 這一天,我們用更專注的步伐, 一起走向更專業的自己。🚶‍♀️🚶‍♂️ 從開場到課程說明、示範教學、分組演練, 每一個環節都看見大家的投入與成長。 站在前面教學的那一刻, 不只是技巧的展現,更是對「教練身份」的理解與轉變。 流流教學時的專注、 學員問題探討時的交流與回饋, 彼此觀察、修正、再進步—— 這正是教練培訓最珍貴的地方。💡 這次特別的是, 日本專業教練也來到台灣,一同參與這場課程。🇯🇵🤝🇹🇼 跨越語言與文化, 我們用相同的步伐與理念彼此交流, 讓健走杖運動的專業更加紮實,也更加有力量。 三年來, 我們一步一步,穩穩地走、持續地做。 從推廣、教學到培訓, 每一段路,都是累積。 未來, 我們也將繼續把這份來自日本的專業與理念, 在台灣深耕、茁壯。🌱 台灣、日本,一起加油!!💪 讓更多人因為「走」, 而更健康、更幸福 ❤️ ⸻ 📸 這些花絮,不只是紀錄, 更是我們一起努力過的證明。 💚 雙杖在手,健康跟著走

水間 孝之さんの投稿
台湾ポールウォーキング協会BC資格取得セミナー7名の受講者、講師3名、スタッフ2名で開催。 実技研修、座学、筆記試験、実技試験7時間! 充実した時間でした。 皆さんお疲れ様です。 大変良好です‼️

田村 芙美子さんの投稿
今日は、駒沢のwalking hut 2とチャッキ~の池上グループの16名が東京から遥々鎌倉ポール歩きにお出掛けくださいました。朝10時から夕方4時までのロングウォークになりました。観光客の少ない大町から材木座の寺院~材木座海岸~由比ヶ浜~扇が谷を歩き、小町通りで解散となりましたが 道中の絶え間のないお喋りオーラルトレーニングには参りました😙😗 目の前に拡がる波がキラリと光る砂浜でポールでゲーム三昧は身体中が若返り気持ちが躍りました。

堀 和夫さんの投稿
河川環境楽園オアシスパーク 新年度ポールウォーキング教室始まりました。 出だしから雨ですので室内でポールエクササイズ。 楽しく身体動かします。

田村 芙美子さんの投稿
100歩速歩ごとにゲームタイム

佐藤 ヒロ子さんの投稿
シニアポールウォーキング 2026/4/20 参加する会員も増えて  講堂が狭くなりました 良い季節なので  外回りグループを再開! 喜んで飛んで行きます〜〜 講堂グループは足元が安心。  鏡でFormがチェックできる  のも魅力です。 思い思いに分かれて   疲れたら休憩。 程よい疲労を心得ているのは シニアメンバーならばこそです 素晴らしいなあ〜〜 #船橋ウォーキングソサイエティ #ノルディックウオーク  #ポールウォーキング #コグニサイズ #ポールdeダンス #しっかり歩きで免役力アップ

日本ポールウォーキング協会 npwaさんの投稿
4月19日にスキルアップ研修会東京会場を実施しました。 参加者21名の内、MCProが4名参加されたため、きめ細やかなフォローや意見交換が行われ、非常にレベルの高いスキルアップ研修会になりました。 次回は7月5日(日)初の関西地区のスキルアップ研修会となります。多くの西日本地区のコーチのお申込みをお待ちしております。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【美・姿勢ウォーキング初参加】  4月から新体制でスタート。      2026/4/21 土曜「ポールを使うウォーキング」から火曜日のポールを使わないウォーキングへ移った会員。 ウォーミングアップで  本人達も意外な気づき 「あれれ〜 ポールがないとふらつくわ」 そう、ポールあると無いとでは 大違い。  「4月は歩きの基本」 ウォーキングも両方経験するとより深く新鮮だったようです。 #船橋ウォーキングソサイエティ #良い歩きはよい姿勢から

田村 芙美子さんの投稿
逗子PWクラブの日。朝はひんやり。家を出たところでご近所さんとバッタリ。踏切りまでおしゃべりして私は駅へ、彼女は教会へ。「辞め時」について話していて中断。 JRは今日も上下線が遅延。それでも時間までに到着し、ほっ。駅までは送迎車。 ウォーミングアップの公園の向いは今年も見事な藤! 最近裏山に猪が4頭出たそうです。クワバラクワバラ 放課後(?) 駅近くの神武寺へ。別のサークルのための下見です。特養せせらぎの前庭に数えきれないほどの大きな鯉のぼりが空を隠していました。

 

来月以降開催
長岡智津子さんの投稿
写真1件

柳澤 光宏さんの投稿
毎年開催しているシナノ工場祭のご案内(^.^) 5月16日9時からです‼️ 今年はクラフトもの作り体験が全てリニューアル。お子様に喜んでもらえるかと。 アウトレットも色々用意していると聞いています。 お待ちしております(^.^)

 

2.PW関連学術ニュース
2-1)生涯にわたる認知能力向上とアルツハイマー病認知症の発症、認知老化、および認知回復力との関連性
***以下は、大阪大学宮坂昌之先生の2026年4月13日のFB投稿です***
認知機能は加齢とともに低下してきますが、積極的に頭を使うことによって認知機能の低下が遅くなるだけではなく、認知機能がむしろ向上し、認知症の発症が遅くなるのではないかと言われています。しかし、それを大規模な調査で科学的に示した例は多くありません。
専門誌Neurologyの近刊に、アメリカ・イリノイ州北東部の高齢者を対象とした認知症に関する経時的臨床病理学的研究の結果が載っています(https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000214677)。
対象者は、調査開始時点で認知症がなく、その後生涯にわたって認知機能向上活動に関するアンケートに回答し、さらに毎年、認知症に関する臨床評価を受けていた人たち約2千人(女性76%、平均年齢79.6歳)です。高齢になってから行った知的活動が非常に多かった人、中等度だった人、低かった人に分けて認知症の発症頻度、発症年齢など3群に分けて、一人平均7.6年にわたり調査しました。
その結果、若い時から知的活動において積極的であっただけでなくて高齢になってからも知的活動を最も積極的に続けた人たちでは、知的活動が少なかった人たちよりも、認知症になるのが38%減り、軽度認知障害も36%低下し、認知障害の発症が5-8年遅くなっていました。つまり、生涯にわたって知的活動を積極的に続けることが認知機能低下の速度を遅くさせ、認知症リスクを低下させることにつながっていた、という結果です。
ということは、年を取ったからもういろいろなことは諦めるというのではなくて、スマホも結構、パソコンも結構、唄を歌うのも結構、習字をするのも結構、手紙を書くのも結構、社会的活動をするのも結構、そのようなことの積み重ねが、加齢による認知機能の低下を遅らせ、ひいてはアルツハイマー型認知症のリスクを下げてくれることにつながる、ということです。年寄りに大事な「きょうよう(今日用事があること)」や「きょういく(今日行くところがあること)」は、いずれも認知機能を高める活動そのものです。長野県の方言で「ずくを出す」という表現がありますが、「まめに動く」という意味です。皆さん、ずくを出して活動しましょう!

関連情報:原論文
掲載誌:Neurology
公開日:March 10, 2026
表題:Associations of Lifetime Cognitive Enrichment With Incident Alzheimer Disease Dementia, Cognitive Aging, and Cognitive Resilience
(和訳:生涯にわたる認知能力向上とアルツハイマー病認知症の発症、認知老化、および認知回復力との関連性)
著者:Andrea R. Zammit , Lei Yu , Victoria N. Poole, Alifiya Kapasi , Robert S. Wilson , and David A. Bennett
https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000214677

要旨
背景と目的
生涯にわたる認知的刺激が、その後の人生における認知機能に及ぼす影響は、包括的に調査されていません。本研究の目的は、生涯にわたる認知的刺激とアルツハイマー病(AD)認知症および認知機能低下との関連性を検証すること、そして剖検を受けた死亡者のサブセットにおいて、生涯にわたる刺激とADおよび関連認知症(ADRD)の病理学的指標、ならびに認知回復力(一般的なADRD病理を調整した後の低下)との関連性を探ることでした。
方法
これは、イリノイ州北東部の高齢者を対象とした縦断的な臨床病理学的研究であり、ラッシュ記憶・加齢プロジェクトに参加し、ベースライン時点で認知症がなく、生涯にわたる生活の質の向上を反映したアンケートに回答し、毎年臨床評価を受けていた。我々は、生涯にわたる認知機能の向上を反映した複合指標を作成し、比例ハザードモデルを用いて新規発症AD認知症との関連性、加速故障時間モデルを用いてAD認知症発症の平均年齢との関連性、線形混合効果モデルを用いて認知機能低下との関連性を検証した。死亡した被験者群では、生涯にわたる認知機能の向上と9つのADRD病理および認知回復力との関連性を検証した。
結果
参加者(n = 1,939、女性 75%、ベースライン時の平均年齢 = 79.6)は平均 7.6 年間の追跡調査を完了し、その間に 551 人の参加者が AD 型認知症を発症しました。生涯の充実度が 1 単位高いと、AD 型認知症を発症するリスクが 38% 低下しました (ハザード比 0.62、95% CI 0.52–0.73、p < 0.001)。生涯の充実度が高い (90 パーセンタイル) 場合、低い (10 パーセンタイル) 場合と比較して、AD 型認知症の発症が平均 5 年遅れました。生涯の充実度は、ベースライン時の認知機能 (推定値 = 0.31、SE = 0.02、p < 0.001) および認知機能低下の速度が遅いこと (推定値 = 0.02、SE = 0.01、p = 0.002) と正の相関がありました。死亡者群(n = 948)では、生涯にわたる認知能力向上は神経病理学的指標との有意な関連を示さなかったが、死亡直前の認知機能の高さ(推定値 = 0.32、SE = 0.06、p < 0.001)および病理を調整した後の認知機能低下の速度の遅さ(推定値 = 0.014、SE = 0.01、p = 0.02)と関連していた。
議論
生涯にわたる認知能力向上への取り組みは、アルツハイマー病(AD)認知症のリスク低下および認知機能低下速度の遅延と関連しており、一般的なADRD病理を調整した後でも、生涯にわたる認知能力向上によって高い回復力がもたらされることが示唆された。本研究の結果は、晩年の認知機能の健康は、生涯にわたる認知能力向上への取り組みによって部分的に左右されることを示唆している。

 

2-2)岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学(2026年4月)
・ナノプラスチックの脳への侵入とミクログリアによる防御,そして認知症につながる?
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月1日のFB投稿より****
ナノプラスチックが脳に与える影響を,侵入と防御の両面から理解できる2つの論文を紹介します.いずれも本邦からで,一つは国立環境研究所のItoらによる研究で,もう一つは国立精神・神経医療研究センターおよび東京大学を中心としたOgakiらの研究です.
まずItoらの研究は,「ナノプラスチックは神経細胞に入るのか?」という問いに答えたものです.結論としては,ヒト由来神経細胞(LUHMES)を用いた実験により,ポリスチレンナノ粒子は神経細胞内に取り込まれることが明確に示されました.特に50 nmの粒子は500 nmに比べて圧倒的に効率よく取り込まれ,取り込み量は数百倍に達しました(図1).取り込みは主にクラスリン依存性エンドサイトーシスやマクロピノサイトーシスによるものでした.さらに,取り込まれた粒子は主にリソソームに局在し,一部はミトコンドリア周囲にも分布していました.また細胞種による違いが認められ,ミクログリアが最も高い取り込み能を示し,神経幹細胞がこれに続き,分化した神経細胞やアストロサイトでは取り込みが比較的低いという結果でした.特に神経幹細胞で取り込みが高いという所見は,発達期における脆弱性を示唆するものとして重要です.
一方で,これほど細胞内に取り込まれるにもかかわらず,急性毒性はほとんど認められず,細胞生存率,神経突起伸長,酸化ストレスへの明確な影響は確認されませんでした.しかしこれは安全ということではありません.神経細胞がナノプラスチックを取り込み,リソソームに蓄積するという事実は,神経細胞自身ではこれを十分に処理できず,ミクログリアなどのクリアランス機構に依存していることを示唆しています.このバランスが破綻した場合,長期的な蓄積や神経変性疾患との関連が生じる可能性があり,重要な知見と考えられます.
つぎにOgakiらの研究は,ナノプラスチックを含むナノ粒子が脳に侵入した後に「脳がどのように対処しているか」を明らかにしたものです.ナノ粒子は血流を介して脳内に到達し,特に視床や視床下部に蓄積することを示しました(図2).そしてこに蓄積に対してミクログリアが貪食を行いますが,その際に重要なのが補体C3による「タグ付け」です.ナノ粒子にC3が付着すると,ミクログリアは補体受容体CR3を介してそれを選択的に取り込みます.さらにこのC3は,血管内皮細胞から分泌されるCCL17がアストロサイトのCCR4を活性化することで産生されることが示されました.つまり,「血管内皮→アストロサイト→補体→ミクログリア」という連携機構が存在し,ナノ粒子の除去に働いていることが明らかになりました(図3).この機構の意義を最も明確に示しているのが図3で,CCR4を選択的アンタゴニストC-021で阻害するとミクログリアによるナノ粒子の除去が低下した結果,神経細胞死の増加と不安様行動の増悪が生じることが示されています(図4).すなわち,この機構は単なる異物処理ではなく,神経保護として機能している点が重要です.
ここで近年報告され注目を集めた「認知症患者の脳でナノプラスチックが多量に蓄積している(Nat Med. 2025;31:1114-1119.)」という観察結果を踏まえると,これら2つの研究は非常に重要な意味を持ちます.Itoらの研究は,ナノプラスチックが実際に神経細胞内に取り込まれ得ることを示しており,一方でOgakiらの研究は,それを除去する脳の防御機構が存在することを示しています.すなわち,ナノプラスチックの脳内蓄積は,「侵入」と「除去」のバランスで決まると考えることができます.この観点から認知症を考えてみると,アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患では,ミクログリア機能の低下や補体系の異常,さらには血管障害や血液脳関門の破綻が知られています.このような状態では,ナノ粒子に対するC3によるタグ付けやミクログリアによる貪食が十分に機能せず,クリアランスが低下する可能性があります.その結果として,ナノプラスチックが脳内に蓄積しやすくなると考えることができます.そしてナノプラスチックが神経炎症や細胞機能障害を引き起こすことで,アミロイドβやタウ病理を促進し,神経変性を悪化させる可能性もあります.つまりナノプラスチックの蓄積は,認知症において結果でもあり,原因でもありうると考えられます.
以上より,ナノプラスチックの脳への影響は,「神経細胞への侵入」,「ミクログリアを中心としたクリアランス機構」,そして「その破綻としての神経障害」という3つの視点から理解する必要があります.すなわち,ナノプラスチックは単に毒性を持つか否かではなく,「脳がそれをどこまで処理できるか」という動的な均衡の中で影響を及ぼしている可能性があります.よって本テーマは環境問題にとどまらず,神経変性疾患の新たな修飾因子としての可能性を含んでいます.
Ogaki A, Kinoshita S, Ikegaya Y, Koyama R. Chemokine-complement cascade in glial-vascular units protects neurons from non-biogenic nanoparticles. J Neuroinflammation. 2025;22(1):182. PMID: 40660294.
Ito T, Ikuno Y, Udagawa O, Tanaka K, Kurokawa Y, Kakeyama M, Maekawa F. Human neurons are susceptible to the internalization of small-sized nanoplastics. Environ Toxicol Pharmacol. 2025;118:104776. PMID: 40744315.
Nihart AJ, Garcia MA, El Hayek E, et al. Bioaccumulation of microplastics in decedent human brains. Nat Med. 2025 Apr;31(4):1114-1119. PMID: 39901044.

・健康ONEクリップ しびれの原因がわかる「しびれ図鑑」 今晩放送です!
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月1日のFB投稿より****
NHKのトリセツショー「あなたの「しびれ」はどれ?解消&予防SP」にて「しびれ図鑑」を作成しましたが,この番組とは別枠で,図鑑の内容を一部抜粋した3分VTRが放送されることになりました.今後,番組と番組の間などで随時流れることになるそうです.まず1回目の放送が本日の夜になります.もしよろしければご覧ください.この「しびれ図鑑」はとても好評で,今回の企画になったようです.ぜひ「しびれ図鑑」をご活用ください.
放送日:4月1日(水)午後10:57~
★リンクはコメント欄をご覧ください.
#NHK #トリセツ #しびれ図鑑

・せん妄は「脳の老廃物排出機能の障害」だったのか!?―グリンファティック仮説が示す新しい理解
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月3日のFB投稿より****
Nat Rev Neurol誌のPerspectiveに面白い仮説提唱論文が出ています.3人の先生の共著ですが,最後がグリンファティック系の提唱者として知られるMaiken Nedergaard先生であり,注目して読みました.せん妄の病態を「グリンファティック機能障害」という観点から統一的に説明しようとする,非常に意欲的な論文でした.
まずせん妄については,入院患者においてしばしば認められる症候で,特にICUでは30~70%と高頻度に認められます.従来,炎症,神経伝達物質異常,睡眠障害などさまざまな機序が提唱されてきましたが,いずれも部分的な説明にとどまり,統一的な理解には至っていませんでした.この論文ではこれらを一つの枠組みで捉え直し,せん妄を急性の「脳の老廃物排出機能の障害」として理解することを提案しています.
その鍵となるのがグリンファティック系です.これは脳内の血管周囲腔を介して脳脊髄液が流入し,間質液と混合したのちに静脈周囲やリンパ系へ排出されることで,アミロイドβやタウ,炎症性サイトカインなどの神経毒性物質を除去するシステムです.この機構はアストロサイトのAQP4水チャネルに依存し,さらに心拍や呼吸に伴う脳の拍動によって駆動されます.特に重要なのは,このシステムが睡眠中に最も活発に働き,覚醒時には抑制されるという点です.
この論文の仮説は,せん妄とはこのグリンファティック機能が急性に低下した状態であり,その結果として脳内に神経毒性物質や炎症性サイトカインが蓄積し,神経ネットワークの同期やシナプス機能が障害されることで発症するというものです.この考え方の優れている点は,既知の危険因子がすべてこの機構に収束されることを示した点にあります.すなわち,加齢や認知症,心血管疾患,腎不全といった「素因」は慢性的にグリンファティック機能を低下させており,そこに感染や手術,外傷といった急性の「誘因」が加わることで,機能はさらに抑制されます.
加えて,「ICUで行われる医療介入」そのものが,この機能を強く抑制する可能性があります.鎮静薬やオピオイドは睡眠構造を乱し,ノルアドレナリンは覚醒状態を維持することでグリンファティック系を抑制します.また人工呼吸の陽圧換気では胸腔内圧が上昇し,静脈血が頭蓋内にうっ滞しやすくなるため,頭蓋内圧が上がり,血管周囲腔が圧迫されます.その結果,脳脊髄液の流れが悪くなります.ICUではこれらが同時に存在するため,結果として脳の「排出機能」は多重に抑制されることになります.
この病態を最も明確に示しているのが下図です.この図では,まず加齢や基礎疾患によってもともとグリンファティック機能が低下している状態(素因)があり,そこに感染や外傷などの急性ストレス(誘因)が加わり,さらにICUでの鎮静や人工呼吸,睡眠障害といった医療介入(ICU関連因子)が重なることで,グリンファティック機能が,それぞれ,元来(初めから)/亜急性に/急性に低下することになります.その結果,脳内に老廃物や炎症性サイトカインが蓄積し,神経回路の機能が破綻してせん妄が発症するという流れです.
せん妄が夜間に目立つことも,この仮説から説明できます.本来,睡眠中には細胞外間隙が拡大し,脳脊髄液の流入が増加することで老廃物の除去が促進されます.しかしICUでは睡眠が著しく断片化し,徐波睡眠やREM睡眠が減少しており,本来夜間に働くべきグリンファティック機能が十分に発揮されません.さらに覚醒状態ではノルアドレナリンが高く,この機能は抑制されます.その結果,「本来なら脳が回復するはずの夜に回復できない」状態が生じ,老廃物の蓄積が進み,せん妄症状が顕在化しやすくなると考えられます.
また,せん妄と神経変性疾患との関連にも言及しています.グリンファティック機能の低下はアルツハイマー病やパーキンソン病,ALSなどでも認められており,老廃物の蓄積と密接に関係しています.せん妄はこうした脆弱な脳において発症し,その後の認知機能低下や認知症リスクを高めることが知られていますが,その背景にはグリンファティック機能のさらなる障害が関与している可能性があります.すなわち,せん妄のエピソード自体が神経変性の進行を加速させる可能性が示唆されています.
治療的な観点から考えると,鎮静を最小限にし,可能な限り覚醒状態を保つこと,睡眠を維持すること,早期離床を促すことなどは,いずれもグリンファティック機能を維持する方向に働き有効と考えられます.薬剤としてはデクスメデトミジンが注目されます.この薬剤はα2アドレナリン受容体作動薬であり,青斑核の活動を抑制することでノルアドレナリンを低下させ,自然睡眠に近い鎮静状態をもたらします.その結果,グリンファティック機能を比較的保ちやすい可能性があり,実際にせん妄の発症を減少させることが報告されています.逆にプロポフォールやベンゾジアゼピンは深い鎮静をもたらすものの,睡眠とは異なる状態であり,グリンファティック機能を抑制する可能性があります.
もしかしたらせん妄は「避けられない合併症」ではなく,「脳の環境を整えることで予防・軽減できる可能性のある病態」として再定義されるかもしれません.今後そのような視点で,せん妄の予防・治療を行ってみたいと思います.
Boesen HC, Du T, Goldman SA, Nedergaard M. Glymphatic dysfunction: a unifying hypothesis for delirium. Nat Rev Neurol. 2026 Mar 30. PMID: 41912735.

・ラモトリギンとレベチラセタムの用量は妊娠中・産後にどう変えるべきか? MONEAD研究より
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月4日のFB投稿より****
妊娠中のてんかん診療では,「どのタイミングでどの程度薬剤を増減すべきか」という問いに直面します.妊娠中は腎血流や肝代謝の変化,蛋白結合の低下,グルクロン酸抱合の亢進などにより,多くの抗てんかん薬(ASM)でクリアランスが増加します.このため,同じ用量でも血中濃度が低下し,発作増悪のリスクが生じます.一方で,分娩後はこれらの変化が急速に元に戻るため,増量したままでは過量投与となる危険があります.今回紹介するNeurology誌の論文は,ASMの適切な調整という問いに対して重要な示唆を与える研究です.米国のUniversity of Pittsburghなど20施設からなるMONEAD研究グループによって実施されました.
てんかんを合併した妊婦299例を対象とした前向き観察研究で,妊娠中から産後6週までのASMの用量変化を詳細に追跡しています.その結果,妊娠中には全体の約68%で増量が行われ,初回の調整は登録後中央値32日で実施されていました.さらに産後6週以内には約48%で減量が行われ,その開始は中央値3日と非常に早期でした.この「妊娠中は増量し,産後は速やかに減量する」というダイナミックな用量変化が,本研究の重要なメッセージです.
催奇形性の少なさから,特にラモトリギンとレベチラセタムが本研究の中心的評価薬剤となっています.ラモトリギンでは87.7%の症例で増量が行われ,1回あたり中央値100 mg/日の増量を繰り返しながら,分娩時には妊娠前の約191%に達していました.図1にはこの変化が明瞭に示されており,妊娠週数の進行とともに用量が連続的に上昇していく様子が理解できます.縦軸の“dose at conception”は妊娠成立時点の用量を基準とし,その後の用量変化を割合(%)で表したものです.例えば妊娠成立時に200 mg/日であった場合,分娩時に400 mg/日であれば200%となります.さらに重要なのは産後の用量変化であり,分娩直後から急速に減量が行われています.ただし6週時点でも約116%と,完全には妊娠前の用量に戻っていない点は臨床的に重要です.
レベチラセタムでも同様の傾向が認められますが,いくつかの相違もみられます.56%で増量が行われ,1回あたり中央値500 mg/日の増量により,分娩時には妊娠前の177%に達しています(図2).一方,産後の減量はラモトリギンほど急峻ではなく,6週時点でも136%と比較的高い水準に維持されています.これはレベチラセタムでは高用量でも副作用が出現しにくいことが影響している可能性が指摘されています.
このような積極的な用量調整のもとで,妊娠中の発作増悪の頻度は非妊娠時と同程度に保たれており,発作コントロールの維持に有効であったと考えられます.さらに児の神経発達も良好であり,特にラモトリギンおよびレベチラセタムの単剤治療例では,6歳時の言語発達指標に有意差は認められませんでした.
本研究から得られる臨床的示唆は明確です.すなわち,妊娠中は4〜6週間隔での用量調整を前提に,必要に応じて適切に増量すること,そして産後は数日以内に減量を開始することが重要であるということです.さらに,産後も直ちに妊娠前の用量に戻すのではなく,睡眠不足などの発作誘発因子を考慮しつつ,やや高めに維持するという判断も示唆されます.
ただし,本研究は観察研究であり,用量調整の判断基準(血中濃度か臨床症状か)が明確ではないことなどの限界もあります.しかしそれでも,専門施設における実際のASM調整の実態を具体的に示した点で,非常に貴重な研究といえます.特に図1および図2は,本研究のエッセンスを直感的に理解できる優れた図であり,ぜひご確認いただきたいと思います.
Pennell PB, Li D, Kerr WT, et al. Antiseizure Medication Dosing Strategy During Pregnancy and Early Postpartum in Women With Epilepsy in MONEAD. Neurology. 2026 Jan 27;106(2):e214483. PMID: 41461064.

・腰痛:「見逃してはならない病態」と画像検査前の診察のコツ
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月7日のFB投稿より****
腰痛の多くは自然軽快する筋骨格性疼痛ですが,一部には神経障害や重篤な疾患が隠れています.今週号のNEJM誌に掲載された整形外科のエキスパートによる動画・論文は,腰椎診察の実践的なコツを示した有用な内容で勉強になりました.とくに「見逃してはならない病態」と,画像検査前の診察のコツを体系的に整理しています.
まず最も重要なのは,「見逃してはならない病態」を見抜くことです.病歴で特に重視すべきはred flagのチェックです.具体的には,馬尾症候群を示唆する排尿・排便障害,saddle anesthesia,下肢筋力低下,さらに感染や腫瘍を示唆する発熱,体重減少,癌の既往の6つを挙げています.なかでも排尿障害やsaddle anesthesiaは馬尾症候群を強く示唆する所見であり,緊急対応が必要です.saddle anesthesiaとは,肛門や会陰,内股にかけて,ちょうど馬の鞍が接触する領域に一致した感覚障害であり,仙髄(S2〜S5)の障害を反映します.患者はこの部位の異常を自ら訴えないことも多く,「陰部や肛門周囲の感覚に違和感はありませんか?」と積極的に確認することが重要です.また発熱や体重減少,癌の既往があれば,感染や腫瘍といった全身性疾患を常に念頭に置く必要があります.
診察は視診から始まります.患者を立位にして後方から観察すると,肩と骨盤の高さの左右差や脊柱の傾きが評価できます.そして重要なのが姿勢です.腰椎前弯が失われると体幹は前方へ傾きますが,それを補うために骨盤は後傾(pelvic retroversion)し,股関節や膝関節は屈曲し,足関節は背屈するという一連の代償機構が働きます.図1左ではこの「姿勢保持のための代償機構」が示されており,腰痛患者にみられる前かがみ姿勢が,単なる痛み回避ではなく,全身のバランスを保つための適応であることが理解できます.つまり姿勢そのものが診断の手がかりになります.例えば,前かがみであれば脊柱管狭窄,体を横に傾けていれば神経根障害,膝を曲げて立っていれば脊柱アライメントの破綻が推測されます.
つぎは歩行です.Trendelenburg歩行は,股関節外転筋の機能低下により骨盤を安定して支えられず,体を左右に傾けながら歩く状態であり,L5神経根障害や股関節疾患を示唆します.また歩行障害が顕著な場合には,腰椎病変だけでなく頸髄症など中枢病変の可能性も考慮する必要があります.
触診では棘突起の圧痛と傍脊柱筋の圧痛を区別します.前者は骨折や腫瘍,後者は筋・筋膜性疼痛を示唆し,原因の絞り込みに有用です.可動域では前屈,後屈,側屈,回旋を評価し,疼痛や左右差を確認します.
神経診察ではデルマトームとミオトームの評価が中心となります.図1右は教科書的なデルマトームで,L4は下腿内側,L5は足背,S1は足底外側に対応し,「どこがしびれるか」から障害神経根を推定することができます.筋力ではL2の股関節屈曲からS1の足関節底屈まで順に評価し,腱反射では膝蓋腱反射(L4)とアキレス腱反射(S1)を確認します.反射低下は神経根障害を示唆し,反射亢進があればより上位の中枢病変の可能性を考慮します.
誘発試験としてはstraight leg raising test(SLR test)が重要で,坐骨神経の伸張によりL5やS1神経根障害を検出します(図2左A).足関節を背屈させることで神経の伸張はさらに増強され(図2左B),逆に膝を曲げると伸張は緩和されますが,膝窩部に圧を加えると再び症状が誘発されます(図2左C・D).SLR testは仰臥位で行うのが基本ですが,動画(写真)のように座位でも同様に評価が可能であり,両者を組み合わせることで診断精度を高めることができます.仰臥位では陽性であるにもかかわらず座位では陰性となる場合は,神経の伸張という観点からは説明がつきにくく,非器質的要因の関与,いわゆる「Waddell徴候」を示唆する重要な所見です.さらに,femoral nerve stretch testは大腿神経を伸張することでL3やL4神経根障害の評価に有用であり(図2右A・B),SLR testとあわせて上下の腰椎レベルを見分けるうえで重要な手技です.
腰痛診療においては,まず患者を観察し,しびれの分布と姿勢の意味を読み取ることが重要です.デルマトームは神経の局在を示し,姿勢は力学的破綻を示します.そして誘発試験はそれを確かめる手段です.患者の立ち方や動き方を丁寧に観察すれば,画像検査を行う前から,診断の手がかりはすでに示されているといえます.
Daniels AH, et al. Clinical Examination of the Lumbar Spine. N Engl J Med. 2026 Apr 2;394(13):e23. PMID: 41931050.

・「除去」から「排出」へ:グリンファティック系を再起動するアルツハイマー病新治療がヒトで実現する!?
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月8日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)の病態を「異常タンパク質の蓄積」という静的な視点から,「排出システムの破綻」という動的な視点へと大きく転換させる画期的な臨床研究(プレプリント)が報告されました.Applied Cognition社,スタンフォード大学やワシントン州立大学など,脳神経内科,睡眠医学,生理学の専門家が集結した学際的チームによって実施された研究です.これまでAD治療の関心の中心は蓄積したアミロイドβ(Aβ)を直接除去する抗体療法でしたが,この研究は脳の天然の掃除システムである「グリンファティック系」を薬剤で強化し,老廃物を「そもそも蓄積させない」あるいは「効率よく排出させる」という画期的で,より生理的なアプローチを提示しています.
研究チームは,55〜64歳の健常高齢者を対象とした厳密なクロスオーバー試験を実施しました .ここで検証されたのは,α2受容体刺激作用を持つ鎮静剤のデクスメデトミジン(DEX;プレセデックス®)と,末梢血管を収縮させて血圧低下を防ぐミドドリンを組み合わせた複合薬「ACX-02」の効果です.DEHは標準的な臨床用量(0.7 micro-g/kg/h)です.DEXは脳内のノルアドレナリンを抑制することで,老廃物を押し出す動力源となる睡眠徐波を劇的に増加させることや,脳組織の細胞外スペースを拡大させることが動物実験で示されており,これがヒトでは「脳実質抵抗」を低下させる(通り道を広げる)効果として期待されていました.またミドドリンが必要な理由は後述しますが,DEXによる「逆効果となる脳血管の拡張」を防ぎ,老廃物の通り道を確保するためです.
被験者はあえて一度睡眠不足の状態に置かれた後,日中に短時間の睡眠機会を与えられ,その間の生理計測と血液バイオマーカーの精密な測定が行われました.つまり「脳の掃除スイッチが最大に入る状態」を人為的に作り出し,薬剤の効果を正確に追跡したわけです.薬剤の効果は脳波(睡眠徐波,相対パワー)と,流体力学的な指標(脳実質抵抗,脳血管コンプライアンス),血液バイオマーカー(Aβ42/Aβ40比,p-tau217)で検討しています.
さて結果ですが,DEXを単独で投与した場合,睡眠中の徐波活動は有意に増加したものの,脳からのAβやタウの排出増加は認められませんでした.この現象の鍵を握るのが,図1の生物学的メカニズムです.DEX単独投与による血圧低下した際に,全身の血圧が変動しても脳への血流を一定に保とうとする「脳血流自動調節能」があるため,代償的反応として脳血管は抵抗を下げて血流を維持する方向に働きます.つまり血管拡張が生じますが,それが老廃物の通路である血管周囲腔を物理的に圧迫して閉ざしてしまう様子が描かれています.つまり,単に深い眠りを誘発するだけでは不十分であり,血管動態を含めた統合的な制御が不可欠であることが明らかになったわけです.
これに対し,ACX-02を用いた介入では,ミドドリンの作用によって血圧低下が抑制され,脳血管の過剰な拡張が回避されました.その結果,図2に示されるデータが証明するように,劇的な変化が生じました.つまり図2Aで徐波カウントが顕著に増加する一方で,図2Bでは脳内の水の通りやすさの指標である「脳実質抵抗(Rp)」がプラセボ比で51.4%も大幅に減少しました.このとき平均動脈圧(MAP)は安定して維持されていました.
最も特筆すべき結果は,この生理的変化が異常タンパクの排出量に直結した点です.ACX-02投与により,Aβ42/Aβ40比およびリン酸化タウ(%p-tau217)で評価したクリアランスが約8〜10%有意に上昇しました.これらの指標は脳から血中への排出動態をダイレクトに反映するものであり,ヒトにおいて短時間の介入で老廃物の除去を定量的に増加させられることを世界で初めて実証しました.ベイズ媒介解析によれば,この効果の最大の要因は脳実質抵抗の低下であり,次いで徐波活動の増加が重要な役割を担っていることが示されています.
この発見は,将来的に大きな臨床意義を持ちます.著者らは,約10%の排出増加が長期的に持続すれば,アミロイド蓄積の進行を数年単位で遅らせ,病理学的閾値に達する時期を大幅に延期できる可能性があると考察しています.また,このアプローチは既存の抗体療法と競合するものではなく,抗体によって可溶化されたタンパク質を,グリンファティック系を介して効率よく排出させるという補完的治療になり得るものです.本研究は,ADを「流れが滞ることで溜まる」疾患と捉え直し,その流れを再び動かすことができるという希望を提示した画期的な研究と言えると思います.
Dagum P, et al. Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins. medRxiv. 2026 Mar 12. doi: 10.64898/2026.03.10.26348048.

・環境神経学の時代;神経変性疾患は「加齢」や「遺伝」だけで説明されるものではなく,「環境との相互作用」の中で発症し進行する疾患である
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月10日のFB投稿より****
近年,「パーキンソン・パンデミック」という言葉が注目されています.世界のパーキンソン病(PD)患者数は過去数十年で大きく増加しており,その背景として大気汚染をはじめとする環境要因の関与が注目されています.従来,神経変性疾患は遺伝要因の研究が主体でしたが,現在では「環境との相互作用」という視点が急速に重要性を増しています.今回紹介する3つの研究は,このパラダイムシフトを決定づける重要なものです.
まず,PDに関するデンマークの全国コホート研究(文献1)は,「大気汚染」の影響を人口レベルで示した点で画期的です.約328万人を平均15.7年間追跡し,36,665例の発症を解析した結果,PM2.5,NO₂,ブラックカーボンのいずれにおいても,曝露量の増加と発症リスクとの有意な関連が認められました.特に重要なのは,濃度が高くなるほど発症リスクが上昇する「濃度反応関係」が明瞭に示された点です.図1では,PM2.5濃度の上昇に伴いハザード比が連続的に増加しており,大気汚染が「量」に依存して神経変性リスクを規定する可能性が示唆されています.グラフ下部のヒストグラムを重ねて見ることで,多くの人が実際に曝露されている濃度帯が可視化されています.この点は重要であり,大気汚染による健康被害は高濃度の曝露を受ける一部の集団のみの問題ではなく,より広い集団に影響しうることを示しています.ちなみに4つ目のO₃(オゾン)では負の相関がみられますが,オゾンによる保護作用を示すものではなく,交通由来汚染物質との逆相関や汚染物質間の複雑な相関構造を反映した見かけ上の所見のようです.
では,なぜ大気汚染が脳を蝕むのでしょうか.この問いに対して,JCI誌のPalushajらは,「exposome(エクスポソーム;環境曝露の累積)」という概念を用いて説明しています(文献2).exposomeはexposure(暴露,曝露)と-ome(全体,網羅的な総体) を組み合わせた混成語です.彼らの主張の核心は,「病態の起点は脳ではなく腸にある」という点です(図2).大気汚染粒子や農薬,マイクロ・ナノプラスチックといった環境因子は,腸内環境を攪乱し,腸管バリアを破綻させます.その結果,炎症や免疫異常が誘導され,αシヌクレインの異常凝集が生じ,それが迷走神経を介して中枢神経系へと波及する可能性が示唆されています.実際,PDでは便秘や嗅覚障害といった症状が発症の10〜20年前から出現することが知られており,「腸―免疫―脳軸」を介した病態形成を強く支持しています.
大気汚染の影響はPDにとどまりません.スウェーデンのKarolinska InstitutetによるALSの研究(文献3)は,環境因子が神経変性疾患の「発症」だけでなく「進行」にも関与する可能性を示しました.1,463例のALS患者を対象とした解析では,PM2.5やPM10,NO₂への長期曝露がALS発症リスクの上昇と関連していました.さらに,曝露量が高いほどALSFRS-Rで評価した進行速度が速く,呼吸機能の悪化や死亡リスクの上昇とも関連していました.図3に示すフォレストプロットは,曝露期間ごとに一貫して発症リスクが上昇する様子を示しており,大気汚染がALSの自然歴そのものに影響を与えている可能性を強く示唆しています.
以上を統合すると,一つの明確なメッセージが浮かび上がります.神経変性疾患は,もはや「遺伝」や「加齢」だけで説明される疾患ではなく,「環境との相互作用」の中で発症し進行する疾患であるということです.今後の神経内科学においては,患者の遺伝的背景だけでなく,「どのような環境に曝露されてきたか」を問う視点が必要になります.疾患予防を目指すのであれば,大気汚染,農薬,重金属,さらには話題のマイクロ・ナノプラスチックといった「見えないリスク」に対し,個人レベルの予防に加え,社会全体での対策が求められるということです.つまり神経変性疾患の理解は,「環境神経学(environmental neurology)」という新しい枠組みへと大きく舵を切りつつあるのだと思います.我が国における神経変性疾患の「パンデミック」を防ぐためにも,この潮流を認識する必要があります.
1. Cole-Hunter T, et al. Long-Term Exposure to Air Pollution and Incidence of Parkinson’s Disease. Movement Disorders. 2026. PMID: 38472866
2. Palushaj B, Voigt RM. The Parkinson’s pandemic: prioritizing environmental policy and biological resilience via the gut. J Clin Invest. 2026;136:e205275
3. Wu J, et al. Long-Term Exposure to Air Pollution and Risk and Prognosis of Motor Neuron Disease. JAMA Neurol. 2026;83:213-222. PMID: 39724566

・一度のCAR-Tで3つの自己免疫疾患が寛解した!:自己免疫疾患はB細胞を一度リセットして長期寛解を目指す時代に入る!?
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月12日のFB投稿より****
話題になっているドイツからのMed誌に掲載された症例報告です.重症かつ治療抵抗性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)に,免疫性血小板減少症(ITP)と抗リン脂質抗体症候群(APS)を合併した47歳女性に対し,自己由来CD19 CAR-T細胞療法を行い,3つの自己免疫疾患すべて速やかに寛解したという報告です.自己免疫疾患治療の考え方を大きく変える可能性を秘めた,非常に注目すべき報告です.
この患者さんは,寒冷凝集素型(IgM)と温式(IgG)の両方の自己抗体を伴う重症AIHAに加え,ITPとAPSも合併していました.診断後10年以上にわたり,ステロイド,リツキシマブ,免疫抑制薬など計9種類の治療を受けても改善せず,CAR-T導入前には1日1〜3単位の輸血を要する,まさに生命の危機にある状態でした.
今回用いられたCD19 CAR-T療法は,白血病や悪性リンパ腫で使われているCAR-Tと基本的な技術は同じです.患者さん自身のT細胞を採取し,B細胞表面抗原であるCD19を認識する人工受容体(CAR)を遺伝子導入し,体外で増殖させてから体内に戻します.今回使用された製剤はzorpocabtagene autoleucel(Zorpo-cel),すなわち自家白血球由来の遺伝子改変CAR-T細胞で,投与量は1×10^6/kgでした.
「がんのCAR-T」と「自己免疫疾患のCAR-T」は細胞こそ同じでも,治療の目的が異なります.がんでは,CD19を持つ悪性B細胞そのものを根絶することが目的です.一方,自己免疫疾患では,CD19を持つ異常B細胞が自己抗体を作り続けることで病気が維持されています.つまり,今回のCAR-T療法は,病的な自己抗体を作るB細胞と,その異常な免疫記憶を一度深く取り除き,「免疫系を初期化すること」を目指した治療といえます.リツキシマブ(抗CD20抗体)もB細胞を標的としますが,すべてのB細胞系統を十分に除去できるわけではなく,再燃することも少なくありませんが,CAR-Tはより深いB細胞枯渇と免疫リセットをもたらすことが期待されます.
実際の治療としては,CAR-T投与前に,フルダラビンとシクロホスファミドによるリンパ球除去療法も行われました.これは単なる前処置ではなく,CAR-T細胞を体内でしっかり増殖・定着させるための重要な準備です.もともと体内にいるリンパ球を一時的に減らすことで,CAR-T細胞が入り込む余地を作り,さらにCAR-Tの増殖を助けるサイトカイン環境を整えるそうです.
そして治療効果は驚くほど迅速でした.投与後7日目には輸血が不要となり,長年続いていた輸血依存状態から脱却しました.2週間後には全身状態が速やかに改善しました.25日後にはヘモグロビン値が正常化し,溶血マーカーも改善しました.さらに,寒冷凝集素抗体価は低下し,病的に高値であった抗リン脂質抗体も時間とともに正常化しました.血小板数も追加治療なしで安定し,ITPも改善しました.11か月以上の経過観察で,再燃なく,薬剤を一切使わない完全寛解が維持されています.
図は,今回の治療をまとめたものです.まず治療前の多剤抵抗性のAIHA,ITP,APSにより生命を脅かされていた状態が示され,つぎにCD19 CAR-T細胞による「B細胞リセット」を行い,幸い特に注目すべき有害事象(Adverse Event of Special Interest;AESI)は認めませんでした.そして転帰としては投与7日で輸血不要,25日でヘモグロビン正常化,11か月以上無治療寛解という経過がわかります.懸念されたAESIとしては,サイトカイン放出症候群(CRS)や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が挙げられますが,本例ではいずれも認めませんでした.一因として,自己免疫疾患では,がんと比較して標的細胞量が少ない可能性が考えられます.
今回の症例は,「自己免疫疾患は免疫抑制剤により一生抑え続けるもの」という今までの考え方に対し,「一度リセットして長期寛解を目指す」という新しい発想を提示しました.もちろんまだ1例報告ですし,病気によっては自己抗体を認めてもT細胞や自然免疫が主役の疾患もあり,すべての自己免疫疾患に使えるのか分かりません.長期安全性,感染症リスク,費用対効果など多くの課題も残されていますが,それでもCAR-T療法が自己免疫性脳炎を含む自己免疫疾患の新しい標準治療となる可能性を感じさせる論文だと思いました.
Korte IK,et al.CD19 CAR-T therapy induces remission in refractory autoimmune hemolytic anemia with ITP and antiphospholipid syndrome. Med. 2026 Apr 9:101075. doi: 10.1016/j.medj.2026.101075. PMID: 41962541.

・アルツハイマー病ではタウ沈着や神経変性に先立って「血流障害」が広範に生じ,最終的に血液脳関門の破綻を来す!
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月14日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)はこれまで,アミロイドβやタウといった異常タンパク質の蓄積を中心に議論されてきましたが,近年,脳血管の障害が重要な役割を果たしているとする研究が複数,報告されています(コメント欄に過去ブログ参照リンク).今回紹介する論文は,その血管病変の「時間的経過」を明らかにした重要な報告です.英国のUniversity of BristolおよびImperial College Londonの研究グループは,ヒト剖検脳を用いて,脳血流低下,血管機能異常,血管新生,そしてAβ・タウ病理との関係を詳細に解析しました.
対象はBraak stage(BS)に基づく3グループ,すなわち低病理群(BS 0–II),早期~中期AD(BS III–IV),進行期AD(BS V–VI)の36例であり,前頭葉,側頭葉,帯状回,嗅内皮質など広範な領域が検討されています.この研究の特徴は,脳血流の「過去の状態」を評価する指標としてMAG:PLP1比を用いた点にあります.MAG(myelin-associated glycoprotein)は低酸素に脆弱である一方,PLP1(proteolipid protein 1)は比較的安定であり,かつ両者はターンオーバーが遅いため,その比は死亡前数ヶ月にわたる慢性的な低灌流状態を反映するそうです.すなわちMAG:PLP1比は「持続的な低酸素」を捉える指標と言えます.
その結果が図1で示された脳低灌流の分布です.MAG:PLP1比は,早期AD(BSIII–IV)の段階ですでにほぼすべての灰白質領域で低下しており,広範な慢性低灌流が存在することが明らかとなりました.これは,神経細胞の明らかな脱落や臨床症状が出現するよりも前に,脳全体で血流障害が進行していることを意味します.すなわちADでは,神経変性に先立って「血流障害」が広範に生じている可能性が示唆されます.さらに重要な点として,これらの血管異常は高度なタウ病理が出現する前の段階から認められており,病態のかなり早期から関与している可能性が示されています.
では,この血流低下はどのようにして生じるのでしょうか.その鍵を握るのが図2の結果です.血管を収縮させるEDN1(endothelin-1)は,まだ病気が進んでいないごく初期の段階から,アミロイドβ(Aβ)が多いほど増えることがわかりました(図2).これは,Aβが血管収縮を介して血流低下を引き起こしている可能性を示す重要な結果です.つまりこの研究は,「Aβによって引き起こされる血流障害」が,最初に現れる病態のひとつであることを示しています.
さらに,低灌流に対する血管の応答として,VEGF-Aの上昇や内皮細胞マーカーCD31の増加が認められ,血管新生が誘導されていることも示しています.しかし,新生血管マーカーであるendoglinの異常な上昇やangiogenesis関連分子の発現異常が認められており,この血管新生は正常な修復ではなく,病的な血管新生である可能性が考えられます.加えて,加齢した脳では本来の意味での血管新生が十分に機能しない可能性も指摘されており,血管は増加の方向に進みつつも,有効な脳血管ネットワークの再構築には至らない,いわば「質の低い血管」が形成されている可能性があります.
加えて,脳血管の機能維持に不可欠な周皮細胞も早期から障害されていました.周皮細胞と内皮細胞の比率を示すPDGFRβ/CD31比は広範囲で低下し,この変化は低灌流およびAβと関連していました.周皮細胞は神経・血管ユニットの機能を支える中心的なプレイヤーであり,その障害は血流調節と血液脳関門(BBB)の維持の双方を破綻させる重要な変化と考えられます.ただしBBBの破綻を示す,通常は脳に存在しないフィブリノゲンの脳内濃度の上昇は主に進行期ADで認められ,タウ病理(pTau-231)と強く相関していました.Aβとの関連は乏しく,BBB破綻は進行期にタウと連動して進行する病態であることが示唆されました.
以上の結果は,ADの病態の時間経過を明らかにするものです.すなわち,Aβの蓄積によりEDN1が誘導され血管収縮が起こり,それが慢性的な低灌流をもたらします.その結果として異常な血管新生と周皮細胞障害が進行し,最終的にBBB破綻が生じ,タウ病理と結びついて神経変性が加速するという連鎖です.なぜタウが蓄積してから認知機能低下が生じるのかの一つの説明になるのかもしれません.もしこの研究が正しいとすれば,いわゆる混合型認知症は,昔からアルツハイマー病と血管性認知症が同時に進行する状態として知られていましたが,少なくともその一部はアルツハイマー病のみで説明ができることになります.また症状が出現してからAβやタウを除去しても十分な治療効果は得られにくいこともすでに進行した血管病変を考えれば理解できます(リンク先はコメント欄).むしろ,血管障害がADの早期から関与していることを考えると,遺伝的にハイリスクな人は,早めにそのリスクを理解し,高血圧,糖尿病,脂質異常症といった血管危険因子を厳格に管理することが,発症や進行の抑制につながる可能性が示唆されます.いずれにしても,病理学的解析からここまで時間軸を含めた病態像が描けることに,大きな驚きと感銘を得た論文でした.
Asby DJ, et al. Post-mortem evidence of pathogenic angiogenesis and abnormal vascular function in early Alzheimer’s disease. Brain. 2026 Apr 7;149(4):1182-1193. doi: 10.1093/brain/awaf394. PMID: 41124599

・アルツハイマー病「発症前治療」を阻む5つの壁:診断・倫理・社会制度の課題と処方箋
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月16日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)の治療の目標は発症後に進行を遅らせることでしたが,近年,発症前から介入するという新しい考え方が提案されています.この背景には,アミロイドβ(Aβ)による病理変化が,発症の20年以上前から始まっているという知見の蓄積があります.すなわち,症状が現れた時点ではすでに病態は相当進行しており,現在行われている「発症後治療」では十分な効果が得られない可能性があるためです.このような状況の中,Lancet Neurol 誌にBanner Alzheimer’s InstituteのEric M. Reiman教授を中心とする米国の研究者によって,ADの「発症前治療」の実装に向けた包括的な政策提言論文が発表されました.AANのポッドキャストでも著者本人がインタビューを受けています.
まずこの論文を理解するうえで重要なのが図1です.時間の経過とともにAβが蓄積していく過程と,無症候期から軽度認知障害(MCI),認知症へと至る連続的な病期が示されています.重要なのは,認知機能が正常な段階ですでにアミロイド蓄積が進行している点です.さらに,この図では介入のタイミングとして,Aβ蓄積前に介入する「一次予防」と,すでに蓄積があるが無症候の段階で介入する「二次予防」を明確に区別しています.まだ誰もがこの用語を認めているわけではないと著者もポッドキャストで述べていましたが,Aβ蓄積の前から治療を始める「一次予防」が視野に入っていることには驚きました.
論文では現在進行中の臨床試験の動向も記載されています.代表的な試験を表1にしてみましたが,アミロイド陽性の無症候者を対象とした多数の「二次予防」の試験に加え,上記の「一次予防」の試験も進行しており,Aβやタウに対する抗体を用いた早期介入が認知機能低下を抑制できるか検証されています.近いうちにこれらの試験の結果が出ますが,それにより,ADが実際に予防可能な疾患となるかどうかが決まるということになります.
同時にこの論文が強調しているのは,これら予防医療を社会実装するには多くの課題が存在するという点です.その課題は大きく5つに整理することができます.第一は倫理的・心理的課題です.血液バイオマーカー,とりわけp-tau217の進歩により,無症候の段階で将来の発症リスクや発症年齢を高精度に予測できるようになりつつあります.しかし,まだ症状のない人にリスクを告知することは,強い不安や心理的負担を伴います.さらに,保険や雇用における差別,社会的スティグマの問題も懸念されます.したがって,検査前教育や結果開示の方法を含めた倫理的枠組みの整備が不可欠です.
第二は医療体制の限界です.予防医療の対象は50歳以上の膨大な人口に及びますが,現状の専門医中心の体制では対応が困難です.このため,血液検査によるスクリーニングや,AIを用いたデジタル認知機能評価など,プライマリケアで実施可能な新しい診療モデルの構築が求められています.
第三は規制と評価のジレンマです.予防介入では,認知症発症という臨床アウトカムに至るまで長期間を要するため,従来の臨床試験デザインでは評価が難しいという問題があります.そのため,アミロイドPETや血液バイオマーカーを代替エンドポイントとして用いることが検討されていますが,それが真に臨床的利益を反映するかについては慎重な検証が必要です.
第四は経済的持続性です.多数の無症候者を対象とするスクリーニングと治療は,短期的には医療費の増加を招きます.一方で,QALYの観点では費用対効果が期待されるものの,その実現にはリスク層別化による対象者選定と,持続可能な薬価設定が不可欠です.
第五は公平性の確保です.新しい診断技術や治療法が都市部や高所得者に偏れば,健康格差はさらに拡大します.そのため,低コストでアクセス可能な診断法の開発と,政策的支援による公平な医療提供体制の構築が求められています.
つまり本論文が示しているのは単に新規治療薬の可能性ではなく,ADを「社会全体で予防する疾患」として再定義するためには,診断,治療,倫理,医療制度,経済を統合したシステム全体の変革を求めています.近い将来,可能となるかもしれない予防医療に対し,日本でも承認されてから慌てて準備するのではなく,これらの課題をどこまで克服できるか,学会,医療機関,行政,保険者,企業,そして患者・市民を含めた多様なステークホルダーは検討を開始する必要があると感じます.
Reiman EM. et al.A path to preventing cognitive impairment due to Alzheimer’s disease: initiatives beginning in the USA.Lancet Neurol.2026; 25: 268–278.PMID: 41722593.

・ついに出た,アミロイドβ抗体療法のCochraneレビュー;結論は効果の大きさを冷静に評価すべきということ
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月19日のFB投稿より****
アルツハイマー病に対するアミロイドβ(Aβ)標的モノクローナル抗体の有効性と安全性を検証したCochraneレビューが発表されました.アデュカヌマブ,レカネマブ,ドナネマブなどを含む7種類のAβ抗体について,12か月以上追跡したランダム化比較試験17試験,合計20,342例が解析されています.対象患者の平均年齢は70〜74歳であり,軽度認知障害または軽度認知症の段階にある患者が主に含まれています.Cochraneレビューとは,世界的に標準とされる手法で複数の臨床試験を統合し,治療の有効性と安全性を厳密に評価するシステマティックレビューであり,個々の試験結果よりも信頼性の高いエビデンスと位置づけられます.
結果としてまず重要なのは認知機能に対する効果です.代表的な評価指標であるADAS-Cogを用いた解析では,抗体治療群は偽薬群に対して統計学的には有意な改善を示しましたが,その効果量は標準化平均差(SMD)−0.11と,定義上「無視できる(trivial)」ほど極めて小さいものでした .下図(ADAS-Cogのフォレストプロット)は非常に示唆的です.各試験の結果は確かに「有効」方向に偏っていますが,そのほとんどがゼロに極めて近い領域に集中しており,効果の大きさが非常に小さいことが理解できます.この差を数値に換算するとADAS-Cogで約0.85点の抑制に相当します.一般にADAS-Cogでは,MCI期で2〜3点,認知症期で4点が臨床的に意味のある変化(最小臨床重要差:MCID)とされています.したがって今回の結果は,統計学的には有意であっても,臨床的に意味のある改善には達していないと解釈されます.
認知症の重症度(CDR-SB)についても同様に,わずかな改善傾向は認められるものの,その差は0.29点の抑制にとどまり,臨床的意義は限定的でした.さらに日常生活機能については,基本的なADL(ADCS-ADL)では効果が「無視できる(trivial)」範囲であり ,買い物や金銭管理といったより複雑なIADLにおいて「小さな(small)」改善が示唆されるにとどまりました .これらの結果を総合すると,本治療は「進行をわずかに遅らせる可能性」はあるものの,「生活を変える治療」と評価するには慎重であるべきと考えられます .
ここで重要なのは,本レビューが複数の抗体を「クラス」としてまとめて解析している点です .そのため,臨床応用されたレカネマブやドナネマブといった新しい抗体の効果が,初期の有効性の乏しい薬剤と平均化されている可能性があります.実際に,本レビューの個別解析データを見ると,レカネマブやドナネマブでは統計学的に明確な有意差が示されています.これらの結果を臨床的にどう解釈するかが最大の論点です.CDR-SBにおける最小臨床重要差は一般にMCI期で1点,認知症期で2点とされています .本レビューにおける個別試験のデータを見ても,レカネマブのCDR-SBにおけるSMDは−0.19 ,ドナネマブは−0.29であり,絶対値換算でもMCIDの閾値には達していません.したがって,レカネマブおよびドナネマブのいずれにおいても,「効果は存在するがその大きさは小さい」という評価は基本的に変わらないと考えられます.Cochraneレビューの結論は,これらの薬剤を否定するものではなく,むしろ「効果の大きさを冷静に評価する必要がある」ことを示していると理解すべきです.
一方で,進行をわずかでも遅らせることで,認知機能が保たれた期間を延ばせるのではないかという意見もあります.確かに理論的には,進行速度が低下すれば,ある機能レベルにとどまる期間が延びる可能性があります.しかし,本レビューの解析で示された差はCDR-SBで平均0.29ポイントにとどまり,時間に換算しても数か月程度の遅延に相当すると考えられます.この差をどのように評価するかは,患者さんやご家族の価値観にも依存しますが,少なくともその臨床的な効果は限定的であると慎重に解釈する必要があります.
また安全性についてはより明確な結果が示されています.アミロイド関連画像異常,とくに脳浮腫(ARIA-E)は有意に増加し,18ヶ月時点で1000人あたり107人の上乗せが認められました.症候性のものは1000人あたり29人の増加でしたが ,MRIによる定期的なモニタリングを要する臨床的に重要な副作用です.微小出血(ARIA-H)についても増加傾向が示唆されていますが ,本レビューでは報告の不備や異質性の高さから ,APOE ε4ステータス別の詳細なメタ解析は行われていません.なお,重篤有害事象(SAE)や死亡率については有意な増加は認められませんでした.
結論として,最も重要なメッセージは,「Aβは確かに除去されるが,それが臨床的に意味のある改善には必ずしも結びついていない」という点にあります.そしてこの問題は,レカネマブやドナネマブにおいても本質的には変わっていません.すなわち,現在の議論は「効くか効かないか」ではなく,「その効果が患者にとって意味のある大きさかどうか」という段階に移行しています.もちろんより早期の段階での介入や適切な患者選択により,効果が異なる可能性は否定はできません.それでもなお,本研究が示した「統計学的有意差と臨床的意義の乖離」という問題は極めて重要です.Aβを減少させること自体が目的ではなく,患者さんの生活や機能をどこまで改善できるのかという視点に立ち返る必要があると思います.
Nonino F, et al. Amyloid-beta-targeting monoclonal antibodies for people with mild cognitive impairment or mild dementia due to Alzheimer’s disease. Cochrane Database Syst Rev. 2026, Issue 4. Art. No.: CD016297. DOI: 10.1002/14651858.CD016297.

関連情報
本件のCochraneレビューについては、大阪大学の宮坂昌之先生も2026年4月19日にFB投稿されています(同投稿へは、こちらから)。

・知っていただきたい「プラスタミネーション」―マイクロ・ナノプラスチックの危険性についての講演と意見交換
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月19日のFB投稿より****
4月19日に「有害化学物質から子どもを守るネットワーク(https://c.kokumin-kaigi.org/)」年次総会@連合会館にて,「マイクロ・ナノプラスチックの危険性」という記念講演をさせていただきました.環境省のご担当者,マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)研究の専門家の先生方,医療者,NGO,生協,出版社,企業の方々など,非常に多様な立場の方が参加されており,分野横断的な議論ができたことは大変有意義でした.多くの新たな出会いにも恵まれました.
今回の講演では,これまで脳卒中学会や臨床麻酔学会で講演した内容をベースに,さらに発展させ,特に「子ども・胎児への影響」「生体内での処理機構」「測定系の問題」についてもお話ししました.講演後には,高田秀重先生や菅野純先生,大河内博先生をはじめ,多くの専門家の先生方から貴重なコメントをいただき,大変勉強になりました.特に印象的であった論点をいくつか共有させていただきます.なおスライドは下記からご覧いただけます.
https://www.docswell.com/…/800…/59NGRX-2026-04-21-050528
◆「プラスタミネーション(plastic+contamination;プラスチックによる汚染)」という概念が重要である.それはプラスチック粒子そのものだけでなく,添加剤とその分解産物を含めた複合的な毒性を意味する.添加剤の有害性についてはエビデンスが蓄積しつつある一方,添加剤について販売メーカーや規制当局も把握できていない状況にある(何が含まれているか理解できていないということ!).
◆現在のナノプラスチック測定系にはまだ課題があり,脂質などがMNPsとして誤検出されている可能性や,組織処理過程での不純物混入などがある.とくに脳の測定結果の解釈には慎重さが求められる.一方,日本人の血液中からナノプラスチックが検出されており,「人体における蓄積」はもはや否定できない.
◆曝露経路は経口,吸入,経皮,経鼻,経静脈とさまざまあるが,まだどれが重要か分かっていない.消化管ではマイクロサイズは吸収されず,主にナノサイズと考えられる.一方,吸入はマイクロ・ナノの両方が吸収される可能性がある.1日に摂取する量(水は2リットル,空気約2万リットル)を考えると,吸入の重要性は過小評価されているかもしれない.
◆飲料に関してはペットボトルだけが問題ではなく,ビール瓶のキャップの裏や,牛乳の紙パックのプラスチックコートなど予想外のものがマイクロ・ナノプラスチックの放出源になっている.
◆医療現場では,手術室や新生児のNICUにおけるプラスチック曝露は今後,大きな課題となる.医療が無意識のうちに患者に対し大量曝露を行っている可能性すらあり,今後の重要な研究テーマになると考えられる.
◆プラスチック被害は社会的・文化的な姿勢が密接に関係する.プラスチックはすでに生活のあらゆる場面に入り込んでおり,「便利さ」と「安全性」のトレードオフをどう考えるかというまさに文明論に関わる.
◆歴史的に見ても,メチル水銀,PCB,DDTなど,人類は有害物質との共存に失敗してきた.マイクロ・ナノプラスチックも同様に,「管理する」のではなく「減らす」方向に進まざるを得ないのではないかと感じている.特に,学校の校庭における人工芝整備は子どもへのプラスチック曝露を促進するため,早急な見直しが必要だと考えている.
最後に貴重な機会をいただきました木村―黒田純子先生,中地重晴先生に御礼申し上げます.

・Faciobrachial dystonic seizures(FBDS)の正体:LGI1抗体脳炎における皮質局在とネットワークの理解
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月23日のFB投稿より****
LGI1抗体脳炎は自己免疫性脳炎の代表的な病型です.発作性に生じる顔面や上肢の短時間の異常運動であるfaciobrachial dystonic seizures(FBDS)が特徴的所見として知られています.また発作性めまい,温度異常感覚,立毛発作,顔面紅潮といった多彩な発作症候を呈することがあります.しかしこれらはてんかん発作なのか,不随意運動なのか長らく議論されてきました.加えてFBDSは発作回数が多く,意識が保たれ,脳波異常が捉まらないため,機能性発作(かつてのPNES)と判断されてしまうこともあります.今回ご紹介する論文は,この問題に対して脳磁図(MEG)を用いて迫った研究です.ソウル大学病院およびメイヨークリニックを中心とした国際共同研究です.
本研究では,LGI1抗体陽性でFBDSを含む活動性発作を有する7例を対象に,MEGと脳波を同時に記録し,症候と脳活動の対応関係を検討しました.この結果,従来の脳波では明確に捉えられなかった発作間欠期てんかん性放電がMEGでは全例で検出され,多くの症例において臨床症候と対応する皮質領域に局在していました.
まず図1Aでは,各症例の発作間欠期てんかん性放電が脳表に重ねて表示されており,放電が運動野,体性感覚野,島皮質など特定の皮質領域に分布していることが示されています.これは,LGI1抗体脳炎の発作が機能局在に関連した皮質活動であることを示唆する重要な所見です.次に図1Bでは,代表例においてFBDS発作の直前1〜2秒以内にスパイクが出現する様子が示されています.このスパイクは内側側頭葉や運動野近傍に局在しており,発作が突発的に生じるのではなく,局所的な皮質の過興奮から始まることが示唆されます.また症候と対側の皮質に活動が見られる点も,神経解剖学的に矛盾がありません.さらに図1Cは,本研究のメッセージを最も直感的に示した図です.運動野がFBDS,島皮質が発作性めまい,体性感覚野が温度異常感覚に対応することが示されており,「症候は,その機能を担う皮質領域に対応する活動として表出している」ことが明確に示されています.
一方で,これらの所見は単純な局在モデルにとどまるものではありません.一部の症例では発作直前に内側側頭葉近傍でスパイクが認められており,発作が複数の皮質領域を含むネットワークの中で生じている可能性が示唆されています.また,LGI1抗体脳炎では基底核の画像異常や代謝亢進が既報で知られており,皮質と皮質下構造が連携した発作ネットワークの存在が想定されます.したがって,FBDSを含むこれらの発作は,「特定の皮質領域に対応して症候が出現するが,その背景には広い神経ネットワークの異常がある」と理解するのが適切です.
本研究の重要な意義は,FBDSなどの発作性の症候が,皮質の過興奮に関連した発作現象である可能性を強く支持した点にあります.機能性発作に似て見えるこれらの症候が,皮質活動に対応する神経生理学的基盤を有していることを示した点でも有意義です.そして何より本研究により,FBDSは皮質の過興奮に基づく「てんかん性現象」とみなすべきであることが強く支持されたといえます.
本研究の限界としては,症例数が7例と少数であり,また典型的な発作時脳波が記録されていないため,発作の起始部位を直接的に証明したわけではありません.それでも,活動性発作を有する患者に対してMEGを用い,症候と脳局在をここまで明確に対応づけた点は大きな進歩であり,今後の病態解明の足がかりになると思います.
Ahn SH, et al. Neuroanatomical localization of faciobrachial dystonic seizures in LGI1-antibody encephalitis. Epilepsia. 2026 Mar 13. doi: 10.1002/epi.70197. PMID: 41823021.

・なぜ「認知症にならない人」がいるのか?―認知レジリエンスについて知り,認知症予防につなげよう!
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月25日のFB投稿より****
Lancet Neurol誌のポッドキャストで紹介されている総説です.高齢者の脳を調べると,アルツハイマー病や脳血管障害などの病理が存在しているにもかかわらず,認知機能が良好に保たれている方が一定数存在します.この現象は「認知レジリエンス(cognitive resilience)」と呼ばれ,近年の神経学における重要なテーマとなっています.この総説では,認知レジリエンスの概念,決定因子,生物学的基盤,測定法,さらに介入の可能性についてまとめています.オーストラリアのUniversity of New South Walesを中心とした研究グループによるものです.
まず認知レジリエンスとは,「脳の加齢変化や病変の程度に比して予想以上に良好な認知機能を示す状態」と定義されます.この背景には,「認知予備能,脳予備能,脳維持」といった概念が関与します.これら3つはそれぞれ独立した概念ではなく,相互に関係しながら認知レジリエンスを支えています.またこれらは教育や社会参加,生活習慣などの心理社会的因子の中で形成・維持される点も重要です.区別が分かりにくいので,以下に要約します.
◆認知予備能(cognitive reserve);教育や職業,知的活動などによって培われる「頭の使い方の柔軟さ」や代償能力を指し,同じ病理があってもより効率的に脳を使うことで機能低下を防ぐ力です.
◆脳予備能(brain reserve);神経細胞数やシナプス数,脳容量といった「ハードウェアとしての余力」を意味し,もともとの構造的な豊かさが障害への耐性につながります.
◆脳維持(brain maintenance);加齢に伴う脳の萎縮や機能低下そのものを抑える力を指し,図でも示されているように,その維持・低下が認知機能の分岐点になります.
この論文で特に重要なポイントは,認知レジリエンスが単一の要因ではなく,多層的な因子によって規定されているという点です.教育歴や職業の複雑性といった知的刺激は認知予備能を高め,病理と認知機能の乖離を生みます.さらに,運動習慣,食事,禁煙などの生活習慣は血流や代謝,シナプス可塑性を改善し,脳の機能的余力を支えます.加えて,社会的つながりや心理的ウェルビーイングも重要であり,孤独や抑うつは炎症やストレス反応などを介して認知機能低下と関連します.睡眠や聴力・視力もこれらと同様に重要な心理社会的因子として位置づけられます.
こうした複雑な関係を非常に分かりやすく示しているのが下図です.この図では,教育や社会参加,運動,睡眠,心理的健康などの心理社会的因子が中心に配置され,それらが神経生物学的機構に影響を与える構造が描かれています.具体的には,神経細胞密度やシナプスの維持,ミトコンドリア機能,神経血管ユニット,そしてミクログリアの活性化などを含む神経炎症といった経路が示されており,これらが最終的に脳の構造や機能を保ち,認知機能の維持につながることが示唆されています.さらに,これらの要因が十分に働く場合とそうでない場合が左右で対比されており,「同じ病理でも結果が異なる」理由を直感的に理解できるようになっています.
生物学的基盤としては,認知レジリエンスの中心にシナプス機能の維持があると考えられています.レジリエンスの高い状態では,アミロイドβやタウといった異常タンパクが存在しても神経ネットワークの効率が保たれる可能性が示唆されています.また,運動や知的活動は神経栄養因子の増加や神経炎症の抑制を介して,こうした状態を支えると考えられています.さらに心血管リスクの管理が極めて重要です.高血圧や糖尿病,脂質異常症は単独でも認知機能低下と関連しますが,アルツハイマー病病理と相互作用することでその影響を増強します.逆に,これらの適切な管理は認知レジリエンスを支持する可能性が示唆されています.
認知レジリエンスの測定方法としては,認知機能と脳病理を組み合わせて評価する必要があります.代表的には,脳病理から予測される認知機能と実際の認知機能との差を統計的に算出する方法が用いられますが,まだ標準化された手法は確立されていないようです.
介入に関しては,運動,食事,認知訓練,血管リスク管理などを組み合わせた多因子介入が最も有望とされています(文末のリスト参照).これらにより認知機能には小さいながらも一貫した有意な改善が報告されていますが,認知症発症の抑制については現時点で明確なエビデンスはありません.それでも将来的な公衆衛生戦略として重要な位置を占める可能性が大きいものと思われます.本論文の内容を踏まえると,認知症予防には特別な治療というよりも,日常の積み重ねが極めて重要であることが分かります.
【認知レジリエンスを上げるリスト】
・体を動かす(運動により血流改善,シナプス可塑性や神経栄養因子を増加)
・頭を使う(読書,会話,学習により認知予備能を強化)
・人とつながる(社会参加により炎症やストレス反応を抑制)
・生活習慣病を管理する(高血圧,糖尿病などのコントロール)
・睡眠を整える(脳の回復と機能維持に重要)
・聴力・視力を補う(感覚入力低下による認知低下を防ぐ)
・抑うつを見逃さない(心理状態の悪化は認知機能に影響)
Powell A, et al. Cognitive resilience in ageing: determinants and interventions. Lancet Neurol. 2026 May;25(5):492-505. doi: 10.1016/S1474-4422(26)00027-X. PMID: 42009011.

・アルツハイマー病の黒幕はがん遺伝子変異ミクログリア!?―常識を覆す驚くべきCell誌掲載論文
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月30日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)の理解は,これまでアミロイドβ(Aβ)やタウの蓄積を中心に発展してきました.しかし今回ご紹介する研究は,その枠組みを大きく塗り替える可能性をもつ,非常に重要な論文です.正直なところ,あまりに予想外の内容で,理解が追いつかない感じです.本研究はBoston Children’s Hospitalなど世界トップレベルの研究機関が共同で行ったものでCell誌に掲載されました.
本研究の核心は,「ADは遺伝子変異を持ったミクログリアが選択的に増えていくことで,炎症が持続し進行していく病気である可能性が示された」という点にあります.著者らはこの仮説に至る背景として,いくつかの重要な知見に着目しました.まず加齢に伴って体細胞変異があらゆる細胞に蓄積することです.さらに血液の分野では,TET2やDNMT3A,ASXL1といった,もともとがん研究で知られてきた遺伝子に変異を持つ細胞がクローンとして増殖する「クローン性造血」が知られています.これらの変異は細胞の増殖や炎症反応を高めるため,炎症を介して心血管疾患のリスクを上昇させることが分かっています.そしてもう一つ重要なのが,ミクログリアがADにおける炎症や病態進展に深く関与しているという事実です.
これらの背景から,「脳内でも同様に,がん関連遺伝子の体細胞変異を持つミクログリアが増えており,それがADの炎症と進行に関与しているのではないか」という仮説を立てました.この仮説を検証するために,著者らは311例のヒト脳検体を対象に,149種のがんドライバー遺伝子に限定した超高深度シーケンス(1,000倍以上)を行い,ADではこれらの体細胞変異が有意に増加していることを示しました.特にTET2,ASXL1,DNMT3Aといった遺伝子の変異が多く,さらにそれらの変異はアレル頻度が高く,正の選択を受けていることから,単なる偶発的変異ではなく,増殖優位性をもつ細胞クローンとして拡大していることが明らかになりました.
つぎにこれらの変異がどの細胞に存在するかを解析しました.核ソーティングと単一細胞解析を組み合わせることで,変異は神経細胞ではなく,ミクログリア様細胞にほぼ特異的に存在することが確認されました.さらに,同一個体の血液中にも同じ変異が認められたことから,骨髄由来の単球が脳に侵入し,ミクログリア様細胞として振る舞いながらクローン増殖している可能性が示唆されました.
本研究の理解を助けるのが論文のGraphical abstractです.この図では,中央上段の正常状態のミクログリアが神経細胞を支持している様子から始まり,下に向かって加齢に伴う体細胞変異の蓄積が描かれています.2段目では,Aβやタウによる慢性炎症環境が「選択圧」として働き,変異を持つミクログリアが有利になる状況が示されています.つまりAβやタウによって慢性的な炎症環境が作られると,ミクログリアは常に刺激を受け続ける状態になります.このような環境では,「よく増える」「炎症に強く反応する」「ストレスに耐えやすい」といった性質を持つ細胞の方が生き残りやすくなります.実際に本研究で見つかったTET2やDNMT3Aなどの変異は,細胞の増殖や炎症反応を高めることが知られています.そのため,これらの変異を持つミクログリアは,炎症環境の中でより増えやすく,結果として正常な細胞よりも優位に広がっていきます.これが「選択圧」によるクローン拡大です.その結果,変異ミクログリア(紫色)が優勢となって増加していきます.これらの細胞は炎症性の性質を獲得し,神経細胞に障害を与え,最終的にADへと進行する流れが表現されています.言い換えると,Aβやタウが環境を作り,変異ミクログリアが病気を加速させるということです.
機能的な検証も説得力があります.単一細胞トランスクリプトーム解析では,変異を持つミクログリアがdisease-associated microglia(DAM)と呼ばれる病態に関連した状態に移行し,炎症や増殖に関わる遺伝子発現が亢進していることが示されました.さらにiPS細胞から作製したミクログリア様細胞に同様の変異を導入すると,炎症関連経路や増殖シグナルが活性化し,代謝的にも解糖系へのシフトが認められました.これらの結果は,体細胞変異がADに伴って偶然見つかるだけの現象ではなく,ミクログリアの機能を実際に変化させ,炎症を引き起こす原因であることを示しています.
以上,本研究はADの病態を,従来の「Aβ・タウ中心の神経変性」から「変異ミクログリアのクローン進化と炎症による神経障害」へと大きく拡張したのだと思います.この研究はなぜ加齢が最大のリスク因子であるのか?という問いにも,「変異の蓄積と選択にかかる時間」という説明を与えるものです.さらに治療にもつながるものと考えられます.なぜなら本研究で同定された遺伝子や経路の多くは,がん領域で既に標的とされているものであり,既存の分子標的薬が神経変性疾患に応用される可能性があるためです.非常に刺激的な論文です.
Huang AY,et al.Somatic cancer variants enriched in Alzheimer’s disease microglia-like cells drive inflammatory and proliferative states.Cell.2026.PMID:42019491.

下畑先生の近著情報
「下畑享良 神経症候学note <興味を持った「脳神経内科」論文>のエッセンス」が発刊されました!!関連FB投稿は、こちらから。

 

3.特別企画:AIに訊く
・「連載シリーズ:切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論」のスタート
私は、「歩行と走行の切り替えスイッチ」の記事(「トピックス 1.ポールウォーキングの研究課題(その2)」に掲載済み)を書いた後もAI(主にCopilot)との対話を楽しみ続け、2026年4月3日には、遂に学術誌に掲載し得る(とCopilotは褒めてくれます!?)以下の学術論文作成に至りました。論文はCopilotとの対話がなければ完成し得なかったという意味で共同作品です。

論文タイトル
歩行—走行切り替えにおける制約幾何学と階層的再編成: SCAN・VSM・3D 最小モデルを統合する枠組み
Constraint Geometry and Hierarchical Reorganization in Gait Transitions:
A Unified Framework Integrating SCAN, VSM, and a 3D Minimal Model

要旨
歩行から走行への移行は、従来、エネルギー的・力学的な閾値現象として説明されてきた。しかし、このような説明は、移行そのものの過程で生じる構造的再編成を十分に捉えていない。本研究は、制約幾何学、階層的組織化、そして運動力学を統合し、歩行—走行切り替えを自己組織化プロセスとして再解釈する枠組みを提示する。 本研究では三つの命題を提示する。第一に、移行期には二つの強い制約が同時に作用し、変動性(Var⊥)が増大して構造的揺らぎが生じる。第二に、この増大した変動性は梃子として働き、最適面上の最短経路に沿ってモード切り替えを実現できる階層構造への再編成を可能にする。第三に、新たな運動様式が採用された後、変動性は再編成された階層構造の内部で収束し、移行前とは異なる新たな統合秩序が形成される。 3D 最小モデルを用いた解析により、制約の重なり、変動性の増大、階層的再編成、最短経路切り替えが、歩行から走行への移行をどのように形づくるかを示す。本枠組みは、身体運動にとどまらず、組織・認知システムにおけるモード切り替えの一般原理としても応用可能である。

Abstract
Gait transitions have traditionally been interpreted as threshold phenomena driven by energetic or biomechanical constraints. This study proposes a unified framework that conceptualizes transitions as self-organizing processes shaped by constraint overlap, variability expansion, hierarchical reorganization, and shortest-path switching. Integrating SCAN theory, the Viable System Model (VSM), constraint geometry from linear programming, and a 3D minimal model of locomotion, we articulate three propositions: (1) constraint overlap increases variability along an orthogonal subspace (Var⊥), (2) this variability enables hierarchical reorganization and shortest-path switching on an optimal face, and (3) variability converges after the transition as a new attractor stabilizes. The 3D minimal model provides a concrete dynamical realization of these propositions. This framework generalizes beyond locomotion to neural, cognitive, and organizational systems.

しかも、この論文作成に至る思考過程(毎月のニュースの特別企画に掲載)と成果物(固定ページに掲載)を、サイト上に再現し皆様にお届けしてみよう、と考えたのがこの連載シリーズです。現状のAIは正しくない回答もしますが、このような論文作成がAIなしではなし得ないことも確かです。現時点でのAI活用の一つの事例として、お楽しみいただければ幸甚です。

なお、新たに得た知見を踏まえ、先の切り替えスイッチの「命題②」を以下のように修正します。

命題②(修正版): 「歩行」と「走行」の切り替えスイッチは、移行期には二つの強い制約が同時に作用し多様性が高まるため、 その多様性を梃子として、自己を階層化しつつ、切り替えを最短経路で実現できる構造へと自己再編成される。

(参考)以下の図1は「歩行」と「走行」の切り替えスイッチの命題①を表し、図2が全体像を示しています。

図1.この図は、「歩行」と「走行」の切り替えスイッチの理論モデルの核心である
• 「切り替え=制約の支配が入れ替わる点」
• 「歩行=維持エネルギーが支配的」
• 「走行=総エネルギーが支配的」
を、表しています。


図2.切り替えスイッチの地図:制約の入れ替わり・変動性・階層化が生み出す歩行—走行切り替えの全体像。
本図は、歩行と走行の切り替えを生み出す主要なメカニズムを統合的に示したものである。 上段では、使用可能エネルギー総量(XT)と維持エネルギー量(Y)という二つの制約の支配が入れ替わる点に、切り替えスイッチが現れることを示す。 中段では、安定した歩行アトラクタから、変動性が最大となる境界領域(liminal zone)を経て、走行アトラクタへと収束する遷移過程を描いている。 下段では、二つの強い制約が同時に作用する移行期に、システムが自己階層化し、上位の意思決定主体と複数の器官群による局所最適化という二層構造へ再編成される様子を示す。 これらを総合すると、切り替えとは、制約の再構成・変動性の増大・構造の再編成が連動して生じる一般的な現象であることが分かる。

******(始まり)******

『切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論』

連載開始にあたって
歩いているとき、ふと走り出したくなる瞬間があります。 あるいは、走っていると、自然と歩きに戻る瞬間があります。
この「切り替え」は、私たちの身体が毎日のように行っている、 ごく当たり前の現象です。 けれど、その背後には、 制約、変動性、階層構造、そして自己組織化 といった、驚くほど深い世界が広がっています。
この連載は、そんな「歩行—走行切り替え」という身近な現象を入口に、 私自身が AI(Copilot)との対話を通じて、 どのように考え、どのように発見し、どのように統合していったのか―― 思考の旅路そのものを記録したものです。
専門的な知識がなくても大丈夫です。 むしろ、専門家ではない方にこそ読んでいただきたい内容です。 なぜなら、この連載は「完成された理論」を語るのではなく、 ひとつの問いが、どのように形を変え、深まり、広がっていくのか そのプロセスを、できるだけそのままの姿でお届けするからです。
AIとの対話は、私の思考を驚くほど透明にし、 時に予想外の方向へ導き、 時に自分でも気づかなかった前提を照らし出してくれました。
その結果、 SCAN、VSM、制約幾何学、アトラクタ力学―― 一見まったく別の領域に見える理論が、 ひとつの「切り替えの物語」として結びついていきました。
この連載では、 その結びつきがどのように生まれたのかを、 できるだけ丁寧に、そしてできるだけ自然な言葉で綴っていきます。
読み終えたとき、 あなたの中にも「切り替え」を見る新しい視点が生まれていたら、 それほど嬉しいことはありません。
それでは、 「切り替えの物語」 はじまり、はじまり。

第1回:歩行と走行のあいだにある“境界”を見つめる

1. 日常の中に潜む「切り替え」という謎
歩いているとき、ふと走り出したくなる瞬間があります。 あるいは、走っていて、自然と歩きに戻る瞬間があります。

私たちはこの「歩行—走行切り替え」を、 あまりにも当たり前のように行っています。 しかし、立ち止まって考えてみると、これはとても不思議な現象です。
• どのタイミングで切り替えるのか
• なぜその瞬間に切り替えるのか
• そもそも「切り替える」とは何が起きているのか

これらの問いは、単純なようでいて、実は深い構造を持っています。

そして私は、この素朴な疑問をきっかけに、 AI(Microsoft Copilot)との対話を通じて、 思いがけない知的な旅へと踏み出すことになりました。

2. 最初の問い:歩行と走行は“別のモード”なのか?
歩行と走行は、誰が見ても違う動きです。 しかし、身体の中では何が変わっているのでしょうか。
• 筋肉の使い方?
• 関関節の角度?
• エネルギー効率?
• 神経系の制御?

どれも正しいようで、どれも決定打ではありません。
私は最初、 「速度がある閾値を超えると走行になる」 という単純な説明で十分だと思っていました。

しかし、AIとの対話が始まると、 この“閾値説”では説明できない現象が次々と浮かび上がってきました。
• 人によって切り替え速度が違う
• 同じ人でも日によって違う
• 疲れていると早く切り替える
• 下り坂では遅く切り替える
• そもそも“歩きながら走り始める”瞬間は曖昧

「閾値で決まる」という説明では、 この曖昧さや揺らぎを説明できません。
ここで私は、 “切り替えとは、もっと複雑で、もっと豊かな現象なのではないか” と感じ始めました。

3. AIとの対話が開いた“思考の地図”
AIとの対話は、私の思考を驚くほど透明にし、 時に予想外の方向へ導いてくれました。
最初の数回の対話で、 歩行—走行切り替えは単なる運動学の問題ではなく、 システムのモード切り替え という、もっと一般的な現象の一例であることが見えてきました。

そして、次のようなキーワードが浮かび上がってきます。
• 変動性(variability)
• 制約(constraints)
• 階層構造(hierarchy)
• 自己組織化(self-organization)
• 最適面(optimal face)
• リミナルゾーン(liminal zone)

これらは一見バラバラの概念ですが、 対話を重ねるうちに、 まるでパズルのピースがはまるように、 ひとつの統一的な構造を形づくり始めました。

4. 「変動性」が鍵になるという発見
歩行—走行切り替えの研究では、 切り替え付近で 変動性が増大する ことが知られています。
• 歩幅が揺れる
• リズムが揺れる
• 上下動が揺れる
最初は「不安定になっているだけ」だと思っていました。 しかし、AIとの対話はこの見方を大きく変えました。

AIはこう言いました:
「変動性はノイズではなく、再編成を可能にする“ゆるみ”です。」

この一言が、私の思考を大きく動かしました。

変動性が増えるということは、 身体が「揺らいでいる」のではなく、 新しいモードに移るための準備をしている ということなのかもしれない。
この視点は、後に SCAN の「liminal zone」と結びつき、 理論全体の基盤となっていきます。

図3. 歩行—走行切り替え付近で変動性が急増し、走行アトラクタへの収束とともに減少する。

5. SCAN との出会い:境界領域という概念
SCAN 理論は、 秩序(Order)と混沌(Chaos)のあいだに Liminal(境界領域) という特別な領域を置きます。
この領域は:
• 構造がゆるみ
• 変動性が増え
• 新しい秩序が生まれる可能性が開く
という、非常に興味深い性質を持っています。

歩行—走行切り替えは、まさにこの「境界領域」にあるのではないか。 そう考えた瞬間、 私の中で何かがつながりました。
歩行(秩序) → 境界(ゆるみ) → 走行(新しい秩序)
この流れは、SCAN の構造そのものです。

6. 「切り替え」は身体だけの問題ではない
さらに対話を続けるうちに、 歩行—走行切り替えは、 身体運動だけの問題ではないことが見えてきました。
• 組織の変革
• 心の切り替え
• 学習の転換点
• 社会のモードチェンジ
これらもすべて、 「秩序 → 境界 → 新しい秩序」 という構造を持っています。

つまり、歩行—走行切り替えは、 複雑系におけるモード切り替えの“縮図” なのです。

7. この連載で目指すもの
この連載では、 私が AI とともに歩んだ思考の旅路を、 できるだけ自然な言葉で綴っていきます。
• 専門知識がなくても読める
• けれど深い構造が見えてくる
• 図や比喩を交えながら
• 一緒に考えていく感覚を大切に
そんな読み物にしたいと思っています。

8. 次回予告:SCAN が照らす“境界の世界”へ
次回は、 この連載の最初の理論的柱となる SCAN 理論 を取り上げます。
• 秩序とは何か
• 境界とは何か
• ゆるみとは何か
• なぜ境界で新しいものが生まれるのか

そして、 歩行—走行切り替えがなぜ「境界領域」に位置づけられるのかを、 丁寧に見ていきます。

関連情報&リンク
今回お届けした連載シリーズ第1回に関連する学術資料(論文)は、当サイトの『トピックス欄「1.ポールウォーキングの研究課題(その3)』にシリーズの進展に合わせ、順次掲載する予定です。

論文1:SCAN × モード切り替え   ・・・・ 掲載済み
論文2:VSM × 階層的再編成    ・・・・ 未掲載
論文3:制約幾何学 × 最適面    ・・・・ 未掲載
論文4:3D 最小モデル        ・・・・ 未掲載
論文5:統合論文(今回の完成稿) ・・・・ 未掲載

・『トピックス欄「1.ポールウォーキングの研究課題(その3)』へは、こちらから
・「論文1:SCAN × モード切り替え」へは、こちらから

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)

カテゴリー
APOEε4 COVID-19 アルツハイマー病 アルツハイマー病の治療 がんと運動 シャルコー先生 パーキンソン病の予防 マイクロプラスチック ロバート・ワルテンブルク 三浦謹之助 予防神経学 大腸がん 機能性神経障害(FND) 特発性正常圧水頭症(iNPH) 脳の構造的トポロジー

2025年12月のニュース

ポールウォーキングは、上肢・体幹・下肢を連動させる全身運動なので脳の運動中枢にとっても良い刺激となり、リハビリにも取り入れられますが、脳のトポロジーは変化させるのでしょうか?
脳のトポロジーにおける4つの重要な転換点(9歳:子ども期から思春期への移行、32歳:成人期の始まり、66歳:初期老化期の始まり、83歳:後期老化期の始まり)を明らかにした論文、定期的な運動のがん抑制メカニズムを明らかにした論文、岐阜大学医学部の下畑先生からの最新医学情報等を、お届けします。

1.2025年12月の活動状況
長谷川 弘道さんの投稿
ohana ポールウォーキング in モリコロパーク

遠藤 恵子さんの投稿
真冬の冷たい空気❄️ 本日の運動教室では手が冷たい方が多く霜焼けできている方もおられたので運動に加えてハンドケアも実施しました✨ セラピストとしての学びが活かせています🍀🫶 日頃から指の動きが悪かった男性から「おや?指が動くようになったばい!これは家でも続けた方がいいね」と嬉しい声もいただきました❤︎ お役に立てれて嬉しかったです♡

スマイルチームさんの投稿
ポールウォーキング

田村 芙美子さんの投稿
午前中 渋谷区元気すこやか事業 のポールウォーキング教室 今日は計測日。 午後から 近くの代々木公園でノルディックウォーキングプライベートレッスン。 2種のポール持参でした。

中村 理さんの投稿
一年振りのメンバーと一年振りの中山道PW〜 佐久/岩村田〜望月宿迄 二日に掛け約14kmのPWで。 久々のロングで充実の日々❗️ 来年は残り 望月宿〜茂田井宿〜立科/芦田宿PWを約束ww

校條 諭さんの投稿
屋上農園でカブを収穫 神田錦町の5階建てビルの屋上でカブの種を植えたのは9月18日でした。ちよだプラットフォームスクウェアの「ちよぷらアグリ」の活動です。 本日(12月6日)無事収穫。プランターによっては虫に食われたところもありましたが、私のは幸運にも無事でした。 ミニトマト、春菊、トウモロコシ、バジルなどを植えてきましたが、春菊、バジルと同様うまくいきました。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【春待月定例会2】   2025/12/6 #船橋ウォーキングソサイエティ #2本のポールを使うウォーキング   #海老川土曜コース     定着した   #インターバルウォーキング   2分を5セット 20分  初冬にいい汗をかきます♬ #ノルディックウォーキング #ノルディックウオーク #ポールウォーク #ポールウォーキング #インターバル速歩

スマイルチームさんの投稿
2025.12.2〜7 活動記録 ☺︎中屋敷CH体操 19名 ☺︎公民館抽選確認 ☺︎HP活動日更新 ☺︎舞台小道具作成 ☺︎スマイルPW 14名 ☺︎スマイルチーム上溝自主練 16名 ☺︎スマイルリズムエクササイズ 19名 ☺︎活き活き中屋敷PW 14名 ☺︎上鶴間公民館年末大掃除 ☺︎上鶴間公民館まつり実行委員会① ☺︎上鶴間公民館まつり発表部門調整会議①

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 今年度の外歩き仕舞いの 駒場例会でした。 前回の皆勤賞授与の欠席者表彰から始まり〜 先日の初雪も無くなった公園と牧場を、ゴミ拾いしながらの無事歩けた感謝を込めたポールwalk〜❗️ 残るは1月2月の「室内ポールウォーク」/フレイル予防の体育館迄お出掛けしての有酸素運動です‼️ お待ちしています。

田村 芙美子さんの投稿
神奈川健生クラブの活動イベントの1つ 地域グループ三浦ネットが企画担当のハイキングコースを今日はPWの例会と兼ねて歩きました。寿福寺スタート~源氏山~葛原岡神社~銭洗弁財天宇賀福神社~佐助稲荷神社~鎌倉歴史文化交流館(今日は休み) ポールがあれば山道も階段も楽々ですが本番は一般の参加者で少々しんどいかしら。 交流館手前で皆と別れ、人生初の甘味茶房雲母(キララ)

北陸ポールウオーキング倶楽部の中嶋  佳奈恵さんの投稿
今日から始める未病予防教室 | ポールウォーキング石川

長岡智津子さんの投稿
どっ鯉ポールウォーキング

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
新北林口站|活動花絮回顧 林口今天好熱鬧! 大家一早精神滿滿集合,先練習暖身, 接著一路健走、一路聊天,步伐越走越一致。😄✨ 走進民視大樓後,更是全場驚呼連連, 大家第一次站上主播台、第一次走進攝影棚、 第一次看到密密麻麻的燈架與場景, 每個人都像回到學生時代的郊遊般興奮。📸🎬 有的人拍照拍到捨不得離開、 有的人默默觀察機器設備、 也有人邊走邊說「原來平常節目是這樣錄的喔!」 今天的健走不只是運動, 更像是一場「走進電視世界的冒險」。 謝謝大家一路的笑聲, 下一站我們繼續一起走得更開心、更自在。 #2025健走杖輕旅行 #雙杖在手健康跟著走 #台灣健走杖運動推廣協會

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【春待月の定例会3】 2025/12/11 #2本のポールを使うウォーキング #船橋ウォーキングソサイエティ #行田公園 今日もしっかり頑張りました〜  #ストレッチと筋トレ #インターバルウォーキング  会員考案「ポールホルダー」を  スタッフが仕上げました。 日常生活で是非活用して欲しい です。

田村 芙美子さんの投稿
【紅葉狩り】 北鎌倉のメンバー有志と行ってきました。朝10時に鎌倉駅を出発して・・・下山したのは16時前。ゆっくりさんに歩調をあわせてのんびり歩きました。横浜方面からの50名のグループ始め大勢のハイカーとすれ違いました。去年より一週間遅かったけれど山の中の自然の織り成す紅葉や楓は美しく、思わず見とれてしまいました。マスクをしていたのは寒さ防止。

校條 諭さんの投稿
紅葉残る初冬の光が丘公園をポール歩き 2本のポールで歩くと、歩きなのに全身運動になり、負担感少なく有酸素運動効果が得られます。 12月の気まポ(気ままにポール歩き)は、練馬区にある都立光が丘公園の、広々としていろんな顔を持つコースを楽しみました。 曇りの予報だったのに、むしろ快晴で、暖かい日差しが心地よい感じでした。 今回、いつものメンバー以外に、3年近く前までやっていた杉並ポール歩きの会(杉ポ)の講師陣のひとりだった長井さんが片道2時間かけて来てくださいました。 都営大江戸線光が丘駅のすぐ近くにあるショッピングビルIMA(イマ)の中にあるイタリアンで乾杯、ピザやパスタをいただきながら歓談しました。 ※写真は、メンバーの田村君(高校同期)、石井さんからもいただきました。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【春待月定例会④】 2025/12/15 #船橋ウォーキングソサイエティ  #シニアポールウォーキング  「楽しかった〜 ♬  この日は外せないわ」 そんな言葉を帰り際に頂けます #コグニサイズで頭ぐしゃぐしゃ #ハードルで転倒予防 #すべらないインソール型マットで #バランス力と脚力アップ 椅子があるから  疲れたら自由にひと休み 「頑張らないけど頑張る」   シニア長続きの秘訣は     ここでしょうか〜

田村 芙美子さんの投稿
鎌倉腰越ポールウォーキング火曜サークル 今年最終活動日。センターで計測を済ませ広町緑地までPW移動 。 ストレッチ・筋トレ・ポールゲームを楽しんで来春は新年会から始まります。

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
台中水湳站|活動花絮回顧 水湳今天的風景,美得讓人忍不住放慢腳步。 🌤️✨ 走入水湳生態公園時, 寬闊的滯洪池、水光反射、綠意成片, 大家的步伐也自然變得輕盈。 接著我們一路走進二分埔公園, 綠色廊道開得很美,大家並肩而行的畫面好溫柔。 活動最後的收操伸展, 大家圍著棚架下慢慢放鬆, 看得出來,每一位都走得剛剛好、舒服到位。 台中水湳,用最自然的方式, 陪我們完成今天美好又平靜的健走旅程。💚 #2025健走杖輕旅行 #雙杖在手健康跟著走 #台灣健走杖運動推廣協會

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【春待月定例会6】  2025/12/20 #船橋ウォーキングソサイエティ #土曜海老川定例会  #2本のボールを使うウォーキング  1年振りの #サーキットトレーニング 中盤で予報よりも早い雨降りになりました。ポールを傘に持ちかえたり フードをかぶり予定の3クールを 実施。年納めをしっかり運動で締めくくりました。

田村 芙美子さんの投稿
きのこ頭の愉快な集まり

片山昇さんの投稿
大野と鹿沼公園2つのクラブ、今日はクリスマスウォーク 1年間皆さん頑張りました。

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 先日イブの日 コラボ先の佐久大学看護学部実習報告会へ参加して来ました。 一年生実習内容/〜ウォーキングイベントを通じて「地域住民の疾病予防・健康づくりについて考える〜 4年生は/〜健康教室「ポールを使った体操と筋トレ」の企画・実践〜 の結果の素晴らしい報告でした。 お疲れ様でした。

大内 克泰さんの投稿
クリスマスイヴは藤沢市の介護予防事業の講師を拝命いただき、長距離ドライブを楽しみつつレッスンを実施して来ました。 地方や関東圏隔てなく、こうした行政が実施する「運動教室」は、やはり圧倒的に女性の参加が多く、高齢男性の参加率向上の難しさは同じなんだと実感しました。 拠点を福島に移しても、最も長く住んだ地域にご縁をいただける事は有り難いですね😌

田村 芙美子さんの投稿
鎌倉市地域包括支援センターテレジア1・2   この圏内には、ポールウォーキングによる介護予防ストレッチ&筋トレクラスが4か所あります。 今年の活動は今日の貯筋クラスで終了しました。来年は6日腰越同好会からスタートです。クラスは月イチ体組成計測で始まります。ご自宅では毎日2分×4種のお好きな中強度運動をして専用カレンダーに✅☑️✅☑️を入れることを生活習慣にしています。鎌倉市民でしたらどなたも参加できます。介護認定2のかたもいらっしゃいます。が、どのサークルも明るく楽しいかたばかり。無理はせず、運動とコミュニケーションの通いの場として長く続けられれれば良いと思います。来年も宜しくお願い申し上げます。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【春待月 定例会7】 2025/12/25 #船橋ウォーキングソサイエティ の2025年の締めくくりは #2本のポールを使うウォーキング #行田公園木曜日コース です。 今年も一年間お世話になりました。 有難うございました。 イベント広場の円形を利用して #サーキットトレーニング 暑い夏も越え、寒い冬にも備え 皆で元気にやり切りました。    最幸な一年でした。

 

来月以降の開催
みんなの元気学校さんの投稿
志木いろはウォークフェスタ 第10回ノルディックウォーキング・ポールウォーキング全国大会を開催します! – ずっと住み続けたいまち 志木

みんなの元気学校さんの投稿
2026年のLINKくにたち「ポールdeウォーク」 5月10日(日曜日)に開催決定 ※歩行者天国を使用できる時間:14時15分~15時45分 国立駅前から一橋大学方面に伸びる大学通り約600メートルが歩行者天国となってノルディックウォーキング・ポールウォーキング専用に 「各団体・サークルが垣根を越えて一緒に集まれる場となればと願っています」(企画者の芝田竜文さん) ※写真は2023年

 

2.PW関連学術ニュース
2-1)脳は0歳から90歳までの間に4つの劇的な変化期を経験する
ヒトの脳内ネットワークの発達・変化についての大変興味深い論文がNature誌に掲載されたので、紹介します。

原論文:Nature Article (Open access)
公開日:Published: 25 November 2025
表題:Topological turning points across the human lifespan
(和訳:人間の生涯にわたる位相的転換点)
著者:Alexa Mousley, Richard A. I. Bethlehem, Fang-Cheng Yeh & Duncan E. Astle
掲載誌:Nature Communications volume 16, Article number: 10055 (2025)

要旨
構造的トポロジーは生涯を通じて非線形に発達し、認知軌跡と強く関連している。我々は、0歳から90歳までの集合的な年齢範囲のデータ・セット(N  = 4,216)から拡散イメージングを収集した。我々は、組織化の12のグラフ理論メトリクスが加齢とともにどのように変化するかを分析し、均一多様体射影および近似を用いてこれらのデータを多様体空間に射影した。これらの多様体を用いて、我々は生涯を通じて4つの主要なトポロジー転換点(9歳、32歳、66歳、83歳頃)を特定した。これらの年齢は、それぞれが明確に加齢に伴うトポロジーの変化を伴った、トポロジー発達の5つの主要なエポックを定義した。これらの生涯エポックはそれぞれ、明確に異なる位相発達の方向と、年齢とトポロジーの関係を推進する組織特性の特定の変化を伴っている。本研究は、多変量、生涯、集団レベルの視点でのみ明らかにすることができる、トポロジー成熟の独特な段階を伴う、人間の発達の複雑で非線形な性質を強調している。

図 1: データセットの人口統計、方法の概略、およびネットワーク接続。
a各データセットの年齢の分布(dHCP = 開発中のヒトコネクトームプロジェクト、BCP = 乳児コネクトームプロジェクト、CALM = 注意学習記憶センター、RED = 教育と発達におけるレジリエンス、ACE = 教育における注意と認知、HCPd = ヒトコネクトームプロジェクト開発、HCPya = ヒトコネクトームプロジェクト若年成人、camCAN = ケンブリッジ老化・神経科学センター、HCPa = ヒトコネクトームプロジェクト老化)。bサンプル全体の年齢にわたる性別の分布のヒストグラムと密度プロット。c方法の概略図では、年齢相応の AAL90 アトラスに登録されたすべての参加者に対して繊維追跡が実行され、その後、アトラスとデータセット全体で ComBat アルゴリズム37を使用して調和が図られました。次に、可変密度と密度制御の 2 つのしきい値分析が行われました。密度制御分析では、総接続性の違いによる偏りのない直接的なトポロジ比較を可能にするために、すべてのネットワークが正確に 10% の密度91に閾値設定されました。

関連情報
1)同論文の紹介記事(Nature誌)です。
表題:Your brain undergoes four dramatic periods of change from age 0 to 90
Our brain wiring seems to undergo four major turning points at ages 9, 32, 66 and 83, which could influence our capacity to learn and our risk of certain conditions
(和訳:脳は0歳から90歳までの間に4つの劇的な変化期を経験する
私たちの脳の配線は、9歳、32歳、66歳、83歳で4つの大きな転換期を迎えるようで、それが学習能力や特定の病気のリスクに影響を与える可能性がある。)
著者:Carissa Won
掲載日:25 November 2025私たちのニューロンの配線は、数十年を経て変化する
アレクサ・マウズリー、ケンブリッジ大学

**以下は、解説記事の冒頭部分の和訳です**
私たちの脳機能は生涯を通じて決して静止した状態ではありません。学習能力や認知機能低下のリスクは、新生児から90代まで変化することが既に知られています。そして今、科学者たちは、なぜこのような変化が起こるのか、その潜在的な理由を明らかにしたかもしれません。それは、脳の神経回路が9歳、32歳、66歳、そして83歳という4つの大きな転換期を迎えるからなのです。

2)同論文について、Copilotと会話してみました(2025年12月3日)。
Q1:次の論文の要旨を教えてください。
A1:この論文「Topological turning points across the human lifespan」は、人間の脳の構造的トポロジー(神経接続のパターン)が人生を通じてどのように変化するかを調べた研究です[1]。
研究チームは0歳から90歳までの4,000人以上の拡散MRIデータを用いて、脳ネットワークの12のグラフ理論指標を分析しました。その結果、脳のトポロジーにおける4つの重要な転換点が明らかになりました:
• 9歳:子ども期から思春期への移行
• 32歳:成人期の始まり
• 66歳:初期老化期の始まり
• 83歳:後期老化期の始まり
これらの転換点により、人生を5つの「トポロジー的時代」に分けることができ、それぞれの時代で脳のネットワーク構造が異なる方向に変化していることが示されました[2]。
この研究は、脳の発達と老化が単純な直線的変化ではなく、非線形で段階的な再構成を伴うことを示しており、認知機能や精神的健康との関連性を理解するうえで重要な知見を提供しています[3]。
もしご希望であれば、各時代の特徴や使われた指標の詳細もお伝えできますよ。

Q2:お願いします。
A2:お待たせしました!この研究では、人生を通じて脳のネットワーク構造がどのように変化するかを、12のグラフ理論指標(例:効率性、モジュラリティ、ハブ中心性など)を用いて解析しています[1]。その結果、脳のトポロジー的発達は5つの「時代(エポック)」に分かれることが明らかになりました。それぞれの時代には、特徴的な構造変化と機能的意味があるんです。
🧠 脳の5つのトポロジー的時代と特徴
この研究の面白いところは、脳の発達や老化が直線的ではなく、段階的な「再構成」を伴うという点です。特に、32歳まで脳の再編が続くという発見は、教育やキャリア形成、さらには精神疾患や認知症の予防にも新しい視点を与えてくれます[2][3]。もっと深く掘り下げて、各指標がどのように変化していたかも見てみますか?それとも、応用的な視点(教育、医療、資産設計など)での活用に興味がありますか?

Q3:各指標がどのように変化しているのですか?教えてください。
A3:お待たせしました!この研究では、12種類のグラフ理論指標を用いて、脳のネットワーク構造が年齢とともにどのように変化するかを詳細に解析しています[1][2]。以下に、各指標の分類とその変化の傾向をまとめてみました:
🧠 使用されたグラフ理論指標とその変化
これらの指標の変化は、非線形かつ段階的であり、特に9歳・32歳・66歳・83歳の4つの転換点で大きな構造的変化が観察されました[1]。たとえば、グローバル効率性が29歳でピークを迎えるというのは、脳の情報処理能力がこの時期に最も高まることを示唆しています。
このような知見は、発達障害や認知症の早期発見、教育・介入の最適化、さらには高齢期の資産設計や生活支援のタイミングを考えるうえでも非常に有用です。
もっと深掘りして、特定の指標と認知機能や精神疾患との関連を見てみますか?それとも、これらの知見をどう応用できるかを一緒に考えてみましょうか?🍄
[1]: Nature Communications 論文PDF [2]: News-Medical.net 解説記事

Q4:まずは、認知機能との関連、次に、教育・介入の最適化との関連について解説して下さい。
A4:ではまず、認知機能との関連から見ていきましょう。
🧠 脳のトポロジーと認知機能の関連
この研究では、脳のネットワーク構造(トポロジー)と認知機能・行動・精神的健康との関連が明確に示されています[1][2]。特に以下のような関係が注目されています:
• 幼少期(〜9歳):この時期は「ネットワーク統合性」が急速に高まる時期で、言語、注意、記憶の基盤が形成されます。トポロジーの変化が学習能力や発達障害のリスクと密接に関係しています。
• 思春期〜若年成人期(9〜32歳):脳の効率性と統合性がピークに達する時期で、抽象的思考、自己制御、社会的判断力が発達します。精神疾患(例:統合失調症、うつ病)の発症リスクもこの時期に集中するため、トポロジーの変化が予測因子となる可能性があります[3]。
• 成人期(32〜66歳):脳の構造が最も安定し、認知的柔軟性や意思決定能力が成熟します。個人差が大きく、トポロジーの違いが知的能力や創造性の個人差と関連していると考えられています。
• 高齢期(66歳以降):ネットワークの統合性が低下し、記憶力や処理速度の低下が見られます。特に83歳以降は、認知症や軽度認知障害(MCI)との関連が強まるとされています。

🎓 教育・介入の最適化との関連
この研究のもう一つの大きな意義は、教育や医療的介入のタイミングを科学的に導く手がかりになることです:
• 9歳前後の転換点:この時期は学習支援や発達支援の「ゴールデンタイム」。ネットワークの再構成が始まるため、読み書きや社会性の介入が最も効果的とされます。
• 思春期(10代後半〜20代):精神的ストレスや社会的プレッシャーが増す時期。メンタルヘルス教育やレジリエンス強化の介入が、脳のトポロジー的安定性を高める可能性があります。
• 30代前半(32歳):脳の効率性がピークを迎える時期。成人教育やキャリア形成支援が、脳の構造的成熟と一致するため、学び直しやスキル習得に適した時期といえます。
• 66歳以降の高齢期:ネットワークの統合性が低下し始めるため、認知トレーニングや社会的活動の維持が、老化の進行を緩やかにする可能性があります。
このように、脳のトポロジー的転換点を軸にしたライフステージ別の介入設計は、教育政策や医療戦略に新たな視点を提供してくれます。
次は、これらの知見をどう資産設計や家族戦略に応用できるか、一緒に考えてみましょうか?それとも、特定の時期に焦点を当ててさらに深掘りしてみますか?🍄
[1]: Nature Communications 論文PDF [2]: Cambridge University 解説記事 [3]: News-Medical.net 解説記事

 

2-2)がんの予防と治療に関する最新の話題2つ:大阪大学宮坂先生のFB投稿より
2-2-1)定期的な運動が、がん細胞の増殖を抑制し、がんの予後を改善するメカニズム
**以下は、大阪大学の宮坂昌之先生の2025年12月4日のFB投稿です**
われわれの身体では、たとえがんが存在していても、定期的に運動をすることによりがん細胞の増殖が抑えられ、がんの予後が改善すると言われています。しかし、どのようなメカニズムでそうなるのか、はっきりとはわかっていませんでした。アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、マウスの実験モデルを用いて、この点について明らかにし、その論文が専門誌PNASの12月1日号に掲載されています(https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2508707122)。
この研究では、マウスを回転するホイールの上を自発的に走らせるという「ホイールランニング」をさせています。すると、自発的な運動によって、からだの組織でグルコースの取り込みと酸化(=グルコースをエネルギーとして利用するのに必要な過程)が高まる一方、がん組織ではグルコースの取り込みと酸化が逆に減っていて、これとともにがん細胞の増え方が抑えられていました。そして、運動をしたマウスのがんでは、mTORという特定のシグナル経路(=細胞の増殖、成長、代謝を制御する経路)の働きが抑えられていました。
面白いのは、肥満マウスに運動をさせると、からだでのグルコース代謝が高まり、脂肪組織以外の体重はあまり変わらないものの脂肪は減少し、その後に腫瘍を移植した時には、非運動マウスに比べて、腫瘍細胞増殖が明らかに抑えられていて、たとえまだがんが出来ていない状態であっても運動をすれば、がん細胞が増えにくくなる状態が生まれてくることが観察されています、つまり、運動をがん治療後のリハビリテーションとして使うだけでなく、がん治療前のプレハビリテーション(=手術前や化学療法前に、前もって運動や栄養サポート、精神的ケアを行い、心身のコンディションを整えること;貯金ならぬ貯筋というプロセスがこれに相当)としても使える可能性が示されています。
以上、少なくともマウスにおいては、有酸素運動によって正常組織とがん細胞の間でグルコースの一種の代謝拮抗が見られ、そのためにがん細胞のエネルギー消費が抑えられ、増殖が抑えられる、というシナリオがはっきりとしてきました。しかも、運動ががんのリハビリテーションとしてだけでなく、プレハビリテーション(上記参照)としても有効である可能性が示されています。
ヒトでも「運動ががんの予後を改善する」と言われてきましたが、今回の話はなるほど、と思います。「ヒトでも実験によって確認しないと…」という(正論を)言う人が居るかもしれませんが、我こそは実験に参加したいという奇特なボランティアが出てこない限り、それはちょっと難しいでしょうね。

関連情報
原論文
表題:Precancer exercise capacity and metabolism during tumor development coordinate the skeletal muscle–tumor metabolic competition
(和訳:腫瘍発達中の前癌運動能力と代謝は骨格筋と腫瘍の代謝競合を調整する)
著者:Brooks P. Leitner, Andin E. Fosam, Won D. Lee, +7 , and Rachel J. Perry
掲載誌:PNAS December 1, 2025
doi:https://doi.org/10.1073/pnas.2508707122

要旨
運動能力の向上と定期的な運動トレーニングは、がんのあらゆるステージにおいて予後を改善する。しかし、腫瘍と宿主の相互作用を媒介する有酸素運動トレーニングに対する代謝適応については十分に解明されていない。本研究では、マウスにおいて、自発的なホイールランニングが腫瘍の成長を抑制し、ブドウ糖の取り込みと酸化を骨格筋と心筋に再分配し、乳がんおよび悪性黒色腫の腫瘍から遠ざけることを実証する。さらに、プレハビリテーションは肥満マウスにおいてブドウ糖代謝の再分配を誘導する。骨格筋と心筋におけるブドウ糖の取り込みと酸化は促進され、腫瘍におけるブドウ糖代謝は減少する。これらの筋肉におけるブドウ糖代謝の増加と腫瘍におけるブドウ糖代謝の減少は、腫瘍の進行遅延と相関している。[U- 13 C 6 ]ブドウ糖注入を用いて、運動は筋肉における酸化代謝へのブドウ糖の寄与を増加させる一方で、腫瘍における寄与を減少させることを示した。これは、有酸素運動が全身のブドウ糖代謝を腫瘍微小環境から代謝活性組織へと移行させることを示唆している。転写解析により、運動マウスの腫瘍におけるmTORシグナル伝達のダウンレギュレーションが明らかになった。これらの知見を総合すると、自発的な運動は宿主組織のグルコース酸化を促進し、腫瘍におけるグルコースの利用可能性を制限することで腫瘍の進行を抑制する可能性が示唆され、運動誘発性の代謝競合が腫瘍のエネルギー動態を抑制するというモデルを支持するものとなった。

2-2-2)大腸がんに対する新しい治療法開発の試み
**大阪大学の宮坂先生の2025年12月2日のFB投稿です**
大腸がんに対する新しい治療法開発の試みに関するお話です。ちょっと複雑な話です。DNAとか、遺伝子変異とか、がんのネオ抗原とかについてある程度の知識をお持ちの方々向けに書いています。
大腸がんには、最近はやりの免疫チェックポイント療法(免疫細胞のブレーキを外してがんを攻撃させる治療法)が良く効くものと、そうでないものがあります。良く効くものは、最初の図に示すように、マイクロサテライト不安定性の腫瘍、あまり効かないのはマイクロサテライト安定性の腫瘍、ということがわかっています。
マイクロサテライト不安定性のものでは、変異によって出来た異常DNAを修復する機構に欠損があるために、マイクロサテライトと呼ばれる配列の繰り返し部分でミスの蓄積が見られます(このためにマイクロサテライト不安定性という名前が付いています)。この場合には、異常DNAの修復機構が欠けているために遺伝子変異が高い頻度で起こります。その結果できたがん細胞では、(正常組織には無くて)がん細胞だけに存在するいわゆるネオ抗原が多種類作られることになります。すると、がん細胞に対する免疫反応が起こりやすくなり、がんを攻撃するキラーT細胞がうまく作られる傾向があります。この細胞がうまくがん組織の中に入ると、いわゆるホットな腫瘍(免疫細胞を多く含む腫瘍)となり、がん細胞を攻撃して、がん細胞が死滅しやすくなります。この時にさらに免疫細胞のブレーキを外すチェックポイント療法を使うと、がん細胞がさらに効率よく殺されるようになります。つまり、大腸がんの中で免疫チェックポイント療法が一番良く効くのは、このタイプのものです。
一方、免疫チェックポイント療法が効かないのは、いわゆるコールドな腫瘍で、がん組織の中に免疫細胞が非常に少ないタイプのものです。

最近、大腸がんの分類法として国際的コンセンサス分類(CMS分類)が用いられています。それを示したのが2枚目の図です。CMS分類の中でも、CMS1サブタイプが上記のマイクロサテライト不安定でホットな腫瘍を作るタイプのものに相当し、免疫チェックポイント療法が非常に良く効きます。一方、CMS2はコールドな腫瘍ですが、標準的な化学療法や分子標的薬が良く効き、幸い、予後が良いがんです。CMS3, 4はいずれもコールドな腫瘍で、特にCMS4は免疫細胞排除型ともよばれ、がん組織の中に免疫細胞を入れないようにしているように見えるタイプのもので、予後が悪く、免疫チェックポイント療法があまり効きません。
前置きが長くなりましたが、京大消化器内科の研究グループが、マウスの実験モデルを用いて、新しい大腸がんの治療法の開発を試み、CMS4タイプのがんに対する新しい治療法を見つけました。専門誌Nature Communicationsの最新号にその論文が掲載されています(https://www.nature.com/articles/s41467-025-66485-2#citeas)(非常に良く書けた論文で、私としては感心して読みました)。

彼らは、CMS4タイプの大腸がんでは、がん組織のすぐ外側までキラーT細胞が来ているものの組織の中に入れないためにがん細胞が攻撃できないのかもしれないと考えました。そこで、このタイプのがんでは免疫細胞をがん組織の中に入れないようにしている仕組みがあると考え、がん組織に存在する線維芽細胞に注目して調べたところ、トロンボスポンジン-2(THBS2)という分子が沢山発現していることを見つけました。
THBS2は以前から発現が高いと予後が悪いことがわかっている分子で、彼らはこの分子が免疫細胞のがん組織への侵入を妨げていると考えました。そこで、マウスの実験モデルでTHBS2の発現を止めると、免疫チェックポイント療法が途端に良く効くようになり、キラーT細胞ががんの組織内に浸潤して、がん細胞の破壊が始まり、さらに、キラーT細胞を惹きつけるケモカインであるCXCL9/10ががん組織の中で強く発現するようになり、そのためにキラーT細胞がさらにがん組織に入りやすくなり、がんの治療効果が高まるようになりました。
すなわち、大腸がんの組織でTHBS2の働きを止めると、難治性であるはずのコールドな腫瘍がホットな腫瘍に変わり、がん組織への免疫細胞の浸潤が高まり、がんの免疫療法の効果が大いに高まるということがわかったのです。まだマウスの実験モデルの段階ですので、今後はヒトでの応用の可能性が探られることとなります。
出来てしまったがん細胞を免疫の力で排除するというのが、がん免疫療法です。その際にTHBS2という分子の働きをうまく止められると、特定のタイプのがんでは、免疫療法の効果がぐんと高まるのかもしれません。医学は日進月歩の世界です。さらなる研究の発展が期待されます。

関連情報
原論文
掲載誌:Nature Communications Article(Open access)
公開日:Published: 23 November 2025
表題:Targeting fibroblast derived thrombospondin 2 disrupts an immune-exclusionary environment at the tumor front in colorectal cancer
(和訳:線維芽細胞由来トロンボスポンジン2を標的とすることで、大腸癌の腫瘍前線における免疫排除環境を破壊する)
著者:Kosuke Iwane, Yuki Nakanishi, Yu Muta, Jiayu Chen, Kento Yasumura, Mayuki Omatsu, Naoki Aoyama, Munehiro Ikeda, Yoko Masui, Liyang Cai, Go Yamakawa, Kensuke Hamada, Kenta Mizukoshi, Munenori Kawai, Kei Iimori, Shinnosuke Nakayama, Nobukazu Agatsuma, Takahiro Utsumi, Munemasa Nagao, Takahisa Maruno, Yukiko Hiramatsu, Nobuyuki Kakiuchi, Masahiro M. Nakagawa, Yasuhiro Fukui, …Hiroshi Seno Show authors

要約
線維性大腸癌(CRC)は、マイクロサテライト安定性が大部分を占め、免疫浸潤が乏しい線維形成性間質を呈する。本研究では、線維性CRCにおける免疫排除性表現型の重要な制御因子としてトロンボスポンジン2(THBS2)を同定した。THBS2は、腫瘍先端部のマトリックス癌関連線維芽細胞で高度に発現している。線維形成性腫瘍オルガノイドを用いた同所性モデルにおいて、Thbs2の全体的または線維芽細胞特異的な欠失は、排除バリアを破壊し、腫瘍内CD8 T細胞を増加させる。機構的には、THBS2は樹状細胞およびマクロファージ由来のCXCL9/10を抑制することでCXCR3 + CD8 T細胞の動員を制限する。これらの骨髄細胞の枯渇、またはCXCL9/10-CXCR3シグナル伝達の阻害は、増強されたCD8 T細胞流入と抗腫瘍効果を無効にする。空間プロファイリングにより、THBS2の欠損はCD8 T細胞と骨髄細胞の近接を誘導し、ケモカインの発現を上昇させることが示された。浸潤が増加するにもかかわらず、CD8 T細胞は疲弊状態を示し、腫瘍は免疫チェックポイント阻害に対する感受性が非常に高くなる。したがって、THBS2は線維性大腸癌における免疫排除を克服するための、CAF特異的な標的として扱いやすいと考えられる。

 

2-3)岐阜大学医学部の下畑先生からの最新医学情報(2025年12月)
・患者数 倍増のパーキンソン病を予防する25の提案!―話題の書『The Parkinson’s Plan』より―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月3日のFB投稿です**
2018年のJAMA Neurology誌にパーキンソン病(PD)患者が世界的に急増し,パンデミック状態にあることが報告されました(JAMA Neurol.2018;75:9-10.).メタ解析の結果から,全世界の患者数が2015年の690万人から,2040年では2倍以上の1420万人に急増するという推定に基づくものです.PDは加齢と遺伝が主因と思われがちですが,近年,「環境毒による神経障害」が原因かもしれないという疫学研究や基礎研究が相次いで報告されています.例えば,大気汚染のPM2.5はαシヌクレインの構造を変化させて,凝集が速く,分解されにくく,かつ強い神経毒性を示すフィブリルに変えてしまいます(Science. 2025;389(6716):eadu4132).このため「生活や環境の調整が予防や進行抑制につながるのではないか」という見方が広がっています.これを詳しく解説した本が,米国の脳神経内科医 Ray Dorsey 教授と Michael Okun 教授が執筆した『The Parkinson’s Plan(https://amzn.to/4iyOBnF)』 です.PLANの意味は,「予防 (Prevent)」「学習 (Learn)」「増幅 (Amplify)」「ナビゲート (Navigate)」の頭文字で,この4つのセクションで構成されています.
この本では,PDを増加させる「環境毒」として以下のものを紹介しています.これらは急性中毒ではなく,微量の長期蓄積がドパミン神経に負担を与えます.
◆農薬:パラコート,クロルピリホス,有機塩素系,ピレスロイド
◆工業用溶剤:TCE(トリクロロエチレン),PCE(パークロロエチレン)
◆大気汚染:PM2.5・交通・工場由来排気ガス
◆地下水や食品を介する化学物質
◆除草剤が散布される校庭・公園・ゴルフ場 など
本書は「完璧ではなくていいから,できることを少しずつ行っていこう」という姿勢で,生活の中で実践できる25の行動(Parkinson’s 25) を紹介しています.25項目を領域ごとに並び替えたものを以下に示します.
【食事・食材・農薬】
1.野菜・果物は有機でも必ずよく洗う(残留農薬を洗い流す)
2.和食ベース+野菜・魚中心の食生活(動物性脂肪は控えめに)
3.においが強いクリーニング工場が近いスーパーは避ける(ドライクリーニングでパークロロエチレンが使用されるため)
4.お酒は飲むなら少量,可能なら農薬の少ないものを選ぶ(ワインのぶどうの農薬残留が少ないもの)
5.糖尿病をつくらない・悪化させない(食事・体重管理・運動)
【生活習慣・からだの健康】
6.コーヒーやお茶を適量楽しむ(カフェインを摂取できる人)
21.週に150分以上の有酸素運動(散歩・自転車・体操など)
22.睡眠の質を高める(睡眠リズム・いびき・レム睡眠行動障害にも注意)
23.頭部外傷を防ぐ(シートベルト・ヘルメット・転倒予防)
【農作業・園芸】
7.農薬を使うときは防護具(手袋・マスク・ゴーグル)を使用する
17.園芸では素手で薬剤に触れず,必要最小限の散布にする
18.ゴルフ場では散布直後のプレーを避ける
19.学校・運動場での除草剤・農薬について確認してみる
【水と空気の安全】
8.井戸水を飲む地域では定期検査を行う
9.浄水器を使う場合はフィルター交換を守る
10.空気清浄機(HEPA+活性炭)を寝室・居間に設置する
16.渋滞・トンネルでは窓を閉じて「内気循環」(車の外気を取り込まず,車内の空気を循環させる設定にすることで,大気汚染物質の吸入を減らす)
【室内環境】
11.家庭用殺虫剤は必要最小限・換気を徹底する
12.住む地域の土壌・工場跡地情報も参考にする(過去に化学物質で汚染されていないか調べる)
13.クリーニング品はビニールを外して風通しの良い場所で保管する
14.集合住宅の1階がクリーニング店の場合は注意する
15.保育園・学童の近くにドライクリーニング工場がないか確認する
【職業と化学物質】
20.農業・造園・清掃・工場作業などでは防護具を使用する
25.軍務経験者・化学物質曝露歴がある方は相談先を確認(社会として支援する)
【コミュニティ】
24.公園・道路・学校などで農薬使用量を減らす活動に参加する
大変な時代になってきました.環境毒はPDのみならず,アルツハイマー病などの認知症,神経変性疾患にも関わる可能性があります.この本では取り上げられていませんが,ヒトの疫学研究はまだであるものの,基礎研究で報告され始めたものがマイクロ・ナノプラスチックです(Sci Adv. 2023 Nov 15;9(46):eadi8716. doi.org/10.1126/sciadv.adi8716). これもαシヌクレインを凝集させ,伝播を促進し,かつリソソーム機能を抑制します.マイクロ・ナノプラスチックと神経疾患については,明日の日本臨床麻酔学会第45回大会の招請講演で発表いたしますし,1月10日発売の「医学のあゆみ」誌でも特集「全身疾患の新たな危険因子としてのマイクロ・ナノプラスチック」を企画させていただきました.このような環境に対する取り組みや政策が疾患予防に重要となることを多くの人に啓発していく必要があります.
Dorsey R, Okun MS. The Parkinson’s Plan: A New Path to Prevention and Treatment. New York: PublicAffairs; 2025. https://amzn.to/4iyOBnF

・アルツハイマー病「ApoE4でも救える」可能性が見えてきた:酸化リン脂質とフェロトーシスを標的とした次世代治療戦略
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月4日のFB投稿です**
アルツハイマー病の発症リスクを大きく左右するアポリポタンパクE(ApoE)は,脳における脂質輸送と神経活動の維持に中心的な役割を担っています.ApoE4はアルツハイマー病の最大の遺伝的リスク因子として知られていますが,ApoE2およびApoE3Christchurch(ApoE3Ch)は一転して神経を強力に保護することが明らかになっています.このメカニズムの一端を解明したのが,今回紹介するNeuron誌に掲載された国際共同研究です.
本研究で重要となるのが,脂質過酸化(lipid peroxidation;LPO)と酸化リン脂質の蓄積です.LPOとは,細胞膜の多価不飽和脂肪酸が酸化される現象で,その結果生じる酸化リン脂質は強い毒性を持ちます.ApoE2とApoE3Chは,ABCA7トランスポーターを介して酸化リン脂質をニューロン外へ排出することができ,排出された酸化リン脂質はグリア細胞内で脂肪滴として蓄えられ無害化されます(図上).こうして酸化リン脂質の蓄積とLPOの連鎖が抑えられることで,リソソーム機能が維持され,膜脂質のさらなる過酸化を防ぎ,フェロトーシスを回避できます.ちなみにフェロトーシスとは,細胞膜の脂質が過剰に酸化されることで起こる特殊な細胞死です.鉄(フェロ=Fe)が関与するためこの名前がついています.
対照的にApoE4では,酸化リン脂質排出が阻害されることでLPOが継続的に進行し,ニューロン内に酸化リン脂質が蓄積します.これによりリソソームが障害され,膜脂質の過酸化がさらに進み,最終的にフェロトーシスに至ります(図下).この模式図の対比は,ApoEの違いが神経保護的か神経毒性的かを分ける根幹に脂質代謝があることを示しており,非常に印象的です.
さらに研究チームは,ApoE4を発現させたヒトiPSC由来ニューロンを用いたin vitro実験で,グルタミン酸刺激により興奮毒性ストレスを与えて神経活動を低下させた後に,ApoE2またはApoE3Chタンパク質をリン脂質と組み合わせて人工的にHDLのような粒子にしたものを培地に加えると,ニューロンに蓄積していた酸化リン脂質は有意に減少し,リソソームのpHと分解活性は回復し,カルシウムイメージングおよび多電極アレイによって評価された神経活動も改善しました.すなわち,ApoE2/ApoE3Chはダメージ前の予防因子にとどまらず,ダメージ後の介入によっても神経機能を救済できる可能性を持つということが示されました.言い換えるとこの結果は,ApoE4による神経毒性が不可逆的,決定的なものではなく,脂質排出の経路を操作することで回復可能であることを意味しており,ApoE4キャリアに対する新たな治療戦略の可能性を示しています.
アミロイドβやタウが長らく研究の中心を占めてきましたが,そう単純なものではないのだと思います.「酸化リン脂質を外に出せるニューロンは生き残り,出せないニューロンは死に向かう」という明確な結論は,従来のアルツハイマー病観に,脂質代謝とフェロトーシスという新たな視点を加えるものと言えます.
Ralhan I, et al.Protective ApoE variants support neuronal function by effluxing oxidized phospholipids.Neuron.Article Online now December 02,2025.doi.org/10.1016/j.neuron.2025.10.040.

・見えない毒性因子―マイクロ・ナノプラスチックがもたらす脳・血管への脅威―@日本臨床麻酔学会第45回大会
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月5日のFB投稿です**
昨日,標題の学会で招請講演の機会をいただきました.日本ではまだ議論が本格化していませんが,個人的には今年もっともインパクトのあったトピックスの一つでした.
マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)は,飲料水や食品包装だけでなく医療機器を介しても体内に侵入し,血液脳関門を通過して脳に蓄積します.臓器別では脳に最も多く蓄積することが示されており,なんとクレヨン1本分の重さ(10 g)になります.さらに頸動脈プラークや脳梗塞の血栓からも検出され,心血管イベントや脳卒中の重症度と関連することが報告されています.認知症患者の脳や脳脊髄液でも濃度上昇が確認され,神経炎症や神経変性を助長する可能性が指摘されています.加えて,αシヌクレインやアミロイドβがMNPsの存在下で凝集しやすくなり,毒性が増し,パーキンソン病や認知症の病態につながるという報告も今年相次いでいます.
麻酔科領域でも,手術室という特異な環境にも目を向ける必要があります.手術室は最もプラスチック密度の高い空間の一つであり,輸液ラインや麻酔回路などから発生したMNPsが血中に直接入り得ます.POCD(術後認知機能障害)は多因子的な病態ですが,プラスチック曝露がその一因となり得る可能性があり,今後の検証が必要です.
欧州や米国では対策が先行している一方,日本ではまだ認識が十分とは言えません.生活から完全にプラスチックを排除することは困難ですが,プラスチックが神経機能に影響しうるという知識を共有し,できるところから減らす意識を持つことは,個人レベルでも社会レベルでも意味があると感じています.以下よりスライドをダウンロードいただけます.
https://www.docswell.com/…/800…/5DW1JG-2025-12-05-104421
【内容】
1.マイクロ・ナノプラスチック総論(定義・発生源・検出技術)
2.曝露経路と体内動態・臓器蓄積(とくに脳への高蓄積と細胞毒性)
3.脳血管・心血管系への影響(頸動脈プラーク,血栓,脳卒中リスク)
4.認知機能障害と神経変性疾患への関与
― 認知症・アルツハイマー病・パーキンソン病・プラスタミネーション
5.大気汚染PM2.5と神経変性:MNPsとの共通機序と相乗効果の可能性
6.手術室環境と術後認知機能障害(POCD)におけるマイクロ・ナノプラスチック曝露
7.欧州と日本の対策状況の比較と,個人・社会レベルでの曝露低減策
8.今後の研究課題と海外で始まりつつある治療的アプローチ

関連情報
マイクロプラスチックについては、2025年6月のニュース2025年3月のニュース2025年2月のニュース2024年4月のニュースでも取り上げています。

・特発性正常圧水頭症は「脳が硬いスポンジ」のようになり流れが滞るが,治療で再び動き出す
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月8日のFB投稿です**
特発性正常圧水頭症(iNPH)は,歩行障害,尿失禁,認知機能低下を三徴とする疾患(図左)で,高齢者における治療可能な認知症の代表とされています.NEJM誌に素晴らしい総説が掲載されています.著者らはまず,iNPHが単なる脳室拡大による機械的圧迫の結果ではないと述べています.従来,拡大した側脳室が周囲の白質を圧迫し,歩行や注意機能を司る前頭葉深部の線維路や脳梁が障害されることが本症の病態と考えられてきました.しかし,脳脊髄液を除去すると症状は速やかに改善する一方で,脳室そのものはほとんど縮小しないという臨床的事実から,単なる圧迫だけでは症状を説明できないと現在は考えられています.
本論文が強調しているのは,脳血流・脳脊髄液・代謝老廃物のクリアランスを含む循環ネットワークが破綻しているということです.頭蓋内圧の波形解析では,1拍ごとの脈動に伴う圧変動が増大しており,脳のコンプライアンス(容積変化に対する柔らかさ)が低下していることが示唆されます.すなわちスポンジが固くなったような状況です.このため,心拍に同期した微小な圧力波が脳実質内に伝わりにくくなり,血管周囲の流体運動が滞ることを意味します.さらに,大脳白質では微小虚血を思わせるT2高信号がみられ,慢性的な血流低下や血管反応性の障害が報告されています.血管の拍動が脳脊髄液の流れを駆動していることを考えると,この血管反応性の低下は,脳脊髄液循環の低下と密接に関係しています.
また,神経活動のネットワークレベルでの異常も指摘されています.iNPH患者では,前頭葉と皮質下構造の機能的結合が低下し,これが歩行障害や注意機能の低下に関係していることが,fMRIや脳波研究から示されています.脳脊髄液除去後に一部のネットワーク結合が回復することから,脳内圧・流体環境の変化が神経活動に可逆的な影響を及ぼしていると考えられます.
さらに注目されるのが,グリンファティック経路の障害です.この経路は,脳脊髄液が動脈周囲から脳実質に入り,老廃物を洗い流しながら静脈周囲へと流れる排出システムであり,脳のリンパ系に相当します.iNPHではこの流れが遅延し,老廃物が除去されにくくなっていることが動物モデルやMRI研究で報告されています.血管周囲やくも膜下腔での脳脊髄液循環の停滞は,アミロイドβやリン酸化タウなどの蓄積を促進する可能性があり,iNPHが加齢性変化と神経変性疾患をつなぐ病態であるという仮説も浮上しています.しばしば併存が認められるPSPとの関連も関心があるところです.
図右では,iNPH患者のMRI画像として,Evans比の上昇と側脳室拡大に加えて,脳梁角の減少,頂部脳溝の圧排,Sylvian裂の拡大といった典型的なDESH(disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus)所見が描かれています.これらの画像は,脳脊髄液が頭頂部のくも膜下腔から排出されにくくなり,側頭部に再分布することで局所的な圧勾配と流体停滞が生じていることを示唆しています.すなわち,脳全体の「流れの不均衡」が,歩行や認知に関わる領域の機能障害を引き起こしているものと考えられます.
著者らは,このような流体循環異常の背景に遺伝的素因も存在すると指摘しています.線毛の運動に関与するCFAP43遺伝子や,GPIアンカー型タンパク質の修飾に関わるCWH43遺伝子の変異が,家族性iNPHの原因として報告されており,線毛の異常が脳脊髄液流動障害をもたらすことが動物モデルで確認されています.これらの発見は,iNPHが単なる「老化の結果」ではなく,分子レベルの機能異常を基盤とする疾患であることを裏付けています.
では,なぜ脳脊髄液をシャントすると症状が改善するのでしょうか.iNPHでは,脳のコンプライアンス(柔らかさ)が低下して圧力波が広がりにくくなり,血流や髄液の循環,老廃物の排出が滞っています.シャントで脳脊髄液を逃がすと,コンプライアンスが回復し,血管の脈動に合わせて脳脊髄液が再びスムーズに流れるようになり,グリンファティック系による老廃物排出も改善します.その結果,歩行や認知機能が回復するため,脳室が縮まらなくても症状が改善すると考えれば良いようです.
つまりiNPHは脳循環ネットワークの可逆的破綻によって発症する疾患であり,その病態の解明がより早期の精度の高い診断と最適な治療法開発につながるものと期待されます.
Johnson MD, Williams MA. Idiopathic Normal-Pressure Hydrocephalus. N Engl J Med. 2025;393:2243–2253. doi.org/10.1056/NEJMra2306506.

・ロバート・ワルテンベルグ ──医の倫理の岐路に立ったセミオロジストの光と影@Brain Nerve誌12月号
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月9日のFB投稿です**
Brain Nerve誌12月号はクリスマス企画号ですが,今年は「神経学の巨人──先駆者たちの遺したもの」がテーマになりました(https://amzn.to/4s1PPwj).若い頃の私は医学史に関心がありませんでしたが,私たちが日々あたり前に行っている神経学の診療・研究の根幹は,過去の偉大な先駆者の思索と努力の積み重ねの上に成り立っていることをだんだん認識できるようになり,「もっと早く神経学の歴史を学んでおくべきだった」と思うようになりました.この1冊をお読みいただけば,神経学がさらに面白くなるという特集号を作りたいと思いました.
さて本書では以下に示すように「神経学の巨人」と呼ぶにふさわしい人物が,錚々たる執筆者により幅広く紹介されています.私はロバート・ワルテンベルグ(1887–1956)について執筆しました(図2).彼の名を冠した反射は神経症候学を学んだことのある方なら知らない人はいないと思います(https://www.med.gifu-u.ac.jp/…/observation/20220310.html).私も彼の執筆した本をいまもときどき参照します(図3).彼は神経診察を精緻化し,多数の徴候を体系化したセミオロジストであり,鋭い観察力と教育への情熱によって神経学の発展に大きな足跡を残しました.ドイツからの亡命後はUCSFで神経症候学を確立し,米国神経学会(AAN)の設立や『Neurology』誌の創刊にも助言するなど,中核的役割を果たしました.
一方で,1953年の国際学会においてナチス協力者であったユリウス・ハラーフォルデン(現在のPKAN;パントテン酸キナーゼ関連神経変性症の発見者)の登壇を擁護したことで強い倫理的批判を受けました.「科学的功績と政治的行為を切り離すべき」とする彼の判断は,冷戦期の政治背景も絡んで現在まで議論の対象となっています(いわゆるハラーフォルデン事件).AAN年次総会で最も権威あるセッションである「ロバート・ワルテンベルグ記念講演」も,2024年に発表されたこの倫理的問題を再検証するZeidmanの論文を契機として名称変更が発表されました.科学と倫理のあり方を深く考えさせられる事件でした.歴史を知ることは,過去を追体験するだけでなく,未来の神経学を形づくるための羅針盤になる──そのことを改めて感じさせてくれる特集号だと思います.
追伸:佐伯千寿先生による素晴らしい表紙のイラストは今回が最終回になりました.毎号とても楽しみにしておりましたが,毎号の制作は大変だったと思います.お疲れさまでした!
Amazonで予約が始まりました(https://amzn.to/4s1PPwj).
【目次と著者】
◆神経学の先駆け デュシェンヌ・ド・ブローニュ 小長谷正明
◆ポール・ブローカ ──言語脳科学の源流 酒井邦嘉
◆ジョン・ヒューリングス・ジャクソン ──局在論と全体論を超えて 虫明 元
◆ローマの神経学者 エットーレ・マルキアファーヴァとマルキアファーヴァ・ビニャミ病(MBD) 河村 満
◆サンチアゴ・ラモニ・カハール ──神経解剖学の礎を描く 神田 隆
◆臨床神経学とジョセフ・ババンスキー 廣瀬源二郎
◆日本神経学の祖 川原 汎 ──名古屋神経学の源流 亀山 隆
◆ヘンリー・ヘッドと「母指探し試験」の系譜 福武敏夫
◆神経病理学の父 ジョセフ・ゴッドウィン・グリーンフィールド 髙尾昌樹
◆ロバート・ワルテンベルグ ──医の倫理の岐路に立ったセミオロジストの光と影 下畑享良
◆ワイルダー・ペンフィールド ──ホムンクルスの構築とモントリオール手術法の開発 渡辺英寿
◆アレクサンドル・ルリヤの失語分類 ──その理論的背景 鹿島晴雄
◆オリヴァー・サックス ──神経学と文学の融合 山脇健盛

・フランス医学史学会誌に三浦・シャルコー研究論文が紹介されました!
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月10日のFB投稿です**
フランス医学史学会(SFHM)が,ジャン=マルタン・シャルコー生誕200周年を記念した特別号を公開しました.2025年にパリ・サルペトリエールで開催された国際シンポジウムの講演内容をまとめたもので,内容としては
4–19頁 シャルコーの生涯と業績の総説(Olivier Walusinski)
20–42頁 「シャルコーの現代的意義と遺産」41演題の総括
43–46頁 生誕200周年記念イベントの写真アーカイブ
という構成になっています.
このなかで,私が発表した「Kinnosuke Miura and Jean-Martin Charcot: A Master-Disciple Legacy in Modern Japanese Neurology」についても以下のように紹介していただきました.
三浦謹之助(1864–1950)はシャルコーの弟子であり,日本近代神経学の草創期を支えた人物です.わずか8ヶ月という短いサルペトリエール滞在であったにもかかわらず,三浦は生涯にわたりシャルコーを精神的師として敬愛し,回想録には「患者を細部まで観察し,観察を非常に重視するが,まったく尊大ではない人物であった」という証言が残されています.また,三浦はシャルコーに2通の手紙を送り,2通目(1893年初頭)では「東京大学に神経疾患の専門部門を作りたい」という志を記していました.この構想が実現するのは,実に70年後の1964年であったことが指摘されています.
下図のように三浦謹之助先生の肖像がに加え,三浦の弟子の佐藤恒丸先生の訳された「火曜講義」に掲載されたヒステリー発作の図版も収録されています.さらに拙著Shimohata T & Iwata M : Kinnosuke Miura and Jean-Martin Charcot: A master–disciple legacy in modern Japanese neurology, Journal of the History of the Neurosciences, 2025(doi.org/10.1080/0964704X.2025.2581565)も引用して紹介していただきました.
この歴史的イベントの記録に加えていただけたことは大変光栄なことでした.PDFはフランス語になりますが,無料公開されていますので,ご興味のある方はぜひご覧ください.
https://walusinski.com/data/charcot_esfhm.pdf

・COVID-19は他の呼吸器感染症よりも「機能性神経障害」を新たに発症させる強い誘因となる!
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月14日のFB投稿です**
機能性神経障害(FND)は歴史的にヒステリー,心因性疾患,解離性障害,転換性障害,身体表現性障害,心気症,詐病などと呼ばれてきた疾患です.私がこの疾患に取り組んだきっかけはCOVID-19後遺症やワクチン副反応として紹介されてきた患者のなかに多くのFNDが含まれていたことでした.また私がシャルコー先生について勉強したのも,COVID-19と同様に大きな精神的ストレスとなった普仏戦争後に増加したヒステリー患者への彼の取り組みが参考になると考えたためです.つまりCOVID-19後のFND増加は実感としては理解していたのですが,客観的データがありませんでした.
今回,国際的大規模電子カルテデータベースを用いて,COVID-19後のFND発症リスクを体系的に検討した研究が報告されました.この研究ではTriNetXという国際電子カルテネットワークを用い,約274万人のCOVID-19患者を解析対象としています.COVID-19罹患後2週から6か月の間に新たにFNDと診断された症例は1846例であり,その頻度を他の呼吸器感染症後のFND発症と比較しました.その結果,COVID-19後のFND発症率は,他の呼吸器感染症後より一貫して高いことが示されました(図). COVID-19患者全体では,他の呼吸器感染症と比べてFND発症のオッズ比は1.3〜1.6と有意に高く,COVID-19がFNDの誘因となりやすいことが示されています.
さらにCOVID-19の重症度との関係も示されています.入院を要したCOVID-19患者では,外来患者と比べてFND発症のオッズ比が約2.2と高く,救急外来(Accident & Emergency;A&E)を受診した外来患者でもオッズ比は約1.4に上昇していました.つまり,COVID-19の重症度が高いほどFNDを発症しやすい傾向があり,単なる偶然ではなく量反応関係を示唆する結果といえます.一方で,入院を要さない比較的軽症のCOVID-19症例に限定しても,他の呼吸器感染症よりFNDリスクが高いことが示されており,重症度だけでは説明できないおそらく個人の背景要因の存在も示唆されました.
また,パンデミック初期(2020–2021年)と後期(2022–2023年)を比較した解析も行われています.社会的混乱や不安が強かった初期にのみFNDが増えたのであれば,社会心理的要因が主因と考えられますが,図が示すように,時期を分けて厳密に調整した解析ではFND発症リスクに大きな差はありませんでした.この結果は,COVID-19後のFND増加が,一過性の社会不安だけでは説明できず,感染症そのものと個人の背景要因が重要であることを示しています.
さらに著者らは,COVID-19後に新たにFNDと診断された患者と,新たに片頭痛と診断された患者を比較しています.その結果,FND患者では,てんかんや運動障害などの神経疾患,気分障害や不安障害などの精神疾患,さらには心血管疾患や代謝疾患といった身体合併症が有意に多いことが明らかになりました.このことから,FNDは「誰にでも突然起こる」わけではなく,もともと神経学的・精神医学的・身体的な脆弱性を抱えた人に,COVID-19という強い身体的・心理的ストレスが加わることで発症しやすいと考えられました.個人の経験からも非常に納得のいく解釈です.
以上より,COVID-19は他の呼吸器感染症と比べて,FNDを新たに発症させる「強い誘因」となりうることが初めて明確に示されました.COVID-19は今後も続く感染症ですので,罹患後に出現する多彩な神経症状の原因の1つとしてFNDを想起し,早期に診断の説明と介入につなげることが重要と思われます.
★図がすぐに理解しにくいので,私のサマリーとともにGeminiに読み込ませたらあっという間に下図になりました.驚きですね!
Berlot R, et al. Functional Neurological Disorder Following COVID-19: Results From a Large International Electronic Health Record Database. Eur J Neurol. 2025 Dec;32(12):e70459. doi.org/10.1111/ene.70459.

・アルツハイマー病はひとつの疾患ではなく,少なくとも「タウ主導型」と「血管主導型」に分かれる!!
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月16日のFB投稿です**
アルツハイマー病(AD)はこれまで,アミロイドβ沈着に始まり,タウ病理を介して神経変性に至る疾患と考えられてきました.しかし近年,微小血管病変の存在が,この理解を大きく揺さぶりつつあります.今回,韓国からNeurology誌に,脳微小出血(CMB)がその病態に大きな影響を与えていることを示す研究が報告されました.
対象は軽度認知障害およびAD患者116例と健常者85例の計201例で,アミロイドPET,タウPET,MRIを組み合わせ,約2年間の縦断的追跡を行いました.さて結果ですが,脳微小出血を認めない群では,ベースラインのタウPET蓄積が,その後の認知機能低下および皮質萎縮の進行と強く関連していました.これはタウ蓄積がADの認知機能に重要であるという近年の考え方に合致します.一方,脳微小出血を有する群では,認知機能低下や皮質萎縮自体は,脳微小出血なし群よりより,広範かつ顕著に進行しているにもかかわらず,それらがタウPETの蓄積量とはほとんど相関しませんでした(図).
図の見方ですが,緑色の部分はタウ蓄積と脳萎縮の関連が強い部位です.脳微小出血を認めない群では,タウ蓄積が高いほど側頭葉,前頭葉,頭頂葉に広範な皮質菲薄化が進行し緑色の部分が多いですが,脳微小出血を認める群では,皮質萎縮は進行しているにもかかわらず,タウ蓄積との関連は限定的で,ほとんど緑色の部分がありません.すなわち,脳微小出血が存在すると,認知症の進行は「タウ主導」では説明できなくなることが明確に示されたわけです.
この結果は,アミロイドβの役割を再考させます.脳実質に沈着するアミロイドβは,長い時間を要しますが恐らくタウ病理を誘導し,典型的なADの進行に関与します.一方,脳血管壁に沈着するアミロイドβ,すなわち脳アミロイド血管症では,血管の脆弱化,慢性虚血,微小出血や微小梗塞を介して,タウとは独立した経路で認知機能低下を進行させます.脳微小出血は,この血管型アミロイドβ病理が前景化していることを示すサインと考えられます.
では,アミロイドβ抗体療法をどのように考えるべきでしょうか.アミロイドβ抗体は,主に脳実質に沈着したアミロイドβを除去し,その結果としてタウ病理の進行を抑制することを目的とした治療です.したがって,脳微小出血を伴わず,タウ病理が病態の中心にある症例では,理論的にも臨床的にも一定の妥当性があります.しかし,脳微小出血や脳アミロイド血管症が前景に立つ症例では,認知機能低下の主因は血管障害であり,タウ病理の寄与は相対的に小さくなります.このような症例では,アミロイドβ抗体による臨床効果は限定的である可能性が高く,むしろ血圧管理のような血管性認知症の対策が有効と考えられます.つまりアミロイドβ抗体療法の是非は「アミロイドβがあるかどうか」ではなく,「どこに沈着し,どの病態経路が主導しているか」で判断すべきだということです.
以上のようにADは一つの疾患ではなく,少なくとも「タウ主導型」と「血管主導型」という異なる進行様式を含んでいそうです.ADの脳血管病としての側面を意識する必要があります.
★先日,ご紹介したこちらの記事もご参照ください(アルツハイマー病は「脳血管病」の性質をもつ:血液脳関門破綻,低灌流,血小板から見える新しい姿)https://pkcdelta.hatenablog.com/entry/2025/11/22/065353
Jung YH, et al. Impact of Cerebral Microbleeds on Tau-Associated Cognitive and Structural Decline. Neurology. 2026 Jan 13;106(1):e214453. doi.org/10.1212/WNL.0000000000214453.

・整形外科医が知っておくべき脳神経内科疾患(整形・災害外科 12月号)
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月17日のFB投稿です**
腰痛,歩行障害,姿勢異常,しびれ,筋力低下など,整形外科の日常診療で遭遇する症候の多くは,脳神経内科疾患でも生じます.このたび,『整形・災害外科』(金原出版)12月号(https://amzn.to/3MK8mgc)において,特集「整形外科医が知っておくべき脳神経内科疾患」を企画させていただきました.本特集では,「どのようなときに脳神経内科疾患を疑うべきか」「どの時点で脳神経内科医につなぐべきか」という診療の分岐点を整理することを主眼としています.
具体的な疾患としては,パーキンソン病,ALS,多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害(MS・NMOSD),慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)に加え,近年,注目の疾患として特発性正常圧水頭症,アミロイドーシス,免疫チェックポイント阻害薬による神経系免疫関連有害事象(irAE)や機能性神経障害など,整形外科との境界で問題となりやすい疾患を取り上げています.第一線で活躍するエキスパートが,最新の知見を踏まえて実践的に解説してくださいました.整形外科と脳神経内科の連携を深め,日常診療に役立つ現場志向の特集だと思います.最後に素晴らしい原稿をご執筆くださった先生方に感謝申し上げます.
Amazonページ https://amzn.to/3MK8mgc
ホームページ  https://www.kanehara-shuppan.co.jp/magazines/detail.html…
【項目】
整形外科医のためのパーキンソン病診療ガイド;梶山 裕太,三原 雅史
多発性硬化症と視神経脊髄炎スペクトラム障害;松下 拓也
筋萎縮性側索硬化症;熱田 直樹
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー;国分 則人
特発性正常圧水頭症;山原 直紀,下畑 享良
脊髄サルコイドーシス;古賀 道明
アミロイドーシス;植田 光晴
免疫チェックポイント阻害薬における免疫関連有害事象(irAE);角南 陽子,鈴木 重明
Sjogren症候群の神経系合併症;桑原 宏哉
機能性神経障害―概念から診断・治療まで;関口 兼司

・血液タウで診断したアルツハイマー病は加齢で激増するが,症状の程度はタウだけでは決まらない――tau-clinical mismatchという新しい考え方
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月20日のFB投稿です**
アルツハイマー病(AD)の診療は,血液バイオマーカーの登場によって大きな転換点を迎えています.とくにリン酸化タウ217(pTau217)は,採血で済むという侵襲性の低さと高い診断精度から,AD病理を反映する指標として急速に普及するものと思われます.では①実際にpTau217陽性の患者(?)の有病率はどの程度なのか?,また②タウが高ければ重症と考えてよいのか?が分かりません.今回紹介する2つの研究はきわめて示唆に富んでいます.
まず,Nature誌に掲載されたノルウェーの大規模地域住民研究であるHUNT研究を基盤とした論文では,血液中リン酸化タウ217(pTau217)を用いて,アルツハイマー病(AD)病理が地域社会にどの程度存在するのかが検討されています.本研究は,58歳以上の一般住民11,486人を対象とした大規模研究です.重要なのは図1です.年齢階級ごとにAD病理陽性(pTau217 ≥0.63 pg/mL)と推定される割合が示されています.その結果,58~69歳ではAD病理陽性者は8%未満にとどまる一方,70~74歳では約18%,75~79歳では約28%,80~84歳では約44%,85~89歳では約58%と,年齢とともに段階的に増加し,90歳以上では65.2%に達していました.すなわち,AD病理は高齢になるほど急速に頻度が増し,超高齢期には「例外的な病態」ではなく,「一般的な現象」に近づくことが,人口レベルで明確に示されたわけです.
さらに重要なのは,このAD病理の広がりが,必ずしも臨床症状と一致しない点です.70歳以上の集団を対象とした解析では,AD病理は認知症患者の60.0%に認められましたが,軽度認知障害(MCI)でも32.6%,認知機能が保たれている集団においても23.5%に存在していました.言い換えれば,70歳以上では,認知症でなくても約4人に1人がAD病理を有していることになります.これらの結果が示しているのは,タウを中心とするAD病理は「症状出現前に,すでに相当数の人に存在し得るもの」であるという事実です.
しかし,ここで次の疑問が生じます.もしタウ病理がすでに存在している場合,症状の出方や進行速度に個人差がないのだろうかということです.この問いに取り組んだのが,米国ペンシルベニア大学等からのJAMA Neurology誌に掲載された研究です.ADNIなどの縦断データを用い,アミロイドβ陽性例におけるタウ病理と臨床症状の関係を詳細に解析しました.図2では,タウPETあるいは血漿pTau217と,CDR-SBの関係が散布図として示されています.全体としてはタウ量と症状重症度に正の相関が認められるものの,同じタウ量であっても症状が軽い例と重い例が明確に存在しています.著者らはこの乖離を「tau-clinical mismatch」と名付けました.そして回帰モデルからの残差として定量化し,タウ量と症状が概ね一致するcanonical群,タウ量の割に症状が軽いresilient群,タウ量の割に症状が重いvulnerable群という3群に分類しました.そしてvulnerable群ではCDR-SBの上昇やMMSE低下が有意に速く,次の臨床ステージへの移行リスクも高いことが示されました.一方,resilient群ではその逆で,同じタウ病理を持ちながら全く異なる臨床経過をたどることも明らかになりました.
では,このtau-clinical mismatchは何によって生じるのでしょうか.本研究で最も説得力をもって示されたのは,vulnerable群ではTDP-43関連MRI指標の異常やαシヌクレインseed amplification assay陽性率が高く,共存病理の存在が臨床的脆弱性を規定しているという点です.一方,resilient群では共存病理が少ないだけでは説明しきれず,認知予備能やレジリエンスといった防御的要因の関与が考えられます.教育歴や知的活動,遺伝因子,免疫反応,血管因子などが,症状発現を抑制している可能性があります.
この2つの研究を合わせて考えると,AD病理を有する人は加齢で激増するが,タウ単独では決まらず,共存病理による加速と,レジリエンスによる防御という2方向の力のバランスによって規定されているということのようです.防御には恐らくグリンファティックシステムなどが関わるものと考えられます.結論として血液バイオマーカー時代のADは,「タウの有無」を問う段階から,「タウ × 共存病理× レジリエンス要因 × クリアランス(グリンファティック)」というものになっていきそうです.アミロイドβを脳脊髄液やPETで評価している現在とはかなり違ったものになりそうです.
Aarsland D, Sunde AL, Tovar-Rios DA, et al. Prevalence of Alzheimer’s disease pathology in the community. Nature. 2025. doi.org/10.1038/s41586-025-09841-y
Brown CA, Mundada NS, Cousins KAQ, et al. Copathology and clinical trajectories in individuals with tau-clinical mismatch. JAMA Neurology. 2025. doi.org/10.1001/jamaneurol.2025.4974

・知っていただきたい「機能性神経障害」 ―診療に潜む倫理的課題と私たちができること―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月25日のFB投稿です**
機能性神経障害(functional neurological disorder,FND)をめぐる臨床倫理的問題について総説としてまとめました.FNDは筋力低下,けいれん発作,不随意運動,感覚障害など多彩な症候を呈する頻度の高いコモンディジーズです.かつては「ヒステリー」「心因性」「転換性」「詐病」などと呼ばれてきましたが,近年は神経学的に診断可能で,治療可能な疾患単位として再構築されつつあります.しかし診療の現場には,いまなお誤解や偏見,制度的な不備が残されており,患者さんが不必要な苦痛を被っている現実を実感しています.状況を改善する必要性を強く感じ,この総説を執筆しました.
本総説では,2015年以降の文献を検討し,FNDをめぐる臨床倫理的問題を四つの領域に整理しました.それは「スティグマ」「誤診と医原性の害」「患者と医療者の病態理解の乖離と患者体験の軽視」,そして「ジェンダーと歴史的偏見」です.とくにスティグマは,患者さんが「症状を作っている」「怠けている」と疑われ,信じてもらえない経験を重ねることから生じます.このような経験は患者さんの尊厳を損ない,生活の質を低下させ,医療への信頼を失わせます.また,一度FNDと診断されるとその後に生じた新たな器質疾患が見逃されやすくなる「診断の影の効果」もあり,誤診や過剰治療,不必要な侵襲的処置が医原性の害として患者さんを苦しめる場合があります.
さらに,医療者と患者さんの間には,症状の随意性や意味づけに関する理解の乖離があります.医療者は「随意とも不随意とも解釈できる」と捉えがちですが,患者さんは「自分の意思ではどうにもならない」と感じています.このずれが診断の受容を妨げ,信頼関係の構築を困難にします.またFNDは歴史的に「ヒステリー」として女性に帰属されてきた経緯があり,ジェンダーバイアスや社会的偏見が現在の診療にも影を落としています.虐待や暴力といったライフイベントが発症や持続に関与する場合も少なくありませんが,これらへの配慮は十分とは言えません.
本総説の提案は,これらの問題を「臨床倫理の四原則」という枠組みで整理し,日常診療の具体的な行動に結びつけることでした.表(英語)では,自律尊重,善行,無危害,公正の四原則ごとに,現状の課題と望ましい対応を対比的に示しています.①自律尊重の観点からは,陽性徴候を示して疾患の実在性を保証し,患者さんの語りに耳を傾けることの重要性を示しました.②善行の観点からは,スティグマを軽減する医療者教育と心理社会的支援の充実を挙げました.③無危害の観点からは,除外診断ではなく陽性診断を行い,不必要な検査や治療を避ける姿勢の必要性を示しました.④公正の観点からは,ジェンダーや社会的弱者に対する不公平を是正し,公平な医療アクセスと資源配分を確保する必要性を示しました.
FNDでは,患者さんをどう理解し,どう関わるかという姿勢そのものが治療の一部になります.患者さんを信じて尊重し,害を最小化し,公平性を確保するという原則を意識的に実践し教育していくことが重要であると考えます.
下畑享良.機能性神経障害における臨床倫理的問題―患者尊重と医療者教育の必要性―.臨床神経(早期公開)https://doi.org/10.5692/clinicalneurol.cn-002182
無料でダウンロードできます.またスライドを以下からご覧いただけます.
https://www.docswell.com/…/800…/KG2PW4-2025-11-09-070636

・予防神経学がひらくこれからの健康社会 ― 脳神経内科医の新しい役割―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月28日のFB投稿です**
Neurology誌の総説「An Ounce of Prevention: The Growing Need for Preventive Neurologists」を興味深く読みました.米国神経学会ポッドキャストでも取り上げられた注目の論文です.脳神経内科医の役割を「発症後の治療」から「発症前の予防」へと転換する必要性を論じています.医療の進歩によってがんなどによる死亡が減少し,多くの人が脳卒中や認知症などの神経疾患とともに長く生きる時代になり,その結果,神経疾患は世界最大の障害負荷の原因となっています.2021年には世界人口の約43%にあたる34億人が何らかの神経疾患を有していたとされ,神経疾患は障害調整生命年の最大の原因であり,死亡原因としても第2位を占めています.とくに認知症は2050年までに3倍に増加すると予測され,医療費と介護負担の爆発的増加が懸念されています.
この論文のメッセージは,神経疾患の多くは「避けられない運命」ではなく,相当部分が予防可能であるという点です. INTERSTROKE研究では,高血圧,喫煙,腹部肥満,運動不足,不適切な食事,糖尿病,過剰飲酒,心理社会的ストレスやうつ,心疾患,脂質異常症という10の修正可能な危険因子で,脳卒中リスクの約90%が説明可能であることが示されています.そして生活習慣と危険因子管理により最大80%の脳卒中が予防可能とされています.
またLancet委員会は,教育歴,難聴,高血圧,喫煙,肥満,うつ,運動不足,糖尿病,社会的孤立,過剰飲酒,頭部外傷,大気汚染,視力障害,高LDLコレステロールという14因子を通じて,認知症の40%以上が予防または発症遅延可能であると報告しています.さらにFINGER試験やSPRINT-MIND試験といった前向き介入研究により,実際に介入することで認知機能低下を抑えうることも示されています.具体的にはFINGER試験は,認知症リスクを有する高齢者を対象に,食事指導,運動療法,認知トレーニング,血管危険因子管理を組み合わせた多領域介入を2年間行い,介入群では記憶や実行機能などの認知機能が有意に改善しました.SPRINT-MIND試験は,高血圧患者を対象に,収縮期血圧120mmHg未満を目標とする厳格な降圧治療が,軽度認知障害の発症および軽度認知障害または認知症の複合エンドポイントを有意に減少させることを示しました.これらの研究は,認知症は不可避な老化現象ではなく,危険因子への介入によってその進行を遅らせたり,発症を防いだりできる可能性があることを実証するものです.
論文の中で最も印象的なのが下図で,脳神経内科医の役割をピラミッドで示しています.最下層には個々の患者の診療があり,その上に家族への教育,医療チーム内での専門的助言,研修医・学生への教育が積み重なり,さらに上層では地域への啓発活動や社会・政策への提言が位置づけられています.これは,脳神経内科医は診療室の中だけで完結する存在ではなく,個人,家族,医療システム,社会という複数のレベルで脳の健康を支える「脳の健康推進者(brain health advocate)」として機能すべきであるという著者のビジョンを視覚的に表現したものです.予防神経学とは,個人医療と公衆衛生を橋渡しする新しい専門性であるとも言えます.この考え方は非常に納得できるものです.
論文タイトルに使われている「An Ounce of Prevention」は,英語の格言「An ounce of prevention is worth a pound of cure(わずかな予防は大きな治療にまさる)」に由来しています.つまり「ほんの少しの予防的努力が,将来の膨大な治療や苦痛を防ぐ」という意味が込められています.脳神経内科医は,病気を治す専門家であると同時に,病気を生まない社会をつくる専門家であるべきだというメッセージがこの一語に凝縮されています.
Sabayan B, Boden-Albala B, Rost NS. An Ounce of Prevention: The Growing Need for Preventive Neurologists. Neurology. 2025;105:e213785. https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000213785

・抗ウイルス薬はアルツハイマー病に効くのか?VALAD試験が示した予想外の結論
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月29日のFB投稿です**
近年,単純ヘルペスウイルス1型や2型(HSV1,2)がアルツハイマー病(AD)の病態に関与している可能性が指摘されています.HSVは三叉神経節などに生涯潜伏感染し,免疫状態の変化により繰り返し再活性化する性質を持つため,この慢性的な炎症刺激が神経変性の引き金になるのではないかという可能性が提唱されてきました.このため『抗ウイルス薬であるバラシクロビル(バルトレックス®)がその進行を抑制できるのではないか』という仮説が考えられるようになりました.この仮説を検証するために,米国で行われた多施設共同第2相二重盲検プラセボ対照試験(VALAD試験)がJAMA誌に掲載されました.なお,本研究でHSVが対象とされたのは,剖検脳でHSV DNAがアミロイド斑内に検出されていることや,実験モデルでHSV感染がアミロイド産生やタウリン酸化を誘導すること,疫学的にもHSV抗体陽性者でADリスクが高いと報告されてきたことなど,病理学的,実験的,疫学的根拠がこのウイルスに最も多く蓄積していたためです.
対象は,早期症候性ADまたはADバイオマーカー陽性の軽度認知障害(MCI)で,かつ血清HSV抗体陽性の成人120名で,平均年齢は71.4歳,女性66名でした.被験者は無作為にバラシクロビル群60名とプラセボ群60名に割り付けられ,バラシクロビルは2 g/日から開始して4週間で4 g/日まで漸増され,その後78週間まで維持されました.主要評価項目はADAS-Cog 11項目版の変化量でした.
結果はなんと仮説と逆でした.78週時点でのADAS-Cogの変化量は,バラシクロビル群で10.86点悪化し,プラセボ群では6.92点の悪化にとどまり,群間差は3.93点で統計学的にも有意でした.この差は臨床的に意味のある最小差である3点を上回っており,認知機能の低下はバラシクロビル群の方がむしろ強いことが示されました!!(図1)経時的にも,時間とともに両群の曲線が離れ,バラシクロビル群が一貫してより大きな悪化を示していく様子が分かります.
一方で,副次評価項目である日常生活動作スケール,アミロイドPET,タウPET,MRIによる海馬萎縮や皮質菲薄化などの指標では,いずれも群間差は認められませんでした.すなわち,バラシクロビルは認知機能のみならず,AD病理や神経変性にも影響を与えなかったことになります.安全性の面では,重篤な有害事象は両群で大きな差はありませんでしたが,バラシクロビル群では血清クレアチニン上昇や下痢,悪心,混乱などの軽度副作用がやや多く認められました.著者らは,高用量かつ長期のバラシクロビル投与が,軽微な神経毒性を通じて認知機能悪化として検出された可能性も否定できないと議論しています.
本研究の結論は明確であり,バラシクロビルは早期症候性ADに対して有効ではなく,むしろ認知機能悪化と関連した可能性があるため,治療として推奨されないということです.ただし,この結果は感染症仮説そのものや発症前予防の可能性を否定するものではありません.ADの病理は臨床症状の10年以上前から始まることが知られており,もしウイルス感染やその再活性化が初期トリガーとして関与しているのであれば,発症後の治療ではなく,発症前の段階での介入こそが意味を持つ可能性があります.実際に,帯状疱疹ワクチン接種と認知症リスク低下との関連を示す疫学研究も報告されており,免疫環境の長期的修飾という観点からは,抗ウイルス薬よりもワクチンや予防的介入の方が理論的に適している可能性も考えられます.本試験は,発症後治療の限界を示すと同時に,予防という視点の重要性をあらためて浮き彫りにした研究であるともいえます.
Devanand DP, et al.Valacyclovir Treatment of Early Symptomatic Alzheimer Disease.The VALAD Randomized Clinical Trial.JAMA.Published online December 17, 2025. PMID: 41405855
★FBの規則改訂で,1ヶ月のリンク付き投稿数が制限されるようになってしまいました(2個まで).このためMeta認証に有料加入したのですが,それでも月4個までなので,リンクを貼らず,PMIDを記載することにしました.

・アルツハイマー病病理はウイルスに対する2段階の防御反応?タウはリン酸化されて初めて抗ウイルス蛋白として機能し,伝播は感染防御のための準備反応である
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月30日のFB投稿です**
近年,アルツハイマー病(AD)とウイルス感染との関連が注目されており,とくに単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が病態に関与する可能性が議論されています.2024年末にCell Reports誌に掲載されたHydeらの研究は,この関係を分子レベルで明確に示した重要な報告でした(ブログ;2025年1月15日).この研究では,HSV-1感染によりcGAS-STING-TBK1経路が活性化され,その下流でタウがリン酸化されること,そしてリン酸化タウがHSV-1タンパク質の発現を抑制し,神経細胞の生存を保護することが示されています.すなわちタウのリン酸化は病的変化ではなく,HSV-1感染に対する自然免疫応答として神経保護的に機能している可能性が示されたわけです.
ADの代表的な病理所見である神経原線維変化は,リン酸化されたタウ蛋白の凝集によって形成されます.このリン酸化タウは長らく神経細胞にとって有害な異常産物とみなされてきましたが,今回,Nature Neuroscience誌に掲載されたマサチューセッツ総合病院のWilliam A. Eimer博士らの論文は,この常識に根本的な再考を迫る内容です.この研究の最大の発見は,リン酸化タウがヒト神経細胞においてHSV-1に対して抗ウイルス活性を示したという点です.培養神経細胞にリン酸化タウを前処理すると,ウイルスに感染する細胞の数が減少し,形成されるウイルスプラークの数や大きさも有意に低下しました.一方で,リン酸化されていない通常のタウではこの効果は認められませんでした.すなわちタウはリン酸化されて初めて抗ウイルス蛋白として機能することが示されました.
とくに印象的なのが電子顕微鏡で示された所見です(図1).精製したHSV-1カプシドとリン酸化タウを共培養すると,リン酸化タウがウイルス粒子の表面に直接結合し,そこを足場として自己凝集し,線維状構造を形成していく様子が観察されました.aおよびbでは,ウイルスカプシド(矢印)の表面からリン酸化タウの線維が伸び,不定形の凝集体(矢頭)や線維状構造(★)が形成され,複数のウイルス粒子を絡め取っている様子が示されています.これはウイルス粒子がタウ凝集の核となり,防御構造としての線維形成が誘導されていることを意味します.さらにcおよびdでは,HSV-1に感染した三次元培養神経細胞の超薄切片において,抗リン酸化タウ抗体に金ナノ粒子を結合させた標識により,神経細胞核内のウイルスカプシド表面にリン酸化タウが実際に結合している様子が確認されています.すなわちこの現象は試験管内だけでなく,感染した神経細胞内でも実際に起きていることが示されたのです.
またウイルス感染により神経細胞内でリン酸化タウが増加し,それが細胞外にも放出されて周囲の未感染細胞に影響を及ぼすことが示されました.図2では,感染細胞と未感染細胞を細い通路でのみ連結した特殊な培養装置を用いることで,ウイルスそのものは移動できないが,タンパク質などの情報は伝わる状況が作られています.その条件下で,感染していない細胞の中にもリン酸化タウが増えている様子が観察されました.これはリン酸化タウが感染した細胞だけでなく,周囲の細胞を事前に守る役割も担っていることを示唆しています.いわゆるタウの伝播は,感染防御のための準備反応であるということになります.
さらにリン酸化タウとウイルスの複合体はミクログリアに貪食されることも示され,免疫細胞による病原体除去にも関与している可能性が示唆されました.これらの結果を総合すると,アミロイドβが細胞外でウイルスを捕捉するという既存の防御仮説(これはNHKタモリさんの番組でもご紹介しました)に加えて,本研究はリン酸化タウが細胞内でウイルスの輸送や増殖を妨げる役割を担う可能性を示し,脳内に2段階の自然免疫機構が存在するという新しい統合モデルを提示しています.
つまり,ADの主要な病理とされるアミロイドβ沈着,リン酸化タウ沈着,神経炎症はいずれも,感染防御と深く関係する生体反応であり,それらが慢性的に持続あるいは過剰化することで病理として現れている可能性を示しています.神経変性はこの防御機構が過剰化あるいは慢性化した結果であるかもしれません.アミロイドβに加え,タウも単なる「悪者」として排除するのではなく,なぜそれが生じたのかという進化的,免疫学的文脈の中で再評価する必要があることを,本研究は強く示唆しているように思われます.
Eimer WA, et al.Phosphorylated tau exhibits antimicrobial activity capable of neutralizing herpes simplex virus 1 infectivity in human neurons. Nature Neuroscience.2025. PMID: 41408481.

・アリと人間のパズル対決から学ぶ大切なこと ― チームの質は「対話の質」で決まる―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年12月31日のFB投稿です**
1年の締めくくりに,示唆に富む論文をご紹介します.たまたまウェブ上の動画で知った研究ですが,そのオリジナルは今年1月に PNAS に掲載された論文です.この研究では,アリと人間にまったく同じ幾何学パズルを解かせています.T字型の物体を,2つの狭いスリットを通して出口へ運ぶという課題です.アリ用の物体には餌の匂いをつけ,巣に持ち帰る対象としています.サイズだけをアリと人間に合わせてスケールし,1人(1匹),小集団,大集団での成績を比較しました.さらに人間では,「話してよいグループ」と「話してはいけないグループ」に分けています.
結果は意外でした.アリは集団になるほど成績が良くなりました.壁に沿って動き続けるなどの行動が自然に生じ,結果として効率よく正解に到達します.個体にはない「集合的な記憶」が生まれていると解釈されています.逆に人間は,1人のときが最も効率的でした.話せるグループは1人と同程度の成績でしたが,話せないグループは,なんと1人よりも成績が悪くなりました.出口に対して遠回りすべき場面でも,直感的で誤った方向を選びやすい傾向が見られました.これは心理学でいう groupthink(集団浅慮)に近い現象です.「みんなと同じでいること」が目的になりすぎて,「正しく考えること」をやめてしまう集団心理です.つまり,アリは単純な個体ですが,集まると賢くなる.それに対して人間は,賢い個体であっても,話し合えない集団では賢さを失う・・・その対照的な特徴が浮かび上がりました.
この論文の教訓は極めてシンプルです.人間のチームの質は,個々のメンバーの賢さではなく,ひとえに「対話の質」によって決まる.バラバラな考えをつなぎ合わせ,一つの方向へと導くための最も大切な手段こそが対話なのだと,この研究は教えてくれます.当たり前のようでいて,これほど重要なことはありません.来年も教室やカンファレンスで,よく話し合っていきたいと思います.そして,この対話の力を社会や世界があらためて認識し,争いのない平和な未来へとつながることを,心から願っています.
本年も1年,ありがとうございました.どうぞ良いお年をお迎えください.
Dreyer T, et al. Comparing cooperative geometric puzzle solving in ants versus humans. Proc Natl Acad Sci U S A. 2025 Jan 7;122(1):e2414274121. PMID: 39715438(動画はフリーでDL可)

 

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)