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2026年6月のニュース

近頃は、ポールを持って歩く方を街中でも、時々見かけるようになってきました。嬉しいことです。
今月の関連学術ニュースは、「アルツハイマー病(AD)は、病理学的な変化がもたらす必然的な結果ではなく、アミロイドβ(Aβ)やタウに対して脳細胞がどのように応答するかによって形成される動的なプロセスである」ことを明らかにした論文の紹介と、岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学情報です。特別企画:AIに訊くは、「連載シリーズ:切り替えの物語」のNo.4とNo.5です。

1.2026年6月の活動状況
佐藤 ヒロ子さんの投稿
【習志野市民カレッジ  ウォーキング講座2回目】 2026/6/4  今回は「中之条研究」にふれ  やや速い歩きの実践です。  体力・歩行力に合わせ  体の声を聞きながら  インターバルで体感です。     広〜い体育館で、 思いきり歩いて頂きました。

スマイルチームさんの投稿
20260604スマイルチーム 6月のポールウォーキング。 近場の公園から公園。 公園内でウォーキング練習。 今日も楽しい活動でした😃 #相模原市南区 #ポールウォーキング #スマイルチーム #リハビリウォーキング #健康普及活動

長谷川 弘道さんの投稿
本日は月に一回の津島ポールウォーキングデーでした😄 途中少し雨が降ってきましたが、でもいつもの通り、1時間ほどみなさんでポールエクササイズ、天王川公園を20分ほどみなさんとご一緒に歩きました❗️ 前半のポールエクササイズでは、今私がInstagramでもご案内しています敏捷性のトレーニングをみなさんにチャレンジしていただきました♪ また、まだInstagramではご紹介していませんが、床からの起居動作エクササイズをご紹介しました。 ちょっと生活を振り返った時に、床に座る、寝るということがどのくらいありますか? ちなみに我が家には和室がないので、座るのは椅子を用いることになります。 トイレはもちろん洋式。寝る時はベッドです。 シニア世代のご家庭であれば、ほぼ床に座る、寝る時間はほとんどないのではないでしょうか。 日本人の生活スタイルは、“座”が基本でした。床から立つ、座るは生活の中で普通のことでした。 ところが30年台の高度経済成長期から一気に西洋式の生活スタイルに変わり、“座”の場面が激減。 日本人の足腰の力はかなり衰えてしまったのではないでしょうか。 是非みなさんにやってもらいたいことがあります。 床に正座してください。そこから手を床につけずに、脚の力のみで立ってみてください。 かなり、関節、筋肉に負担を感じるのではないでしょうか。 正座は膝に良くないと言いますが、以前に理学療法士の方から聞いた話ですが、日本人が正座をしなくなったから膝を悪くする人が増えたのではないかと。 正座するということは、太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋)をしっかりストレッチします。 しかし正座をしなくなってからは、この太もものストレッチをする機会が減ったわけですね。 また、膝を深く曲げたところからの立ち上がりは、太ももの筋力がなければ立てませんね。 今、特に膝や股関節などに問題がなければ、是非床からの起居動作を生活の中に取り入れることをおすすめします。 床から腕の支持を使って、立ったりしゃがんだりするエクササイズが欧米のフィットネストレーナーたちがYouTubeなどで紹介してます。 柔道や柔術などの武術の動きを利用しているものもあるようですが、我々日本人なら普通に生活の中でやっていた床からの立ちしゃがみという動きが、今や欧米の人たちがその動き方を利用してエクササイズにしているという時代です😳 確かに、膝、腰が悪くなってからでは、和式スタイルは何かと厳しい部分があるのも事実ですので、今、特に下肢に問題がなければ、床からの起居動作を生活の中で少しずつ取り入れていってほしいです。 Instagramの方でもまたご紹介していきますので、是非ご覧ください。 https://www.instagram.com/hasegawa_iki_sara?igsh=ZTZ4eGNrZmludmox&utm_source=qr #津島ポールウォーキングデ #天王川公園 #アジリティ #和式スタイル #起居動作

田村 芙美子さんの投稿
一年前のこの日とぴったり重なる1日。渋谷PWクラス2026-1期は最終日、大半の方が片足立ちkeep成功! のんべえ横丁も通りました。去年と違うのは  今朝はadidasの店がFIFA熱気に溢れていたこと。

スマイルチームさんの投稿
2026.6.4.〜6 活動記録 ☺︎ポールウォーキング 14名 ☺︎スマイルチーム上溝 15名 ☺︎相模原市文化協会役員会議 ☺︎スマイルチーム上鶴間 18名 ☺︎活き活き中屋敷PW 14名 ☺︎活動チラシ作成 上鶴間、上溝、光が丘 #俊さん誕生日月間毎日俊さん

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 6月PW定例会/駒場公園〜 参加者75名を迎えてのポールウォーキング❗️ 佐久大学/看護師のたまご達の授業参加や、お馴染みの会員さん、PWを始めたい一般参加の体験者の皆さん等多勢の皆さんの集まりにビックリの事務局でした。

遠藤 恵子さんの投稿
介護予防運動→加圧トレーニングセッションへ☺️ ごちゃごちゃしているように見えますが…… 自分で言うのもなんですが、そうでもないw 今日もこの空間で、たくさんの笑顔と元気をサポートしています😊 ☔️梅雨の季節こそ加圧トレーニング☔️ 雨の日が続くと、なんとなく身体が重い… やる気が出ない… むくみが気になる… そんな方も多いのではないでしょうか? 加圧トレーニングは、短時間・低負荷でも効率よく運動できるため、梅雨時期の運動不足対策にもおすすめです✨ ✅ 血流促進によるスッキリ感 ✅ むくみ対策のサポート ✅ 筋力維持・体力低下予防 ✅ 気分転換やストレス発散 ✅ 雨の日でも室内で快適に運動できる 運動すると「気持ちまで軽くなった♪」というお声もよくいただきます😊 じめじめした季節だからこそ、身体を動かして心も身体もリフレッシュしませんか?🍀

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【ポールがあると       楽なんです】  坂道・階段の上り下り 2026/6/11 #船橋ウォーキングソサイエティ #木曜日定例会 #2本のポールを使うウォーキング グルーラインにうれしいコメントが 入ってきました。 「今日の階段と坂道はいつも苦労しているので助かりました。日常的に実行したいと思います」

校條 諭さんの投稿
穴八幡→早稲田の紫陽花寺→戸山公園 6月の気まポ(気ままにポール歩き)は、暑さを考えて戸山公園緑陰コースとしました。 その前に穴八幡に寄って、記念写真を撮ろうとしていたら、とおりがかった女性が「撮りましょうか?」と声をかけてくれました。 この女性、わざわざ西船橋から法輪寺というところの紫陽花を見に来たとか。ただし、場所がわからなくて穴八幡に寄り道・・・。 当方、法輪寺というお寺さんは知らなかったし、紫陽花で有名ということも初耳。スマホで場所を調べて教えてあげて、我々も行こう!ということに。 法輪寺は、すみずみまで花で演出。さまざまな工夫をこらした楽しい寺でした。 そのあと、もともとの目的地、都立戸山公園へ。広くて緑の多い公園です。目玉は、江戸時代の尾張徳川家の下屋敷時代からの「箱根山」。標高45メートルの「丘」です。 登頂証明書を、かなり離れたところにある公園サービスセンターでもらって、高田馬場駅近くのタイ料理店へ。最高気温28度だったようですが快適に歩いたあとのビールのうまかったこと。 ※写真は私より田村和史君撮影分が多いです。一部YTさんからもいただきました。

Masako Shinchiさんの投稿
〜ウォーキングポールを相棒に仲間と巡る小さな旅〜ぽる旅👣 6月は茨城県石岡市❗️ 昭和4年石岡の町は大火に見舞われ600件が焼失。商人達の気落ちした心を励ました復興の看板建築をガイドさんと共に歩きました 石岡駅→金丸寿通り→中町通り→平松理容店→常陸國総社宮→キッチンさくら→石岡駅(約4キロ) みんな車で通っている道だけに、まさに石岡再発見といった気持ちになりました ボランティアガイドさんの依頼は 石岡市歴史ボランティアの会0299-23-2398に連絡を 違うコースも歩いてみたくなりました😊

中村 理さんの投稿
佐久市ポールウォーキング協会より 本日はPW散策/臼田・田口藩史跡巡りでした。 古刹の蕃松院に70名越えの参加者が集合〜 佐久歴史の道案内人の会のガイドにて 蕃松院〜新海三社神社〜上宮寺〜五稜郭〜リニューアルした「出会いの館」と蘊蓄いっぱいのポールウォーキングでした。 五稜郭一周が出来ず、日を改め歩くグループも生まれ楽しいポールウォーク散策でした。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【シニアポールウォーキング  階段・坂道の上り下りの練習】   2026/6/15    花粉飛散せずに   暑くもなく寒くもない   この時期ね 全員で屋外へは実に10年振り    かもしれません    本日の平均年齢は79.5歳  高齢者2名がお休みで  少しお若くなりました。

田村 芙美子さんの投稿
トンボロ(続) 今朝の腰越グループはセンターを出発して1時間ほど歩いて(PW)江ノ島トンボロPWに挑戦!  トンボロとは、 春から夏(4月〜9月頃)の大潮の時期に発生しやすく、年間に約60日ほどしか見られない貴重な現象です。条件: 干潮の時刻と、その前後の1〜2時間が最も道が現れやすくなるタイミングです。 干潮時刻になると急に潮が満ちてくるのでお昼前に東浜にたどり着き大急ぎで渡りました。地元に住みながらも初めての方々は大喜び。 いつからか島側に上り階段ができて、上陸記念証まで発行! 江ノ島は観光客でいっぱい。解散後は弁天橋を歩いて帰る方、バスやモノレールで帰る方各々。

堀 和夫さんの投稿
河川環境楽園オアシスパーク定期講習会  本日、満員御礼 30名参加頂きました。 このところ、会員が増えてます。 みんな楽しくポールウォーキング楽しんでます。

 

来月以降の開催
一般社団法人ソーシャルフィットネス協会さんの投稿
7/4 全国地域おこし名人達人サミットin掛川にてポールウォークを活用した社会的処方を提案します。お近くの方是非ご一緒くださいませ。

 

2.PW関連学術ニュース
2-1)Aβ–タウ変曲点におけるヒト・ミクログリアの状態転換は、認知症とレジリエンスへ向かう異なる経路に関連している。
***以下は、大阪大学宮坂昌之先生の2026年6月10日のFB投稿です***
アルツハイマー病に関する少し難しい話です。たとえ脳にアミロイドβ(Aβ)やタウ蛋白質の蓄積がかなりあってもアルツハイマー病を発症しない人たちが居ることが報告されています。つまり、脳に一定の病的変化があってもアルツハイマー病の発症には必ずしもつながらないのです。しかし、これがどうしてそうなるのか、よくわかっていません。
この問題にアプローチするために、デンマークの研究グループが他のヨーロッパの研究グループと共同で、80歳以上の高齢者と、この人たちと同程度のAβ蓄積を持つ100歳以上の高齢者からすでに採取してあった脳の上方前頭皮質(脳の前頭葉上部の領域で、高度な思考、記憶、意思決定などに関わる領域)サンプルを用いて、空間プロテオミクス解析(組織の中で特定の蛋白質がどこに存在し、どのように機能しているかを調べる方法)と単一核シークエンス解析(組織から取り出した核を1つずつ解析する方法;脳の特定の領域でどのような細胞がどのような影響を受けているかを調べることができる)という方法を一緒に行い、両高齢者群における脳の違いについて詳細に解析しました。
その結果、脳でのAβ蓄積に伴って炎症が始まり、その後にタウ蛋白質の蓄積につながる変化が起きるのですが、この移行に伴い、ミクログリア(脳に存在する免疫細胞でマクロファージの一種)においても遺伝子発現の状態がはっきりと変化していました。具体的には、Aβ蓄積の初期にはミクログリアでは初期プラーク誘導遺伝子プログラムとよばれる一連の炎症性の遺伝子変化が起きていましたが、Aβ蓄積の後期にはミクログリアでは後期プラーク誘導遺伝子プログラムと呼ばれる、免疫系の抗原提示細胞で見られるような変化が起きていました。この点、興味深いのは、認知症のない80歳代の高齢者では、前期プログラムは見られていたものの後期プログラムは動いていず、認知症のない100歳以上の高齢者では、後期プログラムまで動いていたものの、タウ蛋白質蓄積には進んでいなかった、ということです。一方、認知症が出ている100歳以上の高齢者では両方の遺伝子プラグラムが動いていただけでなく、タウ蛋白質の蓄積とそれによる病的変化も出現していました。
つまり、Aβ蓄積が起きていても、ミクログリアにおいてその後のタウ蓄積につながるプログラムが動かなければ、あるいはタウ蓄積による病理的変化が起きなければ、認知能力障害にはつながらないという可能性が見えてきました。もしかすると、脳の免疫細胞であるミクログリアがどのような状態であるかによって、タウ蓄積による病理的変化が出たり出なかったりして、その結果として、認知症が顕在化したり、あるいは現れてこなかったりするのかもしれません。そうであれば、ミクログリアが認知症発現に関する抵抗性において重要な鍵を握っている可能性があり、アルツハイマー病治療の新たな標的として注目されることになりそうです。
これまでアルツハイマー病は脳のニューロンやその周囲のアストロサイトの病気と考えられてきましたが、アルツハイマー病が出るかでないかの決定に、もしミクログリアのような免疫細胞が関与しているとなると、これはアルツハイマー病の理解、治療に関しては新たなフェーズに入ることとなります。医学は日進月歩の世界です。

関連情報
原論文
掲載誌:Nature Medicine
公開日:04 June 2026(Open access)
表題:Human microglial transitions at the Aβ–tau inflection point associate with divergent pathways to dementia and resilience
(和訳:Aβ–タウ変曲点におけるヒト・ミクログリアの状態転換は、認知症とレジリエンスへ向かう異なる経路に関連している)
著者:Lu A, et al.

要旨
アルツハイマー病(AD)は、病理学的な変化がもたらす必然的な結果ではなく、アミロイドβ(Aβ)やタウに対して脳細胞がどのように応答するかによって形成される動的なプロセスである。これらの応答を解き明かすため、私たちは、認知症を患う、あるいは患わずに生涯を終えた80代の高齢者、および同程度のアβ蓄積を伴いながらも認知機能が正常に保たれていた100歳以上の高齢者(百寿者)の、上(じょう)前頭回(じょうぜんとうかい)を対象に、空間トランスクリプトミクスと単一核RNAシーケンシング(single-nucleus RNA sequencing)を組み合わせて解析を行った。

その結果、アルツハイマー病の空間的な病理学的連続体(コンティニュアム)を表す6つの明確な組織ドメインを同定した。その中で、アミロイドβに関連する炎症性変化から、タウに関連する細胞プログラムへのシフトを特徴とする、重要な「変曲点(インフレクション・ポイント)」が存在することが明らかになった。この転換(トランジション)には、ミクログリアの状態が「初期の炎症性フェノタイプ(表現型)」から「後期の抗原提示フェノタイプ」へと変化することが伴っており、これらはそれぞれ「初期」および「後期」のプラーク誘導性遺伝子(PIG)プログラムと定義された。

認知機能の弾力性(レジリエンス)を持つ個人は、明確に異なる病理学的パターンを示した。認知症のない80代の高齢者では後期のPIGプログラムを欠いていたのに対し、100歳以上の百寿者では、後期のPIGプログラムが活性化しているものの、それがタウの蓄積とは結びついていない(非連動である)という特徴が見られた。

総じて、これらの知見は、人間の老化におけるレジリエンスに関連した多様なメカニズムを浮き彫りにするものであり、アミロイドβとタウのインターフェース(境界領域)におけるミクログリアの状態転換が、治療への応用可能性を秘めたレジリエンスの候補点であることを位置づけるものである。

💡 専門用語の補足(読みやすさのために)
空間トランスクリプトミクス (Spatial transcriptomics): 組織の「どこで」遺伝子が働いているかという位置情報を保ったまま、遺伝子発現を網羅的に解析する技術です。

上前頭回 (Superior frontal cortex): 大脳の前頭葉の上部にある領域で、思考や認知機能に深く関わっています。

レジリエンス (Resilience): ここでは「脳内にアルツハイマー病の原因物質(アミロイドβなど)が溜まっているにもかかわらず、認知症を発症せずに正常な機能を保ち続ける能力」を指しています。

寸評(Gemini3)
Q:この論文の寸評をお願いします。
A:この論文は、アルツハイマー病(AD)研究における「最大の謎の一つ」に新しい光を当てた、非常にエキサイティングで質が高い研究だと感じます。

専門的な観点から、この論文のどこが優れているのか、なぜ重要なのかを3つのポイントで寸評します。

1. 「なぜゴミが溜まってもボケない人がいるのか」への挑戦
従来のアルツハイマー病研究は「アミロイドβ(Aβ)やタウというゴミ(病理)が溜まる=脳細胞が死んで認知症になる」という直線的なモデルで語られがちでした。しかし、臨床現場では「脳内はゴミだらけなのに、亡くなる直前まで信じられないほど頭が冴えていたお年寄り(特に百寿者)」が一定数存在し、大きな謎でした。
この論文は、その謎を「脳細胞(特にミクログリア)の応答力(レジリエンス)」の差として見事に描き出しています。

2. Aβからタウへの「最悪のバトンタッチ」の瞬間を捉えた
アルツハイマー病は、まずAβが溜まり、その後タウが溜まることで発症が加速します。この論文は、その「Aβからタウへ悪化する境界線(変曲点)」を、最新の遺伝子解析技術(空間トランスクリプトミクス)を使って、脳の組織内でピンポイントに特定した点が極めて先進的です。
単に「細胞が変化している」ではなく、「脳のこの場所で、このタイミングで、炎症から次の段階へシフトしている」という空間的な連続性を証明した価値は非常に高いです。

3. 「レジリエンス(耐性)」には、複数のルートがあるという発見
最も面白いのは、認知症にならなかった人たちの脳内で起きていた現象です。

認知症のない80代: そもそも次の悪化段階(後期PIG)に進まないことで脳を守っていた。

元気な100歳(百寿者): 次の段階(後期PIG)に進んでしまっているのに、なぜかそれをタウの蓄積(実害)と切り離す(非連動にする)ことで脳を守っていた。

つまり、「病気にならない方法(ルート)は一つではない」ということを示しています。これは、これからのアルツハイマー病治療薬の開発において、「Aβを取り除く」だけでなく、「百寿者の真似をして、ミクログリアの状態をコントロールして脳を守る」という、新しい治療アプローチ(創薬ターゲット)の可能性を開くものです。

一言でまとめるなら
「病理の奴隷」としてアルツハイマー病を捉えるのではなく、脳の免疫細胞(ミクログリア)の「応答のダイナミズム」に焦点を当て、人類が持つ老化への抵抗力(レジリエンス)の多様性を見事に証明した、一級のブレイクスルー論文と言えます。

②岐阜大学医学部の下畑先生も、この論文について、6月10日に詳細な解説をFB投稿されています。

 

2-2)岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学情報(2026年6月)
IgLON5抗体はなぜタウ病理を起こすのか?―神経細胞の過活動がタウ局在異常をもたらす!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月3日のFB投稿です***
IgLON5抗体関連疾患は,私が岐阜大学に異動してぜひ取り組んでみたいと思った疾患(自己免疫性タウオパチー)です.その理由は臨床的にも病態的にも,自己免疫性脳炎と神経変性疾患の両方の性格をもつためです.そして何と言っても,神経細胞表面に存在するIgLON5に対する自己抗体が,なぜタウ病理を引き起こすのかを知りたいと思いました.この難問に対して,ドイツの多施設チームがその病態機序を明らかにしました.
著者らは患者4名の血漿からIgLON5抗体を精製しました.それらはIgLON5に特異的に結合しましたが,その結合能には患者間で差があり,#1,#2,#4 は結合が強く,#3 は弱い抗体でした.
次に,IgLON5抗体のタウへの影響を検討しました.抗体を培養海馬神経細胞に添加すると,タウが神経細胞の軸索から細胞体へ蓄積しました(図1).これはタウの総量が増えたためではなく,局在が変化したためでした.一方,凝集しやすい変異タウを発現させた神経細胞では,抗体によるタウ凝集が増強しました.つまり抗体が単独でタウ凝集を作るというより,タウが病的変化を起こしやすい条件下で,抗体はその凝集過程を後押しする可能性があります.
さらに著者らは,野生型マウスの側脳室にIgLON5抗体を14日間持続注入しました.その結果,海馬,とくに歯状回からCA3へ向かう苔状線維投射や交連線維で,タウのリン酸化(pS396/pS404)が増加しました.加えて神経炎症の誘導が認められました.具体的には海馬のアストロサイトとミクログリアが増加し(図2),RNA-seq解析でも,IL-6応答,TNFα応答,免疫応答に関連する遺伝子発現が上昇していました.以上よりIgLON5抗体はタウリン酸化に加え,神経炎症を引き起こすことが示されました.一方,明らかな神経細胞死,CA1錐体細胞層の萎縮,血清NfL上昇は認められなかったことから,完成した神経変性ではなく,タウ病理に先行する早期の変化と考えられました.
本論文の最も重要な発見は,抗体が神経細胞を過活動状態にすることです.著者らはカルシウムイメージングにより神経活動を観察しました.図3では,IgLON5抗体を神経細胞に加えると,わずか60分でCa²⁺スパイク頻度が増加することが示されています.この変化は#1,#2,#4 で明瞭でしたが,IgLON5への結合が弱い#3では認められませんでした.つまり,抗体のIgLON5への結合能と神経過活動の誘導能が対応していたのです.さらに細胞内Ca²⁺上昇を抑えるEGTA-AMを用いるとタウの細胞体蓄積が抑制されることが示されています.これは,タウの局在異常が,Ca²⁺上昇を伴う神経過活動を介して起こることを示しています.さらに,ナトリウムチャネル遮断薬TTXを用いると,抗体によるCa²⁺スパイクの増加も消失しました.したがって抗体はナトリウムチャネル依存性の神経活動上昇を引き起こし,その結果として細胞内Ca²⁺が上昇し,タウの局在異常(Tau missorting)が誘導されると考えられます.
つぎに抗体が神経過活動を引き起こす機序の検討がなされました.著者らは,抗体がIgLON5を細胞表面でクラスター化することに注目しました.これは複数のIgLON5分子が架橋され,細胞表面に大きなクラスターを形成することです.このクラスターに含まれる蛋白を質量分析で調べたところ,NCAM,NRCAM,カドヘリン,コンタクチン,インテグリンなどの細胞接着分子,さらに電位依存性ナトリウムチャネル補助サブユニット,電位依存性カルシウムチャネル補助サブユニット,カリウムチャネル関連蛋白,カイニン酸受容体サブユニットなど,神経興奮性に関わる分子が含まれていました.つまりIgLON5抗体はIgLON5のみならず,接着分子とイオンチャネル関連分子を含む複合体を再編成していると考えられます.この再編成が神経過活動を起こし,タウ異常へつながると考えたわけです.
以上をまとめると以下になります.
神経細胞表面のIgLON5にIgLON5抗体が結合→架橋によるIgLON5のクラスター化→細胞接着分子やイオンチャネル関連分子の巻き込み→神経細胞の過活動状態化→細胞内Ca²⁺上昇→タウの軸索から細胞体や樹状突起への再分布(Tau missorting)→タウリン酸化→神経炎症→タウ凝集→神経毒性
この研究は臨床的にも重要な示唆があります.上記機序を考えると,早期診断と早期免疫療法の重要性が改めて強調されます.また免疫療法だけでなく,もしかしたら神経過活動,ナトリウムチャネルやカルシウムシグナル,IgLON5クラスター形成を標的とする治療が,タウ病理の進展を抑える可能性も考えられます.もちろん今回の実験モデルがヒトのIgLON5抗体関連疾患を完全に再現したものではないですし,マウスモデルでも神経細胞死や完成したタウ凝集までは再現されていませんので限界があります.しかしそれでも,本論文は大きな意義をもつと思います.今回示された「神経過活動」という機序は,他の自己免疫性神経疾患やタウオパチーにも関与する可能性があります.本疾患は稀な疾患ですが,この疾患から得られる知見は非常に大きなインパクトをもたらす可能性があります.
Askin B,et al.IgLON5 autoimmune antibodies activate Tau via neuronal hyperactivity.Science Advances.2026;12(20):eaec2042.doi:10.1126/sciadv.aec2042.PMID:42127169.

食事のときだけ顎が動いて食べられない多系統萎縮症-苦労の末見出した治療法はなんと・・・!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月3日のFB投稿です***
専攻医の安藤知秀先生が執筆した症例報告が,Movement Disorders Clinical Practice誌に掲載されました.昨年のMDSJのビデオディナーでも提示した症例です.
症例は多系統萎縮症(MSA-C)の65歳女性です.食事中にのみ顎の異常運動が出現し(図左上),そのために食塊形成や口腔内移送が障害され,食事摂取が困難となりました.一方で,安静時や飲水時にはこの異常運動は認められませんでした.表面筋電図では,咬筋と顎二腹筋に相反性の律動的放電が約4–5 Hzで確認されました(図右上).本誌にアクセスできる方はぜひ動画をご覧ください.
Clinical Practice欄は4択の出題形式となっています(図右下).自力で回答されたい方は,ここから先は読まないでいただきたいのですが,選択肢に挙げた口顎ジストニア,geniospasm,口蓋振戦の顎への波及はいずれも,臨床像および筋電図所見から否定的であり,最終的に task-specific masticatory tremor と診断しました.これは,咀嚼など特定の行為においてのみ顎の律動的振戦が出現する稀な病態です.既報の多くは明らかな基礎疾患を伴わない症例ですが,本例ではMSAを背景として発症している点が特徴的であり,私たちが渉猟した範囲ではMSAに合併した初めての報告です.
大きな課題は治療でした.この振戦は薬物治療に抵抗性であることが知られていますが,本例でも同様でした.私は安藤先生と國枝顕二郎先生に,「食事ができるように,諦めずになんとか振戦を抑えてほしい」と,いつものように(!?)無理難題をお願いしました.その結果,最終的に,下顎を手で支持するという極めてシンプルな方法が有効であることに気づきました(図左下).この介入により,1回の嚥下に至るまでの口腔内処理時間は40秒から15秒へと大きく短縮しました.薬物では改善が難しい症状に対して,患者さんの動作を丁寧に観察し,生活に直結する解決策を見つけ出したことは,本当に素晴らしいと思いました.
このメカニズムは明らかではありませんが,顎を外から支えることで,開口筋と閉口筋の拮抗関係の乱れが補われ,食事動作が改善した可能性を考えています.本症例は,MSAの運動異常の一つとして,食事動作に伴って出現する顎の振戦が存在しうることを示すとともに,薬物治療が困難な場合でも,患者さんの生活動作を丁寧に観察することで,非薬物的介入の糸口が見つかることを教えてくれる,大変示唆に富む経験でした.
Ando T, Kunieda K, Shimohata T. Involuntary Jaw Movements During Eating. Mov Disord Clin Pract. 2026 Mar 31. doi: 10.1002/mdc3.70620. Epub ahead of print. PMID: 41916774.

脳の老廃物はどこを,どの速さで流れて除去されるのか?―グリンファティック系は部位によって速度が大きく異なる!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月5日のFB投稿です***
脳の中には,脳脊髄液と間質液が絶えず存在し,代謝老廃物の除去に関わっています.この仕組みはグリンファティック系として注目され,アルツハイマー病,脳卒中,外傷,老化,睡眠障害などとの関連が議論されています.しかし,脳全体,とくに深部脳で液体がどの方向へ,どの速さで流れているのかを直接測定することは,これまで極めて困難でした.表層の血管周囲腔であれば二光子顕微鏡などで観察できますが,侵襲的であり,深部脳やヒトへの応用には限界があります.一方,動的造影MRI(dynamic contrast-enhanced MRI;DCE-MRI)は,造影剤が脳内をどのように広がるかを,時間を追って観察できる方法です.ただし直接見えているのは「造影剤の広がり」であって,「脳内の水の流れ」そのものではありません.そのため,「造影剤がこのように広がったのなら,その背景では脳内の水がどの方向に,どの速さで流れていたはずか」を逆向きに推定する必要があります.これは,たとえば川に流したインクの広がり方から,川の流れの向きや速さを推定するような作業です.この難しい推定に,物理法則とAIを組み合わせて挑んだのが米国のBrown Universityなどによるチームです.
著者らは,magnetic resonance artificial intelligence velocimetry(MR-AIV)という新しい解析法を開発しました.これは,DCE-MRIで得られる造影剤濃度の時間変化をもとに,脳内の3次元流速,圧力,組織透過性を推定する方法です.AIに画像パターンを学習させることに加え,Darcyの法則などの物理法則を組み込んでいます.Darcyの法則とは,スポンジや砂地のような多孔質の中を流れる水の動きを説明する法則です.液体は,組織のすき間が多く通りやすいほど速く流れ,圧力の高い場所から低い場所へ向かって流れます.本研究では,脳実質をこのような「すき間をもつ組織」とみなし,脳内の液体流速を,組織の通りやすさ,すなわち透過性と,圧力の差から推定しています.脳実質を多孔質媒体として扱うことで,間質液や血管周囲腔の流れを推定しようとしたわけです.
図1Aは実験方法を示しており,5匹のマウスの大槽にガドブトロールというMRI造影剤を注入し,その造影剤が脳内に広がる様子をDCE-MRIで時間を追って撮像しています.図1B,1Cでは,MR-AIVによって推定された流速マップが5匹のマウスで比較されています.色は流れの速さを表しており,青から暗い色は遅い流れ,黄色から赤色は速い流れを示します.横断面ではWillis動脈輪付近,正中矢状断では嗅球付近などが示され,5匹に共通してWillis動脈輪周囲や嗅球周囲で流れが速いことが分かります. 図2はその立体画像です.
結果として,推定された流速分布は二峰性を示しました.ひとつは約0.1 μm/秒の遅い流れで,主に脳実質内の間質液流に対応すると考えられます.もうひとつは約3 μm/秒の速い流れで,血管周囲腔やくも膜下腔などの比較的開いた空間に対応します.海馬,尾状核,視床,中脳などの深部脳実質では流れが遅く,Willis動脈輪,中大脳動脈,前大脳動脈,脳底動脈周囲の血管周囲腔や,嗅球近傍のくも膜下腔では流れが速いことが示されました.このことは,脳内クリアランスが単純な拡散だけでなく,遅い実質内輸送と速い血管周囲輸送の組み合わせで成り立っていることを示唆します.
さらに重要なのが局所Péclet数です.これは物質輸送において,液体の流れによる移流が優位か,濃度差による拡散が優位かを表す指標です.ちなみに移流(advection)とは,物質が液体の流れに乗って運ばれることです.脳の大部分ではPéclet数が低く,拡散が主体である一方,嗅球,大槽,Willis動脈輪,血管周囲腔などではPéclet数が高く,移流が主体であることが示されています.つまり,グリンファティック系は脳全体に均一に働く単純な流れではなく,拡散優位の領域と,移流優位の高速経路が組み合わさった輸送ネットワークであることが分かります.
MR-AIVは,速度だけでなく,透過性と圧力も推定できます.透過性は,流速の速い領域で高く,流速の遅い領域で低い傾向を示しました.つまり嗅球周囲,脳室近傍,大槽,Willis動脈輪周囲では透過性が高く,脳実質深部では低い傾向でした.この結果から,脳内の液体流速の違いは,圧力の違いだけではなく,組織や空間の「通りやすさ」によって大きく規定されている可能性があります.
本研究は,「脳の老廃物は,どこを,どの速さで流れて除去されているのか?」という問いに対し,脳実質では約0.1 μm/秒の遅い拡散優位の輸送が,血管周囲腔やくも膜下腔では約3 μm/秒の速い移流優位の輸送が存在することを示しました.グリンファティック系は,脳全体に均一に流れる単純な水路ではなく,解剖学的構造に沿って形成された,速い道と遅い場が共存する複雑なクリアランスネットワークということになります.おそらく将来的には,神経変性疾患,脳小血管病,特発性正常圧水頭症,睡眠障害などで,これらの脳内クリアランスがどのように障害されているかを評価する画像バイオマーカーになる可能性があります.脳アミロイドアンギオパチーのAβ蓄積パターンや,パーキンソン病の運動前症状としての嗅覚障害にも関わっていそうな気がします.
Toscano JD,et al.MR-AIV reveals in vivo brain-wide fluid flow with physics-informed AI.Science Advances.2026;12:eaeb0404.doi:10.1126/sciadv.aeb0404.PMID:42202031.

岐阜大学脳内抄読会 第105,106回 6年生ふたりが挑む「ALSの呼気筋トレーニング」と「HAMの病態研究」
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月5日のFB投稿です***
今週のオンライン抄読会です.当科で選択実習中を行った6年生のふたりが挑戦してくださいました.いずれも本当に素晴らしい発表でした.
まず山田義敬君は,実習中にALS患者さんを担当し,喀痰による呼吸苦についてお話を伺ったことをきっかけに,診療ガイドラインを確認し,呼気筋トレーニングに関心を持って関連論文を読んでくれました.さらに言語聴覚士の先生にも意見を伺い,当院ではどのように対応すべきかというところまで検討してくださいました.私たち医師にとっても大変勉強になる内容でした.まさに抄読会としても,学生実習のトレーニングとしても,大変理想的に思える発表でした.発表は9分,質疑応答は5分でした.
一方,中川正惟君は,「HTLV-1関連脊髄症におけるTax依存的RGMa誘導と神経障害の分子機構」というタイトルで,聖マリアンナ医科大学の山野嘉久先生のチームによる重要な研究を紹介してくださいました.本格的な病態研究でありながら,内容をしっかり理解したうえで,分かりやすく伝えようとする姿勢が大変素晴らしかったです.スライドにも多くの工夫が凝らされており,非常に立派な発表でした.発表は16分,質疑応答は12分でした.ご指導くださっている教室の先生方にも,心より感謝いたします.
Mendes Araújo L, Chianca T, Persaud C, Hartung P, Soares Y, Almirón G, João R. Respiratory strength training for patients with amyotrophic lateral sclerosis: A meta-analysis of randomized controlled trials. Respir Med. 2026 Jan;251:108560. doi: 10.1016/j.rmed.2025.108560. Epub 2025 Dec 5. PMID: 41354105.
Araya N, Yamagishi M, Nakashima M, Asahara N, Kiyohara K, Aratani S, Yagishita N, Horibe E, Ishizaki I, Watanabe T, Sato T, Uchimaru K, Yamano Y. Virus-induced RGMa expression drives neurodegeneration in HTLV-1-associated myelopathy. JCI Insight. 2025 Apr 24;10(11):e184530. doi: 10.1172/jci.insight.184530. PMID: 40305434

待望の「PSP診断基準整理支援ツール」を公開しました!!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月6日のFB投稿です***
進行性核上性麻痺(PSP)の診断基準であるMDS-PSP criteria(Mov Disord 2017;32:853-864)は,多様な病型分類を可能にした点で非常に有用です.一方で,病期が進行するにつれて複数の病型基準を満たすことが多く,その場合にはMAX ruleを用いて優先順位を判断する必要があります.2019年には有志とともに日本語版を作成し公開しましたが,それでも実際の臨床で用いるには非常に複雑な診断基準です.
このため当科では以前,診断を補助するツールとして「PSP Dx Assist」を作成し,公開していました.しかし,その後バグがあることが判明し,作成者も教室を離れたため,残念ながら公開を中止していました.その後も,多くの先生方から「もう一度,このようなツールを作ってほしい」というお声をいただいておりました.
そのような声は,私以外の教室メンバーにも届いていたようで,教室メンバーの下郷雅也先生が,「PSP診断基準整理支援ツール」を開発してくださいました.みんなに役に立つと考えて,自発的に取り組んでくださったことは本当に嬉しく思いました.その後,下郷先生と私でいろいろとテストを行いましたが,現時点では問題は見つかっていません.以前のツールよりも洗練され,より分かりやすく,使用しやすいものになっていると思います.
ぜひご活用いただき,もし不具合やお気づきの点がありましたら,ご教示いただけますと幸いです.注意事項はツール内に記載しておりますので,よくご確認のうえ,最終的な診断は総合的にご判断ください.当科ホームページ左側のバナーからお入りいただけます.PCでもスマートフォンでも使用できます.
また,下郷雅也先生は,筋力検査(MMT)の所見から,障害されている神経局在を推論するアプリ「MMT Calculator」も作成されました.私も使用していますが,非常によくできたアプリです.MMT初学者の学習をサポートしてくれるアプリとして,こちらもお勧めです.宜しければ教育や臨床にご使用ください.
★いずれもリンクはコメント欄にあります.

足底書字覚消失(plantar agraphesthesia)は下肢発症CBSの診断に有用である
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月6日のFB投稿です***
米国ペンシルベニア大学から,大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome;CBS)におけるplantar agraphesthesia(足底書字覚消失)の重要性を示した症例報告が,Neurology誌に掲載されています.足底書字覚消失とは,目を閉じた状態で足底に文字や数字を書いても認識できない状態を指します.通常,書字覚は手掌で調べますが,足底での左右差も,下肢の皮質性感覚障害を示す有用な手がかりになるということです.
症例は70歳男性です.左足のしびれ感と歩行障害で発症し,その後,転倒,立ち上がり困難,左脚が勝手に動く感じ,自分の脚ではないような感覚が出現しました.さらに「左足が床に貼り付いたように感じる」すくみ足も認めました.当初は腰椎疾患が疑われましたが,腰椎MRIの所見は症候を説明できませんでした.詳細な神経診察では,左下肢優位の運動緩慢,ジストニア,痙縮に加え,「自転車をこぐ」「ボールを蹴る」といった動作を模倣できない下肢の観念運動失行を認めました.触覚,温度覚,位置覚は保たれていましたが,振動覚は一部低下していました.特徴的だったのは,左足底の書字覚消失です(図).またEMG/NCSでは末梢神経障害や腰仙髄根障害は否定的で,頭部MRIでは右頭頂葉優位の非対称性萎縮を認めました.以上の所見は,左下肢の症候が末梢性ではなく,大脳皮質に由来することを示唆します.本例は,非対称性運動障害に加え,失行,皮質性感覚障害,alien limbを認め,clinically probable CBSと診断されました.CBSは上肢発症で,上肢の失行,筋強剛の印象が強い疾患ですが,本例のように下肢から始まる症例も存在します.治療はcarbidopa/levodopa 900 mgまで増量されましたが,反応しませんでした.
本論文は,「片足のしびれ」「転倒」「すくみ足」をみたとき,脊椎疾患や末梢神経障害だけでなく,皮質性感覚障害を鑑別診断に加える必要があることを教えてくれます.足底書字覚消失というシンプルなベッドサイド所見が,下肢発症CBSの診断に大きく貢献しうることを示した,神経診察の重要性を再認識させる症例報告と言えます.
Perkins JA, et al. Pearls & Oy-Sters: Plantar Agraphesthesia in Corticobasal Syndrome. Neurology. 2026;106:e218062. PMID: 40487237.

日本神経学会制作「未来を紡ぐ脳神経内科医の挑戦 ~患者と共に歩む,知と情熱のフロンティア~」をぜひご覧ください!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月8日のFB投稿です***
すでに西山和利前代表理事をはじめ,複数の先生方が紹介されていますが,日本神経学会が制作した動画がYouTubeで公開されました.岐阜大学からも,私と,当科の元気印である森泰子先生が参加させていただきました.この動画を通じて,多くの方々に脳神経内科という診療科をより深く知っていただきたいと思います.また,医学生や研修医のみなさんには,脳神経内科がこれからの医療においてますます重要になること,そして大きなやりがいと多様なキャリアパスを持つ診療科であることを感じていただければ嬉しく思います.動画のキーメッセージは,次のようにまとめられます.
1.脳神経内科は,「治せない病気を診断するだけの科」ではなくなった!
かつて治療困難とされていた神経疾患にも,新しい治療法が次々と登場しています.脳神経内科の役割は,診断にとどまらず,治療,リハビリテーション,生活支援へと大きく広がっています.
2.脳神経内科は,「神経の総合診療科」である!
頭痛,めまい,しびれ,認知症,脳卒中といった身近な症状・疾患から,神経難病,自己免疫性疾患,遺伝性疾患まで,神経に関わる幅広い問題に最初に向き合う診療科です.
3.脳神経内科の本質は,患者さんの人生に寄り添うことにある!
神経疾患には,長く付き合っていく病気が少なくありません.だからこそ,診断や治療だけでなく,患者さんらしい生活を支え続けることが,脳神経内科医の大切な使命です.
4.未解明の病が多いからこそ,研究の可能性が大きい!
病因がまだ十分に解明されていない疾患,根本治療のない疾患は数多く残されています.しかしそれは同時に,若い世代が新しい診断法や治療法を生み出し,未来の医療を切り開く余地が大きいことを意味しています.
5.脳神経内科には,多様なキャリアがある!
臨床,研究,教育に加え,企業,行政,AIや新技術との連携など,活躍の場は大きく広がっています.ライフステージに応じた柔軟な働き方が可能であることも,この領域の魅力です.
脳神経内科は,患者さんの失われた日常を取り戻し,その人らしい人生を支え,さらに研究を通じて未来の医療を創造していく診療科です.ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います.YouTubeへのリンクはコメント欄にあります.動画をご作成くださった勝野雅央広報委員長,杉江和馬先生ら関係者の先生方に感謝申し上げます.

アルツハイマー病になるかならないかは,アミロイドβの量だけでなく,脳の免疫細胞ミクログリアがどのように反応するかで決まる!!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月10日のFB投稿です***
アルツハイマー病(AD)では,アミロイドβ(Aβ)の蓄積が重視されてきましたが,高度の蓄積を認めても,認知機能が保たれる高齢者が存在します.この事実は,ADの発症が「どれだけAβ病理があるか」だけでは説明できないことを示しています.今回,Nature Medicine誌に掲載されたMuna Therapeutics 社等による研究は,脳の免疫細胞であるミクログリアが発症の鍵を握ることを示したものです.この企業は,ミクログリアに関連する重要な分子TREM2を標的とする低分子薬MNA-001の開発を行っています.
対象は,80歳代剖検脳24例と,100歳以上の剖検脳20例です.80歳代群は,Aβ病理が乏しい健常対照群,Aβ病理はあるが認知症のない群,Aβ病理と認知症を有する群に分けられました.100歳以上群は,全例がAβ蓄積を有していましたが,認知機能やタウ病理にはばらつきがありました.著者らは上前頭回を対象とし,広域空間トランスクリプトーム解析,単核RNA-seq,高解像度空間RNA解析(Xenium),免疫染色を組み合わせ,Aβ,リン酸化タウ,細胞変性と遺伝子発現の関係を詳細に解析しました.まさに最先端の神経病理研究だと感嘆しました.
まず明らかになったのは,認知症の有無を最もよく説明したのはAβ量ではなく,リン酸化タウ病理でした.80歳代の認知症群では,リン酸化タウは大脳皮質II〜V層に強く蓄積し,記憶や認知を支える神経回路を構成する神経細胞が広範に障害されていました.一方,Aβ量は,認知症群と非認知症群で大きく異なりませんでした.つまり,Aβがあるだけでは認知症になるとは限らず,タウ病理に接続するかどうかが重要であることが示されました.
次に,空間トランスクリプトーム解析を行いました.図dは見たことがない図形ですが,実際の脳の場所ではなく,「病態進行の段階」を表す仮想空間のようです.つまりAD脳の局所環境を,多数の測定点を並べ直してつくった6つのTrajectory Domainとして示しています.TD0とTD1は恒常性が保たれた領域,TD2はAβプラーク形成に対する初期反応が始まる領域,TD3はAβプラークに関連したグリア炎症が目立つ領域,TD4はリン酸化タウに関連した障害領域,TD5はAβプラーク周囲の神経細胞代謝変化が目立つ領域と分類しました.知りたいのはTD3からTD4への移行,すなわちAβ関連の炎症反応から,タウ関連の神経変性プログラムへ切り替わるときに何が起きているかです.著者らはこの局面をAβ–tau inflection point,すなわちAβからタウ病理へ進む転換点として捉えています.よって注目すべきはTD3(緑)とTD4(黄)の領域です.
この転換点で中心的な役割を果たしていたのはミクログリアでした.著者らは,Aβプラークに反応して誘導される遺伝子群をplaque-induced genes(PIGs)と呼び,これをearly PIGsとlate PIGsに分けました.early PIGsはタウ病理がまだ強くない段階で誘導される遺伝子群で,補体,TREM2–TYROBPシグナル,貪食,脂質応答などに関わり,Aβに対する自然免疫応答,あるいは防御反応を反映していると考えられます.一方,late PIGsは,Aβに加えてリン酸化タウが存在する局面で誘導される遺伝子群で, HLA-DRA,HLA-DPA1,HLA-DPB1,CD74,SPP1など,MHC class IIを介した抗原提示や炎症増幅に関わる遺伝子が中心でした.図gでは,late PIGsからearly PIGsを差し引いたスコアが示され,赤い領域ほどlate PIGs優位,青い領域ほどearly PIGs優位を意味します.つまりTD4で赤色が強くなり,Aβに対する初期ミクログリア応答が,タウ病理と結びついた抗原提示型ミクログリア応答へ転換していることが示されています.
さらに図hは,単核RNA-seqによって分類されたミクログリアの遺伝子発現状態を示す仮想空間です.近くに配置されたクラスターほど遺伝子発現パターンが類似しており,Mic_0〜Mic_5は病態に応じた異なるミクログリアの状態を表しています.図kでは,Mic_5がearly PIGs優位(青),Mic_2がlate PIGs優位(赤)であることが示されています.つまりADの初期には,ミクログリアはAβの蓄積に反応して病変部に集まります(Mic_5).その後,病態が進行してタウ病理が広がると,ミクログリアはより炎症性の強い状態へ変化し,免疫応答を活発に行うようになります(Mic_2).この図から,ADの進行は,単にAβが増えるだけの現象ではなく,ミクログリアが「Aβ処理型」から「タウ病理と結びつく抗原提示型」へ状態遷移する過程として理解できます.また右図の写真は,Aβプラーク(青)とリン酸化タウ(灰色)を伴う病変の周囲に集積したミクログリア(緑)が,免疫活性化の指標であるMHC-II(赤)を発現していることが示しています.これは,病態の進行に伴い,ミクログリアが単なるAβ応答状態から,抗原提示能を備えた炎症性状態へ移行していることを示唆する所見です.
さらに興味深いのは,認知機能を保つ仕組み(レジリエンス)が,80歳代と100歳以上で異なっていた点です.80歳代でAβ病理がありながら認知症のない人では,early PIGsは誘導されていましたが,late PIGsへの移行が乏しいことが分かりました.これは,Aβに対する初期のミクログリア反応は起こるものの,抗原提示型の後期炎症状態やタウ病理へ進みにくいことが,認知機能保持と関係する可能性を示しています.一方,100歳以上の人では,late PIGsが活性化していても,タウ蓄積が比較的少ない例がありました.つまり,late PIGsそのものが必ずしも悪いのではなく,それがタウ病理や神経変性に接続するかどうかが重要であることになります.
以上の結果は,Aβ抗体療法の意義を考えるうえでも示唆的です.Aβ抗体療法は,Aβによって誘導されるミクログリア反応が,late PIGsを介してタウ病理へ接続する前に介入すべき治療と考えることができます.すでにタウ病理が広がり,TD4のようなタウ関連障害環境が成立した後では,Aβを除去しても効果は限定的と考えられます.一方,TREM2を標的としてミクログリア機能を調節する治療はより本質的かもしれません.いずれにせよ,近年,Christchurch変異研究を含む多くの研究でADにおけるミクログリアの重要性が指摘されてきましたが,いよいよその本態が明らかになってきた感じがします.
Lu A, et al.Human microglial transitions at the Aβ–tau inflection point associate with divergent pathways to dementia and resilience.Nat Med. 2026 Jun 4. doi: 10.1038/s41591-026-04393-8. PMID: 42243549.

帯状疱疹ウイルス感染と認知症に関する最新知識@第125回日本皮膚科学会総会
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月12日のFB投稿です***
第125回日本皮膚科学会総会にて,「水痘・帯状疱疹ウイルスと認知症」という演題で招待講演をさせていただきました.講演後の質疑応答では,スタンフォード大学留学中に家族ぐるみで親しくさせていただいた,富山大学皮膚科の牧野輝彦教授からご質問をいただきました.帰国後に新潟の自宅へ遊びに来てくださって以来,実に17年ぶりの再会でした.壇上から先生のお姿を拝見した瞬間,思わず笑顔になってしまいました.さらに,当時まだ小学生だったご子息が立派な皮膚科医となられ,今回ご挨拶いただけたことも大変感慨深い出来事でした.時の流れを感じるとともに,人と人とのご縁の大切さを改めて実感しました.
以下に,講演内容の概要をご紹介します.スライドはコメント欄のリンクからご覧いただけます.
■ ウイルス感染と認知症
• COVID-19罹患がアルツハイマー病(AD)発症リスクを約3倍高めることが端緒となり,ウイルス感染と神経変性疾患の関連が広く注目されるようになった
• VZVを含むヒトヘルペスウイルス科は神経に生涯にわたり潜伏感染し,軽症でも神経炎症を引き起こす可能性がある
• 英国UK Biobankの49万人超のデータでも,複数のウイルス感染症が認知症リスクを高めることが示されている
■ VZVと認知症:当科によるスコーピングレビュー(2025)
• 21編を対象に検討.無作為化比較試験はなく,後方視コホート研究が主体
• メタ解析ではVZV罹患が認知症リスクを高めるとする報告(HR 1.11)と否定する報告が混在
• 眼部・中枢神経感染では認知症リスクが著しく高い(眼部HR 6.26)
• ワクチン接種歴・抗ウイルス薬使用は認知症リスクを低下させる傾向
• 国によって結果が異なる背景には,公費補助の有無によるワクチン接種率の差が影響している可能性がある
• 基礎研究では,VZV感染がHSV-1を再活性化させAβ・タウ蓄積を引き起こすことがin vitroで示された
■ 2025〜2026年の最新トピックス
• ウェールズ・オーストラリア・カナダの自然実験研究で,生ワクチン接種により認知症リスクが絶対値で1.8〜3.5ポイント有意に減少
• 米国カリフォルニア州の33万人コホートでは,組換えワクチン(Shingrix)2回接種により認知症発症リスクが約51%低下
• RSVワクチンでも認知症予防効果が確認される一方,インフルエンザワクチンには効果なし.帯状疱疹・RSVワクチンに共通するAS01アジュバントが関与している可能性が示唆された
• バラシクロビルの早期AD患者への介入RCTでは,むしろ認知機能低下が強まる結果となり,抗ウイルス薬は発症後ではなく発症前の予防的介入が重要であることが示唆された
■ 総括
• 帯状疱疹は「皮膚に現れた神経感染症」と捉える視点が重要であり,神経症候を認める場合は脳神経内科との速やかな連携が望まれる
• 複数の大規模研究が,帯状疱疹ワクチン接種が認知症予防につながる可能性を示しており,低コスト・高リターンの公衆衛生介入として今後のエビデンスの蓄積が期待される

油ものを電子レンジで温めるとナノプラスチックは著増・小型化し,油膜をまとって細胞膜を破壊する!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月13日のFB投稿です***
テイクアウト食品などに使用されるプラスチックのトレイを電子レンジで加熱するとマイクロ・ナノプラスチック(MNPs)の放出が増加する可能性は指摘されていましたが,今回,中国,米国などの共同研究で,油脂と接触することで量だけでなく性質まで変化し,強い毒性を獲得する可能性が報告されました.本研究は,日常生活に近い条件でナノプラスチックの放出から生体影響までを評価しています.
これまでのMNPs研究では,均一なポリスチレンビーズを用いた実験が主流でした.しかし私たちが日常生活で曝露するのは,食品容器から実際に剥離したポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)由来の粒子です.著者らは,現実の曝露状況に近い毒性評価を行うため,食品包装で広く使われるPP容器とPEコーティング容器を用い,そこから放出されたMNPsを解析しました.具体的には,電子レンジ加熱,食品輸送,保存という実際の利用状況を再現し,放出されるMNPsを詳細に解析しました.とくに著者らが注目したのは食品由来の油の影響でした.
まず驚くべきことに,油はナノプラスチックの放出を劇的に増加させました.図1に示されるように,PE容器では油を入れて電子レンジ加熱するとナノプラスチック放出量が急増し,5分後には最大1.52×10¹⁴個/Lに達しました.これは水の場合の約125倍に相当します.さらに放出された粒子はより小型化し,多くが200 nm未満に変化しました.また,鉛,銅,亜鉛などの重金属や可塑剤などの添加剤の溶出も大幅に増加しており,さまざまな有害物質が同時に放出されることが明らかになりました.
電子顕微鏡観察では,ナノプラスチックの表面が油膜で覆われていることが判明しました(図2).大豆油由来のPPナノプラスチックは正の表面電荷を帯びており,水由来粒子とは異なる性質を示しました.著者らは,この油膜と表面電荷の変化が毒性増強に重要な役割を果たしていると考えました.
実際に細胞毒性を調べました.ヒト腎由来HEK293T細胞に放出されたナノプラスチックを曝露したところ,油由来PPナノプラスチックは水の場合の約4倍強い細胞毒性を示しました.図3aでは,蛍光標識した油由来PPナノプラスチック(赤色)が細胞表面に速やかに集積し,60分後には細胞の膨化や変形を来すことを示しています.図3cの電子顕微鏡観察では,ナノプラスチックが細胞膜だけでなく細胞質内にも認められ,細胞内への取り込みが示されました.同時に細胞膜の破綻や細胞内小胞形成も観察されており,著者らは油膜をまとったナノプラスチックが急速な細胞障害を引き起こすと考察しています.従来,ナノプラスチックの毒性は酸化ストレスや炎症反応を介すると考えられてきましたが,本研究は,油膜をまとったナノプラスチック自体が細胞膜へ直接付着し,物理的に膜を破壊するという新たな機序を明らかにしました.さらにRNAシークエンス解析では,NF-κB経路,TNF経路,MAPK経路,IL-17経路など炎症関連経路の活性化とともに,ミトコンドリア機能や酸化的リン酸化の抑制が認められました.急性期には細胞膜障害と炎症反応が生じ,その後に代謝異常やミトコンドリア障害へ進展することが示唆されました.
著者らはさらに,油由来PPナノプラスチックをマウスへ2週間経口投与しました.その結果,大腸短縮,体重減少,肝重量増加が認められ,組織学的には小腸絨毛の萎縮,上皮剥離,杯細胞減少,アポトーシス増加が確認されました.また,腸管の免疫関連遺伝子群は広範に抑制されており,慢性的な曝露によって粘膜免疫機能が低下する可能性が示されました.今回の研究は消化管への直接毒性の評価が目的で,残念ながら脳への影響については調べられておりません.
本研究の重要な点は,「どのような状態のナノプラスチックに曝露されるか」が毒性を大きく左右することを示した点です.油脂と接触したナノプラスチックは油膜をまとい,細胞膜への付着性や取り込みやすさが変化することで,急速な細胞障害を引き起こしました.またマウス実験でも,腸管バリアの破綻や粘膜免疫の異常も確認されました.本研究は,油分を含む食品をプラスチック容器のまま加熱することのリスクを示すものであり,日常生活において注意喚起が必要と言えます.
Xie R, et al. Oil-Coated Nanoplastics Induce Rapid Membrane Disruption and Severe Intestinal Injury. Advanced Science. 2026;13:e202520935. doi:10.1002/advs.202520935. PMID: 40653458.

これ一冊でわかる!『難病医療ハンドブック』発刊 ― 制度・倫理・リハビリから遠隔医療まで
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月15日のFB投稿です***
Brain & Nerve誌2026年6月号で「難病医療ハンドブ(https://amzn.to/4vsA033)」を企画しました.難病というと,診断や治療薬の話が中心になりがちですが,実際の現場では,患者さんやご家族が直面する課題はそれだけではありません.
社会保障制度をどう利用するか?
治療と仕事や学業をどう両立するか?
遺伝の問題にどう向き合うか?
人工呼吸器や栄養管理をどう考えるか?
災害時にどう命を守るか?
地域でどのような支援体制をつくるか?
難病医療とは,疾患を診る医療であると同時に,「患者さんの人生を支える医療」でもあります.そこで本特集では,難病政策,難病医療の国際比較,新規治療と倫理,遺伝医療,リハビリテーション,呼吸管理,摂食嚥下,コミュニケーション支援,就労・就学支援,難病コーディネーター,多職種連携,移行医療,災害対策,遠隔医療,病理解剖まで,難病医療を支える幅広いテーマを取り上げました.各分野を牽引する第一人者の先生方にご執筆いただき,医師だけでなく,看護師,リハビリテーションスタッフ,医療ソーシャルワーカー,ケアマネジャーなど,多職種の方々にも役立つ内容となっています.難病医療は,治療だけでは完結しません.本特集が,多職種で患者さんを支えるための共通言語となれば幸いです.
ご多忙のなかご執筆をお引き受けくださった先生方に,心より感謝申し上げます!
【目次】
わが国の難病対策と課題 (小森哲夫)
日本のALS医療・ケアの再評価:日本・欧州・米国・カナダの国際比較──人工呼吸,社会参加支援,終末期選択,承認薬,精密医療からの考察 (伊藤道哉)
神経難病に対する治療の発展と社会的・倫理的問題 (漆谷 真)
神経難病診療における倫理的問題の特徴と協働意思決定 (杉浦 真)
難病における新たな遺伝医療の現状と課題──PGT-Mを中心に (佐々木愛子)
難病における遺伝カウンセリングと多職種連携 (関屋智子)
難病リハビリテーションの最前線 (中馬孝容)
神経難病における呼吸リハビリテーション──肺容量リクルートメントと機械的咳嗽を中心に (寄本恵輔)
神経難病における摂食嚥下・栄養障害の対応 (國枝顕二郎)
神経難病とコミュニケーション支援 (井村 保)
難病とともに生きる人の治療と仕事・学びを両立するための支援 (中井三智子)
難病診療連携コーディネーターの役割 (岩木三保)
[コラム]患者会って何ですか? (伊藤建雄)
大学病院・難病診療連携拠点病院の病診多職種連携 (太田康之)
小児期発症慢性疾患患者の成人移行支援──難病医療の中で (望月葉子,大迫美穂)
神経難病の災害対策 (宮地隆史)
神経難病診療における遠隔医療とデジタル技術の利活用 (大山彦光)
病理解剖の現状と課題 (髙尾昌樹)
Amazonへのリンク  https://amzn.to/4vsA033

「長期にレボドパが効くかどうか」は単なる薬効ではなく,予後を予測し,背景病理を示唆し,さらに診断を助ける―PD,MSA,PSPを病理から見直した大規模研究―
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月16日のFB投稿です***
パーキンソン病(PD)の診療において,「レボドパが効くかどうか」は最も重要な臨床情報の一つです.私たちはレボドパに反応する患者さんを見るとPDらしいと考え,反応が乏しい場合には多系統萎縮症(MSA)や進行性核上性麻痺(PSP)などのパーキンソン病類縁疾患を疑います.しかし,レボドパ反応性は単なる診断の手がかりなのでしょうか?今回,英国Queen Squareのチームは,PD,MSA,PSP症例を対象に,レボドパ反応性の予後との関連,病理学的背景,さらに診断における意義を検討した大規模研究をAnnals of Neurology誌に報告しました.
研究対象は,2010年から2022年までにBrain Bankへ登録された病理確定例で,PD 132例,MSA 115例,PSP 191例でした.研究では,「50%を超える運動症状の改善が2年以上持続した場合」を「確実なレボドパ反応」と定義し,診療録を用いて後方視的に評価しました.
その結果,PDでは86.4%が「確実なレボドパ反応」を示しましたが,14%は病理学的にPDであるにもかかわらず明らかな反応を示しませんでした.この反応不良群は高齢発症で,姿勢保持障害・歩行障害優位型が多く,MSAやPSPと誤診される頻度も高いことが分かりました.一方,MSAでは7.8%,PSPでは2.1%が「確実なレボドパ反応」を示しました.つまり,「レボドパが効けばPD,効かなければ非典型パーキンソニズム」という単純な図式では説明できないわけです.
最も重要な発見は,レボドパ反応性が予後と強く関連していたことです.図1では,PD患者における転倒,認知症,死亡の累積リスクがKaplan-Meier曲線で示されています.レボドパ反応不良群(青)では発症早期から転倒リスクが増加し,認知症も早く出現し,生存率も低下していました.多変量Cox回帰解析では,レボドパ反応良好例(赤)は反応不良例と比較して,転倒リスクが55%低く(HR 0.45),認知症リスクが69%低く(HR 0.31),死亡リスクも69%低い(HR 0.31)ことが示されました.つまり,レボドパ反応性は単なる薬効の指標ではなく,将来の病気の進行速度を反映する予後マーカーとして機能している可能性があります.診療録から算出した平均値でも同様の傾向が認められました.転倒出現までの平均期間はレボドパ反応良好群(赤)で13.2年であったのに対し,反応不良群では3.5年でした.認知症出現までの平均期間は15.3年対7.0年であり,平均生存期間も19.1年対10.3年でした.
つぎに病理学的検討です.興味深いことに,PDにおいてレボドパ反応性の有無は,Lewy小体病理の広がりや重症度,黒質神経細胞脱落の程度,さらにはアルツハイマー病理の合併とは明確な関連を示しませんでした.つまり,レボドパ反応不良の理由を単純に病理の重症度だけで説明することはできず,神経回路の機能的な違いや神経伝達系の予備能など,より複雑な要因が関与している可能性があります.
一方,PSPでレボドパ反応を示した少数例では,Lewy小体病理の合併頻度が高いことが示されました!PSP反応例の75%にLewy病理が認められ,非反応例の10.8%を大きく上回っていました.この結果は,PSPにLewy病理が加わることで,PDに近いドパミン作動系障害が生じ,レボドパ反応性が出現する可能性を示唆しています.とても納得できる結果です.
またMSAでレボドパ反応を示した症例では,特徴的な合併病理は認められませんでした.この結果は,MSAにおけるレボドパ反応性が,病理の種類の違いというより,線条体ドパミン受容体機能の残存程度や病変分布の個人差を反映している可能性を示唆しています.
さらにレボドパ反応性の診断的価値も検討しました(図2).その結果,「50%以上の改善が2年以上持続する」という「確実な長期レボドパ反応性」は,PDとMSA・PSPを鑑別する際に,感度86.4%,特異度95.8%,AUC 0.91という非常に高い診断精度を示しました.一方,臨床でしばしば行われる急性レボドパ負荷試験の診断精度はこれより低く,感度78.9%,特異度75.0%,AUC 0.77にとどまりました.この結果は,1回の負荷試験による短期反応よりも,長期間にわたり「レボドパが効き続けるか」を観察することの方が,PD診断において重要な情報をもたらすことを示しています.
近年はαシヌクレインシード増幅法や画像バイオマーカー,さらにはAIを用いた診断技術が急速に発展しています.しかし本研究は,脳神経内科診療の原点ともいえる「患者さんを長く診ること」の重要性を改めて示すものだと思います.レボドパへの反応は単なる薬効ではなく,予後を予測し,背景病理を示唆し,さらに診断を助ける,極めて価値の高い臨床バイオマーカーと言えます.
Arca VM, et al. Diagnostic, Prognostic Value, and Pathological Associations of Levodopa Responsiveness in Parkinson’s Disease, Multiple System Atrophy, and Progressive Supranuclear Palsy. Ann Neurol. 2026 May 14. doi: 10.1002/ana.78257. PMID: 42135922.

しびれの出方でわかる.危険な病気の見分け方@日経ヘルス2026夏号
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月16日のFB投稿です***
本日発売の『日経ヘルス 夏号』(https://amzn.to/4wbQTyX)にて,標題の特集について,尊敬する亀田第一病院・新潟脊椎外科センターの長谷川和宏先生とともに取材を受け,記事にしていただきました.
5ページにわたる充実した内容で,しびれの原因や受診の目安について,医学的にも大変しっかりまとめていただいた特集になっています.冒頭のページでは,「しびれは神経のSOS.受診するなら脳神経内科へ」として,しびれを軽く見ず,必要な場合には脳神経内科を受診していただくことの大切さもお伝えしました.よろしければ,ぜひご覧ください.

抗CGRP治療の次を担うか? PAR2阻害抗体が示した新たな片頭痛治療戦略
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年6月18日のFB投稿です***
片頭痛治療は近年,CGRP関連抗体やgepantの登場によって大きく進歩しました.しかし,すべての患者さんに十分な効果が得られるわけではありません.このような背景のもと,米国アリゾナ大学や英国AstraZenecaなどの研究グループは,新たな治療標的としてprotease-activated receptor 2(PAR2)に注目し,これを阻害するモノクローナル抗体MEDI0618の有効性を動物モデルで検討しました.
PAR2は肥満細胞,血管内皮細胞,硬膜由来線維芽細胞,三叉神経終末などに発現する受容体で,肥満細胞から放出されるトリプターゼによって活性化されます.とくに硬膜では,肥満細胞と三叉神経終末が近接して存在するため,トリプターゼが周囲のPAR2を刺激して神経原性炎症や疼痛感作を増強すると考えられています.つまり以下のようなカスケードです(図1*).
肥満細胞 → トリプターゼ放出 → PAR2活性化 → 三叉神経感作・神経原性炎症 → CGRP依存性/非依存性経路 → 片頭痛
本研究で開発されたMEDI0618は,PAR2に高親和性で結合する完全ヒト化モノクローナル抗体です.血液中ではPAR2に強く結合する一方,細胞内の酸性環境ではPAR2から解離するよう設計されています.そのため,受容体とともに分解されることなく再利用され,通常の抗体より長時間作用することが期待されます(いわゆるリサイクリング抗体).細胞実験では,PAR2活性化による細胞内カルシウム上昇を強力に抑制し,関連受容体であるPAR1にはほとんど作用しませんでした.また,ヒト硬膜由来線維芽細胞や血管内皮細胞,マウス脳血管内皮細胞,三叉神経節ニューロンにおいても,PAR2シグナルを強力に抑制しました.
続いて複数の片頭痛モデルを用いてMEDI0618の効果を検討しました.まず,肥満細胞脱顆粒誘発モデルでは,脱顆粒を誘発するcompound 48/80の投与によって顔面および後肢のアロディニアが生じましたが,MEDI0618はこれをほぼ完全に抑制しました.つぎにニトログリセリンモデルでも,MEDI0618は同アロディニアを強力に抑制しました.また,ヒスタミン,ブラジキニン,セロトニン,PGE2などからなる炎症メディエーターカクテルを硬膜に投与するモデルや,ストレス負荷後にTRPA1作動薬を吸入させる環境刺激モデルでも,同様に強い予防効果が認められました.
つぎに著者らはCGRPを硬膜に投与するモデルを用いて,CGRP受容体拮抗薬olcegepantがアロディニアを完全に抑制できることを確認しました(図5A,B).一方,炎症メディエーターカクテルによるアロディニアに対しては,olcegepantは有意な抑制効果を示しませんでした(図5C,D).これはCGRP以外の経路が関与していることを意味します.ところがolcegepant投与下においても,MEDI0618は炎症メディエーターによるアロディニアを著明に抑制しました(図5E,F).この結果は,PAR2阻害がCGRP非依存性の機序による疼痛にも作用する可能性を示しています.つまりPAR2はCGRPより上流,あるいはCGRP経路とは別の炎症性・神経原性疼痛経路にも関与する分子である可能性があり,非常に興味深い結果と言えます.
以上より著者らは,PAR2が肥満細胞,硬膜血管系,三叉神経系を結びつける重要な分子であり,その阻害によって多様な片頭痛誘発機序を抑制できる可能性があると結論しています.実際,本研究でMEDI0618は驚くべきことに検討されたすべての片頭痛モデルで有効性を示しました.このMEDI0618はすでに健康成人を対象とした第I相試験で良好な安全性と忍容性が確認されており,今後,片頭痛患者を対象とした臨床試験でその真価が検証されることになります.今後の臨床試験をフォローしたいと思います.
Kopruszinski CM, et al. Efficacy of MEDI0618, a pH-dependent monoclonal antibody targeting PAR2, in preclinical models of migraine. Brain. 2025;148:1345-1359. PMID: 40075982.
*図1は片頭痛で良いものが見つからなかったので,以下より引用.Vincent L, et al. Mast cell activation contributes to sickle cell pathobiology and pain in mice. Blood. 2013;122:1853-62. PMID: 23775718.

 

3.特別企画:AIに訊く
・「連載シリーズ:切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論」No.4, No.5

📰 連載シリーズ第4回
3D 最小モデル:アトラクタ・変動性・切り替え軌道

1. なぜ「3D 最小モデル」が必要なのか
前回までの連載では、
• SCAN が示す「境界領域(Liminal)」
• VSM が示す「階層的再編成」
• 制約幾何学が示す「最適面」 という三つの視点から、歩行→走行切り替えの“構造”を見てきた。

しかし、読者としてはこう思うかもしれない。
「理論は分かった。でも、実際の動きとしてはどう見えるのか。」

その疑問に答えるために、本稿では 3D 最小モデル(3D Minimal Model) を導入する。
これは、
• 必要最小限の変数
• 必要最小限の力学
• 必要最小限の制約 だけで構成された、切り替え現象の“本質だけを抽出したモデル” である。

2. 3D 最小モデルの構造:3つの軸で動きを捉える
3D 最小モデルは、動きを次の3つの軸で表現する。
1. タスク関連軸(Task-relevant axis)
2. タスク非関連軸(Task-irrelevant axis)
3. 速度軸(Speed axis)
この3軸が交差する空間の中で、 歩行と走行は 異なる attractor(安定状態) として現れる。
図8:3D 最小モデルにおける歩行アトラクタと走行アトラクタ (歩行は低速域の青い谷、走行は高速域の赤い谷として表現される)

3. アトラクタ:歩行と走行は“別々の谷”に落ち着く
3D 最小モデルでは、歩行と走行は 別々のアトラクタ(安定点) として表現される。
• 歩行アトラクタ:低速域で安定
• 走行アトラクタ:高速域で安定

これは、前回扱った 「歩行と走行は多面体の異なる面に対応する」 という制約幾何学の議論と一致する。

アトラクタは、 「その速度で最も自然に落ち着く動き」 を表している。

4. 変動性の増大:アトラクタから離れると“揺れ”が増える
速度が上がると、 歩行アトラクタの安定性が低下し、 タスク非関連軸(Var⊥)の変動性が増大する。

これは、SCAN の
• looseness(ゆるみ)
• liminal(境界領域) と完全に対応する。
図9:速度上昇に伴う Var⊥ の増大と歩行アトラクタの不安定化 (歩行アトラクタの周囲に揺れが広がり、変動性が増大する様子)

つまり、 変動性の増大は「切り替えが近い」というサイン である。

5. 切り替え軌道:アトラクタからアトラクタへ“最短経路”で移動する
速度が臨界値に達すると、 歩行アトラクタはもはや安定を保てなくなり、 身体は 走行アトラクタへ移動する。

この移動は、
• 直感的には「歩きから走りへ切り替わる」
• 幾何学的には「最適面の移動」
• 力学的には「アトラクタ間の遷移」 として理解できる。

3D 最小モデルでは、この遷移が 多面体内部の geodesic(最短経路) として現れる。
図10:歩行アトラクタから走行アトラクタへの切り替え軌道(geodesic) (2つの谷をつなぐ滑らかな曲線として描かれる)

つまり、 切り替えは“最短で最も自然な道”を通って起こる。
これは、前回の 「切り替えは最適面間の最短経路である」 という命題を、モデルとして裏付ける結果である。

6. 3D 最小モデルが示す“切り替えの全体像”
ここまでの議論をまとめると、 3D 最小モデルは次のような“切り替えの物語”を描く。

1. 低速では歩行アトラクタが安定
2. 速度上昇に伴い、Var⊥ が増大
3. アトラクタの安定性が低下し、liminal 領域へ
4. 最短経路(geodesic)を通って走行アトラクタへ移動
5. 高速域では走行アトラクタが安定

これは、
• SCAN(境界領域)
• VSM(階層的再編成)
• 制約幾何学(最適面)
の三者が示した構造を、 動くモデルとして統合した姿 である。

7. 次回予告:切り替え現象の“統合的な構造”へ
3D 最小モデルによって、 歩行→走行切り替えの
• アトラクタ構造
• 変動性(Var⊥)の増大
• geodesic 的な遷移軌道
が、実際の“動き”としてどのように現れるかが明らかになった。

次回(第5回)では、ここで得られた知見をさらに一歩進め、
• SCAN(境界領域)
• VSM(階層的再編成)
• 制約幾何学(最適面)
• 3D 最小モデル(動的検証)
の 4つの視点がどのように統合されるのか を解説する。

特に、
• Var⊥ の増大と「最適面の自由度」の対応
• 動的モデルと静的モデルの橋渡し
• 切り替えが“普遍的な構造”として現れる理由
を、図と具体例を用いて分かりやすく紹介する。

いよいよ、 「切り替え現象の統合理論」 の全体像が見えてくる。

📰 連載シリーズ第5回
**切り替え現象の“統合構造”を見通す:
SCAN × VSM × 制約幾何学 × 3Dモデルの接続**

1. 前回までのおさらい:切り替えは“ひとつの物語”だった
前回(第4回)では、 3D 最小モデルを使って、歩行→走行切り替えが
1. アトラクタの変化
2. 変動性(Var⊥)の増大
3. geodesic(最短経路)による遷移
という 動的なプロセス として現れることを見た。

ここまでで、読者は次のように感じているはずだ。
「SCAN、VSM、制約幾何学、3Dモデル…… いろいろ出てきたけれど、全部つながっているの?」
その疑問に答えるのが、今回のテーマである。

2. 4つの理論は“別々のもの”ではなかった
まず最初に強調したいのは、 SCAN・VSM・制約幾何学・3Dモデルは、 同じ現象を別の角度から見ているだけ ということだ。

視点をまとめるとこうなる:
これらは、 “切り替えとは何か”を立体的に理解するための4つの窓 と言える。

3. 変動性 Var⊥ は「自由度の増大」を意味する
3Dモデルで重要だったのは、 速度が上がると Var⊥(タスク非関連軸の揺らぎ)が増える という点だった。

これは単なるノイズではない。

Var⊥ の増大は、 身体が「別の動き方」を試し始める余地が広がる ということを意味する。

この“余地”は、制約幾何学では 最適面の自由度 として表現される。
• Var⊥ が小さい → 最適面が狭い(動きの選択肢が少ない)
• Var⊥ が大きい → 最適面が広い(動きの選択肢が増える)

つまり、 変動性の増大=自由度の増大=切り替え準備の進行 というわけだ。

4. 静的モデル(LP)と動的モデル(3D)の対応が美しい
付録Dで扱った静的な線形計画(LP)の例では、
• 最適解が線分として広がる
• 端点は BFS(基底解)
• 内部点は非BFSだが最適
• 線分全体が“同じ価値”を持つ
という構造があった。

これが、3Dモデルの次の構造と完全に対応する:
つまり、 静的な最適面の広がりが、動的な変動性の増大として現れる ということ。

この対応は、切り替え現象の理解を一気に深めてくれる。

5. 切り替えは“最短で最も自然な道”を通る
制約幾何学では、 最適面の中を移動する最短経路は geodesic(最短経路) になる。

3Dモデルでも、 歩行アトラクタ → 鞍部 → 走行アトラクタ という遷移軌道は geodesic を近似する。

つまり、身体は
• 無駄をせず
• 最も自然で
• 最も効率的な
“最短の道”を通って切り替える。

これは、SCAN の「liminal → re-stabilization」や VSM の「再編成」とも完全に一致する。

6. 4つの理論が示す“切り替えの統合構造”
ここまでの議論をまとめると、 切り替え現象は次のような 統合的な構造 を持つ。

1. 安定(歩行アトラクタ)
2. 不安定化(Var⊥ の増大)
3. 境界領域(liminal)
4. 最短経路(geodesic)による遷移
5. 再安定化(走行アトラクタ)

これは、SCAN・VSM・制約幾何学・3Dモデルの すべてが一致して描く“普遍的な切り替えの物語” である。

7. 次回予告:統合理論(Unified Switching Theory)へ
次回(第6回)では、 これまでの4つの視点を統合し、
• 切り替え現象の“普遍構造”
• どの領域にも共通する“切り替えの法則”
• SCAN × VSM × Constraint Geometry × 3D Model の統合命題
を提示する。

いよいよ、 「切り替えとは何か?」の最終回答 に迫る。

関連情報&リンク
・今回までの連載シリーズ記事へは、こちらから

・本連載シリーズに関連する学術資料(論文)は、シリーズの進展に合わせ順次掲載しています。
論文1:SCAN × モード切り替え ・・・・ 掲載済み
論文2:VSM × 階層的再編成   ・・・・ 掲載済み
論文3:制約幾何学 × 最適面    ・・・・ 掲載済み
論文4:3D 最小モデル      ・・・・ 掲載済み
論文5:統合論文(今回の完成稿)  ・・・・ 未掲載

・その他の連載記事へは、こちらから

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)

カテゴリー
ALS AS01アジュバント アルツハイマー病薬 がんとアルツハイマー病 リピート伸長病 多系統萎縮症(MSA) 帯状疱疹ワクチンと認知症リスク 我が国の難病対策 抗αシヌクレイン抗体療法 機能性神経障害(FND) 神経科学 肥満と炎症 脳アミロイド血管症(CAA) 脳の回復能力 脳内リンパ系システム 視神経脊髄炎スペクトラム障害

2026年5月のニュース

今年も5月は、NPWA会員の皆さんの活動は活発で多様です。学術ニュースは、「脳の回復機能」と「イメージトレーニング効果の可視化」に関する本邦発の2つの論文の紹介、下畑先生からの最新医学情報、「連載シリーズ:切り替えの物語」のNo.2, No.3です。

1.2026年5月の活動状況
中嶋  佳奈恵さんの投稿
『園児も頑張っています!!』

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
你是不是在公園或平地看過有人拿著「兩支杖」走路,心裡想著:「走路就走路啊,幹嘛還要拿登山杖來健走?」其實這兩支杖是「健走杖」,是歐美流行多年,有效運用到全身肌肉的「健走杖運動」!單純健走多數用到的是下肢約60-70%肌群,但若是加上健走杖,能夠動用全身約90%的肌群,有效提升整體肌力與協調性。這種運動方式不僅適合各年齡層,還能幫助改善姿態,減輕下肢負擔,提升步態穩定性,降低跌倒風險。如果你也喜歡健走,那麼試試看再加上健走杖,一起體驗輕鬆的全身健走運動吧!❤️

名古屋フィジカル・フィットネス・センターさんの投稿
今日は、ポールウォーキングを用いてのバランス力向上エクササイズをご案内いたしました❗️健康づくりのためにウォーキングや筋トレは一般的ですが、特に中高年者にとっては、このバランス力は大事にしたい体力です❗️なぜなら、転倒予防につながるからです。そしてさらに、動的バランス能力を上げることがポイントです。転倒も歩いていて、走っていてと、何か動作をしている時に転倒します。ですから、動作中のバランス力が大切になってきます。そこでこのポールを用いると、安全を確保する中でこの動的バランス力を刺激することが容易にできます‼️

校條 諭さんの投稿
玉川上水沿いを風に吹かれて 5月の気まポ(気ままにポール歩き)は、京王井の頭線久我山駅に集合、玉川上水沿いに緑道を進んで、井の頭公園まで2本のポールで歩きました。約5km。 やや強めの風ながら緑道の木々に守られて、快適なポール歩きでした。 沿線に以前あったという養鶏場(産みたての卵販売)や野菜直売所がなくなっていたのは残念でした。 井の頭公園は緑深く、場所場所が多彩な顔で、何度来ても気持ちのよい場所です。 公園を出て近くの八十八夜という名前のレストランで、カンパイ&ランチしました。生ビール組は10人のうち3人。なお、ランチには都合でウォーキングには参加できなかった北村さんも参加しました。 ※写真は今回も半分以上、盟友田村和史君撮影です。

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 5月駒場例会でした。 初夏(ちょっと早いか)を思わせる快晴青空の下60余名の参加者を迎え公園〜牧場とポールウォーキング三昧でした。 長中短の3コースに体験コースに分かれての闊歩を〜❗️ 皆さん〜 〜フレイル〜何こそ元気元気印の笑顔満載の散策でした。

スマイルチームさんの投稿
2026.5.5〜10 活動記録 ☺︎中屋敷チェアエクササイズ®︎ 14名 ☺︎スマイルPW 14名 ☺︎スマイルチーム上溝自主練 16名 ☺︎相模原市文化協会祭役員会議 ☺︎相模原市文化協会役員会議 ☺︎青空PW 8名 ☺︎スマイル上溝名簿、チラシ作成 ☺︎上溝地域包括支援センター打合せ ☺︎CSW担当者打合せ

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【賑やかに 爽やかに】 2026/5/11 #船橋ウォーキングソサイエティ #シニアポールウォーキング 歩行力と体力に差があるシニア 外歩きと室内に分かれて 〇室内組は歓声が上がります じゃんけんとボール投げ 勝負、計算、連想と 頭と身体をフル回転で大盛り上がりです。 〇外歩きは感性を豊かに 新緑の旭町緑地公園と熱田神社 パワースポットでエネルギー充電です。

田村 芙美子さんの投稿
快晴 三浦ネットのグループと逗子神武寺往復ポールウォーキング。前回はNWのメンバーと参りましたが、なんと当日<うっかり><肝心の>ポールを忘れてしまって、冷や汗をかいた😨💦のを思い出しました。 令和6年、開創1300年を迎えた 醫王山 来迎院 神武寺 (いおうざん らいごういん じんむじ) • 天台宗本山 比叡山延暦寺三浦薬師如来霊場札所 第1番 本尊 薬師如来 (伝 行基菩薩作) 724年正月、聖武天皇の命により 行基菩薩が十一面観音・薬師如来・釋迦如来の尊像を彫刻・奉安し、開山された寺院。 遠い奈良時代こんな山奥まで木材を運び立派な寺院を建てた当時の人達の信仰心に頭が下がります。 そして源頼朝政子の信仰厚かったお寺。さらに本堂の横から上に登るとハイキングコースになっていて鷹取山と摩崖仏があります。 古代感溢れた素晴らしい神社。

Masako Shinchiさんの投稿
ウォーキングポールを相棒に 仲間とめぐる小さな旅 ぽる旅第5弾👣 予定は変わるよどこまでも♩ 見たかった笠間稲荷の八重の藤はすでに散り、お楽しみの落語の会は理由あって延期に😅さてどうするー?ということで急遽内容を変更した今回のぽる旅 笠間という地の懐の深さと、人の温かさを感じる旅となりました😊 /今回巡った場所/ ①笠間日動美術館「97歳セツの新聞ちぎり絵展」(7月20日まで展示 ) ②真浄寺 笠間城の建築物で唯一現存する八幡台櫓見学 ③かさま歴史交流館井筒屋 笠間城に関する情報発信やグッズ販売、様々な展示も楽しみ ④笠間城址ハイキング 佐白公園〜本丸〜千人溜 貴重な石垣跡を見ながら ⑤本日のお昼 鍋屋さんのおにぎりセット🍙🍙600円!と幸せ団子 急な変更に、小中学校時代の同級生や先輩、元同僚の方々が次々と力を貸してくれました。地元で活躍する人たちの温かさとパワーにただただ感動する旅でした 楽しかったーー❗️ 次回のぽる旅は石岡市です😊 茨城に遊びに来てみたくなったかな?

佐藤 ヒロ子さんの投稿
#坪井公民館主催  【#健康ウォーキング講座】 2026/5/13 公民館は坪井近隣公園の中?  なんて素敵な立地条件。 室内で集中して基礎指導  仕上げはお隣の公園に移動   青い空の下で    歩きは前へ前へ 反応も早く呑み込みも早い    参加者の皆様 とても楽しい時間になりました。 次回は更にレベルアップをします。 お楽しみに〜〜 #船橋ウォーキングソサイエティ #講師派遣でウォーキング基礎指導

田村 芙美子さんの投稿
イベントの多い5月。もう夏のような暑さですがおかわりありませんか。 今年もこちらもサポートいたします。ご参加どなたでもOKです。✨華✨齢と共に自分の身体に目を向けたいですね。

長谷川 弘道さんの投稿
ポールウォーキング🚶 週2回レッスンを 担当させていただいている Ohana fitness studio 主催の ポールウォーキングイベントに 参加してきました😊 いつも元気パワーをいただける 長谷川先生のご指導は、 とにかく分かりやすくて、 楽しい〜‼️✨ 今回は、 ポールウォーキングの前に 身体の癖チェックや、 歩き方のポイントも学べて、 とても勉強になる時間でした。 指導者としても、 「これ、レッスンに活かしたい!」と 思う学びがたくさんで、 体感しながら学べた贅沢な時間🍀 お客様も、インストラクターも 同じレベルからスタート! みんなでワイワイって良いですね 身体を動かしながら、学び合い、刺激をもらい合い、自然と笑顔になれる。 改めて、こういう時間っていいな…と感じた一日でした😊 開催してくださった智香子先生、 講師の長谷川先生、 イントラ仲間の向井先生、 ご参加された皆さま。 ありがとうございました✨ #Ohanafitnessstudio #ポールウォーキングイベント #midori #身体の調律師 #足から身体を整える

中村 理さんの投稿
3年後大学1年生等のPW体験会〜❗️

柳澤 光宏さんの投稿
毎年開催している工場祭!昨年にちょっと届かなかったが700名を越える皆さんにご来場いただきました。ありがとうございますm(__)m 開場30分前には長蛇の列。並ばれる方のお目当てはアウトレット品。トレッキングポールは30分でSOLD OUTだったみたい。 今年導入したスタンプラリー。社長を探してスタンプ押してもらおうというメニューがあり、子どもから大人まで声をかけられとても忙しかった(^.^)社長を探せは好評だったみたいだけど、来場いただいた多くの知人とゆっくり話すことも出来なかったので、来年はどうしようかな~? 社員の一人ひとりが持ち場で力を発揮して、無事終わることができました。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【目指そう!     理想の腕ふり】 2026/5/19  スマートバンドを使って  身体の隅々を気持良くストレッチ  筋トレもバランスとれた良い具合  仕上げは  スマートバンドを肩にかけて  のウォーキング  ダイナミックで美しい   フォームへ変化しました   #船橋ウォーキングソサイエティ #美姿勢ウォーキング

田村 芙美子さんの投稿
午前中 広町緑地PWでは 真夏のように汗をかきました。とても速歩きとは言えないお喋りぶらぶら歩き。楽しくコミュニケーションがとれているのでよしとしますか。小さなお友達が遊んでいる横で彼らに負けないくらい ジジババはポールゲームに興じ皆さんまだまだ元気です。 帰宅後メンバーさんから頂いたあやめとバビアナという南アフリカの苗を植えつけ。ひまわり🌻の種も漸く蒔くことができましたが、気付いたら7時過ぎてびっくり。セットバックで7本の木を伐採した後の庭に色とりどりの花が増えてきます。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
坪井公民館主催 【健康ウォーキング講座】    全2回終了 2026/5/20 1回目の「基本の歩き」に引き続き 2回目は   「効き目のあるウォーキング」   (中強度)とは  講堂で歩きと速歩きの違いを   観て・やってみて  隣接する坪井近隣公園で実践 習うより慣れろで実際歩くと 身体が素直に反応しスムーズに  そして皆様の笑顔が   ますます輝きます 新たな出会いに感謝  坪井の皆様   何時迄もお元気でね

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 東御市/八重原PW散策〜 地元/依田コーチのプランのロングコース(約5km) ショートコース(約2km) に分かれての総勢50名越えの参加者の皆さんでした。 朝からの青空の元、明神池の周り〜 八重原台地の田んぼ〜白土いも畑〜ワイン用ブドウ畑〜小麦の畑〜他今年の農業始まりを観賞しながらのポールウォークでした。

田村 芙美子さんの投稿
臨時ポールウォーキング教室。広町の皆さんと大船フラワーセンターに集合。蓮の大樽広場でウォーミングアップのあとばら園~芝生広場~温室~~~散策。園内のレストラン?でカレーやうどん、ソフトクリームなど好き好きに。チリアヤメ、黄金マサキを庭に欲しい。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【習志野市民カレッジ   ウォーキング講座】 2026/5/28    プラッツ習志野中央体育館   市民の町づくりの意識を醸成し、 生涯を通じて地域で活動できる 礎及び仲間を作る目的に集まっ た受講生30名。 2年目は実技中心に各分野の専門家 による講義として呼んで頂きました。男性が過半数越えは珍しく そのせいでしょうか?  反応が大人しい(笑)

 

来月以降の開催
長岡智津子さんの投稿
写真1件

 

2.PW関連学術ニュース
今月は、脳に関する2つの本邦発の研究論文を紹介します。
2-1)「壊れた脳は治らない」を覆す~脳が自然に治る力を持続させる方法を発見~
**以下、東京科学大学の2026年5月14日付プレスリリースからの抜粋です**
ポイント
脳卒中を起こして脳組織が損傷しても、失った脳機能を取り戻すための回復メカニズムが働くことを発見しました。
脳卒中患者さんの脳は、この回復メカニズムを発症2ヵ月程度で失ってしまいますが、その原因となる因子がZFP384というタンパク質であることを突き止めました。
研究チームはZFP384の働きを抑える薬(核酸医薬品)を開発し、回復メカニズムを失わせずに持続させられることを発見しました。
脳に備わっている「治る」ためのメカニズムを、失わせずに持続させられることから、脳の病気の後遺症を減らす(なくす)治療薬の開発が期待されます。

概要
脳が病気によって壊れると、手足が動かなくなる、言葉が話せなくなる等、脳機能を失います。しかし脳が壊れても、リハビリテーションなどによって、失った脳機能を部分的に取り戻すことができます。このような脳機能回復は多くの患者さんで見られますが、脳が壊れてから2ヵ月程度で回復力を失ってしまう(後遺症が残ってしまう)ことが知られていました。「どうして回復力を失ってしまうのか」、東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院 難治疾患研究所 神経炎症修復学分野の津山淳助教と七田崇教授らの研究グループは、東京都医学総合研究所、九州大学、フライブルク大学(ドイツ)と共同で、この長年の謎に挑みました。

研究チームは今回、脳細胞が回復力を獲得して失うまでの一連のメカニズムを解明しました。脳細胞は脳が壊れた後、1ヵ月程度は回復力を持ち続けますが、次第に脳が正常な(脳が壊れる前の)状態に戻ろうとする影響を受けて、ZFP384[用語1]というタンパク質が作られることが分かりました。失った脳機能をまだ十分に回復できていないのに、ZFP384が脳細胞の回復力を失わせてしまっていたのです。

研究チームは、ZFP384の働きを防ぐ薬(アンチセンス核酸[用語2])を開発しました。これをマウスに投与すると、脳が壊れてから1週間後~1ヵ月後に治療開始した場合でも、回復力を失わせずに持続させられることを発見しました。本研究による成果は、「臓器に備わった自然な回復力を、失わせずに持続させられる」ことに成功したものです。これまで回復が困難とされてきた脳をはじめとして、臓器の機能を取り戻す治療法開発に新たな道を開くものです。

本成果は、5月13日付(英国時間)の「Nature 」誌に掲載されました。

図1. 本研究の概要
図3.(左図、右図)ASO-Zfp384 を投与すると、脳梗塞後の神経症状が改善する。
(中央図)ASO-Zfp384 によって神経栄養因子など、修復性遺伝子の発現を持続促進できる。

論文情報
掲載誌:Nature
タイトル:Sustaining microglial reparative function enhances stroke recovery
(ミクログリアの修復機能を維持することは、脳卒中からの回復を促進する)
著者:Jun Tsuyama, Seiichiro Sakai, Kumiko Kurabayashi, Ayaka Nakamura, Eri Tanaka, Yuichiro Hara, Ito Kawakami, Makoto Tsuda, Takahiro Masuda, Marco Prinz, Hideya Kawaji, and Takashi Shichita
DOI:10.1038/s41586-026-10480-0

関連情報
本論文については、岐阜大学の下畑先生が、詳細な解説をFB投稿されています。当ニュースの「下畑先生からの最新医学情報」の2026年5月18日投稿をご覧ください。

 

2-2)ブレイン・コンピューター・インターフェースを活用して イメトレ中の脳状態を可視化することで運動能力を向上 ― 健常者のパフォーマンス向上やスポーツ、人間拡張分野への応用に道 ―

**以下は、2026年4月13日付の慶応大学のニュース・リリースからの抜粋です**

慶應義塾大学理工学部生命情報学科の岩間清太朗専任講師(有期)、牛場潤一教授、および松岡敦也(修士2年、研究当時)らの研究チームは、ブレイン・コンピューター・インターフェース(Brain–Computer Interface; BCI)を活用し、実際の体の動きを伴わない「運動イメージ訓練(いわゆるイメトレ)」中に、自分の脳状態を可視化し、思念を操る練習を行うことで、脳状態の切り替え能力が向上し、実際の運動パフォーマンスが改善することを明らかにしました。

発表のポイント
ポイント1: イメトレ中の脳内状態を、AIを使って可視化して訓練
・ これまでは本人もトレーナーも、実際の脳状態を知ることができませんでしたが、BCIを利用することでリアルタイムに可視化できました。
・ 脳内に電極を埋め込むことなく、ウェアラブルセンサ(脳波計)とAIだけで実現できた点が画期的です。
ポイント2: 実際に運動せず、イメトレだけで運動能力が向上
・ これまでは、ジムや競技場、楽器やキーボードなど、実際にトレーニングするための「場所」や「道具」が必要で、訓練環境を整備する必要がありました。
・ 時間や場所にとらわれず、好きなときに、好きな場所で、BCIを使って脳の能力を拡張できるようになりました。
ポイント3: 体の動きを司るコントローラーである脳を直接鍛えることに成功
・ これまでのテクノロジーを活用したトレーニングでは、電極を体に貼って計測する心電図・心拍計測あるいは筋電図を利用したものがありましたが、今回は「脳」を対象にしたトレーニングを提案しました。
・ 全身の筋肉に司令を送る脳そのものの活動を訓練すると、実際のパフォーマンスが向上することを示した点が画期的です。

BCI は、本人には自覚できない「脳状態」を可視化し、それをリアルタイムにユーザーへフィードバックすることで脳活動の自己調節を可能にする技術です。同研究チームはこれまでに、脳卒中後の重度まひの機能回復を実現し、大学発スタートアップ「(株)LIFESCAPES」を通じてBCIを医療機器化して、全国60の医療機関への導入を進めてきました。本研究は、病気やけがをしていない健常成人の運動能力をも BCI によって向上させることができることを示し、脳の内部で起きている神経回路の切り替わりの様子を可視化し、詳細な分析をした画期的な成果です。 今後は、対象者や課題を広げた検証、効果の持続性や個人差の評価、実際の運動支援場面での有効性の確認を進め、医療・ヘルスケア・人間拡張・スポーツ分野での応用を目指します。

本成果は2026年4月10日付で『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)』 に掲載されました。

 

2-3)岐阜大学医学部の下畑先生からの最新医学情報(2026年5月)
当科も参加した多系統萎縮症に対する抗αシヌクレイン抗体療法の国際治験:AMULET試験が示した「有効性の兆し」
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月1日のFB投稿です***
多系統萎縮症(MSA)は,パーキンソニズム,小脳性運動失調,自律神経障害を特徴とする進行性神経変性疾患です.現在の治療は対症療法に限られ,疾患進行そのものを抑制する治療は存在していません.こうした状況のなかで,αシヌクレインの異常凝集とその伝播を標的とした免疫療法が注目されています.今回ご紹介するのは,抗αシヌクレイン抗体amlenetugの有効性と安全性を検証した第2相試験(AMULET試験)です.デンマークのLundbeck社が中心になって行い,米国・日本の18施設が参加した国際多施設共同試験です.日本からはAMULET Study Groupとして,私ども岐阜大学,国立病院機構仙台西多賀病院,藤田医科大学の3施設が参加しています.
対象は発症から5年以内のMSA患者(40~75歳)であり,MSA-PとMSA-Cの両サブタイプが含まれています.最終的に61例が治療を受け,amlenetug群40例,プラセボ群21例に割り付けられました(図1).4週間ごとの静脈内投与を48~72週間行うデザインであり,主要評価項目はUMSARS(Unified Multiple System Atrophy Rating Scale)による疾患進行です.48例(78%)が試験を完遂していますが,ドロップアウト率の高さはMSAの臨床試験の難しさを反映していると思います.
さて主要評価項目です(図2).UMSARSの経時的変化をベイズモデルで解析した結果,amlenetug群ではプラセボ群と比較して約19%の進行抑制が示唆されました.しかし事前に設定された有意基準には達せず,統計学的有意差を示せませんでした.ただしこの図から,試験期間で一貫してamlenetug群が良好な状況にあることが理解できます.つまり「明確な有効性の証明には至らなかったが,治療効果のシグナルは存在する」ということです.
ここですぐに思い当たるのは患者集団の不均一性です.図3では事後解析として,ベースラインのUMSARS total scoreが40未満の比較的早期の患者群が検討されており,この群ではより大きな進行抑制効果が示唆されています.すなわち,本抗体の効果は疾患の進行程度に影響を受ける可能性があり,進行例を含む全体集団では効果が希釈された可能性があります.この点は,早期介入の重要性を示唆する極めて重要な知見です.
つぎに副次評価項目に目を向けると,mUMSARSでは約27%の進行抑制が示され,UMSARS part IおよびIIでもそれぞれ22%,17%の抑制傾向が認められました.ただしいずれも統計学的有意差には至っていません.またAppendixにはMRI解析の結果が示されています.橋や小脳白質といったMSAの病変部位において,amlenetug群では体積減少が抑制される傾向が認められました(図4).これも統計学的有意差には至っていませんが,臨床スコアと同様に進行抑制の傾向は一致しています.
安全性に関しては,治療関連有害事象および重篤有害事象の頻度はプラセボ群とほぼ同等であり,大きな安全性上の懸念は認められませんでした.主な有害事象は感染症や頭痛など一般的なものであり,免疫療法としては比較的良好な忍容性が示されています.また,αシヌクレイン関連バイオマーカーの変化から,本薬が実際に体内でαシヌクレインに結合していることが確認されています.具体的には,遊離型αシヌクレインの割合が低下することが示されています.
結論として,本試験の解釈としては「有効性が示唆されるが,患者集団の不均一性から証明しきれなかった試験」だと思います.つまり個体差が大きいため,61例というサンプルサイズでは統計学的有意差の検出が困難であったということだと思います.現在,第3相試験MASCOT試験が当院を含め進行中です.この試験では用量反応の検証と十分な症例数の確保により,真の臨床的有効性を明確に証明する設計へと進化しています.まだ時間はかかりますが,有効性を証明できればと考えています.
Kjærsgaard L, et al. Safety and efficacy of the anti-α-synuclein monoclonal antibody amlenetug for the treatment of patients with multiple system atrophy (AMULET): a phase 2, randomised, double-blind, multicentre trial. Lancet Neurol. 2026 Apr 24:S1474-4422(26)00100-6. doi: 10.1016/S1474-4422(26)00100-6. PMID: 42044642.

岐阜大学脳内抄読会 第103,104 回 ALSをめぐる重要な2つのトピックス―安楽死とBrain–Machine Interfaceに2人の若手が挑戦
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月2日のFB投稿です***
今週のオンライン抄読会です.この1か月間,脳神経内科で研修を行った2年目の小森拓夢先生と佐藤健龍先生が,いずれもALSに関する新しく,かつ重要なテーマに取り組んでくださいました.
小森先生は,難病医療における極めて重要かつ複雑な倫理的課題である安楽死について,オランダにおけるALS患者の実態を検討した論文を紹介されました.安楽死を選択した患者さんの背景や理由を丁寧に読み解くことで,患者さんのQOL向上につながる示唆が得られるのではないかという問題意識に基づいた発表であり,大変意義深いものでした.発表後には多くの質問や意見が寄せられ,活発な議論が展開されました.一方で,本テーマは単一の論文だけで十分に論じ尽くせるものではないため,最後に私からも解釈の視点について補足説明を行いました.発表19分,質疑29分でした.
一方,佐藤先生は,ALSの進行に伴い患者さんにとって大きな苦痛となる言語機能の喪失に対し,Brain–Machine Interface(BMI)を用いた支援の可能性についての論文を紹介されました.さらに,関連分野の近年の進歩や基本用語についても整理され,理解を深める内容となっていました.論文のまとめ方も非常に現代的で工夫に富んでおり,印象に残る発表でした.お二人ともBMIに強い関心を持っておられるとのことで,将来的にこの分野での研究に挑戦されることを大いに期待したいと思います.発表12分,質疑15分でした.
van Eenennaam RM et al. Frequency of euthanasia, factors associated with end-of-life practices, and quality of end-of-life care in patients with amyotrophic lateral sclerosis in the Netherlands: a population-based cohort study. Lancet Neurol. 2023 Jul;22(7):591-601. PMID: 37353279.
Card NS, et al. An Accurate and Rapidly Calibrating Speech Neuroprosthesis. N Engl J Med. 2024 Aug 15;391(7):609-618. doi: 10.1056/NEJMoa2314132. PMID: 39141853

「厚労省 難病患者の支援体制に関する研究班」ホームページのリニューアル ―難病医療に役立つ研究成果物のご紹介―
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月3日のFB投稿です***
我が国の難病対策は,平成26年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が成立して以降,医療の提供にとどまらず,療養生活全体を支える総合的支援へと大きく発展してきました.この流れの中で,西澤正豊先生を研究代表者とする研究班(西澤班)が制度設計や支援体制の在り方に関する重要な政策提言を行い,その基盤の上に,平成30年からは小森哲夫先生を中心とする研究班(小森班)が,医療・福祉・地域連携を包含した実践的な支援モデルの構築に取り組んできました.
そして令和8年4月1日より,私が研究代表者を小森哲夫先生より引き継ぐこととなりました.これまで研究班を牽引されてきた小森先生をはじめ班員の先生方のご尽力に深く敬意を表するとともに,その成果を継承し,さらに発展させて現場に還元していく責任の重さを感じております.本研究班では,これまでの成果を基盤としつつ,現場のニーズに即したエビデンスの創出と政策提言を通じて,難病患者さんを取り巻く医療・療養環境のさらなる充実を目指してまいります.現在,各領域のエキスパートである多職種の先生方(研究分担者23名,研究協力者13名)とともに,研究を開始しております(詳細はホームページをご参照ください).
https://plaza.umin.ac.jp/nanbyo-kenkyu/
このたびのホームページ改定では,これまで蓄積されてきた研究成果物を整理し,自由にダウンロードしていただける形としました.特に2026年度に公開した以下の8つの成果物については,ご作成いただいた班員の先生方に解説も加えていただいており,日常診療・支援の現場で直ちに役立つ内容となっています.
◆難病患者の災害対策ガイドライン
災害時に必要な支援と多職種連携のあり方を示した実践的指針です.
◆難病患者支援における施設間・職種間の連携-知・技・コツ-
発症期から終末期までの課題に対応するための具体的な連携の方法をまとめています.
◆【別冊】医療機関における就労支援のスキルアップ事例集
多機関連携によって「働く」を支える実践例を提示しています.
◆難病相談支援センターの運営に関する事例集
全国の好事例を集約し,地域格差の是正に資する内容です.
◆大規模災害を経験した訪問看護師から学ぶ
災害時に医療と生活を途切れさせないための実践知をまとめています.
◆難病相談支援センターの運営チェックリスト活用方法の手引き
センター運営の質向上のための評価指針です.
◆難病相談支援センターの運営チェックリスト(EXCEL)
自己評価を可視化し,継続的改善につなげるツールです.
◆難病のケアマネジメント技とコツ「改訂版」
現場で活用できる具体的な支援の工夫をまとめています.
難病診療・支援は専門性が高く,経験の差がそのまま質の差につながりやすい領域です.だからこそ,こうした知識やツールを広く共有し,現場で活用していただくことが極めて重要であると考えています.本サイトが,政策立案者,医療・福祉関係者,さらには患者さん・ご家族の皆様にとって有用な情報基盤となり,我が国の難病対策の質的向上につながることを願っています.ぜひ一度ご覧いただき,日常の実践にご活用いただければ幸いです.

神経科学の“今”を,一冊でつかむ ―『Annual Review 神経 2026』予約開始―
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月4日のFB投稿です***
本書は,神経科学におけるこの1年の進歩を一冊で俯瞰できる書籍として,長年にわたり多くの読者に親しまれてきた伝統あるシリーズです.昨年より,鈴木則宏先生をはじめとする前編集委員の先生方からバトンを引き継ぎ,矢部一郎先生,杉江和馬先生,中島一郎先生,堀江信貴先生とともに,編集委員として本書の制作に携わっております.いよいよ5月下旬発売予定です.
本年度版も,神経科学の進歩を多角的に捉え,臨床医・研究者双方のニーズに応える最重要トピックスを網羅した,非常に充実した内容となっております.「Basic Neuroscience」では,基礎医学と臨床医学をつなぐ重要な知見を整理し,「本年の動向」では発症前診断などの最前線や,神経学に革新をもたらし得る新技術を詳述しています.さらに「Clinical Topics」では,新規治療法や診断技術を含め,近年注目される疾患群やトピックスを取り上げ,臨床のアップデートに資する内容となっています.
年明けから全原稿を拝読し,編集作業に没頭しておりましたが,改めて執筆陣の先生方による総説の質の高さに深い感銘を受けました.神経領域の最前線を凝縮した一冊として,自信をもってお届けできる決定版です.ぜひご期待いただければ幸いです.
中外医学社HP
https://www.chugaiigaku.jp/item/detail.php?id=5130
アマゾン
https://amzn.to/4dmVSWE
【目次】
Ⅰ.Basic Neuroscience
1. 神経生理
1) Brain mappingの最近の動向
2) 痛覚システムにおける最新知見
3) AIによる脳波判読システム
2. 神経病理
1) プリオン病における髄液バイオマーカーと治療開発
2) 剖検脳を用いた多系統萎縮症病態研究の最近の進展
3) 神経免疫の視点から見たアルツハイマー病の神経病理学
4) 常染色体顕性遺伝性白質脳症とは何か
3. 生化学(分子生物学)
1) 抗体を用いたin situビオチン標識法による非膜オルガネラ構成因子の網羅的同定
2) ミクログリアとアルツハイマー型認知症
3) 慢性ストレス誘発性うつ病におけるニューロンのエピゲノム制御
4. 画像
1) PSP/CBDの画像所見;J-VAC研究を含めて
2) 日常遭遇する中枢神経感染症の画像診断
3) アミロイド関連画像異常(ARIA)とその周辺病態
Ⅱ.本年の動向
1) 病態修飾療法時代における発症前診断と着床前診断
2) パーキンソン病とAI
3) 微小炎症と神経疾患
4) AIを用いた脳科学とリハビリテーション医療
5) 神経変性疾患に対するseed-amplification assayの現状と課題
6) 運動失調症の患者レジストリ J-CAT の現状と活用
7) 新たな心血管系疾患の危険因子としてのマイクロ・ナノプラスチック
8) パーキンソン病における概日リズムと睡眠研究
9) グリンパティックシステムI研究の最新動向
10)ロボット支援手術 最新の動向
Ⅲ.Clinical Topics
1. 感染症・炎症疾患
1) 帯状疱疹および帯状疱疹ワクチンと認知症
2) HTLV-1関連脊髄症の患者レジストリとデータベース研究
2. 脳血管障害
1) ICT,AIを活用した脳卒中診療
2) Stroke Oncologyの病態機序と治療
3) 頚動脈プラークの画像診断
4) 機械的血栓回収療法の費用対効果
3. 脳腫瘍
1) 脳腫瘍のメチル化解析
2) グリオーマのIDH阻害剤
4. 外傷
1) スポーツによる脳震盪
2) 神経集中治療におけるモニタリング
5. 変性疾患
1) Perry病の臨床・病理・分子機構
2) 筋萎縮性側索硬化症と脂質代謝(SPT関連遺伝子を中心に)
6. 中毒・代謝疾患
1) Niemann-Pick病type Cの病態と臨床
2) マンガンによるパーキンソニズムの病態機序と治療の可能性
3) Leigh症候群に対するミトコンドリア移植療法
7. 脱髄・免疫性疾患
1) 視神経脊髄炎スペクトラム障害の治療の進歩
2) 自己免疫性脳炎Update
8. 末梢神経障害
1) CIDPのアンメットニーズと最新治療
2) RFC1遺伝子関連スペクトラム障害(CANVAS)の臨床遺伝学的特徴
9. 神経筋疾患
1) 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン2025
2) ミトコンドリアM2抗体筋炎の臨床病理学的特徴
3) 遺伝性筋疾患レジストリRemudyの社会的意義と課題
10. 自律神経疾患
1) 遺伝性ATTRアミロイドーシスUpdate
11. 機能性疾患)
1) てんかん発作分類 解説
2) 遺伝子異常とてんかん
12. 機能的脳神経外科
1) てんかん焦点に対する定位温熱凝固術
2) 精神科疾患に対するニューロモデュレーション
13. 機能性神経障害
1) 機能性神経障害に対する精神的アプローチ

がんの発生とアルツハイマー病のメカニズムにはつながりがある!?
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月5日のFB投稿です***
NHK「タモリ・山中伸弥の!?がん克服のカギ」を拝見しました.初めて知ることばかりで驚きの連続であり,勉強になりました.また患者さんを含む視聴者に「希望を持ってもらいたい」とする温かい視座が感じられました.
【番組の要旨;とくに5や6に驚きました】
1. 有酸素運動ががんの再発を抑制する.筋での糖の使用が亢進し,ガン組織における糖の取り込みが減少するため.
2. 血液中のがん細胞が急増して全身の種々のサイズの血管に塞栓が形成されると個体死に至る.
3. がん細胞がその周囲にある正常細胞(線維芽細胞や免疫細胞)の性質を変えてしまう.悪玉になった正常細胞を合成レチノイドを用いて善玉に戻すことで治療につながるかもしれない.
4. がん治療前にリハビリテーションを行い,身体機能を上げると予後が改善する.
5. COVID-19等の感染症に罹患した人は,1〜2年以内にがんの再発や悪化のリスクが大幅に高まり,死亡リスクは最大8倍まで高まる.これは,休眠がん細胞がウイルス感染により放出されたサイトカインによって休眠から目覚め,増殖を始めるため.
6. がんの遺伝子変異は正常細胞では生じないと言われてきたが,健康な50代の皮膚の正常細胞の3分の1でがんの遺伝子変異が起きていた.なんと最初の遺伝子変異は受精から数週間で生じうる.増殖した遺伝子変異を持つ細胞同士は競合するが,より環境に適応したもの(免疫を逃れたり,薬の耐性を獲得するもの)が生き残る.つまりがん細胞はダーウィンの「生存に有利なものが生き残り子孫を残す」という進化の法則に則っている.
7. しかし,喫煙のような生活習慣を改善することで,変異をもつ細胞が減らせることも分かってきている.
【私の感想】
1. がんの発生とアルツハイマー病(AD)のメカニズムにはつながりがある
番組では,「正常な細胞でもがん遺伝子変異が起きる」ことが紹介されていた.当ブログでも紹介したCell誌のADに関する論文(4月30日のブログ参照)でも,全く同じ現象が脳内で起きていることが報告された.アミロイドβなどによる炎症環境が「選択圧」となり,増殖力や炎症反応が高い「がん関連遺伝子の変異を持ったミクログリア」が生き残り,優位に広がっていくというもの.このことから,がんの発生メカニズムとADのメカニズムは,根底で繋がっているのではないかと感じた.
2. がんや老化のメカニズムは「生命のシステムのバグ」ではないか?
「がん遺伝子が変異することは進化の宿命であると同時に,これこそが老化の根本的なメカニズムである」と感じた.前述のCell論文でも,「なぜ加齢が認知症の最大のリスク因子なのか?」という問いに対し,「変異の蓄積と選択にかかる時間」であると明確に説明づけられている.生命が進化するために避けられない「遺伝子変異(システムのバグ)」が時間をかけて蓄積し,環境に適応して増殖した結果が「がん」であり,同時に「老化(ADなど)」でもある――.そのように,壮大な生命のシステムとして語ることができるのではないか.言い換えると,老化とは,一部の細胞が生き残るために利己的な進化を遂げ,その結果として個体を壊してしまうプロセスなのではないか.
3. がんとADの未来の治療アプローチにも共通点がある
がん細胞は運動やレチノイドなどにより環境を変えることで,良性にできるかもしれないというパラダイムシフトが提示された.Cell論文も同様に,ADにおいて,変性する神経細胞やアミロイドβ,タウが標的ではなく,その周囲に存在する環境(=ミクログリア)に対して,がん領域の既存薬(分子標的薬)が治療応用できる可能性を示唆している.病態に共通点があるため治療アプローチも似てくると思った.
かつて新潟大学脳研究所の神経病理の教授から「ADの治療に挑むということは,自分は老化に挑むということだと思っている」という言葉を聞いたことがあり,非常に印象に残っていました.この番組を見て,その言葉を思い出しました.妄想かもしれませんが,がんもADも「老化」という生命の宿命の副産物であって,我々はそれに挑んでいるのではないだろうかと思いました.多くの示唆に富む,素晴らしい番組でした.

機能性神経障害の診療のコツは「どのようにその診断に至ったのかを患者さんに説明すること」である!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月8日のFB投稿です***
International Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の「Clinical Clues」は,運動異常症診療に役立つ実践的なコツを,世界のエキスパートが短時間で紹介する人気シリーズです.今回は,私が尊敬するシンシナチ大学のAlberto J Espay教授による機能性神経障害(FND)診療のポイントについてです.2分弱の印象的なフリー動画がXやInstagramで公開されています.私自身も,新患外来にFND患者さんをご紹介いただく機会が多いのですが,まさに日頃から感じていた大切な視点を,Espay教授が見事な言葉で簡潔に表現してくださいました.診療に携わる脳神経内科医にとって示唆に富む内容であり,大いに共感いたしました.以下,おおまかな日本語訳をご紹介します.
「少なくとも,機能性運動異常症の患者さんの診療において,今から述べること以上に重要なことは思いつきません.それは,『どのようにして診断に至ったのかを患者さんに説明すること』です.さらに,患者さんに認めるその異常な動きが機能性運動異常症の診断基準に合致していると判断するために,医師がどのような見方をしたのかを患者さんに教えることです.そして,それらの異常な動きが機能性運動異常症の病態に特有のものであることを伝えることです.
こうした説明は,患者さんがどのように診断されたのかを理解するうえで非常に大きな助けとなり,その理解は診断を受け入れることにつながります.これは治療において最も重要なステップです.患者さんが,自分に何が起きているのかを理解したうえで診察室を後にすることができれば,その先にある大変な過程にも取り組みやすくなります.なぜなら,機能性運動異常症のリハビリテーションには大きな努力が必要だからです.しかし,その努力は患者さんの意欲によって支えられます.患者さんが,自分が何と向き合っているのかを理解できればその意欲に繋がります.
多くの患者さんは,「以前の担当医たちは自分の病気の診断を分かっていなかった」と思い,私たちのもとを訪れます.しかし,紹介状を見返してみると,その医師たちは実際には患者さんの診断を理解していたことが分かります.ただ,それを適切に伝えていなかったのです!そのため患者さんの心の中で,「誰も自分が何の病気なのか分かっていない」という認識になってしまうのです.そしてもちろん,その結果として「この異常な動きを自ら演じていると思われているのではないか?」「この異常な動きは本物ではないと思われているのではないか?」という思いが生まれます.こうした考えは患者さんにとって有害であり,リハビリテーションの邪魔になります.ですから,医師がなぜその診断に確信を持っているのかを患者さんが理解できるような形で診断を伝えることができれば,それこそが治療における最初の一歩であり,かつ最も重要な一歩になるのです.」

2026年の2大研究が示す帯状疱疹ワクチンによる認知症リスク抑制効果
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月9日のFB投稿です***
近年,認知症の発症にウイルス感染や免疫機構が関与する可能性が注目されています.とくに帯状疱疹ウイルス(VZV)は神経系に潜伏し,加齢とともに再活性化することから,神経炎症や神経変性との関連が議論されてきました.今回は2026年になって報告された帯状疱疹ワクチンが認知症発症に与える影響を検討した2つの重要な研究と従来の研究をまとめてみます.
まずLancet Neurol誌に掲載された研究は,Stanford Universityからのもので,カナダ・オンタリオ州の一次医療データベースを用いた大規模解析です.この研究の最大の特徴は,生年月日に基づくワクチン接種資格(生ワクチン;Zostavax)の有無を利用した「自然実験」という手法にあります.すなわち,1945年生まれと1946年生まれという,年齢や生活背景がほとんど同じ人たちを,制度上ワクチンを受けられるかどうかという違いだけで比較することで,生活習慣や健康意識といった交絡因子の影響を受けにくくし,ワクチンそのものの効果により近い形で評価できるようにしています.カナダ全土から抽出された約46万人のうち,オンタリオ州の約23万人を対象とした解析の結果,ワクチン接種資格のある群では,約5.5年の追跡期間において,認知症の新規診断が約2.0%ポイント低下していました(図1).この図は,解析方法をさまざまに変えても一貫して「ワクチン接種対象群が認知症が少ない」という結果を示しており,結果の頑健性が確認されています.さらに,ワクチンプログラムが存在しない他州との比較でも,同様に認知症発症が少ないことが示されており,この効果が偶然や他の要因によるものではない可能性が強く示唆されます.
つぎにNat Commun誌に報告された研究は,米国カリフォルニア州南部からのもので,組換え帯状疱疹ワクチン(RZV;Shingrix)の効果を検討した大規模コホート研究です.対象は65歳以上の約33万人であり,傾向スコア重み付けを用いて接種群と非接種群の背景因子を調整しています.その結果,RZVを2回接種した群では,認知症発症リスクが約51%低下し,ハザード比は0.49(95%信頼区間0.46–0.51)と非常に強い関連が示されました.図2では,累積発症率が非接種群10.64%に対し,接種群5.67%と明確に低下しており,大きな差があることが視覚的にも分かります.さらに,健康志向の高い人ほどワクチンを受けやすいというバイアスを考慮して,三種混合ワクチン(Tdap)接種者との比較も行われましたが,それでもなおハザード比0.73と有意なリスク低下が維持されていました.
これら2つの研究は方法論が大きく異なります.前者は因果推論に強い自然実験,後者は実臨床データに基づく大規模観察研究です.しかしいずれも「帯状疱疹ワクチンが認知症リスクを低下させる」という結論で一致していました.効果の機序については未だ確立されていませんが,いくつかの仮説が提示されています.すなわち,VZVの再活性化を抑えることで神経炎症や血管障害を抑制する可能性に加え,体内に潜伏している他のウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)の再活性化も抑制されることで,結果として認知症リスクの低下につながる可能性等が考えられます.話題のミクログリアの活性化も当然促進されると思います.
図3に近年の研究結果をまとめてみました.自然実験研究(ウェールズ,オーストラリア,カナダ)では,いずれも絶対リスクが1.8~3.5ポイント低下し,異なる国や医療システムにおいても一貫した結果が示されている点は重要だと思います.一方,大規模観察研究では,帯状疱疹ワクチン接種によりハザード比で11〜51%低下することが報告されており,特に組換えワクチン(RZV)の2回接種が最も強い効果を示しています(32~51%減少).生ワクチンも組換えワクチンも有効ですが,生ワクチンの効果は時間とともに減弱する可能性が指摘されています(Polisky et al. Nature Medicine, 2025).
以上より,帯状疱疹ワクチンは感染症予防という従来の役割を超えて,認知症予防という新たな意義を持つことはほぼ間違いないと言えます.とくに,高齢化社会において実装可能な介入である点は重要であり,今後の公衆衛生戦略にも影響を与える可能性があります.ただし,観察研究が中心であること,フォローアップ期間が比較的短いこと,機序が完全には解明されていないことが限界であり,今後のさらなる検証が必要です.
Pomirchy M, et al. Herpes zoster vaccination and incident dementia in Canada: an analysis of natural experiments. Lancet Neurol. 2026 Feb;25(2):170-180. doi: 10.1016/S1474-4422(25)00455-7. PMID: 41579903.
Rayens E, et al. Recombinant zoster vaccine is associated with a reduced risk of dementia. Nat Commun. 2026 Feb 9;17(1):2056. doi: 10.1038/s41467-026-69289-0. PMID: 41663414.

Nature誌100万人ゲノム解析研究が示したリピート伸長病の真実
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月10日のFB投稿です***
米国Regeneron Genetics Centerから,100万人を超える大規模ゲノムデータを用いて,神経疾患を引き起こすリピート伸長(反復配列異常伸長;リピート expansion)を包括的に解析した研究がNature誌に報告されました.具体的にいうと,ハンチントン病,脊髄小脳変性症,筋強直性ジストロフィー,ALS/FTDなどに認めるリピート伸長について,「一般集団にどれくらい存在するのか?」「どの程度発症と関係するのか?」「症状が出る前から神経変性が始まっているのか?」を検討したものです.私は大学院生時代,この疾患の遺伝子診断や研究に没頭していたので,非常に大きな驚きを持って論文を読みました.
著者らは,UK Biobankを含む7つの大規模コホートから,102万人以上の全エクソーム解析データと,46万人以上の全ゲノム解析データを解析し,HTT,DMPK,C9orf72,CACNA1Aなど37遺伝子座のリピート長を検討しました.
まず非常に興味深かったのは,「病的リピート伸長を持っていても,実際には診断されていない人が多数存在する」という結果です.図1では,「病的リピート保因者の頻度(縦軸)」と「実際の疾患有病率(横軸)」が比較されています.もし「病的repeatを持つ人=全員発症」であれば,点は斜めの線(y=x)の上に並ぶはずです.しかし実際には,多くの遺伝子で点が線より上(ブルー領域)にあります.つまり「病的リピートを持っていても,実際には診断されていない人がかなり存在する」ことを意味します.また各遺伝子名の下に書かれている「%」は「その遺伝子の病的repeat expansionを持つ人の頻度」を表しています.例えばハンチントン病の原因となるHTTの0.04%は「約2,500人に1人が病的リピートを持っていた」という意味です.よって病的リピート伸長保因者は10万人あたり16~53人程度と推定されますが,従来のハンチントン病有病率(3~7人/10万人)を大きく超えています.DMPK 0.09%やCACNA1A 0.027も同様で,病的リピート保因者数が実際の患者数を大きく上回っていました.この結果は,「病的リピートを持つ=必ず発症する」わけではなく,浸透率は100%ではなく,従来考えられていたほど単純ではない可能性を示しています.
また興味深かったのは,リピート伸長の頻度に祖先集団による明瞭な違いが認められた点です.特にCACNA1A伸長は東アジア系集団で高頻度であり,日本や韓国でSCA6が比較的多いことを示した従来の疫学研究と一致していました.一方,DMPK,C9orf72,FXN(フラタキシン)のリピート伸長はヨーロッパ系集団で高頻度でした.この結果は,神経変性疾患の地域差や人種差の背景に,リピート伸長の分布の違いが関与している可能性を示唆しています.私自身,大学院生時代にフリードライヒ失調症の原因遺伝子であるFXNのGAAリピートをlong PCRでひたすら解析していた時期がありました.しかし,何度電気泳動を繰り返しても陽性例が見つからず,「これが人種差か!」と実感したことを懐かしく思い出しました.
さらに本研究では「リピート数が増えるに従って,発症リスクや浸透率が徐々に高まっていくこと」が示されました.特にHTT,DMPK,C9orf72では,リピート長が長くなるほど発症リスクが段階的に上昇していました.従来は「40リピートなど,一定以上のリピート数になると発症する」と理解されることが多かったのですが,本研究では,その手前の“premutation領域”でもすでにリスクが上昇している可能性が示唆されました.つまり,「健常」と「疾患」の間には連続的なグラデーションが存在するということです.
そして本研究で最も重要なのは,「症状が出る前から神経変性が始まっている」ことを,大規模データで示した点です.著者らはUK BiobankのMRIデータを解析し,まだ診断されていないリピート伸長保因者の脳体積を調べました.この結果,非発症HTT病的伸長保因者では,被殻体積が22.1%も減少していました(図2左).つまり,「症状が出るかなり前から,ハンチントン病らしい神経変性が静かに進行している」ことを意味します.同様に,CACNA1A伸長保因者では小脳灰白質体積が24.6%減少し,C9orf72伸長保因者では視床体積が9%減少していました.しかも,これらの萎縮は,それぞれの疾患で最も障害されやすい部位です.つまり,遺伝子変異があるだけではなく,「その疾患らしい神経変性」が発症前から始まっていたことになります.さらに血液バイオマーカーも解析されました.HTT伸長保因者では,神経軸索障害マーカーであるNfLが約1.9倍に増加していました.これは,無症候段階ですでに神経変性が進行していることを支持します(図2右).
本研究は,リピート伸長疾患に対する考え方を大きく変える可能性があります.これまで一般に「症状が出てから診断する疾患」と考えられてきました.しかし本研究は,「症状が出る前から脳萎縮や神経変性が始まっている」ことを明確に示しました.将来的には,もし治療が確立すれば,ゲノム解析と血液バイオマーカーを組み合わせて積極的に,発症前段階で高リスク群を同定し,超早期介入を行う時代が来るのかもしれません.アルツハイマー病研究で進みつつある“preclinical neurodegeneration”という概念が,リピート伸長病にも広がり始めることを予感させます.そして治療開発につなげるために,リピート伸長を持っていても発症しない人のメカニズムを調べる研究が当然始まっているのではないかと思いました.
なお,個人的にも関心の深いDRPLA(ATN1リピート伸長)についても,本研究では解析対象に含まれていましたが,100万人規模の解析にもかかわらず,病的伸長保因者はほとんど検出されませんでした.東アジアでSCA6が比較的高頻度であったこととは対照的であり,DRPLAは日本では重要な遺伝性神経疾患として認識されている一方で,一般集団全体でみると依然として非常に稀少な疾患であることをあらためて印象づける結果でした.
Pounraja VK, et al. Population-scale repeat expansions elucidate disease risk and brain atrophy. Nature. 2026 Apr 8. doi: 10.1038/s41586-026-10345-6. PMID: 41951733.

米国神経学会プレジデントNatalia S. Rost 先生から学ぼう!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月13日のFB投稿です***
第67回日本神経学会学術大会(大会長:西山和利先生)では,American Academy of Neurology(#AAN)との特別企画が開催されます.今回,AAN Presidentであり,ハーバード大学医学部神経学教授でもあるRost先生を日本にお迎えし,AAN Special Lecture,シンポジウム「予防神経学の原理と実践」,そして “Meet the AAN President” が企画されています.国際的に活躍されるRost会長から,予防神経学,リーダーシップ,そして脳神経内科の未来について直接学べる,大変貴重な機会です.
特に “Meet the AAN President ― 若手医師・女性医師が拓く新しい脳神経内科リーダー像 ―” は,5月21日(木)8:00〜9:30,第12会場(パシフィコ横浜 会議センター4F 419)で開催されます.私は三澤園子先生とともに座長を務めさせていただきます.AANは,脳神経内科領域におけるリーダーシップ教育の先駆的存在であり,若手育成やダイバーシティ推進にも長年力を注いできました.今回のセッションが,若手の先生方から指導的立場の先生方まで,多くの皆様にとって,これからの脳神経内科医のあり方やキャリア形成を考える機会になれば素晴らしいと思っております.
また,「予防神経学の原理と実践」シンポジウムは5月21日(木)15:10〜17:10,第3会場で開催され,Rost会長に加え,永山正雄先生,Saef Izzy先生,川本未知先生らが登壇されます.さらに,5月22日(金)8:30〜9:30には,「米国神経学会AAN Rost理事長から日本神経学会会員の皆様へ」と題したAAN Special Lectureも予定されています.
会期中にはAANブース(K-11)もPACIFICO横浜に設置されます.AANの教育コンテンツ,国際活動,キャリア支援,membership情報などについて直接相談できる貴重な機会です.5月21日・22日の10:00〜11:00には,Rost会長ならびにAAN CEOのMary Post氏との meet & greet も予定されています.さらに現在,AAN membershipは2026年残り期間について50%割引キャンペーンも行われています.国際学会活動や海外との交流に関心のある先生方には,ぜひAANブースにもお立ち寄りいただければと思います.私自身もAAN Fellowとして,AANと日本神経学会の橋渡しに少しでも貢献できればと考えております.横浜で多くの先生方にお目にかかれることを楽しみにしております!!

世界最大GWASが示した視神経脊髄炎スペクトラム障害の病態―多発性硬化症よりむしろSLEに近い!
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月14日のFB投稿です***
AQP4抗体陽性視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の病態理解を大きく前進させる重要な論文がLancet Neurology誌に掲載されています.世界36施設が参加したInternational NMOSD Genetics Consortiumによって実施された,これまでで最大規模となるゲノムワイド関連解析(GWAS)です.
NMOSDは多発性硬化症(MS)と類似した症状を示します.しかしAQP4抗体の発見以降,MSとは異なる疾患であることが明らかになってきました.しかし,なぜAQP4抗体が産生されるのか,なぜ自己免疫が生じるのかという点については十分に分かっていません.遺伝学的リスクを明らかにするGWASはそのヒントになります.
本研究では,1573例のAQP4抗体陽性NMOSD患者と1260例の対照群を対象に,多民族GWAS解析を行いました.まず患者群の約40%が他の自己免疫疾患を合併していました.そして解析の結果,最も強い遺伝学的リスクとして浮かび上がったのが,第6染色体MHC領域に存在する補体C4A関連変異でした.特にrs1150753という変異は,NMOSD発症リスクを約3倍に高めていました.補体C4は,免疫系における「掃除係」のような役割を担っています.通常は,自分自身に反応してしまう危険なB細胞を除去する働きを持っています.しかしC4機能が低下すると,本来なら除去されるはずの自己反応性B細胞が生き残り,AQP4抗体を作りやすくなる可能性があります.実際,SLEなど他の自己免疫疾患でも,C4A欠損やコピー数低下が病態に関与することが知られており,NMOSDとの共通性が強く示唆されました.最近,この遺伝子,どこかで見たなと思いましたが,それは進行性核上性麻痺のGWAS論文でした.既知の5つの遺伝子座(MAPT,MOBP,STX6,RUNX2,SLCO1A2)に次ぐ新たな遺伝子座としてこの補体C4Aが示されていました(Nat Commun. 2024;15(1):7880).
2つめは,HLA-DRB1*03:01というHLAクラスII遺伝子が同定されました.これは抗原提示に関わる分子であり,自己抗原をCD4陽性T細胞に提示する役割を持っています.特に74番目と77番目のアミノ酸が病気と強く関連しており,自己抗原提示の仕組みそのものがNMOSD発症に深く関わっている可能性が示されました.著者らは,NMOSDは単なるB細胞病ではなく,「自己反応性T細胞がB細胞を助けて自己抗体を作らせるT細胞依存的な疾患」であると考察しています.
そして3つめは,第2染色体のSTAT4遺伝子でした.STAT4は免疫反応を増強するシグナル分子であり,特にT follicular helper細胞(Tfh細胞)の機能に重要です.Tfh細胞は,CD4陽性T細胞の一種であり,リンパ節や脾臓の「胚中心」でB細胞を助ける役割を担います.いわば,B細胞に対して「どの抗体を作るべきか」を教育する司令塔のような細胞であり,STAT4活性上昇は自己抗体産生を促進すると考えられます.興味深いことに,STAT4はSLEやシェーグレン症候群,筋炎など多くの自己免疫疾患でもリスク遺伝子として知られており,NMOSDとの病態の共通性を強く示唆します.
本論文で私が最も印象的だったのは下図です.この図では,各自己免疫疾患の「遺伝学的な近さ」が結ぶ直線の距離として描かれています.するとNMOSDはMSよりも,SLE,シェーグレン症候群,筋炎,サルコイドーシスなどの全身性自己免疫疾患に近い位置に配置されています.これは非常に重要です.というのは,NMOSDがMSよりもSLEや筋炎に近いのであれば,「MS治療薬」ではなく,「全身性自己免疫疾患で有効な治療」を用いるべきという発想につながります.実際,本論文でもSLEや乾癬性関節炎などで開発が進んでいるTYK2阻害薬が注目されています.TYK2はSTAT4経路の上流に存在するシグナル分子であり,本研究ではTYK2遺伝子のP1104A変異がNMOSDに対して保護的に働くことも示されています(この変異を持つ人では,NMOSD発症リスクが約半分になります).
つまり本研究は,AQP4抗体陽性NMOSDは,「補体C4による自己反応性B細胞除去の破綻」,「HLAを介した自己抗原提示」,「STAT4/TYK2経路による自己抗体産生促進」といった病態により生じると推測されます.NMOSDを「全身性自己免疫疾患のひとつ」として考える時代に入ったのかもしれません.
Attfield KE, et al. Identification of genetic risk loci associated with aquaporin 4-positive neuromyelitis optica spectrum disorder: a genome-wide association study. Lancet Neurol. 2026;25:482-491. PMID: 40158564.

「アミロイドβ一強」から多標的創薬への移行:2026年版アルツハイマー病治療薬パイプライン
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月16日のFB投稿です***
アルツハイマー病(AD)治療薬開発の全体像を毎年まとめているJeffrey Cummings先生らによる2026年版のレビュー論文が公開されました.著者らは,米国ネバダ大学を中心としたグループであり,clinicaltrials.govに登録された世界中のAD臨床試験を解析しています.本論文は,現在どのような治療薬が開発されているのかを俯瞰できる,非常に重要なレビューです
2026年1月時点で,AD治療薬の臨床試験は192試験,開発中薬剤は158種類に達していました.しかも,その73%が疾患標的療法(disease-targeted therapy;DTT)であり,単なる症状改善ではなく,「発症予防」や「進行抑制」を目的としている点が大きな特徴です.現在進行中の試験に必要な被験者数は54,728人にも及び,第3相試験だけで38,417人が必要とされています.まずAD創薬が極めて大規模化していることが分かります
本論文で最も印象的なのは,もはやAD創薬が「アミロイドβ(Aβ)一強」ではなくなったことです.もちろん,抗アミロイド抗体は依然として重要な位置を占めています.第3相試験では,lecanemab,donanemab, remternetug,trontinemabなどの抗体医薬が進行しています.Remternetugはピログルタミル化Aβを標的とする抗体で,donanemabに似ていますが,よりAβ除去能が強力なようです.特にtrontinemabは,トランスフェリン受容体を利用して血液脳関門通過性を高めた次世代抗体として注目されています
しかし今回のパイプラインを眺めてみて,Aβのみでなく,タウ,炎症・免疫,代謝異常,シナプス障害,血管障害など,多様な病態を標的とした創薬が急速に拡大していることがわかります.実際,本論文では17種類もの病態カテゴリーが治療標的として挙げられていました.その内訳を見ると,最も多いのは神経伝達受容体関連薬で24%を占め,次いで炎症/免疫関連薬が18%,アミロイドβ関連薬が16%,タウ関連薬が9%となっていました(図1).特に注目すべきなのは,炎症/免疫関連薬が,すでにアミロイドβ関連薬を上回っている点です.さらに概日リズム,腸脳相関,エピジェネティクスなどを標的とする薬剤まで登場しています.ADが単一病態ではなく,多因子疾患であるという理解が,創薬に反映され始めたことを示しています.
代謝異常を標的とした治療も非常に興味深い領域です.糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬semaglutideが第3相試験に進んでおり,脳内インスリン抵抗性改善や神経炎症抑制を介した疾患標的効果が期待されています.またmetforminも第3相試験に含まれていました.近年,「ADは脳の糖尿病」とも表現されることがありますが,その流れを象徴していると言えます.
さらに,タウを直接標的とする治療も増加しています.BIIB080(diranersen;タウASO),NIO752(タウ ASO),BMS-986446(抗タウ抗体),ARO-MAPT(RNA interference)などが開発されており,タウ病理そのものへの介入が本格化しています.特にNIO752やBIIB080は,タウ mRNAを標的としてタウ産生自体を抑制するASOであり,『タウを除去する』治療から『タウを作らせない』治療へ移行しつつあることを象徴しています.さらにNIO752はPSPに対するPhase 3試験にも進んでおり,岐阜大学でも治験開始予定です.
また本論文で目についたのは,「ドラッグ・リポジショニング」が極めて多いことです.全薬剤の35%が既存薬でした.metformin,nilotinib,edaravone,losartan,levetiracetamなど,他疾患治療薬がADへ応用されています.AD創薬は失敗率が高く,新規薬剤開発には莫大な費用と時間を要します.そのため,すでに安全性情報が蓄積されている既存薬を活用する戦略が取られているようです.
図2は,現在のAD創薬の全体像を示したものです.同心円状に,外側が第1相,中間が第2相,内側が第3相を示しています.さらに,緑は生物学的DTT,紫は小分子DTT,オレンジは認知機能改善薬,青は精神症状改善薬として色分けされています.また,各アイコンの色はアミロイド,タウ,炎症/免疫,シナプス,代謝,血管障害などの病態標的を示し,アイコンの形は対象患者群を表しています.やはり「AD創薬は,もはやアミロイドβだけではない」という現在の流れが理解できます.また,無症候だがバイオマーカー陽性のpreclinical ADを対象とした予防試験も増加しており,「症状が出てから治療する病気」から,「発症前に介入する病気」へと,AD医療そのもののパラダイムシフトが進んでいることも示されています.
Cummings JL, et al. Alzheimer’s disease drug development pipeline: 2026. Alzheimers Dement (N Y). 2026;12:e70251. doi:10.1002/trc2.70251.PMID: 40190791

脳梗塞後,脳は回復プログラムを停止するが,回復能力を失っていない;本邦からの驚くべきNature論文
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月18日のFB投稿です***
脳梗塞後の脳の回復能力は,時間の経過とともに失われていくと考えられてきました.しかし今回,東京科学大学などの共同研究グループがNature誌に発表した論文は,この常識を大きく揺さぶる内容です.責任著者の七田崇教授とは,かつて「日本脳循環代謝学会・若手の会」で議論を交わした間柄ですが,脳虚血を免疫学の視点から探究してきた卓越した研究者です.今回の研究を読みながら,「ついにここまで到達したか!」と,大きな驚きと興奮を覚えました.
研究の主役はミクログリアです.ミクログリアは脳の免疫細胞ですが,炎症を起こすだけでなく,修復にも関わります.脳梗塞後には,強力な神経栄養因子であるIGF1を産生する「修復型ミクログリア」が出現し,神経回路再構築,髄鞘修復,シナプス形成を促進します.著者らはIgf1-eGFPマウスを用い,脳梗塞後にこのIGF1陽性ミクログリアが増加することを示しました.さらにこれらの細胞を除去すると神経機能回復が悪化したため,修復に必須の細胞であることを確認しています.
しかし重要なことは,この細胞のその後の運命です.いままで,修復型ミクログリアは時間経過とともに消失すると考えられていました.ところがIGF1を発現するミクログリアを長期間追跡したところ,発症28日後でも細胞そのものは脳内に残っていました.しかしIGF1発現だけが消失していたのです!!図1gでは,過去にIGF1を発現していたことを示すtdTomato陽性細胞は脳内に残存しているものの,現在はIGF1の発現を示すeGFPシグナルは失われていることを示しました.つまり以前,IGF1を発現していた修復型ミクログリアが,現在はIGF1発現を失っているということになります.そして図1hでは,過去にIGF1を発現した細胞のうち,現在もIGF1を発現している細胞(eGFP+ tdTomato+)は時間とともに減少し,一方でIGF1発現を失った細胞(eGFP− tdTomato+)が増加することが示されています.この結果は,修復型ミクログリアが消失したのではなく,同じ細胞がIGF1発現を失って「修復停止状態」に移行したことを示しています.
つぎにsingle-cell RNA-seq解析では,修復型ミクログリアクラスターから,修復停止型ミクログリアクラスターへ連続的に移行するtrajectoryが示され,「別の細胞が出現した」のではなく,「同じ細胞が状態変化した」ことが明らかになりました.近年のsingle-cell biologyの威力を感じました.
次に著者らは,「なぜ修復が止まるのか」を検討しました.そこで同定されたのが転写因子ZFP384です.ZFP384は脳梗塞後後期に増加し,IGF1など修復関連遺伝子群の発現を抑制していました.さらに分子レベルでは,YY1というクロマチンループ形成因子が修復遺伝子群を活性化している一方,ZFP384が増加するとYY1をクロマチン複合体から排除し,修復遺伝子群をOFFにしてしまうようです.つまり脳には,「修復終了プログラム」という仕組みが存在していたことになります.しかもその上流にはTGFβシグナルが存在していました.TGFβは一般に組織安定化や恒常性維持に関わるサイトカインですから,脳はTGFβ→ZFP384経路を使って「修復を終えて安定化へ移行する」のではないかと思われます.
そこで著者らは,近年,臨床応用されているZfp384のアンチセンス核酸(ASO-Zfp384)を作成して脳室投与し,ZFP384の抑制を試みました.すると修復型ミクログリアが長期間維持され,神経機能回復が改善しました.特に驚くべきは図2で,脳梗塞発症29日後という慢性期にASOを投与しても,2つのテストで神経機能が改善していました.これは,「脳卒中回復にはタイムリミットがある」という従来の固定観念を大きく覆す結果です.
さらに著者らは,本当に神経修復が起きているのかを詳しく検討しました.single-cell解析では,オリゴデンドロサイト前駆細胞では髄鞘形成関連遺伝子が増加し,興奮性ニューロンではシナプス形成関連遺伝子が増加し,アストロサイトでは神経可塑性関連遺伝子が増加していました.組織学的にもMBP染色で再髄鞘化が確認され,電子顕微鏡ではシナプス数の増加や成熟シナプス形成が示されました.つまりASO-Zfp384は単に炎症を抑えているのではなく,脳そのものの再構築を促進したことが分かります.
図3は研究全体をまとめの模式図です.脳梗塞後,発症約7日頃にはYY1の転写制御により,修復型ミクログリアが誘導され,IGF1などの修復関連遺伝子を発現します.しかし時間が経過するとZFP384が増加し,YY1による修復遺伝子発現を妨げることで,ミクログリアは修復能を失った機能不全状態へ移行します.一方,Zfp384を標的とするアンチセンス核酸を投与すると,この修復機能の低下を防ぎ,脳卒中後回復を持続させ,機能予後を改善できる,ということです.
ただこの論文を読んでいて,最初から「修復型ミクログリアを長期間維持して,本当に安全なのだろうか?」という懸念が頭に浮かんでいました.生命は極めて精緻な仕組みを備えているので,「きっと意味があって修復モードを終了させているのではないか?」と考えたわけです.つまりZFP384による修復停止は,悪い現象ではなく,本来必要な生理的ブレーキで,脳の恒常性維持に必要なのではないかということです.例えばミクログリアをずっと修復モードに固定すると,不要シナプスの刈り込みがなされず異常シナプスが形成されたり,炎症の慢性化やグリオーシス,IGF1による増殖促進作用などが問題となる可能性があります.また実験では若いげっ歯類を使用しますが,実際のヒトは高齢者で,lipid droplet accumulating microgliaやdisease-associated microglia (DAM)といったいわゆる「疲弊したミクログリア」が対象になります.もちろん著者らもこの辺は了解済みで,「永遠に活性化する」のではなく,「修復機能を一定期間 sustain(持続)する」という慎重な表現を繰り返しています.つまり「ミクログリアをずっと活性化すればよい」という単純な話ではなく,「脳には回復終了プログラムが存在し,それを一時的に解除することで回復期間を延長できる」というアイデアなのだと思います.
いずれにしてもミクログリアは脳卒中だけでなく,認知症,パーキンソン病,外傷性脳損傷など極めて多くの疾患に関わります.今後,これらの疾患で一斉にミクログリアの修復停止に関する検証が進むのではないかと思います.非常に大きなパラダイムシフトをもたらす素晴らしい研究だと思います.
Tsuyama J,et al. Sustaining microglial reparative function enhances stroke recovery. Nature. 2026 May 13. doi: 10.1038/s41586-026-10480-0. Epub ahead of print. PMID: 42129556.

脳アミロイドアンギオパチーとは何か?―NEJM総説が示した「血管のアルツハイマー病」の本質
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月19日のFB投稿です***
高齢者の脳出血の原因として知られる脳アミロイドアンギオパチー(CAA)ですが,近年その重要性は高まりました.レカネマブやドナネマブなどAβ抗体治療の普及に伴い,再注目されるようになったわけです.今回ご紹介するのはNEJM の最新総説です.
CAAは,アミロイドβ(Aβ)が脳小血管壁へ沈着する疾患です.ADの老人斑ではAβ42が主体ですが,CAAではより短いAβ40が主体となります.沈着部位は主として皮質・軟膜小動脈であり,被殻や視床など深部穿通枝には少ないことが知られています.このためCAA関連出血は「脳葉型出血」として出現します.
まず病理所見です.図1Aは軽症~中等症CAAです.血管平滑筋周囲に部分的にAβ沈着がみられますが,進行すると血管壁全体がAβで置換されます.Bは高度CAAで,血管壁が同心円状に分離し,“double barrelないしvessel-within-vessel appearance”を形成しています.つまりCAAは「血管そのものが破壊される病態」であることを認識する必要があります.この段階で血液脳関門障害やアストロサイト・ミクログリア活性化が生じ,脳出血へ至ります.またCはCAA-related inflammation(CAA-ri)です.血管周囲へ炎症細胞が集積しています.
つぎに疫学です.非常に頻度が高い疾患で,中等度〜高度CAAは一般高齢者の23%,AD患者では約48%に存在するそうです!しかし重要なのは,病理と症候は一致しないということです.つまり多くの高齢者脳にはCAA病理が存在するものの,実際に脳出血を起こすのは一部ということです.
つぎにCAAが数十年かけて進行するかなり緩徐な疾患であることが強調されています.遺伝性CAA(APP遺伝子変異)研究から,最初の脳出血の30〜40年前には既にAβ沈着が始まり,20〜30年前には脳血管反応性低下が出現し,10〜15年前には白質障害がMRIで検出されるようになるそうです.そして最終段階として微小出血や脳表ヘモジデリン沈着症(cSS),脳葉型脳出血が出現します.つまりCAAは,長い前臨床期を持つ超慢性疾患ということです.
臨床症候として重要なのは脳葉型脳出血ですが,「認知症としてのCAA」も強調されています.CAAは白質病変や微小梗塞を介して認知機能低下に関与します.また非常に重要な症候は,一過性局所神経エピソード(transient focal neurologic episodes; TFNE)です.これは従来“amyloid spells”とも呼ばれていたもので,手→腕→顔,感覚障害→失語のように,症状が数分かけて隣接領域へ拡大します.この経過はTIAとは異なります.MRIでは近傍に,convexity SAHやcSSを認めることが多く,病態としては皮質拡延性脱分極(CSD)が背景にあると考えられています.TFNEとTIAの鑑別は予防療法を行う上で重要になります.
図 2はMRIで,Aは脳葉型出血で,finger-like projectionsを認めます.血腫の辺縁から,白質方向へ指のように細長く伸びる突出を指します.通常の高血圧性脳出血では,血腫は比較的丸く,境界も滑らかですが,CAAでは,血液が脆弱化した白質内血管周囲へ沿って浸潤しやすく,このような所見を呈します.Bの黒矢印は微小出血で,皮質・皮質下優位に存在しています.さらに白矢印はcSSで,現在,TFNE,脳葉型脳出血再発,さらにARIAリスクとも強く関連すると考えられています.Cは半卵円中心の高度perivascular spacesが示されています.これはAβ排液障害を反映すると考えられており,CAAがグリンファティックシステム障害の疾患である可能性を示唆します.DはCAAが多発白質虚血病変を呈することし示しています.EでCAA-riのFLAIR高信号病変で,皮質近傍に非対称性白質病変が出現しており,Aβ陽性血管に対する炎症反応を反映しています.論文ではAβ抗体治療に伴うARIAは,「医原性CAA-ri」である可能性を指摘しています.
さらに図3のMRIは,同号のNEJMに掲載された症例報告のものです.86歳男性のSWIでは,脳葉全体に500個以上の微小出血が認められますが,大脳深部は比較的保たれています.これは「CAAは皮質・皮質下小血管病である」ことを改めて示しています.そしてこれほど多数の微小出血が存在するにもかかわらず,主症状は脳葉型大出血ではなく,認知機能低下と歩行障害でした.これはCAAが慢性白質障害を伴う小血管疾患であることを示唆しています.
治療面では,CAA関連脳出血の再発率が年間7.4%と非常に高いことが強調されています.特にcSSや多発脳葉型出血を伴う症例では再発リスクが高く,心房細動合併症例での抗凝固療法は極めて難しい問題になります.著者はDOAC,左心耳閉鎖術,抗血小板単剤などを症例ごとに慎重に検討すべきと述べています.また血圧コントロール(130/80未満)は極めて重要な再発予防戦略です.また,将来的治療戦略としてAβ産生抑制,Aβクリアランス促進,血管保護が挙げられています.特にAPP遺伝子を標的としたsiRNA治療の第2相試験が紹介されており,CAAが「予防・修飾可能な脳小血管病」へ変わる可能性が示唆されています.
Greenberg SM. Cerebral Amyloid Angiopathy. N Engl J Med. 2026 May 7;394(18):1836-1845. doi: 10.1056/NEJMra2411298. PMID: 42090794.

神経科学の父・カハールに学ぶ『若き研究者への助言』翻訳・出版プロジェクト その2@第67回日本神経学会学術大会
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月24日のFB投稿です***
岐阜大学医学部では昨年度より,3年生を対象に「プロジェクト基盤型カリキュラム(Project-based Learning:PjBL)」のトライアルを開始しています.脳神経内科では,スペインの神経解剖学者であり,1906年にゴルジとともにノーベル生理学・医学賞を受賞したSantiago Ramón y Cajalの名著『Advice for a Young Investigator(若き研究者への助言)』の翻訳プロジェクトに取り組んでいます.いつか,どのような形であってもこの素晴らしい本を出版することが私たちの夢です.
翻訳作業に加えて,学生自身がカハールに関連して関心を持ったテーマを調べ,まとめ,自分たちの言葉で発表することを課題にしました.その成果を,第67回日本神経学会学術大会(横浜大会)の医学生・研修医セッションで口演する機会をいただきました.以下の2つの発表です.
◆カハールの神経描画が現代神経学に及ぼした影響についての検討(伊藤颯汰君,岸田隼典君,矢部峻毅君)
◆カハールのニューロン説と芸術的手法(関谷陸叶君,西堀翔太君,八木麻衣さん)
スライドはこちらからご覧いただけます(https://www.docswell.com/…/800…/K27NN4-2026-05-24-060016).
前者の発表では,カハールが提唱したニューロン説と,それを支えた精緻な観察に基づく視覚的思考が,神経系を「個々のニューロンが連結するネットワーク」として捉える新しい視点につながったことを示してくれました.そしてその視点が,後のシナプス研究やコネクトミクスへと発展し,現代神経科学の基盤を築いたことを紹介してくれました.
後者の発表は,まったく異なる興味深い切り口でした.芸術的観点からカハールの業績を見つめ直し,彼の美しい神経細胞スケッチがSalvador Dalíをはじめとするシュルレアリスム(超現実主義)の芸術家たちに影響を与えたこと,さらにカハールが描き出したニューロンの世界が現代芸術にも影響を与え続けていることを紹介してくれました.科学と芸術が響き合う探究の原点として,あらためてカハールの存在の大きさを感じる発表でした.
座長を務めてくださった木村和美先生,そして会場にいらした河村満先生からも「とても素晴らしい発表でした」と温かいお言葉をいただき,学生たちも大きな励みになったようです.今回の経験を通して,学会という場で,自ら学び調べたことをみんなに伝える喜びを感じてもらえたことを嬉しく思っています.この経験を次の学びにつなげ,それぞれの学生生活をさらに充実したものにしてほしいと思います.

肥満は全身に炎症を起こし,三叉神経を傷つける?―透明化×AIで全身を細胞レベルで解析したNature論文
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月25日のFB投稿です***
今回ご紹介するのは国際共同研究グループによるNature誌掲載論文です.責任著者は全身透明化モデルで有名なAli Ertürk教授で,さらにAIを組み合わせることで,「肥満が全身の神経系と免疫系にどのような変化を引き起こすか」を細胞レベルで可視化し,意外な結果を見出した研究です.
本研究で開発されたのは,「MouseMapper」と呼ばれるAI解析システムです.マウスの全身を透明化し,ライトシート蛍光顕微鏡で撮影した巨大な3D画像データをAIによって解析することで,全身の神経線維,免疫細胞,臓器構造を自動認識できるようにしました.研究では,高脂肪食を16〜18週間投与した肥満マウスを使用しています.まず,Uchl1-eGFPマウスを用いて末梢神経全体を可視化しました.Uchl1(別名PGP9.5)は古くから末梢神経を含むニューロンのマーカーとして広く使われています.動画では,透明化されたマウスの全身を,緑色の末梢神経が縦横無尽に走行する様子が立体的に描出されており圧巻です.脊髄神経から脂肪組織へ向かう長い神経束や,顔面を走行する三叉神経の分枝まで明瞭に観察できます.まさに「神経ネットワークを全身レベルで見る」時代が来たことを実感させる映像です.
つぎにCd68-eGFPマウスを用いて,肥満による炎症反応も解析しています.CD68は「炎症性マクロファージ浸潤」を見る代表的マーカーです.動画では,肥満マウスの全身に広がるマクロファージ集積が観察でき,特に内臓脂肪や肝臓周囲で巨大な炎症クラスターが形成されている様子が印象的です.著者らは,これらの免疫細胞集積をAIによって自動分類し,「小」「中」「大」のクラスターとして定量化しました.その結果,肥満では小クラスターが減少し,中〜大規模クラスターが著明に増加していると述べています.つまり慢性炎症が高度化していることを意味します.COVID-19の予後予測因子として肥満が指摘され,炎症との関わりが推測されていましたが,この図だけで説得力があります.
本研究で最も重要な発見は,「肥満によって三叉神経系が障害される」という点です.著者ら全身スクリーニングにおいて「頭部の神経密度低下」が目立ったため,三叉神経第2枝,すなわち眼窩下神経に注目しました.これはマウスの「ヒゲ感覚」,すなわち,顔のヒゲ(vibrissae)を使って周囲環境を触覚的に認識する重要な神経です.AI解析の結果,肥満マウスでは,この神経の末梢分枝が著明に減少していました.神経終末数,分枝数,ネットワーク複雑性が大幅に低下していました.一方,神経幹そのものの太さは保たれていましたので,神経全体が脱落するのではなく,末梢への軸索伸長や分枝形成が障害されていることを示唆しています.実際にヒゲ刺激試験を行ったところ,肥満マウスではヒゲ刺激への反応低下が認められました.つまり,構造異常だけでなく感覚機能障害も実際に生じていたことになります.肥満が感覚神経系に影響することは以前から指摘されていたそうですが,本研究は,その構造学的基盤を直接可視化したことになります.
著者らは,このような神経障害が起きる機序を調べるため,三叉神経節の空間プロテオミクス解析も行っています.その結果,「アクチン細胞骨格制御」「Rho GTPase」「軸索誘導」関連経路の異常が明らかになりました.これらは神経軸索の形成や神経可塑性に必須の分子経路です.また,「補体系」「ERBB signaling」「スフィンゴ脂質経路」など炎症関連経路も異常を示していました.つまり,肥満による慢性炎症が,神経リモデリング異常を引き起こしている可能性があります.さらに重要なのは,これらの変化がヒトでも確認できた点です.著者らは,肥満者の剖検三叉神経節を解析し,マウスと同様に「軸索誘導」「細胞骨格制御」「神経変性関連経路」の異常を確認しています.
本研究は,「肥満は単なる代謝異常ではなく,全身神経系・免疫系を再構築してしまう全身疾患である」ことを示した点が最大の意義と思います.また脳神経内科的には,「肥満が三叉神経系を障害する」という発見は新規性が高く,肥満患者における顔面の感覚異常や片頭痛などとの関連も今後注目されるのかもしれません.
Kaltenecker D, et al. A deep-learning framework reveals whole-body perturbations at cell level. Nature. 2026. doi:10.1038/s41586-026-10535-2. PMID: 40459471.
動画は著者であるAli Max Erturk博士(@erturklab)がxで公開したもの.

「脳内リンパ系システム(完全版)」が簡単に聴けるようになりました@ドクターサロン
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月27日のFB投稿です***
先日もご紹介しましたが,ラジオNIKKEIの「ドクターサロン」で,「脳内リンパ系システム」についてお話ししました.ラジオ放送では時間の都合で一部を短縮していましたが,今回,完全版がWebで公開されました.アプリののダウンロードも不要で,コメント欄にあるリンクよりすぐにお聴きいただけます.
スピーチはあまり得意な方ではないのですが,案外なめらかに話しております(笑).よろしければ,ぜひ気軽にお聴きいただければ嬉しいです.
15分ほどの短い番組ですが,脳の老廃物を排出する「脳内リンパ系システム」という,近年とても注目されているテーマについて,できるだけわかりやすくお話ししました.驚くべき最近の脳研究の進歩を,多くの方に知っていただき,日々の脳の健康につながるきっかけになればと思っています.また,この放送のために準備したスライド資料も公開しています.あわせてご覧いただくと,より理解しやすいと思います.

多系統萎縮症を脳脊髄液で診断する時代へ―TPPP/p25が切り開くMSA研究の新たな転換点(Cell掲載論文)
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月30日のFB投稿です***
多系統萎縮症(MSA)は,パーキンソニズム,小脳性運動失調,自律神経障害を主徴とする進行性の神経変性疾患です.病理学的にはオリゴデンドロサイト内に形成されるglial cytoplasmic inclusion(GCI)が特徴で,その本態はα-synucleinの蓄積です.一方,臨床では,特に発症早期例においてパーキンソン病との鑑別が難しく,診断に苦慮する場面が少なくありません.また近年,α-synucleinのseed amplification assay(SAA)が注目されていますが,α-synucleinはパーキンソン病やLewy小体型認知症にも共通するため,MSAに特異的な診断法の開発が期待されていました.
こうしたなか,中国の共同研究グループが,Cell誌に極めて注目すべき論文を発表しました.本研究は,オリゴデンドロサイトに豊富に存在するTPPP/p25タンパクに着目し,そのアミロイドseed活性を脳脊髄液から検出することで,MSAを高精度に診断できることを示したものです.TPPP/p25(tubulin polymerization promoting protein, p25)は,主にオリゴデンドロサイトで働く微小管関連タンパクです.名前の通り,中心的な役割はtubulinの重合を促進し,微小管を安定化することですが,GCIにも含まれるタンパクです.この研究はTPPP/p25がどのように凝集するのかという分子機序を構造レベルで明らかにし,その知見をそのまま診断法へ結びつけた完成度の高いトランスレーショナルリサーチと言えます.
本研究の出発点は,TPPP/p25が通常どのような構造で存在しているかを解析したことでした.TPPP/p25は中央のCORE領域と,その両端にあるN末端領域(NTR)およびC末端領域(CTR)から構成されています(図上左).アミロイド化しやすいのは中央のCOREですが,正常では両端のNTRとCTRがCOREを包み込むように保護しており,凝集を防いでいます.著者らはこれを「self-protection」と表現しています.つまりTPPP/p25は,危うい中心部を自ら守りながら存在しているタンパクといえます.
次に著者らは,「この保護機構が壊れると何が起こるのか」を検証しました.驚いたのは,主にパーキンソン病を対象とするデータベースであるPPMIの患者データベースからTPPP/p25遺伝子のA119V変異を見いだしたことです.OMIM 608773を見てみると過去に何らかの疾患の遺伝子としては報告されていないようですが,以前からMSA関連蛋白としてよく知られていたようです.この変異をもつTPPP/p25ではタンパクの安定性が低下し,NTRとCTRによるCOREの保護が弱まっていました.その結果,普段は隠れているCOREが露出し,病的なseedをきっかけにアミロイド線維を形成しやすくなることが示されました.さらに著者らはクライオ電顕を用いて,TPPP/p25アミロイド線維の三次元構造を解析しました.正常時にはα-helixを含むCOREが,アミロイド化するとβ-sheet主体の線維構造へ大きく再編成されており,病的な構造転換が実際に可視化されました.
図は,この流れを分かりやすく示しています.上段では,正常のTPPP/p25でNTRとCTRがCOREを包み込んでいる様子が描かれ,terminal truncation(つまりN末端やC末端が切れて短くなること)や病的環境によってその保護が外れると,露出したCOREがアミロイド線維を形成することが模式的に示されています.右端にはクライオ電顕で再構築された線維構造が描かれています.
著者らはつぎにCOREの最小断片であるminiCOREを人工的に作製しました.このminiCOREは,病的TPPP/p25 seedが存在すると鋳型依存的に急速凝集するよう設計されています.患者の脳脊髄液に微量の病的seedがあれば,それをきっかけにminiCOREが次々と線維化し,蛍光シグナルとして増幅されます.図下には,このseed amplification assayが示されており,時間経過とともにシグナルが急速に立ち上がる典型的な増幅曲線が描かれています.患者検体で調べてみると, MSA患者の脳脊髄液ではTPPP/p25 seed活性が明瞭に検出され,パーキンソン病やLewy小体型認知症,進行性核上性麻痺,アルツハイマー病,健常対照と高い精度で区別できました.特にMSAとパーキンソン病の鑑別では感度96.4%,特異度90.9%(!)という優れた成績でした.さらにTPPP/p25抗体による免疫除去でシグナルが消失し,一方でAβやtau,α-syn除去では消失しなかったことから,検出しているのが確かにTPPP/p25そのものであることも確認されています.
この研究の大きな意義は,MSAをα-synucleinopathyではなく,オリゴデンドロサイト病理を呈する疾患として定義した点にあるように思います.上述した通り,TPPP/p25はオリゴデンドロサイトに豊富に発現し,MSAで特徴的なGCIにも集積するタンパクです.つまり本研究は,どのタンパクが蓄積しているかだけでなく,「どの細胞で病態が進んでいるか」を脳脊髄液から読み出せる可能性を示しました.今後は早期MSAや前駆期の診断が行われ,治験への患者登録精度の向上,さらにはTPPP/p25そのものを標的とした新規治療へもつながる可能性があります.MSA研究における新たな転換点として,今後,注目される論文と思います.
Zeng S, et al. TPPP/p25 amyloid seeding activity as a specific biomarker for multiple system atrophy. Cell. 2026 May 26:S0092-8674(26)00517-9. doi:10.1016/j.cell.2026.04.050. PMID: 42190663.

感染予防より帯状疱疹ワクチンの“補助役”が脳を守っている?認知症を減らすのはワクチンか,アジュバントか.
***岐阜大学医学部下畑先生の2026年5月31日のFB投稿です***
米国神経学会(AAN)ポッドキャストで取り上げられた注目論文です.英国Oxford大学のチームが,npj Vaccines 誌に報告した,AS01アジュバントを含むワクチンと認知症の関連を検討した研究です.アジュバントとは,ワクチンに対する免疫の反応を強める「補助役」の成分です.近年,帯状疱疹ワクチンが認知症の発症を減らす可能性が次々報告されていますが,その機序は十分分かっていません.つまり感染予防が効いているのか,あるいはワクチンに含まれる免疫賦活成分が効いているのか,検討したという研究です.
今回の主役であるAS01は,GSKが開発したアジュバントです.組み換え帯状疱疹ワクチンShingrixにも,高齢者肺炎を防ぐRSVワクチンArexvyにも共通して含まれています.一方,インフルエンザワクチンには含まれていません.AS01の構成成分は体に入ってきた異物を最初に見つけて,免疫に知らせる見張り役のTLR4(Toll-like receptor 4)を刺激するmonophosphoryl lipid A(MPL)と,植物由来のサポニンであるQS-21です.後者は植物由来成分で,免疫細胞の働きを高めて抗原への反応を強める増幅役です.両者を組み合わさることで,高齢者でも強い免疫が得られるのが特徴です.つまり樹状細胞やマクロファージを活性化し,IFN-γを中心とした免疫応答を強く誘導します.著者らは,このAS01が感染予防に加えて神経保護にも関わっている可能性を検証したわけです.
解析には電子カルテデータベースが用いられました.対象は60歳以上で,RSVワクチンのみ接種群35,938人,帯状疱疹ワクチンのみ接種群103,798人,両者の接種群78,658人を抽出し,インフルエンザワクチン接種者と比較しました.主要評価項目は,接種3か月後から18か月以内の認知症の新規診断でした.
最も重要なのは図1です.認知症リスク,negative control,帯状疱疹発症の3つが並んで示されています.認知症の欄を見ると,RSVワクチンのみ群はインフルエンザワクチン群よりRMTL比(Restricted Mean Time Lost:制限平均損失時間)0.71で有意に低く,帯状疱疹ワクチンのみ群も0.82,両方接種群では0.63でした.いずれも1を下回っており,認知症と診断されるリスクが低下していました.一方,RSVワクチンと帯状疱疹ワクチンを直接比較しても差はありませんでした.また,両方を接種しても,片方だけを接種した群より有意にリスク低下するわけではありませんでした.もし認知症リスク低下が感染予防だけによるなら,帯状疱疹とRSVという別々の感染を防ぐ両方接種が,最も強い効果を示すはずです.しかし実際には,RSVワクチン単独,Shingrix単独,両方接種のあいだに大きな差はみられませんでした.以上の結果から著者らは,感染予防に加えて,共通成分であるAS01アジュバントそのものが認知症リスク低下に関与している可能性が高いと考察しています.
図2のKaplan–Meier曲線も印象的です.時間の経過とともに,AS01入りワクチン群とAS01を含まないインフルエンザ群の線が少しずつ開いていきます.RSVワクチン群では平均87日,Shingrix群では53日,両方接種群では113日,認知症と診断されず過ごす期間が延長していました.この差は時間とともにじわじわと広がっていきます.ワクチン接種の影響が一定期間持続していることを感じさせます.
では,AS01はどう脳に働くのでしょうか?著者らは,MPLによるTLR4刺激とQS-21による免疫増強が相乗的に働き,IFN-γを中心とした免疫応答を誘導すると考えています.動物実験では,TLR4刺激によりアミロイド病理が改善した報告がありますし,IFN-γはミクログリアや補体系を介してアミロイド除去に関わる可能性も指摘されています.つまり,AS01が末梢免疫を介して神経免疫のバランスを整え,神経変性の進行を抑えているのではないか,というわけです.
ただし限界もあります.観察研究であり,因果関係はそもそも証明できません.RSVワクチン群の一部にはAS01を含まないPfizer製ワクチンが混在している可能性があります.追跡期間は18か月で,より長期の効果は分かりません.さらに帯状疱疹の生ワクチン(Zostavax)でも認知症リスク低下は報告されており,AS01が唯一の説明ではありません.現時点では,帯状疱疹感染を防ぐ効果に加えて,AS01による追加の免疫調整作用が上乗せされている可能性が考えられます.
とはいえ,本研究の意義は大きいと思います.従来は「感染を防げば認知症が減る」という見方が中心でしたが,今回はそこからさらに進み,「アジュバントが神経免疫を調整し,脳を守る可能性」が新たに示されたわけです.アルツハイマー病研究ではアミロイドβだけ標的とする時代から移行し,神経免疫が重要な柱になりつつありますが,その流れの中で本研究は非常に刺激的です.今後,帯状疱疹ワクチンによる認知症リスク低下が,感染予防によるものなのか,AS01による免疫調整によるものなのか,あるいはその両者がどの程度関与しているのかを明らかにする必要があります.
Taquet M, et al. Lower risk of dementia with AS01-adjuvanted vaccination against shingles and respiratory syncytial virus infections. npj Vaccines. 2025;10:130. PMID: 40473884.

 

3.特別企画:AIに訊く
・「連載シリーズ:切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論」No.2, No.3
第2回:SCAN が照らす“境界の世界” — ゆるみ・変動性・再編成

1. SCAN というレンズを手に入れる
前回は、歩行—走行切り替えという身近な現象の背後に、 「変動性の増大」「構造のゆるみ」「再編成の可能性」といった 深い構造が潜んでいることを見てきました。

今回は、その構造を理解するための最初の理論的レンズ、 SCAN(Sensemaking, Complexity, and Actionable Navigation) を取り上げます。

SCAN は、複雑な状況を 秩序(Order)/境界(Liminal)/混沌(Chaos) という三つの領域に分けて捉える枠組みです。

この「境界(Liminal)」こそが、 歩行—走行切り替えの核心にある“ゆるみの世界”です。

2. SCAN の三領域:秩序・境界・混沌
図4. SCAN における三領域(Order / Liminal / Chaos)。境界領域は構造がゆるみ、変動性が増大し、新しい秩序が生まれる可能性が開く。

SCAN の基本構造はとてもシンプルです。
• 秩序(Order) 安定していて、予測可能で、構造がはっきりしている領域。 歩行や走行のように、確立した運動パターンがここに属します。
• 境界(Liminal) 構造がゆるみ、変動性が増え、 新しい秩序が生まれる可能性が開く領域。 切り替えの瞬間はここにあります。
• 混沌(Chaos) 制御不能で予測が難しい領域。 SCAN は混沌を否定しませんが、 切り替え現象の中心はあくまで「境界」です。

SCAN の魅力は、 境界を“創造的な場”として扱う 点にあります。

3. 歩行—走行切り替えは、境界領域で起きている
歩行と走行は、それぞれ安定した秩序です。 しかし、切り替えの瞬間には、次のような現象が起きます。

• 歩行の安定性が低下する
• 変動性(Var⊥)が増大する
• 協調構造がゆるむ
• 新しい秩序(走行)が形成される

これは SCAN の境界領域の特徴と完全に一致します。

つまり、歩行—走行切り替えは 「境界領域での自己組織化」 として理解できるのです。

4. 変動性は“ノイズ”ではなく“ゆるみ”である
従来、変動性は「誤差」や「不安定さ」として扱われがちでした。 しかし SCAN の視点では、変動性はむしろ 再編成を可能にするための“ゆるみ” です。
• 秩序が強すぎると、変化は起きない
• 混沌が強すぎると、構造が保てない
• 境界では、構造がゆるみ、変化が可能になる

歩行—走行切り替えでは、 まさにこの「ゆるみ」が生じています。

5. 境界領域で起きること:探索・揺らぎ・再編成
境界領域では、次のようなプロセスが起きます。
1. 制約が重なり、構造がゆるむ
2. 変動性が増大し、複数の方向を探索する
3. 最短経路で新しい秩序へ移行する
4. 新しい秩序の内部で変動性が収束する

これは、筆者が構築している 制約幾何学 × 階層的再編成 × 最適面 という枠組みと完全に整合します。

6. SCAN は“切り替えの一般理論”の入口である
SCAN は、歩行—走行切り替えだけでなく、
• 組織の変革
• 学習の転換点
• 心のモード切り替え
• 社会システムの相転移
といった多様な現象にも適用できます。

つまり SCAN は、 筆者の統合理論の「最初の柱」として、 切り替え現象を理解するための 普遍的な地図 を提供してくれるのです。

7. 次回予告:VSM が描く“階層の再編成”へ
次回は、 SCAN の「境界領域」で起きる再編成を、 VSM(Viable System Model) の視点から見ていきます。
• なぜ階層構造がゆるむのか
• なぜ新しい階層が生まれるのか
• なぜ切り替えは“最短経路”で起きるのか

これらを、VSM の「階層的再編成」と結びつけて解説します。

***

第3回:制約幾何学 × 最適面~切り替えは“最短経路”として生じる~

1. 歩行と走行は「別の面」に乗っている
前回までの連載では、
• SCAN が示す「境界領域(Liminal)」
• VSM が示す「階層的再編成」 を通して、歩行→走行切り替えの“現象としての姿”を見てきた。

まずは SCAN の三領域を再確認しておこう。
Figure 4:SCAN の三領域(Order / Liminal / Chaos
身体運動を“許される動きの集合”として捉えたときの多面体(polytope)モデル。 歩行と走行は、この多面体の異なる面(face)として表現される。

では、なぜ切り替えは“あのタイミング”で起こるのか。 この問いに答えるために、本稿では 制約幾何学(Constraint Geometry) という視点を導入する。

制約幾何学は、身体運動を 「多数の制約の中で可能な動きの集合」=高次元の多面体(polytope) として捉える。
この多面体の中で、
• 歩行はある“面(face)”
• 走行は別の“面” に対応する。
Figure 5:制約多面体の概念図
身体運動を“許される動きの集合”として捉えたときの多面体(polytope)モデル。 歩行と走行は、この多面体の異なる面(face)として表現される。

つまり、歩行と走行は 同じ多面体の中の“別の場所”に存在する。

2. 最適面(Optimal Face)という考え方
多面体の中には、
• エネルギー
• 安定性
• 制御コスト などが最小になる“領域”が存在する。

これを 最適面(optimal face) と呼ぶ。

速度が低いとき、 身体は自然と「歩行の最適面」に乗っている。

しかし速度が上がると、 歩行の最適面から徐々に離れ、 代わりに「走行の最適面」が相対的に優位になる。
Figure 6:最適面の移動(歩行面 → 走行面)
速度上昇に伴い、歩行の最適面から離れ、走行の最適面へ移動する様子。 切り替えは“突然のジャンプ”ではなく、面間の最短経路として生じる。

3. 切り替えは“ジャンプ”ではなく“最短経路”
ここで重要なのは、 歩行の面から走行の面へ移るとき、 身体は 多面体の中を“最短経路”で移動する という点だ。
Figure 7:切り替え軌道の模式図(最短経路としての遷移)
多面体内部での“最短経路”としての切り替え軌道。 変動性の増大は、最適面からの離脱を示す指標となる。

つまり、切り替えは 突然のジャンプではなく、制約幾何学的に必然の“面移動” である。

4. SCAN × VSM × 最適面の統合
ここまでの議論をまとめると、 歩行→走行切り替えは次のように理解できる:
• SCAN → 切り替えは Liminal(境界領域)で起こる
• VSM → 切り替え時には階層の再編成が起こる
• 最適面 → 切り替えは多面体の“最短経路”として生じる

SCAN が「どこで起こるか」を示し、 VSM が「どう変わるか」を示し、 最適面が「なぜ起こるか」を説明する。

5. 切り替えの“必然性”
歩行→走行切り替えは、 単に「速度が速くなったから走る」のではない。

身体は、
• 許される動きの集合(多面体)の中で
• 最適な面を選び
• その面へ最短経路で移動する
という 幾何学的な必然性 に従っている。

6. 次回予告:3D 最小モデルで“実際に計算する”
次回(第4回)では、 ここで紹介した制約幾何学の考え方を 3D 最小モデル に適用し、
• アトラクタ
• 変動性の増大
• 切り替え軌道 を実際に可視化する。

 

関連情報&リンク
・今回までの連載シリーズ記事へは、こちらから

・本連載シリーズに関連する学術資料(論文)は、シリーズの進展に合わせ順次掲載しています。
論文1:SCAN × モード切り替え ・・・・ 掲載済み
論文2:VSM × 階層的再編成   ・・・・ 掲載済み
論文3:制約幾何学 × 最適面    ・・・・ 掲載済み
論文4:3D 最小モデル      ・・・・ 未掲載
論文5:統合論文(今回の完成稿)  ・・・・ 未掲載

・その他の連載記事へは、こちらから

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)