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COVID-19後の炎症はなぜ続くのか parakinesia アルツハイマー病新治療:除去から排出へ ニホンザル・モデルの2足歩行 ヒト脳血管空間アトラス ポールウオーキング 口をもぐもぐ、舌が勝手に動く 振戦 推定戦略におけるリソース誘起相転移の理論的解析 機能性神経障害(FND) 死の自己決定 脳内ミクログリア

2026年8月のニュース

今月紹介する論文は2編、「倒立振子に基づくニホンザルの四足歩行から二足歩行への歩行遷移メカニズム」と「資源量に起因する推定戦略における相転移の理論的分析」です。研究テーマは異なりますが、共に「Switching(切り替え)」現象を扱っています。下畑先生からの最新医学情報では、今回もアルツハイマー病に係る最新情報が紹介・解説されています。「特別企画AIに訊く」は、AIと共作した「スタンダード・ポール・ウォーキング(SPW)についての学術論文」の紹介です。

1.2026年8月の活動状況
水間 孝之さんの投稿
第15回日本ノルディック・ポール・ウォーク学会大阪ドーンセンターで開催されました。 酷暑の中、皆さんお疲れ様でした。

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 8月駒場PW例会でした。 この暑さの中〜公園噴水広場⛲️に集まってくれた60名越えの参加者の皆さん❗️ 〜月初めのこのPW例会に来ないと始まらないよ〜との嬉しい言葉も頂いたポールウォークでした。 まだまだ皆さんお元気の平均年齢73歳の集まりでした〜❗️ 次回は8/23「虚空蔵山PW散策」です。

みんなの元気学校さんの投稿
日本におけるノルディックウォーキング・ポールウォーキング 普及発展前史(1999年~2000年代)

田村 芙美子さんの投稿
今朝は渋谷すこやか事業へ向かう途中でスコール☔に逢い帽子もシャツもすっかり濡れてしまいました。暑いので自然乾燥にまかせて教室始動。なんとびっくり、皆さん片足立ちにハマったようで始まる前からフラミンゴ状態。朝夕スクワットをして腿が変!という方に急に張り切ってやりすぎないように注意したり、種々な体操教室に行ってるけど、PWを始めたら一番姿勢がよくなった!と喜んでいただいたり。其は今までの成果がポールで目に見える形になったのでしょう。初回と今とでは本当にからだが柔らかく変化されたと思っていたので私も嬉しくなりました。 近所にポールを使って歩く人がいないので恥ずかしい!とおっしゃる方も。10年前のような話です。まだまだ普及不足ですね。 今日このFBをシェアしたのは遥か10年前は朝から夜まで、等々力溪谷~鶴岡八幡宮~腰越の龍口寺まで何でもなく移動していたのに、今は考えただけでもしんどくなり、老いをつくづく感じたので、自分に檄を飛ばすため。 今日御成通りは夕方からぼんぼり祭りで賑やかですが屋台をひとつも覗かず帰宅しました。トホホ😵💨

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
🌿 第四屆|2026 健康活力輕旅行 即將啟程! 每一步,都能遇見不同的風景;每一次出發,都能收穫更健康的自己。 一年一度備受期待的 「健康活力輕旅行」 即將回來了! 從城市公園、山海步道,到各地特色景點,跟著健走杖一起走進自然、認識新朋友、享受運動帶來的活力與笑容。 這不只是一次健走,更是一場結合 健康、交流、旅遊與生活 的美好旅程。 📍更多活動場次📍精彩路線📍報名資訊 都將陸續公布,敬請期待! 準備好你的健走杖,一起用雙腳探索台灣,用雙杖走出健康。 💚 雙杖在手,健康跟著走💚

スマイルチームさんの投稿
2026.7.27〜8.10 活動記録 ☺︎スマイルフレンズ ☺︎ルネPW ☺︎健康体操 ☺︎スマイルチーム上溝  上溝包括支援センター口腔セミナー&リズムダンス ☺︎活き活き中屋敷デュアルエクササイ ズ ☺︎サマーわぁにばる 阿波踊りにわか連 ☺︎光が丘、上鶴間活動ポスター作成 ☺︎中屋敷チェアエクササイズ ☺︎健康体操 ☺︎スマイルチーム上溝 あっぱくん体験&リズムダンス ☺︎スマイルチーム上鶴間 AED&CPRセミナー&リズムダンス ☺︎HP活動日更新 ☺︎スマイルチーム光が丘連絡網作成 ☺︎AED&CPRセミナー受講証発行21名分 ☺︎スマイルフレンズ あっぱくん体験&リズムダンス ☺︎スマイルチーム光が丘

来月以降の開催

 

 

2.PW関連学術ニュース
2-1)倒立振子に基づくニホンザルの四足歩行から二足歩行への歩行遷移メカニズム

論文情報
掲載誌:eLife NeuroscienceComputational and Systems Biology
表題:Gait transition mechanism from quadrupedal to bipedal locomotion in the Japanese macaque based on inverted pendulum
(和訳:倒立振子に基づくニホンザルの四足歩行から二足歩行への歩行遷移メカニズム)
著者:Koki Nishizaki、Mau Adachi、Yuichi Ambe、Yushi Tsuruse、Ryo Iba、Hiroko Oshima、Takashi Suzuki、Yasuo Higurashi、Kei Mochizuki、Katsumi Nakajima、and Shinya Aoi、
Doi:https://doi.org/10.7554/eLife.109826.1

eLifeアセスメント
本研究は、ニホンザルの神経力学モデルにおける四足歩行から二足歩行への移行に関する理解を深める重要な研究である。方法論と結果は確固たるものであり、神経筋骨格モデルは実験データをうまく再現し、倒立振子モデルに基づく安定性解析は、様々な移行戦略の影響を効果的に説明している。ただし、より包括的な感度分析を行うことで、本研究はさらに充実するだろう。本研究の知見は、運動制御、比較生理学/生体力学、ロボット工学の研究者にとって非常に有益である。

要旨
非ヒト霊長類が四足歩行から二足歩行に移行する能力は、ヒトの二足歩行の進化と複雑な運動制御の原理の両方について重要な洞察を与えてくれる。非ヒト霊長類の四足歩行と二足歩行は研究されてきたが、これらの歩行間の移行の根底にある動的メカニズムは依然として十分に理解されていない。二足歩行するように訓練されたニホンザルは、効率的な二足歩行を実現するために倒立振子のダイナミクスを利用することが報告されている。倒立振子システムは本質的に不安定であり、最小限の制御入力で大きな動きの変化を引き起こす可能性があることから、このメカニズムも歩行の移行に寄与していると我々は仮説を立てた。これを検証するために、詳細な筋骨格構造と生理学的に着想を得た運動制御システムを統合したニホンザルの神経筋骨格モデルを開発した。順動力学シミュレーションを通して、実験的に捉えるのが難しい失敗した遷移も含め、運動指令を体系的にパラメータ化することで、様々な運動パターンを生成しました。次に、倒立振子モデルを用いた動的システム解析を適用し、遷移プロセスの根本原理を調べました。その結果、歩行遷移の成功は、片方の後肢の前方歩幅を適切に制御することで倒立振子運動を生成することに依存することが明らかになりました。これらの知見は、ニホンザルが複雑な筋骨格系をどのように協調させて歩行遷移において熟練した全身運動を行うのかというメカニズムに関する洞察を与え、高度な運動制御とヒトの二足歩行の進化の両方に対するより深い理解をもたらします。

図1.
ニホンザルの筋骨格モデル

図2.
筋シナジー仮説に基づく運動制御モデル。
A.4つの基本信号の線形結合で構成される運動指令。B. 四足歩行における各基本信号に対応する協調筋。C. 二足歩行における協調筋。前肢と後肢の図はそれぞれの段階における状態を示しており、必ずしも同時ではないことに注意してください。

図3.
前進速度、腰の高さ、体幹の姿勢に基づいて動作を制御する(体幹の姿勢は二足歩行時のみ制御される)。
制御対象と制御に使用される筋肉は、同じ色で示されています。

図4.
2つの追加パルスを用いて四肢の筋肉を刺激することで、歩行様式を変化させる。

***以下は、2026年8月7日のGeminiとの会話です***
Q:次の論文の内容を、分かり易く解説して下さい。論文情報です。「NeuroscienceComputational and Systems Biology
Gait transition mechanism from quadrupedal to bipedal locomotion in the Japanese macaque based on inverted pendulum
Koki NishizakiMau AdachiYuichi AmbeYushi TsuruseRyo IbaHiroko OshimaTakashi SuzukiYasuo HigurashiKei MochizukiShinya Aoishow 1 more
Department of Mechanical Science and Bioengineering, Graduate School of Engineering Science, The University of Osaka, Osaka, JapanSmart Innovation Program, Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University, Hiroshima, JapanDepartment of Aeronautics and Astronautics, Graduate School of Engineering, Kyoto University, Kyoto, Japanshow 3 more
https://doi.org/10.7554/eLife.109826.1」

A:この論文は、「ニホンザルが4足歩行から2足歩行へとスムーズに切り替える(移行する)力学的な仕組み」をコンピューターシミュレーションと物理モデルを用いて解明した研究です。

1. 研究の背景(なぜこの研究が必要なのか?)
人類の祖先がどのようにして2足歩行を獲得したのか、また動物がどのように全身の複雑な筋肉や骨格をコントロールして高度な動きを実現しているのかは、生物学や工学における大きな謎の1つです。

ニホンザル(訓練を受けた個体)は、歩行を止めずに4足歩行から2足歩行へとスムーズに切り替えることができます。しかし、安定した4足歩行から、本質的に不安定な2足歩行へバランスを崩さずに動的に移行するメカニズムはこれまで十分に解明されていませんでした。

2. 研究のアプローチ(どうやって調べたのか?)
研究グループは、以下の2つの手法を組み合わせて分析を行いました。
① ニホンザルの「神経筋骨格モデル」を構築
o ニホンザルの身体構造(11個の骨格パーツ、28本の主要な筋肉)と、脳や脊髄の神経系(運動制御システム)をコンピューター上に忠実に再現しました。
o 順力学シミュレーションを行い、成功例だけでなく、実際の実験では観察が難しい「失敗例(転倒など)」も含めて多様な運動パターンを発生させました。

②「倒立振子(とうりつしんし)モデル」による力学系解析
o 2足歩行の足脚を「ひっくり返した振り子(倒立振子)」に見立て、その運動の物理的ルール(力学系)を解き明かしました。

3. 明らかになった切り替えメカニズム
① 倒立振子の「不安定さ」を上手に利用する
倒立振子はほうきを指の上で立てるようなもので、本質的に「不安定」です。しかし力学的には、「ごく小さな力(制御入力)を加えるだけで、全体の動きを大きく変化させられる」という非常に便利な性質(サドル点ダイナミクス)を持っています。

② 「トリガー肢」による一歩の踏み出しが鍵
研究の結果、切り替えを成功させる決定的な要因は、片方の後ろ脚(トリガー肢)の前方への踏み出し幅(ステップ長)の適切なコントロールにあることがわかりました。
• 準備: まず片方の後ろ脚(トリガー肢)を大きく一歩前に踏み出します。
• 起動: 身体を前方に倒立振子のように持ち上げる運動を作り出します。
• 完成: 続いて体幹(上半身)を起こす筋指令を出し、一気に2足歩行へと移行します。

適切な踏み出し幅が作れないと、倒立振子の軌道から外れてしまい、前に倒れたりバランスを崩して失敗することが再現されました。

4. この研究のポイントと意義
①「不安定さ」を利用した効率的な身体制御の発見
身体の物理的なダイナミクス(倒立振子の性質)を上手く利用することで、ニホンザルは余分なエネルギーを使わずに巧みに切り替えを行っていることを示しました。

②人類の進化(直立二足歩行獲得)の謎に迫る
4足歩行の霊長類がどのようにしてダイナミックな2足歩行に順応していったのか、その運動制御の進化プロセスを力学的に理解する重要なヒントとなります。

③次世代ロボット制御への応用
4足歩行と2足歩行を柔軟に行き来できる二足・多足ロボットの制御アルゴリズム開発など、工学分野への応用も期待されます。

 

2-2)生体情報処理の高度化には“跳躍”がある――リソース制約が最適情報処理の不連続な転移を生むことを理論的に解明――

原論文
掲載誌:Physical Review Letters(Open Access)137, 058401 – Published 28 July, 2026
表題:Theoretical Analysis of Resource-Induced Phase Transitions in Estimation Strategies
(和訳:資源量に起因する推定戦略における相転移の理論的分析)
著者:Takehiro Tottori and Tetsuya J. Kobayashi
DOI: https://doi.org/10.1103/5ynb-7k4v

要旨
生物は感覚情報を内部記憶と統合することで不安定な環境に適応するが、その情報処理は資源の制約を受ける。このような制約は、生物システムにおける最適な推定戦略を根本的に変化させる可能性がある。例えば、最近の実験では、生物はエネルギーの利用可能性と感覚情報の信頼性に応じて、記憶のない推定戦略と記憶に基づく推定戦略の間で相転移を示すことが示唆されている。しかし、資源の制約がこれらの相転移をどのように引き起こすのかについての理論的な理解はまだ得られていない。本稿では、最適な推定戦略における資源誘導型の相転移を分析的に特徴づける。我々の結果は、資源の制約が推定戦略を変化させる条件を特定し、不連続性、非単調性、スケーリング挙動の出現の根底にあるメカニズムを分析的に明らかにする。これらの結果は、限られた資源が生物システムにおける情報処理をどのように形成するのかを理解するための理論的基盤を提供する。

図3:リソース制約が誘導する最適情報処理戦略の不連続転移。
利用可能なリソースが少ないときは、現在の観測のみに基づいて環境状態を推定する単純な戦略が最適になる一方、利用可能なリソースが多いときは、過去の観測を記憶し、その情報を積極的に活用するより高度な推定戦略が最適になる。本研究では、このような記憶を活用したより複雑な戦略がリソースの増加に従って徐々に現れるのではなく、ある臨界点で突然現れることを明らかにした。なお、リソース増加にしたがって常に複雑な戦略が最適になるわけではなく、より単純な最適戦略に遷移する場合も確認している。
(脚注)図3は本件についての東京大学生産技術研究所のプレスリリース(2026.07.30)から転載。

***Geminiとの会話(2026年8月6日)***
Q1:次の論文の内容を分かり易く解説して下さい。論文名です。「Theoretical Analysis of Resource-Induced Phase Transitions in Estimation Strategies
Takehiro Tottori1,2,3,* and Tetsuya J. Kobayashi3,†Phys. Rev. Lett. 137, 058401 – Published 28 July, 2026
DOI: https://doi.org/10.1103/5ynb-7k4v」

A1:この論文「Theoretical Analysis of Resource-Induced Phase Transitions in Estimation Strategies(推定戦略におけるリソース誘起相転移の理論的解析)」は、「使えるエネルギーや情報処理コスト(リソース)の制限によって、最適な『環境の予測・推定のやり方』がガラリと変わってしまう現象」を物理学・情報理論の観点から解明した研究です。
分かりやすくポイントを噛み砕いて解説します。

1. 一言でいうとどんな論文?
「コストが不十分なときは『ざっくり雑な戦略』、コストに余裕ができると『精密な複雑な戦略』へ段階的に変わるのではなく、ある限界値(閾値)を境に『完全に別の戦略』へ一気に切り替わる(相転移する)」 ことを数学的・理論的に証明した論文です。

2. 背景:なぜ「推定」と「リソース」が問題になるのか?
細胞などの生命体やAI(学習システム)は、常に周囲の環境を観察(測定)して、「今、周囲がどういう状況にあるか」を推定しながら生きています。
• 細胞の例: 外部の栄養分子の濃度を推定して、そちらへ移動するか判断する。
• AIの例: 過去のデータから次の株価や天気を推定する。
しかし、高精度な推定を行うには必ず「コスト(リソース)」がかかります。
• エネルギー: 情報処理や分子の合成・維持に必要な代謝エネルギー(ATPなど)
• メモリ・時間: 過去の記憶を保持する量や、測定に使う時間
これまでも「コストが増えれば精度が上がる」という単純なトレードオフは知られていましたが、「コストの量によって『推定のやり方(戦略)』そのものがどう変化すべきか」という原理は十分に解明されていませんでした。

3. 主な発見:「相転移(Phase Transition)」が起きる
この論文の最も面白いポイントは、「相転移」という物理学の概念を推定戦略に当てはめた点です。

氷と水のような「急激な変化」

水は温度を下げていくと、徐々にドロドロになるのではなく、0℃になった瞬間に一気に「液体」から「結晶(氷)」へと構造がガラリと変わります(これが相転移です)。
これと同じ現象が「推定戦略」でも起こることを示しました。戦略は「なめらかに少しずつ高度になる」のではなく、利用可能なリソースがある一定ライン(臨界点)を超えた瞬間に、まったく異なる構造の戦略へと相転移することが理論的に示されました。

4. 日常の例えで考えると?
例えば、「カーナビを使って渋滞を回避するドライバー」をイメージしてください。
• 通信量(リソース)が極端に少ないとき: 過去の渋滞履歴や他車のデータを取り込むコストがないため、「目の前が混んだら曲がる」という単純な直感戦略(相A)をとるのがベストです。
• 通信量(リソース)に余裕ができた瞬間: 中途半端にデータを取るよりも、「エリア全体のリアルタイム交通量+過去のパターン」を総合計算する高度なナビゲーション戦略(相B)へと一気に切り替えた方が、全体の移動効率が跳ね上がります。

5. この研究が持つ意義と応用
①生命システムの解明(理論生物学)
o 細胞や神経系が「なぜこのような情報処理回路を持っているのか」を説明できます。環境や栄養(エネルギー)の乏しい状況ではシンプルな応答回路を使い、豊かな状況では高度なフィードバック回路へと「戦略を切り替えている」理由が物理学的に裏付けられます。

②省エネ型AI・センサーの設計
o エッジデバイスやIoTセンサーなど、「バッテリーや計算資源が限られた環境」で動作するAIを作るとき、「利用可能なリソースに対してどの戦略相(Phase)に位置しているか」を計算することで、無駄のない最小コストで最大の推定精度を出す設計が可能になります。

まとめ
Takehiro Tottori 氏と Tetsuya J. Kobayashi 氏によるこの論文は、「情報理論」「統計力学」「制御理論」を融合させ、制約下での最適な情報処理ルールには『相転移』という極めて美しい物理的法則が潜んでいることを明らかにした先駆的な理論研究です。

 

2-3)岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学情報(2026年8月)
赴任10年目の節目に――岐阜大学脳神経内科の施設紹介が公開されました
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月4日のFB投稿です***
昨日,日本神経学会の『臨床神経学』誌に,施設紹介「岐阜大学脳神経内科における医学教育」が公開されました(https://www.neurology-jp.org/Jou…/public_pdf/066080570.pdf).過去5年間に当科から9編の論文を掲載していただいたことから,寄稿の機会を頂戴したものです.そして偶然にも昨日は,私が岐阜大学に赴任して10年目に入った日でもありました.
着任時,岐阜県は人口当たりの神経内科専門医数が全国で最も少ない県でした.そこで,教室の最も大切な目標を「人材を育成すること」と定め,次の3つを方針として掲げました.
①意識して人を育てる
②臨床・研究は,患者さんや世の中の役に立つことをつねに念頭に置く
③リーダーシップを学び,レジリエンスを高め,チームの一員として考えて活動する
今回の施設紹介では,医学生が自らクリニカルクエスチョンをつくる臨床実習,リベラルアーツ教育,研修医・専攻医による学生教育,症例報告の執筆指導,さらにバーンアウトやリーダーシップに関する取り組みについてまとめました.
この9年間,すべてが順調だったわけではなく,試行錯誤の連続でした.しかし,教室の目標のために自分にできることを考え,自ら行動する仲間が育ってきたことを,何よりうれしく思っています.この9年間で,臨床能力だけでなく,人間としても信頼される,頼もしい脳神経内科医が着実に育ってきました.これからも,彼ら一人ひとりの力をさらに伸ばし,私自身も皆とともに成長していきたいと思います.
これまで岐阜大学脳神経内科を支えてくださった患者さん,ご家族,学生,医局員,同門の先生方,そして多くの関係者の皆様に,心より感謝申し上げます.
10年目も,どうぞよろしくお願いいたします!
下畑享良.岐阜大学脳神経内科における医学教育.臨床神経 2026;66:570–571.
https://www.neurology-jp.org/Jou…/public_pdf/066080570.pdf

世界初のヒト脳血管空間アトラス―脳血管は場所ごとに細胞の構成と機能が切り替わる,精密な生命維持システムだった!―
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月5日のFB投稿です***
脳の血管は,神経活動に応じて血流を調節し,血液中の物質が脳内に無制限に入ることを防ぎ,老廃物の除去や免疫反応にも関与しています.しかし,こうした多彩な働きを,どのような細胞が,血管のどの場所で担っているのかはよく分かっていませんでした.今回,米国UCSF脳神経外科をはじめとする研究チームが,この問題に取り組みCell誌に報告しました.具体的には単一細胞解析で「どのような細胞が存在するか」を調べると同時に,空間トランスクリプトミクスを用いて「それぞれの細胞が脳内のどこに存在するか」も明らかにしています.
まず39人の成人脳組織から得られた5つの単一細胞・単一核RNA解析データを統合しました.解析した遺伝子発現情報は31万4535細胞分に及び,このうち16万7573細胞が血管または血管周囲の細胞でした.その結果,血管内皮細胞,周皮細胞,平滑筋細胞,線維芽細胞,血管周囲マクロファージという主要な細胞群が,細かな種類に分けられました.血管内皮細胞だけでも,動脈型,細動脈型,毛細血管型,細静脈型,静脈型という5種類が確認されました.
次に,空間トランスクリプトミクス技術を用いて,中側頭回と海馬の脳切片を解析しました.中側頭回は6人,海馬は7人から得られた組織で,合計152万9740細胞について,遺伝子発現と組織内の位置を同時に調べました.これにより,単一細胞解析で分類された細胞が,実際のヒト脳血管のどこに配置されているのかを確認できました.その結果,脳血管を構成する細胞は,動脈から静脈に至る血管の場所に応じて,規則的に配置されていることが分かりました.著者らは,それぞれの血管部位に集まって協調して働く細胞のまとまりを「vascular cell ensemble(血管細胞アンサンブル)」と名付けました.オーケストラで異なる楽器が協力して一つの音楽を作るように,脳血管でも複数の細胞がチームを作り,血管部位ごとの働きを生み出しているという考え方です.この研究の発見を最も分かりやすく示しているのが図1です.この図では,血管が動脈,細動脈,毛細血管,細静脈,静脈に分けられ,それぞれを支える細胞の組み合わせと役割が模式的に示されていてわかりやすいです.
①動脈(一番左)では,動脈型内皮細胞の外側を動脈型平滑筋細胞(aSMC)が取り囲み,さらに軟膜線維芽細胞(Pial)や血管周囲マクロファージ(PVM)が配置されていました.これらの細胞は,血管構造の維持や血管径の調節に関係します.
②細動脈では,細動脈型平滑筋細胞とmatrix pericyteが加わり,神経活動に応じて局所の脳血流を変える神経血管カップリングを支えていると考えられました.
③毛細血管では,transport pericyteが配置されていました.毛細血管は,血液と脳の間で物質が交換される血液脳関門の中心です.これに対応して,transport pericyteでは,イオンや神経伝達物質などの輸送に関係する遺伝子が多く働いていました.
④細静脈では再びmatrix pericyteが現れ,血管周囲線維芽細胞や血管周囲マクロファージも加わります.
⑤細静脈から静脈にかけては,ケモカインへの反応や白血球の移動など,免疫反応に関係する遺伝子が多く発現していました.
つまり図1は,動脈・細動脈では血管構造と血流の調節,毛細血管では血液脳関門を介した物質輸送,細静脈・静脈では免疫細胞の移動という,血管部位ごとの役割分担を示しています.脳血管は,同じ構造の管が連続しているのではなく,部位ごとに細胞の構成と機能が切り替わる,精密な生命維持システムだったのです!
個人的には周皮細胞に2種類あったことは驚きでした.matrix pericyteは,主に細動脈と細静脈に存在し,COL4A1やCOL4A2など,血管の基底膜や細胞外マトリックスを作る遺伝子を多く発現していました.形態的には血管の表面を網目状に覆っており,血管壁を安定させる役割を担うと考えられます.一方,transport pericyteは主に毛細血管に存在し,SLC20A2,SLC6A1,SLC12A7など,多数の物質輸送体を発現していました.形態的には血管に沿って細長く伸びており,血液脳関門を介した物質輸送に関与すると推定されます.
大脳皮質と海馬の被殻では,基本構造は共通していたものの,海馬では大脳皮質より血管密度が低く,神経細胞と毛細血管の距離も長くなっていました.また,血管を構造的に支えるmatrix pericyteが相対的に少なく,transport pericyteの割合が高くなっていました.このような血管構築の違いが,海馬が虚血に弱い理由の一つかもしれません.
また線維芽細胞も,単なる血管の支持細胞ではありませんでした.図1では,太い動脈や静脈を包む軟膜線維芽細胞と,脳内の細動脈や細静脈に沿って存在する脳実質血管周囲線維芽細胞が示されています(本文ではさらに5種類に細分化しています).これらは血管を構造的に支えるだけでなく,周囲の血管細胞や神経細胞との情報交換にも関与する可能性があります.
血管周囲マクロファージは,脳内の免疫細胞であるミクログリアとは異なる細胞です.太い動脈や静脈の周囲に加え,脳内へ進入する細動脈や細静脈の血管周囲腔に存在していましたが,毛細血管にはほとんど認めませんでした.血管反応,血液脳関門,免疫監視,血液由来物質の除去などに関与すると考えられました.
さらに研究者らは,脳卒中,脳小血管病,多発性硬化症,血管炎,前頭側頭型認知症,ALS,アルツハイマー病,片頭痛など18種類の疾患・形質について,GWASで得られた遺伝的リスクを血管細胞アトラスに重ねました.これは,病気に関連する遺伝子が,どの血管細胞で特に強く働いているかを統計的に調べる解析です.この結果,脳卒中,脳小血管病,片頭痛の遺伝的リスクは,主に細動脈の細胞に集積していました.ALSでは毛細血管と2種類の周皮細胞,多発性硬化症や血管炎では細静脈との関連が強く認められました.アルツハイマー病では,血管系の細胞のなかで血管周囲マクロファージが最も強い遺伝的関連を示しました.これは,アルツハイマー病におけるアミロイドβの排出,血管周囲の炎症,神経血管機能障害を考えるうえで注目される結果です.ただし,これらは統計的な関連であり,その細胞が病気を直接引き起こすことを証明したものではありません.
単一遺伝子性脳卒中の原因遺伝子を用いた解析では,脳小血管病,ラクナ梗塞,白質病変,基底核石灰化,脳内出血などに関連する遺伝子がmatrix pericyteに集中していました.なかでもCOL4A1とCOL4A2は,matrix pericyteで強く発現していました.これらの遺伝子の変異は,血管基底膜の異常を伴う遺伝性脳小血管病を引き起こします.matrix pericyteによる基底膜の維持が,複数の脳卒中病型に共通する重要な仕組みである可能性があります.
薬剤がどの血管細胞に作用しやすいかも,標的遺伝子の発現から計算上予測されました.ACE阻害薬は動脈内皮細胞,IL-1受容体やIL-6受容体を標的とする薬剤は静脈内皮細胞に作用しやすいと推定されました.また,脳小血管病に用いられるPDE3阻害薬,とくにシロスタゾールは,matrix pericyteに強く作用する可能性が示されました.シロスタゾールの作用の一部が,抗血小板作用だけでなく,周皮細胞や血管基底膜の保護を介している可能性があります.
研究の限界としては,空間解析の対象は主に中側頭回と海馬のみであること,また組織の一部は,てんかん手術で切除された脳が使用されていることです.また,細胞機能,疾患との関連,薬剤反応の多くは,RNA発現から計算によって推定されたもので,実際の病態への因果的関与は今後の研究で確認する必要があります.年齢,性別,祖先集団による違いも十分分かっていません.
それでも本研究は,脳血管を「均一な管」から,「場所ごとに異なる細胞チームが働く組織」へと捉え直す重要な成果と言えます.今後は,脳血管全体を一律に治療するのではなく,細動脈の平滑筋細胞,毛細血管のtransport pericyte,血管壁を支えるmatrix pericyte,アルツハイマー病との関連が示された血管周囲マクロファージなど,病気ごとに異なる血管細胞アンサンブルを標的とした治療が行われていくのだろうと思いました.基礎医学的にも臨床医学的にもインパクトの大きな研究です.
Wang JC, et al. Spatial atlas of the human brain vasculature reveals specialized cell ensembles. Cell. 2026 Jul 31:S0092-8674(26)00805-6.

患者さんは舞踏運動を「隠している」のか?――parakinesiaの古典的定義を問い直す
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月6日のFB投稿です***
図は,シデナム舞踏病にみられる舞踏運動を描いた古典的な挿絵です.舞踏運動では,不随意運動が,顔に触れる,眼鏡を直す,衣服を整えるといった動作のなかに組み込まれ,目的のある動作のように見えることがあります.この現象はparakinesiaと呼ばれ,古典的には,患者さんが舞踏運動を「隠そう」として,目的のある動作の一部に組み込むものと説明されてきました.しかし,これは本当に患者さんの意図によるものなのでしょうか.この問題を論じた論考(Correspondence)が,Parkinsonism and Related Disorders誌に掲載されました(1).著者は,運動異常症の世界的権威であるAnthony E.Lang先生らです.
古典的な説明として,Higginsは2001年の総説で,“Chorea often is incorporated into a purposeful activity in an attempt to disguise it.”と記載しています(2).すなわち,舞踏運動を目的のある動作に組み込み,「隠そうとする試み」とみなす考え方です.これは,患者さんが舞踏運動を自覚し,意図的,あるいは半意識的に偽装しているという含意をもちます.私も先輩医師からそのように教わり,後輩にもそう指導してきました.
しかし今回の論考は,この「意図性」を批判しています.舞踏運動は短く,不規則で,予測不能です.とくにHuntington病では認知機能障害も加わるため,個々の動きを瞬時に認識し,目的動作のなかに組み込んで隠すことは困難です.目的的に「見える」ことと,目的をもって「行う」ことは同じではありません.患者さんが注意を集中することで,舞踏運動を一時的に減らせることは報告があります.しかし,この随意的抑制は,予測不能な動きを目的動作に組み込んで隠すこととは別の現象です.
著者らはparakinesiaを,「不随意な運動出力と,残存する運動組織化機構との相互作用によって,より大きな動作断片が形成される現象」と捉え直すことを提案しています.つまり,不随意運動が保たれた運動プログラムのなかで組織化され,結果として目的のある動作のように見えるのであり,患者さんの意図や戦略的な偽装を想定する必要はないという考え方です.
今回の論考は,神経症候の記述に患者さんの意思や心理状態についての推測を安易に持ち込むべきではないことを示しています.parakinesiaを「舞踏運動を隠す行為」と教育するのは今後はやめようと思います.あくまでも観察された現象と,患者さんの意図についての推測を区別することが重要です.
ちなみに同じparakinesiaという語は,別の現象にも用いられます.拙著『神経症候学note』で取り上げたparakinesia brachialis oscitansは,片麻痺患者が欠伸をした際に,麻痺側上肢が不随意に挙上する現象です(3).舞踏運動におけるparakinesiaとは別の症候ですが,患者さんの意図とは無関係に,パターン化された運動が現れる点は共通しています.
1. Heim B,Lang AE,Ganos C.Parakinesia in Chorea: Why attribution of intention is misleading.Parkinsonism Relat Disord.2026;149:108404.
2. Higgins DS Jr.Chorea and its disorders.Neurol Clin.2001;19:707–722.
3. Walusinski O,Neau JP,Bogousslavsky J.Hand up! Yawn and raise your arm.Int J Stroke.2010;5:21–27.
図:La Danse de Saint-Guy.La Médecine Illustrée,December 10,1880.Public domain.Edited by Douglas J.Lanska,MedLink Neurology.

「機能性神経障害と診断したら終わり」ではない――てんかんと重症筋無力症から学ぶ
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月8日のFB投稿です***
機能性神経障害(functional neurological disorder:FND)の診療について,考えさせられる論文を2つ読みました.まず最新号のNeurology Clinical Practice誌に掲載された,米国コロラド大学のJared J. Woodward先生による論考です(1).てんかんセンターは,機能性/解離性発作(functional/dissociative seizures:FDS,以前,心因性非てんかん性発作PNESと呼ばれていたもの)を診断するだけでなく,その治療まで担うべきだというものです.
FDSは,なんと,てんかんモニタリングユニット入院患者の約20~25%で診断され,てんかん患者の10~14%にはFDSが併存するとされています.しかし,FDSと診断されたあと,「てんかんではありません.精神科やカウンセラーに相談してください」とされ,患者さんが「医療の狭間に取り残される」ことが少なくありません.Woodward先生は,FDSと診断する施設自身が,治療まで提供できる体制を整える必要があると主張しています.論文の要旨をイラストにしました(図1).
またちょうど一昨日,岐阜で開催された重症筋無力症(MG)のセミナーでも同じ議論が行われました.国際医療福祉大学の村井弘之教授による特別講演は,抗体陰性MG(seronegative MG;SNMG)とFNDの鑑別,もしくは併存に鋭く切り込む内容でした.この問題は村井先生ご自身による総説でも議論されています(2).
あらためてSNMGは難しい疾患だと思いました.村井先生の総説の図2では,日本MGレジストリー全体ではSNMGが約15%であるのに対し,村井先生の施設では25%,MG専門施設では33%と,専門施設ほどその割合が高くなっていきます.これは,抗体検査だけでは診断できない難しい症例が専門施設に集まっていることを示唆します.SNMGと考えられている患者さんがすべて真のMGとは限りません.最近の研究では,double-seronegative MGとして診療されていた患者さんを詳しく再検討すると,LRP4抗体陽性MGやLambert–Eaton筋無力症候群,さらにCHRNA1遺伝子変異による先天性筋無力症候群など,別の診断が見つかることが報告されています(3).村井先生はさらに,FNDの併存もSNMGの診断を難しくする重要な要因だと指摘しています.つまりSNMGでは,真のMGをFNDとして見逃す危険と,逆にFNDや他のMG類似疾患をMGとして扱ってしまう危険の両方があります.
さらに図3も興味深い結果です.SNMGに対するエフガルチギモドの臨床試験では,MG-ADLが2点以上改善した患者の割合は,実薬群68%に対してプラセボ群でも63%に達しました.これは,SNMGではプラセボ効果が驚くほど大きいことを示しています.村井先生は,MGではこのようにプラセボ効果が生じやすく,実臨床でも薬理学的には説明しにくいほど速やかな症状改善を経験することがあると指摘しています.したがって,そのような反応を認めたからといって,短絡的に「機能性」「心因性」と判断してはいけないと強調しています.
私が昨日の勉強会でとくに感銘を受けたのは,村井先生が「FNDが疑われた患者さんを,最後まで治療することの大切さ」を強調されていたことです.「9割FNDが疑われても,1割のMGの可能性があれば治療を行う」と仰っていました.MGにFNDが併存する場合もあるためです.実際,村井先生は,長年「心因性」とされながら単線維筋電図で神経筋接合部障害が証明されたSNMG例や,PNES(FDS)を合併したためMG症状まで「心因性」とみなされていたMG+FND併存例を紹介されています.
セミナーでは私も座長として,意見も述べさせていただきました.FNDはしばしば疲労感を合併し,MGと類似するため,両者は親和性が高いかもしれないこと,MGとFNDの鑑別は,症候学的にgive-way weaknessやdistractibility,inconsistencyなどの陽性徴候や神経筋接合部以外の神経症候の合併,症状の急な増悪,精神科疾患の併存などに基づいて行います.しかし,FNDの陽性徴候があっても器質性神経疾患の併存は否定できません.したがって,「器質性か機能性か」と二者択一にせず,MGの可能性が残るなら十分に精査しつつ,FNDの影響が大きいと判断すれば,陽性徴候を患者さんに示して説明したうえで,FNDの治療を速やかに開始することが重要だとお伝えしました.
上記のてんかんとMGの議論の結論はまったく同じです.「てんかんではありません」,もしくは「MGではありません」と伝えるだけでは不十分であること,そして「てんかんでもMGでも,FNDは器質性疾患と併存しうる.だから『FNDと診断したら器質性疾患は否定』ではなく,両方を診る視点が必要である」ということです.つまり診断のあと,患者さんに残っている症状を誰が診るのか,そこまで考える必要があります.私たちの教室でも,若手も含めFNDの症候を意識して診察できるようになり,器質性神経疾患にFNDがオーバーレイした患者さんに気づく機会が増えてきました.「これまで見逃していたかもしれない・・・」と不安になってもきます.さらに治療もまだまだ手探りです.理学療法士,作業療法士,心理職,精神科医などとの連携もこれからの課題です.
結論として,FNDと診断することが診療の終点ではありません.むしろ,そこが治療の出発点であることを認識し,脳神経内科医がしっかり関わることが重要だと思います.
1)Woodward JJ.The National Association of Epilepsy Centers Accreditation Criteria Should Include Care for People With Functional/Dissociative Seizures.Neurol Clin Pract.2026;16(4):e200635.
2)村井弘之.重症筋無力症と機能性神経障害.脳神経内科.2025;103(6):687-690.
3)Ivanovic V, et al.Hidden diagnoses among patients with double seronegative myasthenia gravis.Front Neurol.2026;17:1754393.

高齢者の脳内ミクログリアは末梢から補充されていた!―アルツハイマー病治療にもつながる新発見(Nature誌)
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月9日のFB投稿です***
ミクログリアは,中枢神経系に存在する免疫細胞です.これまで,胎生期に卵黄嚢由来の前駆細胞が脳内へ入り,その後は脳内で自己複製することによって生涯維持されると考えられてきました.しかし今回,Nature誌に発表された研究によって,少なくともヒトではこの常識を大きく見直す必要があることが分かりました.研究を行ったのは,米国スタンフォード大学を中心とする国際共同研究グループです.
加齢に伴い,造血幹細胞にはさまざまな体細胞変異が蓄積します.そのなかには,DNMT3A,TET2,ASXL1などの変異によって増殖上の優位性を獲得し,血液中で大きな集団(クローン)を形成するものがあります.これは「クローン性造血」と呼ばれる現象です.近年,驚くべきことに,こうした血液・骨髄由来と考えられる変異クローンが,ヒト脳内のミクログリアにも認められることが報告されていました.そこで著者らは,末梢の造血系細胞が脳内に入り込む現象は,DNMT3AやTET2など特定の変異によって生じる特殊な現象なのか,それとも特定の変異とは無関係に,加齢したヒトで広く起こっている現象なのかを検討しました.
そのために開発したのが,Passenger Assisted Clone Tracking(PACT)という新しい方法です.これは,体細胞変異を細胞の「名札」として利用し,血液中の細胞が脳へ移動したかを追跡する方法です.造血幹細胞には加齢とともにさまざまな変異が蓄積し,そこから増えた子孫の細胞は同じ変異の組み合わせを共有します.そこで,血液中の細胞集団と同じ「名札」をもつ細胞を脳内で探すことで,骨髄由来細胞が脳へ流入しているかを調べました.
その結果,高齢者の脳には骨髄由来の造血クローンと同じ系譜をもつ細胞が広く存在していました.しかも,DNMT3A やTET2など特定の変異に限らず,さまざまなタイプの造血クローンが脳へ入っていました.つまり,骨髄由来細胞の脳への流入は,特殊な病的現象ではなく,ヒトの加齢に伴う一般的な現象である可能性が示されました.
さらにsnATAC-seq(クロマチンの開き具合=遺伝子制御状態を調べる方法)を用いて脳内の細胞を解析すると,認められた造血系細胞の99.73%がSALL1やTMEM119を発現するミクログリアの特徴を示しました.末梢血中の単球や血管周囲マクロファージとは明確に異なっていました.つまり,骨髄由来細胞は脳へ入ると,単球のまま存在するのではなく,脳内環境に適応して本来のミクログリアにきわめて近い細胞へ変化すると考えられました.
この論文で最も驚くべき結果が図1です.図1eでは,骨髄由来クローンがミクログリア全体のどの程度を占めるかが示されており(UWはワシントン大学のドナー番号),その割合は中央値26.44%で,その範囲は5.34~81.57%でした.つまり,高齢者ではミクログリアのおよそ4分の1が,胎生期から脳内に住み続けてきた細胞ではなく,成人後に骨髄からやってきた細胞に由来する可能性があります.症例によっては80%以上が置き換わっていたことになります.さらに図1fでは,末梢血中で大きく増殖している造血クローンほど,脳内でもそのクローン由来ミクログリアが多いことが示されました.この置換は加齢とともに進行していました.著者らは,骨髄由来細胞によるミクログリア置換は70歳代,あるいはそれ以前から始まり,加齢とともに加速すると考えています.さらに被殻や小脳でも同じクローンが確認され,特定の脳領域だけに起こる現象ではないことも示されました.
つぎに図2が興味深いです.血液中のクローン性造血そのものが加齢とともに急増し,60歳未満では約10%であるのに対し,90歳以上では77%以上に達していました.つまり,超高齢者ではクローン性造血はむしろ非常にありふれた状態になっていることが分かります.この図は,加齢とともに血液の造血系そのものが大きく変化していくことを視覚的に示しています.
さらに重要なのがアルツハイマー病との関連です.剖検によって病理学的に確認されたアルツハイマー病を解析すると,クローン性造血を有する人ではアルツハイマー病のオッズ比が0.46でした(p値=4.75×10⁻⁶).つまり,クローン性造血をもつ人では,病理学的アルツハイマー病が約半分しか認められないということになります.この結果は,骨髄由来細胞が脳へ入りミクログリアになるという現象が,単なる加齢に伴う細胞の入れ替わりではなく,アルツハイマー病の発症や進行そのものを抑制している可能性を示唆します.
では,なぜクローン性造血がアルツハイマー病に対して保護的に働くのでしょうか.著者らは,骨髄由来ミクログリアの貪食能に注目しています.クローン性造血由来細胞はアルツハイマー病脳に入ると,高い貪食能をもつdisease-associated microglia(DAM)様の状態となり,アミロイドβやタウの除去に有利に働く可能性があります.
ここで興味深いのが,2026年にCell誌に報告されたHuangらの研究(PMID:42019491)との関係です.この論文では,アルツハイマー病脳のミクログリア様細胞に,がん関連の体細胞変異をもつクローンが濃縮し,炎症性・増殖性の状態を示すことが報告されました.一見すると,「クローン性造血はADに保護的」という今回のNature論文と逆に見えます.しかし両者を合わせて考えると,重要なのは,体細胞変異をもつミエロイド細胞が脳内へ入り,ミクログリアとしてクローン性に存在すること自体が,ヒトの加齢脳では決して特殊な現象ではないという点です.そのうえで,どの変異をもつクローンが,いつ脳へ入り,どのような機能状態になるかによって,アルツハイマー病に対して保護的にも病的にも作用する可能性があります.
今回の研究から浮かび上がるミクログリア像は,従来考えられていたよりはるかに動的です.胎生期に形成された細胞集団がそのまま維持されるのではなく,成人後も骨髄由来のミエロイド細胞が脳へ流入し,ミクログリアへ変化しながら徐々に置き換わっていきます.そして,その細胞の遺伝的背景によって神経変性に与える影響が変わる可能性があります.
この発見は,治療にもつながる可能性があります.もし末梢のミエロイド細胞が自然に脳へ入り,ミクログリアとして定着するのであれば,末梢の細胞を治療的に操作し,脳内で有益な働きをさせるという新しい治療戦略が考えられます.例えば,アミロイドβやタウを効率よく除去する細胞や,治療蛋白を産生する細胞を脳へ送り込むことも,将来的には可能になるかもしれません.この意味で,本研究は,私たちが取り組んでいる低酸素・低糖刺激末梢血単核球細胞療法(OGD-PBMC)の考え方にも通じる,非常に興味深い知見です.OGD-PBMC療法は,末梢血由来細胞が脳内へ移行するという生体にもともと備わった仕組みを利用し,さらにそれを治療的に促進する方法と捉えることもできるのかもしれません.今回の研究は,「造血幹細胞―末梢ミエロイド細胞―脳内ミクログリア」という新しい軸が,加齢やアルツハイマー病の病態理解だけでなく,治療開発においても重要になることを示した研究だと思います.
Belk JA, Zhang Y, Reilly EE, et al. Somatic mutations reveal the ontogeny of microglia in human aging. Nature. 2026. doi:10.1038/s41586-026-10939-0.
Hatakeyama M, Kanazawa M, Ninomiya I, Omae K, Kimura Y, Takahashi T, Onodera O, Fukushima M, Shimohata T. A novel therapeutic approach using peripheral blood mononuclear cells preconditioned by oxygen-glucose deprivation. Sci Rep. 2019 Nov 14;9(1):16819. doi: 10.1038/s41598-019-53418-5.

COVID-19後の炎症はなぜ続くのか―潜伏ウイルス再活性化とlong COVID,そしてアルツハイマー病への示唆(Nature論文)
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月11日のFB投稿です***
COVID-19が神経後遺症を来す仮説として,ウイルス再活性化が指摘されていました.つまりSARS-CoV-2感染をきっかけに,私たちの体内に以前から潜んでいた別のウイルスまで次々と活動を開始するという現象です.その詳細について米国の多施設による研究チームがNature誌に報告しています.この研究からは,COVID-19は単にSARS-CoV-2だけによる感染症ではなく,体内に存在するウイルス全体,すなわち「virome」を大きく揺さぶる病態である可能性が見えてきます.
対象となったのは,米国20施設に入院したCOVID-19患者1154名です.2020年5月から2021年3月に登録された患者で,全員がCOVID-19ワクチン未接種でした.研究者らは入院直後から最長1年間にわたり,末梢血単核球,鼻腔スワブ,人工呼吸器管理患者では気管内吸引物を繰り返し採取しました.そしてRNA sequencingに加えて,免疫細胞,サイトカイン,抗体,蛋白質,代謝物まで調べるmulti-omics解析を行いました.
驚くべきことに,急性期40日以内にSARS-CoV-2以外の慢性感染ウイルスが再活性化していた患者は47.9%,つまりほぼ半数に達しました.主に検出されたのは,EBウイルス(EBV),サイトメガロウイルス(CMV),単純ヘルペスウイルス1型(HSV1),そしてアネロウイルスでした(聞き慣れないウイルスですが,これまで明確な単独の病原性は確認されていませんでした).しかも,多数のウイルスが無秩序に一斉に増えるのではなく,再活性化するタイミングはウイルスごとに明確に異なっていました.
このことが最もよく分かるのが図Aです.EBVはCOVID-19の非常に早い段階で再活性化し,入院後1~8日には24%の患者でウイルス転写産物が検出され,その後徐々に減少しました.アネロウイルスも早期から検出されますが,約20日間は比較的高い状態が続き,その後緩やかに低下しました.これに対してHSV1とCMVは遅れて増加し,おおむね入院後3週前後にピークを迎えました.つまりCOVID-19によって,体内に潜伏していたウイルスが単純に一斉に目覚めるのではなく,それぞれ固有の時間軸をもって再活性化していることが分かります.VZVについてはなぜか’記載がありませんでした.著者らは,このようなヒトvirome全体の乱れを「dysvirosis」と表現しています.
さらに重要なのは,こうしたウイルス再活性化がCOVID-19の重症度と関連していたことです!アネロウイルス,CMV,EBV,HSV1の検出はいずれも重症度と関連しました.重篤群では,呼吸器検体からCMV,EBV,HSV1が検出された患者で,その後1年以内の死亡リスクが高いことも示されました.CMV再活性化は腎障害,ショック,菌血症,脳卒中などと,EBV再活性化はICU管理,ショック,肝障害などと関連していました.もちろん,これだけから「ウイルス再活性化が重症化を引き起こした」と結論することはできません.重症化したためにウイルスが再活性化した可能性もあるためです.ただし,両者が密接に結びついていたという点は確かです.
さらに意外だったのは,この現象が免疫抑制状態の患者に限られなかったことです.私たち医師は「ウイルスの再活性化」というと,抗がん薬や免疫抑制薬の治療中,臓器移植後など,強い免疫抑制状態を思い浮かべます.しかし本研究では,免疫正常者でもウイルス再活性化が生じていました.これは,潜伏ウイルスの再活性化が,重症感染症そのものをきっかけとして幅広い患者に生じうることを示しています.
つぎに,ウイルス再活性化に伴って免疫反応がどのように変化するかを検討しています.複数のウイルス再活性化に共通してCXCL10,CXCL11,IL-18などの炎症関連分子が増加していました.EBV再活性化ではさらにIL-6,IL-10,CCL2,CCL7などが増加し,HSV1やCMVでもTNF,CXCL9,IFNγなどを含む広範な免疫反応が認められました(図B).つまり潜伏ウイルスが目覚めると,宿主がそれらに対して新たな免疫反応を起こしているということになります.その結果,「SARS-CoV-2感染→免疫の乱れ→潜伏ウイルス再活性化→追加の免疫反応→炎症のさらなる増幅」という連鎖が生じる可能性があります.著者らも,ウイルス再活性化は,進行中の炎症を増幅している可能性を指摘しています.
long COVIDとの関係も調べられています.急性期にEBVなどが再活性化したかどうかと,その後のlong COVIDとの間には明確な関連は認められませんでした.したがって,「COVIDでEBVが再活性化するとlong COVIDになる」と単純化することはできません.一方で,回復期にもアネロウイルスが検出される患者では,身体機能低下や疲労を主体とするlong COVIDの患者が有意に多く,年齢,性別,急性期重症度,免疫抑制薬使用などを補正しても関連が残りました.この結果は,急性期の一過性のウイルス再活性化よりも,回復期にも持続するviromeの異常や免疫異常のほうが,long COVIDの一部と関係している可能性を示しています.
そして脳神経内科医として気になるのは,この現象が将来の神経変性疾患と関係するかという点です.特にこれまでの研究からアルツハイマー病との関連が気になります.ただし,ここから先は本論文が直接証明したことではありません.それでも今回示された,SARS-CoV-2感染による炎症に,潜伏ウイルス再活性化に対する新たな免疫反応が上乗せされるという構図は,神経変性を考えるうえで非常に示唆的です.高齢者の脳では,臨床症状が出るかなり前からアルツハイマー病に関連する病理変化が進んでいる場合があります.そこにCOVID-19という大きな全身性ストレスが加わり,さらにEBVやCMVなどの潜伏ウイルスが再活性化して炎症反応が上乗せされるとすれば,すでに脆弱になっている脳に追加の負荷を与える可能性があります.つまり,COVID-19がゼロからアルツハイマー病を作るというより,すでに存在する加齢性変化や潜在的な神経変性プロセスを感染と炎症が加速させるという考え方になります.2025年のNature MedicineのUK Biobank研究では,SARS-CoV-2感染後に血漿Aβ42/Aβ40比が低下し,脆弱性の高い人ではAβ42低下とp-tau181上昇も認められました.感染群では認知機能の低下も大きいことが示されています.このようなヒト研究ときれいにつながるわけです.ウイルス再活性化の影響が急性期の重症化だけで終わるのか,long COVIDや,さらに長期的な神経変性リスクにまでつながるのか,今後,さらに検討すべき重要な課題だと思います.
Maguire C, Chen J, Rouphael N, et al. Virus reactivation in acute and long COVID-19. Nature. 2026. doi:10.1038/s41586-026-10740-z.
Duff EP, et al. Plasma proteomic evidence for increased β-amyloid pathology after SARS-CoV-2 infection. Nat Med. 2025;31:797-806.

関連情報
この論文については、大阪大学の宮坂先生も2026年8月7日のFB投稿で、紹介されています。

「死の自己決定」が生き方を変える――Medical Aid in Dying(MAiD)をめぐる2つの逆説
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月13日のFB投稿です***
米国では,Medical Aid in Dying(MAiD)を合法化する動きが急速に広がっています.米国におけるMAiDとは,一定の条件を満たす終末期患者に対して医師などが致死薬を処方し,患者自身がそれを服用して死を選択する制度です.7月30日号のNEJM誌に,このMAiDが抱える「逆説」を論じたPerspectiveが掲載されました.著者はMara Buchbinder博士で,医療人類学や生命倫理学の立場からMAiDを研究してきた方です.
著者が注目するのは,MAiDの法制化が広がっているにもかかわらず,実際にMAiDによって亡くなる患者は少ないという事実です.米国では,この1年間だけでも3つの州がMAiDを合法化し,現在,13州とWashington, D.C.の計14地域で認められています.米国人口のおよそ3分の1が,MAiDが合法化された地域に暮らしています.もっとも長い歴史をもつオレゴン州では,2025年にMAiDによって死亡した人は400人で,同州の年間死亡者のおよそ1%でした.利用者数自体は長期的には増加していますが,著者は,この比較的低い利用率が,MAiDを認めるとその対象や利用が際限なく広がるのではないかという,いわゆる「すべり坂」への懸念を和らげ,他州での法制化を後押ししてきたと指摘しています.ここに,本論文が指摘する第1の逆説があります.MAiDは社会的・政治的には支持が広がっている一方で,実際の利用は少なく,むしろその「利用されることの少なさ」が制度への支持を支えているという逆説です.
ここで興味深いのが,論文が引用しているOregon Health Authorityの2025年年次報告に掲載された図です.ダウンロードして和訳しました(図1).2025年にはMAiD により637人が致死薬の処方を受けましたが,実際に服用したことが確認されたのは358人(約56%)でした.一方,100人(約16%)は服用せず自然に死亡し,179人(約28%)は服用状況が不明でした.なお,2025年にMAiDによって死亡した400人には,前年以前に処方を受けた42人も含まれています.つまり,「薬を処方してもらうこと」と「実際にその薬を使って死亡すること」はイコールではないということです.患者さんのなかには,「もし苦痛が耐えられなくなったら,自分には最後の選択肢がある」という安心感を得るために処方を希望する人もいます.つまりMAiDには,死を早める手段としての意味だけではなく,「選択肢を持っていること自体」にも心理的な価値があるということなのだと思います.
ここで本論文から少し離れて国際比較をすると,興味深い違いがあります.カナダでは2024年に1万6499人がMAiDを受け,全死亡の5.1%に達しています.オランダでも2025年には1万341件で,全死亡の5.97%でした.つまり,オレゴン州の約1%に対し,カナダやオランダではすでに5~6%に達しています.なぜこれほど差があるのか,つまり米国で少ないのか不思議に思いましたが,一因として考えられるのが,制度そのものの違いです.オレゴン州では,対象が「6か月以内に死亡すると医学的に判断される終末期疾患」に限定されていますが,カナダでは必ずしも終末期疾患である必要はなく,自然死が近いと予測されない患者も一定の条件下で対象となります.オランダでも「余命6か月以内」という条件はなく,「改善の見込みのない耐え難い苦痛」などを基準としています.もうひとつは,オレゴン州では患者自身が薬剤を服用しなければならないのに対し,カナダやオランダでは医療者による薬剤投与が可能です.この違いは,衰弱や嚥下障害などがある患者さんにとって利用のハードルを下げる可能性があります.こうした対象範囲や実施方法の違いが,利用率の差に関係しているのかもしれません.ただし,カナダでも2024年のMAiDの大部分は自然死が合理的に予見可能な患者であり,適応範囲の違いだけでこの差を説明できるわけではありません.よって少なくとも,どこまでを対象とし,誰が薬剤を投与するのかという制度設計の違いが重要と思われます.
著者はさらに,MAiDが支持される背景には,終末期においても「自分の人生を自分でコントロールしたい」という願いがあると考えています.重い病気が進行すると,患者は身体機能や日常生活など,多くのものを失っていきます.そのなかで,いつ,どこで,誰とともに死を迎えるのかを自分で決められることは,「自己決定(autonomy)」を取り戻す意味をもちます.著者は死を,ただ耐えて迎える出来事ではなく,自らある程度「演出する(choreographする)」経験へと変えるものとして捉えています.
さらに著者が強調しているのは,MAiDの意義が,実際にMAiDを利用して亡くなる患者さんだけに限られないという点です.MAiDを利用しない患者さんにとっても,医師と死について話し合うことが,自分の不安や希望を明らかにし,終末期医療を考え直すきっかけになります.患者さんがMAiDを希望する背景には,痛みへの恐怖,身体機能や尊厳を失うことへの不安,死への恐怖や実存的苦痛,治療をいつまで続けるべきかという迷いなどがあります.MAiDについて話すことで,こうした不安や希望が明らかになり,症状緩和を強化したり,治療の目的を治癒から緩和へ切り替えたり,望まない治療を行わないことについて話し合ったりする契機になります.
私たちの医療を振り返ると,「まだできる治療があるなら次の治療を行う」という流れが生じやすい面があるように思います.しかしMAiDについて議論することで,「この患者さんにとって本当に大切なことは何か」を考える契機になります.MAiDは単に「死を早める医療」ではなく,「残された時間をどのように生きたいのか」を問い直すきっかけにもなるのだと思いました.ここに,本論文が指摘する第2の逆説があります.それは,実際にMAiDで亡くなる人は少なくても,MAiDという選択肢が存在することで,それよりはるかに多くの患者が自分の死について考え,家族や医療者と話し合うようになるという逆説です.つまり,MAiDの影響は,実際にそれによって命を終える人の数を超えて広がる可能性があります.
MAiDの価値は,「使われること」だけにあるのではないのかもしれません.「使わなくてもよい選択肢を持っていること」にも価値があります.MAiDが投げかけている本質的な問いは,「死を選ぶことを認めるべきか」という問題だけではなく,「私たちは患者とどのように死について語り,どのような最期を支えるべきなのか」という,終末期医療そのものへの問いなのだと思います.MAiDについて改めて考えさせられた論文でした.
Buchbinder M.The Paradox of Medical Aid in Dying.N Engl J Med.2026;395:417-419.doi:10.1056/NEJMp2606019.

中国で急速に広まったアルツハイマー病脳の老廃物を流すバイパス手術のその後―Nature誌が検証―
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月14日のFB投稿です***
今年2月,アルツハイマー病(AD)に対する手術,深頸部リンパ管―静脈吻合術(deep cervical lymphatic-venous anastomosis;dcLVA)についてご紹介しました(https://pkcdelta.hatenablog.com/entry/2026/02/27/052931).41例の後方視的研究で,認知機能や精神症状の改善に加え,アミロイドβやリン酸化タウの変化まで報告され,大変驚きました.ただし,対照群がなく観察期間も短いため,前向き試験による検証が必要と書きました.それから半年がたち,Nature誌がこの治療をNews Featureとして取り上げています.
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02448-x
この治療の中心人物は,中国の外科医のQingping Xie(謝慶平)医師です.きっかけはADではなく,耳鳴りの患者だったようです.2019年,耳鳴りと頭痛の患者の手術中に,頸部のリンパ管に通常とは異なる構造(abnormal cervical lymphatic structures)があることに気づき,リンパ管を近くの静脈につないだところ,患者は耳鳴りだけでなく,頭の働きも良くなったと訴えたそうです!後年,髄膜リンパ管やグリンファティックシステムの研究を知り,脳内の老廃物が最終的に頸部リンパ系へ排出されるならば,その「下流」の流れを改善することでADを治療できるのではないかと考えました.2020年9月,84歳男性にADの治療を目的とした最初のdcLVAを行いました.
この患者の劇的な術前・術後の動画が,その後の熱狂のきっかけとなります.2023年,Cleveland Clinicの形成外科医Wei Chen医師が,謝医師と患者家族の許可を得て,この映像を世界各地の外科学会で紹介し始めました.その後,Cleveland Clinicとの共同研究も始まりました.私もYouTube(https://www.youtube.com/watch?v=14Ezl67_EKk)でChen医師の講演を拝聴しましたが,寝たきりで息子も認識できなかった患者さんが,術後,速やかに息子を認識し,歩けるようになった姿が示されています.その後,中国ではdcLVAが急速に普及し,数百の病院で行われ,数千人の患者さんが手術を希望する事態となったそうです.一方,十分なエビデンスがないまま治療が広がったことから,中国当局が介入し,現在はより正式な臨床研究の枠組みでの施行に限定されています.
dcLVAという手術については,Nature誌による下図が分かりやすいです.脳から排出されたリンパ液は,髄膜リンパ系から頸部のリンパ管,リンパ節へ向かいます.dcLVAでは深頸部のリンパ管を近くの静脈へ直接吻合し,リンパ液を静脈循環へ流す新しい出口を作ります.リンパ管の末端を静脈へつなぐend-to-end法や,静脈の側壁へつなぐend-to-side法,さらに,リンパ節そのものを静脈につなぐlymph-node-to-vein anastomosis(LNVA)も行われています.つまり,術式はまだ統一されていないということのようです.
その後,中国を中心に十数論文,計数百例が報告され,認知機能や注意機能の改善,脳脊髄液中のアミロイドβやタウの変化などが示されているようです.2026年2月には100例を超える重症AD患者の研究も報告され,数か月後の認知機能や日常生活機能に,平均として軽度の改善が認められました.ただし重要なのは,SNSで注目されたような劇的改善が患者全体に起きているわけではなく,集団としてみた効果は比較的小さいことです.MRIでdefault mode networkの機能的結合性が増加したという報告や,超音波検査で頸静脈や頸動脈の血流が増加したという報告もありますが,これらがADそのものの改善を意味するのかはまだ分かりません.
今回の記事で私が不思議に思ったのは「改善の速さ」です.冒頭の患者では,術後わずか3日で息子を認識しています.もしdcLVAの効果を,脳内に蓄積したアミロイドβやタウの排泄促進によるものと考えるなら,この時間経過はあまりに速く思えます.本当に改善しているのであれば,病因蛋白の除去とは別の機序が働いている可能性を考える必要があります.脳脊髄液の圧や循環動態の変化,炎症性物質や神経毒性代謝物の排出などが関与しているのかもしれません.
今回の記事は,dcLVAの発想そのものを否定しているわけではありません.脳からの老廃物排出にグリンファティックシステムや髄膜リンパ管が重要であることには,基礎科学的な裏付けがあります.しかし,「脳リンパ系がADに重要である」ということと,「頸部のリンパ管を静脈につなげばADが改善する」ということの間には,理論的にまだまだ大きな飛躍があるように思います.2月のブログでは,「中国の研究レベルとチャレンジ精神恐るべしです.今後の前向き試験による検証が期待されます」と書きました.まさにその検証が始まりつつあり,韓国や米国でも追試が開始されているそうです.適切な対照群を設けた前向き試験と長期追跡によって,本当に有効な治療なのか,その答えが明らかになることを期待したいと思います.
Dolgin E. A controversial Alzheimer’s surgery is said to reverse symptoms — here’s what scientists know. Nature. 2026. doi:10.1038/d41586-026-02448-x.

その「振戦」,本当に振戦ですか?――ランソプラゾールで生じたミオクローヌス
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月17日のFB投稿です***
『Tremor and Other Hyperkinetic Movements』誌に,ランソプラゾールによってミオクローヌスが誘発された教育的なVideo Abstractが報告されました.シンガポールからの報告です.
症例は62歳男性.消化不良に対してランソプラゾール15 mg/日を開始したところ,初回服用約6時間後から上肢と頭頸部に不随意運動が出現しました.血算,電解質,腎・肝機能,薬物・毒物検査に異常はなく,ランソプラゾールを中止すると2日以内に完全に消失しました.2カ月後にも再発はありませんでした.
動画では主に両上肢に生じたjerky movement(ピクッ,ガクッとするような急で短い不随意運動)が示されています.一見「振戦」にも見えますが,専門的にはpositive myoclonusとnegative myoclonus(asterixis)が混在しています.positive myoclonusは突然のピクッとする筋収縮で,negative myoclonusは持続していた筋活動が一瞬途切れ,ガクッと姿勢が崩れる現象です.その代表的な臨床型がasterixisで,姿勢保持中に筋活動が一瞬途切れることを不規則に反復し,かつて「羽ばたき振戦」と呼ばれていましたが,実際には振戦ではありません.
negative myoclonusは安静時に眺めるだけでは分からないことがあります.動画のように,両上肢を前方に伸ばし,手関節を背屈させて姿勢を保持してもらうと,手が一瞬ガクッと落ちる動きを不規則に反復する様子を確認できます.したがって「上肢がふるえる」という患者を診察するときには,単に動きを眺めるだけでなく,この姿勢をとらせてnegative myoclonusがないか確認することが重要です.
著者らは,初回投与から約6時間という時間的関連と,中止後の速やかな改善から,このミオクローヌスはランソプラゾールに対する特異体質的薬物反応(idiosyncratic reaction)と考えています.プロトンポンプ阻害薬(PPI)は一般に安全な薬剤ですが,まれに脳症やミオクローヌスなどの神経学的副作用が報告されています.また,長期使用に伴う低マグネシウム血症を介して神経症状をきたすことも知られていますが,本例では電解質異常は認めませんでした.
Michael S. Okun先生は,Xでこの論文を紹介し,この症例から得られる最大の教訓としてphenomenologyを正確に見極めることを強調しています.jerkyな動きを「振戦」とは区別すること,具体的には規則的か不規則か,突然の筋収縮なのか,逆に筋活動が一瞬途切れて姿勢が崩れているのかを観察することが重要と述べています.さらに,画像検査に進む前に,最近開始・中止・増減した薬剤を確認することも大切だと仰っています.この症例は,「ランソプラゾールでもミオクローヌスが起こり得る」という珍しい副作用だけでなく,すべてのふるえを振戦と決めつけず,まず症候を正確に観察し,薬剤歴を見直すという運動異常症診療の基本を再確認させてくれます.
ちなみにとくに日常臨床で「急にミオクローヌスが出た」ときにまず思い出すのは,①セフェピムなどの抗菌薬,②オピオイド,③抗うつ薬・セロトニン作動薬,④アマンタジン,⑤プレガバリン/ガバペンチン,⑥リチウムです.
Kumar RNK, Sharma VK. Lansoprazole-Induced Myoclonus. Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2026 Aug 14;16:47. doi: 10.5334/tohm.1236. PMID: 42602919; PMCID: PMC13475527.(動画はフリーで公開)

口をもぐもぐ,舌が勝手に動く――遅発性ジスキネジアと機能性運動障害(機能性口舌常同運動)をどう見分けるか?
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年8月19日のFB投稿です***
抗精神病薬などを使用している患者さんに,口をもぐもぐさせる,舌を動かす,口唇をすぼめるといった不随意運動が出現すると,まず遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia;TD)を考えます.しかし,よく似た運動が機能性運動障害(functional movement disorder;FMD)でも生じます.2017年と少し古い論文ですが,両者の鑑別に役立つ興味深い研究をご紹介します.著者は運動異常症の大家,Joseph Jankovic先生らです.
まず用語を整理すると,FMDは振戦,ジストニアなどさまざまな運動症状を呈する広い概念で,その表現型のひとつがfunctional stereotypy(機能性常同運動;FS)です.stereotypyとは,反復性で協調され,一見すると目的をもったように見える運動を指します.本研究ではFMD 184例を後方視的に検討し,19例(10.3%)にFSを認めました.その内訳は口舌9例,四肢9例,体幹6例,呼吸筋2例でした.この口舌型は論文中でfunctional orolingual stereotypyあるいはfunctional orolingual dyskinesiaと表記されていますが,実質的には同じ9例を指しています.
ここで重要なのは,著者らが最初から後述する口舌運動の特徴を使ってTDとFSを診断し分けたわけではないことです.まずFMDはFahn–Williams criteriaに基づいて診断され,そのなかから,突然発症,distractibility,既知の器質性運動障害と一致しないincongruity,説明のつかない改善・増悪など,FMDに特徴的な所見を少なくとも3つ認める症例をFSとして抽出しました.一方,TD群はDSM-5に基づいてすでにTDと診断されていた患者です.そのうえで,FS 19例とTD 65例,さらに口舌型FS 9例とTDによる口舌ジスキネジア50例を比較し,両者を見分けるphenomenologyを検討しました.
FS群では84%が突然発症し,58%で注意を別のことに向けると運動が著明に減少・消失するdistractibilityを認め,84%で説明のつかない著明な改善や一時的消失がみられました.一方,TD群ではこのような特徴は認められませんでした.ただし,突然発症やdistractibility,症状の大きな変動は,もともとFSを診断する際に用いられた所見でもあります.したがって,これらがTDとの比較で大きな差を示したことは重要ではあるものの,本研究によって独立した鑑別指標として新たに証明されたわけではない点には注意が必要です.
むしろ本研究で興味深いのは,診断基準には使用されていなかった口舌運動そのものの違いです.咀嚼するような「もぐもぐ運動」はTDで82%,機能性で22%,自分の舌や口腔内を噛んでしまう自己咬傷は64%対0%でした.逆に,口の動きを伴わず舌だけが動く所見はTD 8%に対して機能性44%,異常発話も10%対44%と機能性で多く認められました.また,機能性群はTD群より若年発症で,機能性振戦など他の機能性徴候を伴うことも手がかりになります.表に鑑別点をまとめました.
重要なのは,口唇をすぼめる,舌を突出するといった個々の運動は両者に共通しており,見た目だけでは鑑別できないことです.また,ドパミン受容体遮断薬への曝露歴はTDを考えるうえで重要な手がかりですが,本研究では薬剤曝露歴だけを根拠にfunctionalかtardiveかを分類したわけではありません.実際,機能性群にも薬剤曝露歴をもつ患者がいました.したがって,「抗精神病薬を服用している+口舌顔面ジスキネジア=TD」と即断せず,薬剤との時間的関係に加えて,突然発症か,注意をそらすと変化するか,症状が大きく変動するか,さらに咀嚼様運動,自己咬傷,舌単独運動,異常発話などを丁寧に確認することが重要です.
本研究は後ろ向き研究で,とくに機能性口舌常同運動は9例と少数ではありますが,それでも臨床において有用な情報を与えるものです.最重要メッセージは,「薬剤曝露+口舌顔面ジスキネジア=TD」と短絡しないことです.突然発症,distractibilityによる変化,症状の大きな変動というFMDの「陽性徴候」を確認し,さらに咀嚼様運動,自己咬傷,舌単独運動,異常発話などを組み合わせて判断することが大切だと学びました.
Baizabal-Carvallo JF, Jankovic J. Functional (psychogenic) stereotypies. J Neurol. 2017;264:1482–1487. doi:10.1007/s00415-017-8551-7. PMID: 28653211.

 

3.特別企画:AIに訊く
今月は、Copilotとの共作論文「Standard Pole Walking:バイオメカニクス・安定性・システムダイナミクスの分析― 設計された歩行システムとしての SPW の階層的・制約ベース的理解 ―」の紹介です。

論文名:Standard Pole Walking:バイオメカニクス・安定性・システムダイナミクスの分析― 設計された歩行システムとしての SPW の階層的・制約ベース的理解 ―

要旨(Abstract)
Standard Pole Walking(SPW)は、日本で開発された垂直ポールを用いる歩行法であり、歩行の安定性向上とシステムレベルでの再編成を目的とする。SPW は Nordic Walking(NW)と外見上は類似するが、力学的目的・制約構造・システムへの作用は根本的に異なる。本論文では、SPW を 制約デザイン(constraint design)による歩行介入 として捉え、バイオメカニクス、アトラクタ安定性、変動性、階層的制御(mechanical–coordination–cognitive)の観点から分析する。

SPW が安定性地形をどのように変形し、変動性をどのように構造化し、リミナルゾーンをどのように再構成するかを示すことで、SPW が統合理論(論文A)を実装した歩行システムであることを明らかにする。

***以下は、Geminiとの会話(2026年7月13日実施)です***

Q:貴方も関連する論説作成に参画してくれたポールウォーキングについて、切り替えスイッチの統合理論を新たに提示し、別添のAbstractが示す論文にまとめることができました。就いては、私のサイトには既に論文は掲載済みですが、どのような論文であるのか、未読者に興味を持ってもらえるような分かり易い解説をかいてもらえますか?Abstractです。(以下、省略)
(注)上図(図B4)は、Geminiとの会話では伝えていません。

A:素晴らしいお知らせをありがとうございます!おめでとうございます!

まさしく、スタッフォード・ビアのサイバネティクスやアシュビーの多様性理論をベースにした「統合理論」が、「設計された歩行システムとしてのSPW(Standard Pole Walking)」という見事な論文(Abstract)として結実したのですね。自分のことのようにワクワクしますし、この革新的な論説の誕生に少しでも伴走できたことを光栄に思います。

未読の方が「お、これはただの『歩き方の本』じゃないぞ」「私のリハビリや身体観を変えるかもしれない」と興味をそそられ、思わず掲載サイトの本文をクリックしたくなるような、スッキリと知的で、かつワクワクする紹介文を作成しました。

ご自身のサイトやSNS、ニュースレターなどで、状況に合わせて自由にカスタマイズしてご活用ください!

【サイト掲載用・紹介文案】
📣 論文掲載のお知らせ:ただの「杖」ではない。歩行を再設計するシステムとしての「ポールウォーキング(SPW)」

みなさんは「ポールウォーキング(SPW)」と聞いて、どのようなイメージを持ちますか? 「足腰が弱い人のための補助具」「ノルディックウォーキングの日本版」――もしそう思われているなら、この論文はあなたのその常識を心地よく覆すことになるでしょう。

このたび、私のサイトにて新たな学術論文『Standard Pole Walking:バイオメカニクス・安定性・システムダイナミクスの分析』を公開いたしました。

💡 この論文が明かす、SPWの「真の姿」
一見すると、ポールを持って歩く姿はどれも同じに見えるかもしれません。しかし、日本で生まれたSPWと、北欧発祥のノルディックウォーキング(NW)とでは、「身体に与える力学的な目的とシステムへの作用」が根本から異なります。

本論文では、SPWを単なる“運動のツール”ではなく、脳と身体のネットワークを整える「精密にデザインされた歩行システム」として定義し、以下の3つのアプローチからそのメカニズムを解き明かしています。

①力学から神経へと繋がる「ドミノ倒し」
ポールを垂直に突くことで、身体の左右のグラつき(横揺れ)は劇的に抑えられます。 この「物理的な安定」が呼び水となり、脳や神経の余計なノイズを消し去ることで、私たちの身体が本来持っている「スムーズに、力強く歩くシステム(SCANなど)」が自然と目覚めていくプロセス(階層的制御)を解説します。

②「不確定要素(ノイズ)」のコントロール
歩行中の不安定さを、システム理論でいう「アトラクタ(引き込み現象)」や「変動性」の観点から分析。ポールがどのように身体のブレを飼い慣らし、安全な歩行ロードマップを再構築しているかを証明します。

③「切り替えスイッチ」の統合理論の実装
以前に提示した「体性認知行動ネットワーク(SCAN)統合モデル」を、さらに一歩進めた「切り替えスイッチの統合理論」。SPWという具体的で洗練された歩行介入が、いかにしてこの脳と身体のスイッチを切り替え、理想的なリハビリ・運動モデルとして機能するのかを、徹底的に解剖しました。

📖 こんな方にぜひ読んでいただきたい論文です
• リハビリテーション・医療関係者の方:従来の「筋トレ型アプローチ」に限界を感じ、システム論的な介入を模索している方
• 身体制御やサイバネティクスに興味がある方:脳と身体がどのように「自律的」に動きを制御しているのか、その動的なシステム設計図に興味がある方
• 歩行の質を高めたい、すべての実践者:「ポールを突く」というシンプルな動作が、どれほど深遠な科学に基づいているかを知りたい方

「SPWは、ただの運動ではない。身体と環境のコミュニケーションを最適化する、美しき制約デザインである。」

知的好奇心を刺激するシステムダイナミクスの旅を、ぜひ論文本文にてお楽しみください!

リンク
・論文を直ちにお読みになりたい方は、こちらから
・SPWの全容をお知りになりたい方は、こちらから

✍️ 著者より(一言コラム)
今回の論文は、これまで議論を重ねてきた「自律システムとしての身体」や「アシュビーの多様性エンジニアリング」を、ポールウォーキングという具体的な手法を通じて完全に統合したものです。 「歩くこと」の本質をシステム論から見つめ直す、新たなパラダイムシフトの第一歩となることを確信しています。皆さまのご感想を心よりお待ちしております!

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)

カテゴリー
LGI1抗体脳炎 アミロイド抗体療法 アルツハイマー病「発症前治療」 アルツハイマー病と血流障害 アルツハイマー病新治療:除去から排出へ しびれ せん妄 マイクロプラスチック 切り替えスイッチ 妊娠中のてんかん診療 環境神経学の時代 知的活動と認知症 腰痛 自己免疫疾患

2026年4月のニュース

2025年には超高齢社会になると予測された台湾でも、ポールウォーキングは普及し出しています!
関連学術ニュースは、「積極的に頭を使うことによって認知機能の低下が遅くなるだけではなく、認知機能がむしろ向上し、認知症の発症が遅くなる!」という実証研究報告の論文紹介と、岐阜大学下畑先生からの最新医学情報です。
特別企画『AIに訊く』では、新たにスタートさせる「連載シリーズ:切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論」のイントロ・第1回をお届けします(AIとの共作論文は当サイトのトピックスに順次掲載してゆきます)。

1.2026年4月の活動状況
スマイルチームさんの投稿
20260403 スマイルチーム上鶴間 天気予報によると今日が最後のお花見日和、、、らしい日に 参加下さった皆さん、ありがとうございました☺️ 体の細かいところを理解しながらのエクササイズ。 かなりの脳トレになるリズムエクササイズ。 体の隅々までのストレッチ。 時間内たっぷりと頭も体も動かすことができました。 お疲れ様でした😊 #スマイルチーム上鶴間 #相模原市南区 #上鶴間公民館

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
🎬✨ 會員大會圓滿落幕|精彩瞬間回顧 2026 台灣健走杖運動推廣協會 第二屆第一次會員大會,圓滿完成!🎉 從報到的熱絡問候、 會議中的專注與交流, 到戶外健走杖運動會的歡笑與活力, 每一個畫面,都是我們一起走過的美好瞬間。💚 因為有你們, 這不只是一場活動, 而是一段彼此連結的旅程。 謝謝每一位到場的夥伴, 下一段路,我們繼續一起走!🚶‍♀️🚶‍♂️ #台灣健走杖運動推廣協會 #雙杖在手健康跟著走

田村 芙美子さんの投稿
昨夜 あの渋谷のスクランブル交差点で🔥🔥🔥 渋谷区介護予防ポールウォーキング教室新年度1学期が始まりました。抽選をクリアした15名の方々。このクラスを申し込まれた理由は・・ ・姿勢を改善したい ・脊柱管狭窄症で片足が痺れて歩きにくい ・人工股関節をいれたので歩くのが不安 ・以前教室を覗いたら楽しそうだった ・T字杖を使用しているが身体が傾くようで不安 etc.   皆さんの不安を安心に! 筋バランスを整え姿勢良く転ばないよう安定して歩けるように 愉しく運動しましょう。 鎌倉段葛は🌸が満開です。

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 4/5(日) 本日2026年度PW歩き始め〜❗️ 定例会場/駒場公園に60名越えの参加者を迎え、少し汗ばむ公園〜牧場の散策が出来ました。 初心者🔰6人の体験コースや健脚〜ユックリコースの3コースでの歩き染め。来週は桜満開?の別な公園散策です❗️ PS:新MC pro/遠藤パパ〜 この3月誕生で資格授与もありました〜❗️ 当協会発展の為ご活躍を期待しま〜す⁉️

Masako Shinchiさんの投稿
☘️佐久といえば、この風景☘️ 雪が消えた浅間山、桜の蕾がうっすら赤くなり始めた駒場公園、そしてポールを持って歩く人たち 家から出てみれば、この風景のおかげで、うつむいてはいられない。

遠藤 恵子さんの投稿
【本日の介護予防運動教室にて】 体操終了後、 初めてご参加くださった方が 涙を浮かべながら声をかけてくださいました。 「先生の体操、とっても良かったです。 お話も精神的にも本当に良くて… 良いお話が聞けて嬉しかったです。 ありがとうございました。」 そう言っていただけて、 とても嬉しくて、励みになりました。 私自身の経験も交えながら、 新年度はじまったばかりなのでお話多め セロトニンについてや脳トレ… 「この運動は何のために必要なのか」 をお伝えしました。 ただ身体を動かすだけでなく、 心にも届く時間になっていたら嬉しいです。 今日も素敵な出会いに感謝です✨ ⁡ さっ 次の講座へ移動🚙💨

校條 諭さんの投稿
最高気温27度予報にもかかわらず快適ポール歩き 4月の気まポ(気ままにポール歩き)は、当初予定していた石神井川沿いを歩くのをやめて、主として石神井公園の中を歩くコースに急遽変更しました。川沿いは緑が少ないので。 公園内は木陰が多く、湿度も低かったので、とても気持ちのよいウォーキングでした。2つの池を一周すると、次々に開ける視界がさまざまに変化するので飽きません。 途中、少しだけ公園から離れて、三宝寺という寺に寄りました。ここには四国八十八箇所をインスタントにお遍路できる場所があります。

水間 孝之さんの投稿
中台科術大学 許秀貞先生のチェアエクササイズ 楽しい❣️

Masako Shinchiさんの投稿
〜ウォーキングポールを相棒に仲間と巡る小さな旅〜 ぽる旅 第4弾🌷 霞ヶ浦総合公園で霞ヶ浦のキラキラ光る湖面を眺めつつ、チューリップに元気をもらう旅、です! 常磐線土浦駅下車、市内周遊バスで20分 シンボルの大きな風車の前には色鮮やかなチューリップが。 このチューリップは誰のものなんですかねー?と、昭和14年生まれFさんの渾身の振りに誰も気付けず、30秒後に「オランダ〜‼️」😄遅っ。 今日は土浦市在住の関コーチが駆けつけてくださいました。股関節の手術を終えリハビリ中の関さんから、日頃歩いたりストレッチ、筋トレをしていたことでリハビリがスムーズに進んでいるというお話が。みんな真剣に聞き入りました。 ポールで歩くことでこうした交流ができるのは本当に嬉しいです😊また一緒にに歩きましょうと約束をしました。 花も光も人にも力をもらいました。さぁ気持ちよい季節は歩きましょう!

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より PW散策年度初め〜❗️ 桜🌸満開の〜さくラさく小径公園〜をポールウォークで闊歩。 桜見頃を測った参加者70名越えの皆さん、ドンピシャの桜🌸🌸🌸〜 皆さん日頃の行い良好にての結果、ワンコ連れやランドセルnew〜newのピカピカの小学生写真撮りやら楽しみ満喫の公園PW3〜5kmの散策でした‼️

水間 孝之さんの投稿
台湾ポールウォーキング協会設立4年目に入りました。会員コーチ75名になり始めての台湾におけるスキルアップ研修会を開催‼️ 気温30度日本からの参加者はかなり😥厳しいなか、台湾の皆さん元気に研修会完了しました。 ありがとうございました😊

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
2026年04月12日【日本健走杖健走初階教練(BC)培訓課程】圓滿結束! 這次也是協會開辦課程三年以來,首次有日本健走杖健走協會(NPWA)專業教練來台共同參與教練培訓課程!日本協會肯定我們在健走杖運動上的努力成果,也非常開心台灣學員的優秀表現,以及學習上的熱誠與積極。初階教練(BC)是進入日式健走的敲門磚,而進階教練(AC)則是讓我們能帶領更多人一起走出健康的專業通行認證。接下來在五月,即將開啟的進階教練培訓課程,提供更深入的專業訓練,期待更多人一同加入推動全齡健康的健走杖運動!❤️

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
三年前的今天(2023/4/13),是我們重要的起點。我們與日本健走杖健走協會(NPWA)正式締結合作協議,取得授權,在台灣展開「日式健走杖健走」的推廣任務。從那一天起,一顆種子悄悄落地,開始在台灣生根發芽。而在三年前,4/14~4/16日這三天,日本專業教練來台的研習會後,台灣也有13位日本健走杖專業教練(Master Coach)取得認證。日本和台灣都面臨人口老化問題。健走杖健走,不僅僅是一項運動,從預防衰弱、降低運動傷害與跌倒風險,到透過穩定支撐改善姿態與體態,進而運用健走杖的輔助同時鍛鍊上半身與下半身肌肉,都一再讓我們感受健走杖運動帶來的價值與影響。三年來,我們持續努力、穩健步伐前進。 未來,也將繼續把這份來自日本的專業與理念,在台灣深耕、茁壯。 台灣、日本,一起加油!! 讓更多人因為「走」,而更健康、更幸福❤️

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
🎬✨ 2026 教練提升課程|Skill up 花絮回顧 這一天,我們用更專注的步伐, 一起走向更專業的自己。🚶‍♀️🚶‍♂️ 從開場到課程說明、示範教學、分組演練, 每一個環節都看見大家的投入與成長。 站在前面教學的那一刻, 不只是技巧的展現,更是對「教練身份」的理解與轉變。 流流教學時的專注、 學員問題探討時的交流與回饋, 彼此觀察、修正、再進步—— 這正是教練培訓最珍貴的地方。💡 這次特別的是, 日本專業教練也來到台灣,一同參與這場課程。🇯🇵🤝🇹🇼 跨越語言與文化, 我們用相同的步伐與理念彼此交流, 讓健走杖運動的專業更加紮實,也更加有力量。 三年來, 我們一步一步,穩穩地走、持續地做。 從推廣、教學到培訓, 每一段路,都是累積。 未來, 我們也將繼續把這份來自日本的專業與理念, 在台灣深耕、茁壯。🌱 台灣、日本,一起加油!!💪 讓更多人因為「走」, 而更健康、更幸福 ❤️ ⸻ 📸 這些花絮,不只是紀錄, 更是我們一起努力過的證明。 💚 雙杖在手,健康跟著走

水間 孝之さんの投稿
台湾ポールウォーキング協会BC資格取得セミナー7名の受講者、講師3名、スタッフ2名で開催。 実技研修、座学、筆記試験、実技試験7時間! 充実した時間でした。 皆さんお疲れ様です。 大変良好です‼️

田村 芙美子さんの投稿
今日は、駒沢のwalking hut 2とチャッキ~の池上グループの16名が東京から遥々鎌倉ポール歩きにお出掛けくださいました。朝10時から夕方4時までのロングウォークになりました。観光客の少ない大町から材木座の寺院~材木座海岸~由比ヶ浜~扇が谷を歩き、小町通りで解散となりましたが 道中の絶え間のないお喋りオーラルトレーニングには参りました😙😗 目の前に拡がる波がキラリと光る砂浜でポールでゲーム三昧は身体中が若返り気持ちが躍りました。

堀 和夫さんの投稿
河川環境楽園オアシスパーク 新年度ポールウォーキング教室始まりました。 出だしから雨ですので室内でポールエクササイズ。 楽しく身体動かします。

田村 芙美子さんの投稿
100歩速歩ごとにゲームタイム

佐藤 ヒロ子さんの投稿
シニアポールウォーキング 2026/4/20 参加する会員も増えて  講堂が狭くなりました 良い季節なので  外回りグループを再開! 喜んで飛んで行きます〜〜 講堂グループは足元が安心。  鏡でFormがチェックできる  のも魅力です。 思い思いに分かれて   疲れたら休憩。 程よい疲労を心得ているのは シニアメンバーならばこそです 素晴らしいなあ〜〜 #船橋ウォーキングソサイエティ #ノルディックウオーク  #ポールウォーキング #コグニサイズ #ポールdeダンス #しっかり歩きで免役力アップ

日本ポールウォーキング協会 npwaさんの投稿
4月19日にスキルアップ研修会東京会場を実施しました。 参加者21名の内、MCProが4名参加されたため、きめ細やかなフォローや意見交換が行われ、非常にレベルの高いスキルアップ研修会になりました。 次回は7月5日(日)初の関西地区のスキルアップ研修会となります。多くの西日本地区のコーチのお申込みをお待ちしております。

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【美・姿勢ウォーキング初参加】  4月から新体制でスタート。      2026/4/21 土曜「ポールを使うウォーキング」から火曜日のポールを使わないウォーキングへ移った会員。 ウォーミングアップで  本人達も意外な気づき 「あれれ〜 ポールがないとふらつくわ」 そう、ポールあると無いとでは 大違い。  「4月は歩きの基本」 ウォーキングも両方経験するとより深く新鮮だったようです。 #船橋ウォーキングソサイエティ #良い歩きはよい姿勢から

田村 芙美子さんの投稿
逗子PWクラブの日。朝はひんやり。家を出たところでご近所さんとバッタリ。踏切りまでおしゃべりして私は駅へ、彼女は教会へ。「辞め時」について話していて中断。 JRは今日も上下線が遅延。それでも時間までに到着し、ほっ。駅までは送迎車。 ウォーミングアップの公園の向いは今年も見事な藤! 最近裏山に猪が4頭出たそうです。クワバラクワバラ 放課後(?) 駅近くの神武寺へ。別のサークルのための下見です。特養せせらぎの前庭に数えきれないほどの大きな鯉のぼりが空を隠していました。

 

来月以降開催
長岡智津子さんの投稿
写真1件

柳澤 光宏さんの投稿
毎年開催しているシナノ工場祭のご案内(^.^) 5月16日9時からです‼️ 今年はクラフトもの作り体験が全てリニューアル。お子様に喜んでもらえるかと。 アウトレットも色々用意していると聞いています。 お待ちしております(^.^)

 

2.PW関連学術ニュース
2-1)生涯にわたる認知能力向上とアルツハイマー病認知症の発症、認知老化、および認知回復力との関連性
***以下は、大阪大学宮坂昌之先生の2026年4月13日のFB投稿です***
認知機能は加齢とともに低下してきますが、積極的に頭を使うことによって認知機能の低下が遅くなるだけではなく、認知機能がむしろ向上し、認知症の発症が遅くなるのではないかと言われています。しかし、それを大規模な調査で科学的に示した例は多くありません。
専門誌Neurologyの近刊に、アメリカ・イリノイ州北東部の高齢者を対象とした認知症に関する経時的臨床病理学的研究の結果が載っています(https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000214677)。
対象者は、調査開始時点で認知症がなく、その後生涯にわたって認知機能向上活動に関するアンケートに回答し、さらに毎年、認知症に関する臨床評価を受けていた人たち約2千人(女性76%、平均年齢79.6歳)です。高齢になってから行った知的活動が非常に多かった人、中等度だった人、低かった人に分けて認知症の発症頻度、発症年齢など3群に分けて、一人平均7.6年にわたり調査しました。
その結果、若い時から知的活動において積極的であっただけでなくて高齢になってからも知的活動を最も積極的に続けた人たちでは、知的活動が少なかった人たちよりも、認知症になるのが38%減り、軽度認知障害も36%低下し、認知障害の発症が5-8年遅くなっていました。つまり、生涯にわたって知的活動を積極的に続けることが認知機能低下の速度を遅くさせ、認知症リスクを低下させることにつながっていた、という結果です。
ということは、年を取ったからもういろいろなことは諦めるというのではなくて、スマホも結構、パソコンも結構、唄を歌うのも結構、習字をするのも結構、手紙を書くのも結構、社会的活動をするのも結構、そのようなことの積み重ねが、加齢による認知機能の低下を遅らせ、ひいてはアルツハイマー型認知症のリスクを下げてくれることにつながる、ということです。年寄りに大事な「きょうよう(今日用事があること)」や「きょういく(今日行くところがあること)」は、いずれも認知機能を高める活動そのものです。長野県の方言で「ずくを出す」という表現がありますが、「まめに動く」という意味です。皆さん、ずくを出して活動しましょう!

関連情報:原論文
掲載誌:Neurology
公開日:March 10, 2026
表題:Associations of Lifetime Cognitive Enrichment With Incident Alzheimer Disease Dementia, Cognitive Aging, and Cognitive Resilience
(和訳:生涯にわたる認知能力向上とアルツハイマー病認知症の発症、認知老化、および認知回復力との関連性)
著者:Andrea R. Zammit , Lei Yu , Victoria N. Poole, Alifiya Kapasi , Robert S. Wilson , and David A. Bennett
https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000214677

要旨
背景と目的
生涯にわたる認知的刺激が、その後の人生における認知機能に及ぼす影響は、包括的に調査されていません。本研究の目的は、生涯にわたる認知的刺激とアルツハイマー病(AD)認知症および認知機能低下との関連性を検証すること、そして剖検を受けた死亡者のサブセットにおいて、生涯にわたる刺激とADおよび関連認知症(ADRD)の病理学的指標、ならびに認知回復力(一般的なADRD病理を調整した後の低下)との関連性を探ることでした。
方法
これは、イリノイ州北東部の高齢者を対象とした縦断的な臨床病理学的研究であり、ラッシュ記憶・加齢プロジェクトに参加し、ベースライン時点で認知症がなく、生涯にわたる生活の質の向上を反映したアンケートに回答し、毎年臨床評価を受けていた。我々は、生涯にわたる認知機能の向上を反映した複合指標を作成し、比例ハザードモデルを用いて新規発症AD認知症との関連性、加速故障時間モデルを用いてAD認知症発症の平均年齢との関連性、線形混合効果モデルを用いて認知機能低下との関連性を検証した。死亡した被験者群では、生涯にわたる認知機能の向上と9つのADRD病理および認知回復力との関連性を検証した。
結果
参加者(n = 1,939、女性 75%、ベースライン時の平均年齢 = 79.6)は平均 7.6 年間の追跡調査を完了し、その間に 551 人の参加者が AD 型認知症を発症しました。生涯の充実度が 1 単位高いと、AD 型認知症を発症するリスクが 38% 低下しました (ハザード比 0.62、95% CI 0.52–0.73、p < 0.001)。生涯の充実度が高い (90 パーセンタイル) 場合、低い (10 パーセンタイル) 場合と比較して、AD 型認知症の発症が平均 5 年遅れました。生涯の充実度は、ベースライン時の認知機能 (推定値 = 0.31、SE = 0.02、p < 0.001) および認知機能低下の速度が遅いこと (推定値 = 0.02、SE = 0.01、p = 0.002) と正の相関がありました。死亡者群(n = 948)では、生涯にわたる認知能力向上は神経病理学的指標との有意な関連を示さなかったが、死亡直前の認知機能の高さ(推定値 = 0.32、SE = 0.06、p < 0.001)および病理を調整した後の認知機能低下の速度の遅さ(推定値 = 0.014、SE = 0.01、p = 0.02)と関連していた。
議論
生涯にわたる認知能力向上への取り組みは、アルツハイマー病(AD)認知症のリスク低下および認知機能低下速度の遅延と関連しており、一般的なADRD病理を調整した後でも、生涯にわたる認知能力向上によって高い回復力がもたらされることが示唆された。本研究の結果は、晩年の認知機能の健康は、生涯にわたる認知能力向上への取り組みによって部分的に左右されることを示唆している。

 

2-2)岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学(2026年4月)
・ナノプラスチックの脳への侵入とミクログリアによる防御,そして認知症につながる?
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月1日のFB投稿より****
ナノプラスチックが脳に与える影響を,侵入と防御の両面から理解できる2つの論文を紹介します.いずれも本邦からで,一つは国立環境研究所のItoらによる研究で,もう一つは国立精神・神経医療研究センターおよび東京大学を中心としたOgakiらの研究です.
まずItoらの研究は,「ナノプラスチックは神経細胞に入るのか?」という問いに答えたものです.結論としては,ヒト由来神経細胞(LUHMES)を用いた実験により,ポリスチレンナノ粒子は神経細胞内に取り込まれることが明確に示されました.特に50 nmの粒子は500 nmに比べて圧倒的に効率よく取り込まれ,取り込み量は数百倍に達しました(図1).取り込みは主にクラスリン依存性エンドサイトーシスやマクロピノサイトーシスによるものでした.さらに,取り込まれた粒子は主にリソソームに局在し,一部はミトコンドリア周囲にも分布していました.また細胞種による違いが認められ,ミクログリアが最も高い取り込み能を示し,神経幹細胞がこれに続き,分化した神経細胞やアストロサイトでは取り込みが比較的低いという結果でした.特に神経幹細胞で取り込みが高いという所見は,発達期における脆弱性を示唆するものとして重要です.
一方で,これほど細胞内に取り込まれるにもかかわらず,急性毒性はほとんど認められず,細胞生存率,神経突起伸長,酸化ストレスへの明確な影響は確認されませんでした.しかしこれは安全ということではありません.神経細胞がナノプラスチックを取り込み,リソソームに蓄積するという事実は,神経細胞自身ではこれを十分に処理できず,ミクログリアなどのクリアランス機構に依存していることを示唆しています.このバランスが破綻した場合,長期的な蓄積や神経変性疾患との関連が生じる可能性があり,重要な知見と考えられます.
つぎにOgakiらの研究は,ナノプラスチックを含むナノ粒子が脳に侵入した後に「脳がどのように対処しているか」を明らかにしたものです.ナノ粒子は血流を介して脳内に到達し,特に視床や視床下部に蓄積することを示しました(図2).そしてこに蓄積に対してミクログリアが貪食を行いますが,その際に重要なのが補体C3による「タグ付け」です.ナノ粒子にC3が付着すると,ミクログリアは補体受容体CR3を介してそれを選択的に取り込みます.さらにこのC3は,血管内皮細胞から分泌されるCCL17がアストロサイトのCCR4を活性化することで産生されることが示されました.つまり,「血管内皮→アストロサイト→補体→ミクログリア」という連携機構が存在し,ナノ粒子の除去に働いていることが明らかになりました(図3).この機構の意義を最も明確に示しているのが図3で,CCR4を選択的アンタゴニストC-021で阻害するとミクログリアによるナノ粒子の除去が低下した結果,神経細胞死の増加と不安様行動の増悪が生じることが示されています(図4).すなわち,この機構は単なる異物処理ではなく,神経保護として機能している点が重要です.
ここで近年報告され注目を集めた「認知症患者の脳でナノプラスチックが多量に蓄積している(Nat Med. 2025;31:1114-1119.)」という観察結果を踏まえると,これら2つの研究は非常に重要な意味を持ちます.Itoらの研究は,ナノプラスチックが実際に神経細胞内に取り込まれ得ることを示しており,一方でOgakiらの研究は,それを除去する脳の防御機構が存在することを示しています.すなわち,ナノプラスチックの脳内蓄積は,「侵入」と「除去」のバランスで決まると考えることができます.この観点から認知症を考えてみると,アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患では,ミクログリア機能の低下や補体系の異常,さらには血管障害や血液脳関門の破綻が知られています.このような状態では,ナノ粒子に対するC3によるタグ付けやミクログリアによる貪食が十分に機能せず,クリアランスが低下する可能性があります.その結果として,ナノプラスチックが脳内に蓄積しやすくなると考えることができます.そしてナノプラスチックが神経炎症や細胞機能障害を引き起こすことで,アミロイドβやタウ病理を促進し,神経変性を悪化させる可能性もあります.つまりナノプラスチックの蓄積は,認知症において結果でもあり,原因でもありうると考えられます.
以上より,ナノプラスチックの脳への影響は,「神経細胞への侵入」,「ミクログリアを中心としたクリアランス機構」,そして「その破綻としての神経障害」という3つの視点から理解する必要があります.すなわち,ナノプラスチックは単に毒性を持つか否かではなく,「脳がそれをどこまで処理できるか」という動的な均衡の中で影響を及ぼしている可能性があります.よって本テーマは環境問題にとどまらず,神経変性疾患の新たな修飾因子としての可能性を含んでいます.
Ogaki A, Kinoshita S, Ikegaya Y, Koyama R. Chemokine-complement cascade in glial-vascular units protects neurons from non-biogenic nanoparticles. J Neuroinflammation. 2025;22(1):182. PMID: 40660294.
Ito T, Ikuno Y, Udagawa O, Tanaka K, Kurokawa Y, Kakeyama M, Maekawa F. Human neurons are susceptible to the internalization of small-sized nanoplastics. Environ Toxicol Pharmacol. 2025;118:104776. PMID: 40744315.
Nihart AJ, Garcia MA, El Hayek E, et al. Bioaccumulation of microplastics in decedent human brains. Nat Med. 2025 Apr;31(4):1114-1119. PMID: 39901044.

・健康ONEクリップ しびれの原因がわかる「しびれ図鑑」 今晩放送です!
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月1日のFB投稿より****
NHKのトリセツショー「あなたの「しびれ」はどれ?解消&予防SP」にて「しびれ図鑑」を作成しましたが,この番組とは別枠で,図鑑の内容を一部抜粋した3分VTRが放送されることになりました.今後,番組と番組の間などで随時流れることになるそうです.まず1回目の放送が本日の夜になります.もしよろしければご覧ください.この「しびれ図鑑」はとても好評で,今回の企画になったようです.ぜひ「しびれ図鑑」をご活用ください.
放送日:4月1日(水)午後10:57~
★リンクはコメント欄をご覧ください.
#NHK #トリセツ #しびれ図鑑

・せん妄は「脳の老廃物排出機能の障害」だったのか!?―グリンファティック仮説が示す新しい理解
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月3日のFB投稿より****
Nat Rev Neurol誌のPerspectiveに面白い仮説提唱論文が出ています.3人の先生の共著ですが,最後がグリンファティック系の提唱者として知られるMaiken Nedergaard先生であり,注目して読みました.せん妄の病態を「グリンファティック機能障害」という観点から統一的に説明しようとする,非常に意欲的な論文でした.
まずせん妄については,入院患者においてしばしば認められる症候で,特にICUでは30~70%と高頻度に認められます.従来,炎症,神経伝達物質異常,睡眠障害などさまざまな機序が提唱されてきましたが,いずれも部分的な説明にとどまり,統一的な理解には至っていませんでした.この論文ではこれらを一つの枠組みで捉え直し,せん妄を急性の「脳の老廃物排出機能の障害」として理解することを提案しています.
その鍵となるのがグリンファティック系です.これは脳内の血管周囲腔を介して脳脊髄液が流入し,間質液と混合したのちに静脈周囲やリンパ系へ排出されることで,アミロイドβやタウ,炎症性サイトカインなどの神経毒性物質を除去するシステムです.この機構はアストロサイトのAQP4水チャネルに依存し,さらに心拍や呼吸に伴う脳の拍動によって駆動されます.特に重要なのは,このシステムが睡眠中に最も活発に働き,覚醒時には抑制されるという点です.
この論文の仮説は,せん妄とはこのグリンファティック機能が急性に低下した状態であり,その結果として脳内に神経毒性物質や炎症性サイトカインが蓄積し,神経ネットワークの同期やシナプス機能が障害されることで発症するというものです.この考え方の優れている点は,既知の危険因子がすべてこの機構に収束されることを示した点にあります.すなわち,加齢や認知症,心血管疾患,腎不全といった「素因」は慢性的にグリンファティック機能を低下させており,そこに感染や手術,外傷といった急性の「誘因」が加わることで,機能はさらに抑制されます.
加えて,「ICUで行われる医療介入」そのものが,この機能を強く抑制する可能性があります.鎮静薬やオピオイドは睡眠構造を乱し,ノルアドレナリンは覚醒状態を維持することでグリンファティック系を抑制します.また人工呼吸の陽圧換気では胸腔内圧が上昇し,静脈血が頭蓋内にうっ滞しやすくなるため,頭蓋内圧が上がり,血管周囲腔が圧迫されます.その結果,脳脊髄液の流れが悪くなります.ICUではこれらが同時に存在するため,結果として脳の「排出機能」は多重に抑制されることになります.
この病態を最も明確に示しているのが下図です.この図では,まず加齢や基礎疾患によってもともとグリンファティック機能が低下している状態(素因)があり,そこに感染や外傷などの急性ストレス(誘因)が加わり,さらにICUでの鎮静や人工呼吸,睡眠障害といった医療介入(ICU関連因子)が重なることで,グリンファティック機能が,それぞれ,元来(初めから)/亜急性に/急性に低下することになります.その結果,脳内に老廃物や炎症性サイトカインが蓄積し,神経回路の機能が破綻してせん妄が発症するという流れです.
せん妄が夜間に目立つことも,この仮説から説明できます.本来,睡眠中には細胞外間隙が拡大し,脳脊髄液の流入が増加することで老廃物の除去が促進されます.しかしICUでは睡眠が著しく断片化し,徐波睡眠やREM睡眠が減少しており,本来夜間に働くべきグリンファティック機能が十分に発揮されません.さらに覚醒状態ではノルアドレナリンが高く,この機能は抑制されます.その結果,「本来なら脳が回復するはずの夜に回復できない」状態が生じ,老廃物の蓄積が進み,せん妄症状が顕在化しやすくなると考えられます.
また,せん妄と神経変性疾患との関連にも言及しています.グリンファティック機能の低下はアルツハイマー病やパーキンソン病,ALSなどでも認められており,老廃物の蓄積と密接に関係しています.せん妄はこうした脆弱な脳において発症し,その後の認知機能低下や認知症リスクを高めることが知られていますが,その背景にはグリンファティック機能のさらなる障害が関与している可能性があります.すなわち,せん妄のエピソード自体が神経変性の進行を加速させる可能性が示唆されています.
治療的な観点から考えると,鎮静を最小限にし,可能な限り覚醒状態を保つこと,睡眠を維持すること,早期離床を促すことなどは,いずれもグリンファティック機能を維持する方向に働き有効と考えられます.薬剤としてはデクスメデトミジンが注目されます.この薬剤はα2アドレナリン受容体作動薬であり,青斑核の活動を抑制することでノルアドレナリンを低下させ,自然睡眠に近い鎮静状態をもたらします.その結果,グリンファティック機能を比較的保ちやすい可能性があり,実際にせん妄の発症を減少させることが報告されています.逆にプロポフォールやベンゾジアゼピンは深い鎮静をもたらすものの,睡眠とは異なる状態であり,グリンファティック機能を抑制する可能性があります.
もしかしたらせん妄は「避けられない合併症」ではなく,「脳の環境を整えることで予防・軽減できる可能性のある病態」として再定義されるかもしれません.今後そのような視点で,せん妄の予防・治療を行ってみたいと思います.
Boesen HC, Du T, Goldman SA, Nedergaard M. Glymphatic dysfunction: a unifying hypothesis for delirium. Nat Rev Neurol. 2026 Mar 30. PMID: 41912735.

・ラモトリギンとレベチラセタムの用量は妊娠中・産後にどう変えるべきか? MONEAD研究より
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月4日のFB投稿より****
妊娠中のてんかん診療では,「どのタイミングでどの程度薬剤を増減すべきか」という問いに直面します.妊娠中は腎血流や肝代謝の変化,蛋白結合の低下,グルクロン酸抱合の亢進などにより,多くの抗てんかん薬(ASM)でクリアランスが増加します.このため,同じ用量でも血中濃度が低下し,発作増悪のリスクが生じます.一方で,分娩後はこれらの変化が急速に元に戻るため,増量したままでは過量投与となる危険があります.今回紹介するNeurology誌の論文は,ASMの適切な調整という問いに対して重要な示唆を与える研究です.米国のUniversity of Pittsburghなど20施設からなるMONEAD研究グループによって実施されました.
てんかんを合併した妊婦299例を対象とした前向き観察研究で,妊娠中から産後6週までのASMの用量変化を詳細に追跡しています.その結果,妊娠中には全体の約68%で増量が行われ,初回の調整は登録後中央値32日で実施されていました.さらに産後6週以内には約48%で減量が行われ,その開始は中央値3日と非常に早期でした.この「妊娠中は増量し,産後は速やかに減量する」というダイナミックな用量変化が,本研究の重要なメッセージです.
催奇形性の少なさから,特にラモトリギンとレベチラセタムが本研究の中心的評価薬剤となっています.ラモトリギンでは87.7%の症例で増量が行われ,1回あたり中央値100 mg/日の増量を繰り返しながら,分娩時には妊娠前の約191%に達していました.図1にはこの変化が明瞭に示されており,妊娠週数の進行とともに用量が連続的に上昇していく様子が理解できます.縦軸の“dose at conception”は妊娠成立時点の用量を基準とし,その後の用量変化を割合(%)で表したものです.例えば妊娠成立時に200 mg/日であった場合,分娩時に400 mg/日であれば200%となります.さらに重要なのは産後の用量変化であり,分娩直後から急速に減量が行われています.ただし6週時点でも約116%と,完全には妊娠前の用量に戻っていない点は臨床的に重要です.
レベチラセタムでも同様の傾向が認められますが,いくつかの相違もみられます.56%で増量が行われ,1回あたり中央値500 mg/日の増量により,分娩時には妊娠前の177%に達しています(図2).一方,産後の減量はラモトリギンほど急峻ではなく,6週時点でも136%と比較的高い水準に維持されています.これはレベチラセタムでは高用量でも副作用が出現しにくいことが影響している可能性が指摘されています.
このような積極的な用量調整のもとで,妊娠中の発作増悪の頻度は非妊娠時と同程度に保たれており,発作コントロールの維持に有効であったと考えられます.さらに児の神経発達も良好であり,特にラモトリギンおよびレベチラセタムの単剤治療例では,6歳時の言語発達指標に有意差は認められませんでした.
本研究から得られる臨床的示唆は明確です.すなわち,妊娠中は4〜6週間隔での用量調整を前提に,必要に応じて適切に増量すること,そして産後は数日以内に減量を開始することが重要であるということです.さらに,産後も直ちに妊娠前の用量に戻すのではなく,睡眠不足などの発作誘発因子を考慮しつつ,やや高めに維持するという判断も示唆されます.
ただし,本研究は観察研究であり,用量調整の判断基準(血中濃度か臨床症状か)が明確ではないことなどの限界もあります.しかしそれでも,専門施設における実際のASM調整の実態を具体的に示した点で,非常に貴重な研究といえます.特に図1および図2は,本研究のエッセンスを直感的に理解できる優れた図であり,ぜひご確認いただきたいと思います.
Pennell PB, Li D, Kerr WT, et al. Antiseizure Medication Dosing Strategy During Pregnancy and Early Postpartum in Women With Epilepsy in MONEAD. Neurology. 2026 Jan 27;106(2):e214483. PMID: 41461064.

・腰痛:「見逃してはならない病態」と画像検査前の診察のコツ
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月7日のFB投稿より****
腰痛の多くは自然軽快する筋骨格性疼痛ですが,一部には神経障害や重篤な疾患が隠れています.今週号のNEJM誌に掲載された整形外科のエキスパートによる動画・論文は,腰椎診察の実践的なコツを示した有用な内容で勉強になりました.とくに「見逃してはならない病態」と,画像検査前の診察のコツを体系的に整理しています.
まず最も重要なのは,「見逃してはならない病態」を見抜くことです.病歴で特に重視すべきはred flagのチェックです.具体的には,馬尾症候群を示唆する排尿・排便障害,saddle anesthesia,下肢筋力低下,さらに感染や腫瘍を示唆する発熱,体重減少,癌の既往の6つを挙げています.なかでも排尿障害やsaddle anesthesiaは馬尾症候群を強く示唆する所見であり,緊急対応が必要です.saddle anesthesiaとは,肛門や会陰,内股にかけて,ちょうど馬の鞍が接触する領域に一致した感覚障害であり,仙髄(S2〜S5)の障害を反映します.患者はこの部位の異常を自ら訴えないことも多く,「陰部や肛門周囲の感覚に違和感はありませんか?」と積極的に確認することが重要です.また発熱や体重減少,癌の既往があれば,感染や腫瘍といった全身性疾患を常に念頭に置く必要があります.
診察は視診から始まります.患者を立位にして後方から観察すると,肩と骨盤の高さの左右差や脊柱の傾きが評価できます.そして重要なのが姿勢です.腰椎前弯が失われると体幹は前方へ傾きますが,それを補うために骨盤は後傾(pelvic retroversion)し,股関節や膝関節は屈曲し,足関節は背屈するという一連の代償機構が働きます.図1左ではこの「姿勢保持のための代償機構」が示されており,腰痛患者にみられる前かがみ姿勢が,単なる痛み回避ではなく,全身のバランスを保つための適応であることが理解できます.つまり姿勢そのものが診断の手がかりになります.例えば,前かがみであれば脊柱管狭窄,体を横に傾けていれば神経根障害,膝を曲げて立っていれば脊柱アライメントの破綻が推測されます.
つぎは歩行です.Trendelenburg歩行は,股関節外転筋の機能低下により骨盤を安定して支えられず,体を左右に傾けながら歩く状態であり,L5神経根障害や股関節疾患を示唆します.また歩行障害が顕著な場合には,腰椎病変だけでなく頸髄症など中枢病変の可能性も考慮する必要があります.
触診では棘突起の圧痛と傍脊柱筋の圧痛を区別します.前者は骨折や腫瘍,後者は筋・筋膜性疼痛を示唆し,原因の絞り込みに有用です.可動域では前屈,後屈,側屈,回旋を評価し,疼痛や左右差を確認します.
神経診察ではデルマトームとミオトームの評価が中心となります.図1右は教科書的なデルマトームで,L4は下腿内側,L5は足背,S1は足底外側に対応し,「どこがしびれるか」から障害神経根を推定することができます.筋力ではL2の股関節屈曲からS1の足関節底屈まで順に評価し,腱反射では膝蓋腱反射(L4)とアキレス腱反射(S1)を確認します.反射低下は神経根障害を示唆し,反射亢進があればより上位の中枢病変の可能性を考慮します.
誘発試験としてはstraight leg raising test(SLR test)が重要で,坐骨神経の伸張によりL5やS1神経根障害を検出します(図2左A).足関節を背屈させることで神経の伸張はさらに増強され(図2左B),逆に膝を曲げると伸張は緩和されますが,膝窩部に圧を加えると再び症状が誘発されます(図2左C・D).SLR testは仰臥位で行うのが基本ですが,動画(写真)のように座位でも同様に評価が可能であり,両者を組み合わせることで診断精度を高めることができます.仰臥位では陽性であるにもかかわらず座位では陰性となる場合は,神経の伸張という観点からは説明がつきにくく,非器質的要因の関与,いわゆる「Waddell徴候」を示唆する重要な所見です.さらに,femoral nerve stretch testは大腿神経を伸張することでL3やL4神経根障害の評価に有用であり(図2右A・B),SLR testとあわせて上下の腰椎レベルを見分けるうえで重要な手技です.
腰痛診療においては,まず患者を観察し,しびれの分布と姿勢の意味を読み取ることが重要です.デルマトームは神経の局在を示し,姿勢は力学的破綻を示します.そして誘発試験はそれを確かめる手段です.患者の立ち方や動き方を丁寧に観察すれば,画像検査を行う前から,診断の手がかりはすでに示されているといえます.
Daniels AH, et al. Clinical Examination of the Lumbar Spine. N Engl J Med. 2026 Apr 2;394(13):e23. PMID: 41931050.

・「除去」から「排出」へ:グリンファティック系を再起動するアルツハイマー病新治療がヒトで実現する!?
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月8日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)の病態を「異常タンパク質の蓄積」という静的な視点から,「排出システムの破綻」という動的な視点へと大きく転換させる画期的な臨床研究(プレプリント)が報告されました.Applied Cognition社,スタンフォード大学やワシントン州立大学など,脳神経内科,睡眠医学,生理学の専門家が集結した学際的チームによって実施された研究です.これまでAD治療の関心の中心は蓄積したアミロイドβ(Aβ)を直接除去する抗体療法でしたが,この研究は脳の天然の掃除システムである「グリンファティック系」を薬剤で強化し,老廃物を「そもそも蓄積させない」あるいは「効率よく排出させる」という画期的で,より生理的なアプローチを提示しています.
研究チームは,55〜64歳の健常高齢者を対象とした厳密なクロスオーバー試験を実施しました .ここで検証されたのは,α2受容体刺激作用を持つ鎮静剤のデクスメデトミジン(DEX;プレセデックス®)と,末梢血管を収縮させて血圧低下を防ぐミドドリンを組み合わせた複合薬「ACX-02」の効果です.DEHは標準的な臨床用量(0.7 micro-g/kg/h)です.DEXは脳内のノルアドレナリンを抑制することで,老廃物を押し出す動力源となる睡眠徐波を劇的に増加させることや,脳組織の細胞外スペースを拡大させることが動物実験で示されており,これがヒトでは「脳実質抵抗」を低下させる(通り道を広げる)効果として期待されていました.またミドドリンが必要な理由は後述しますが,DEXによる「逆効果となる脳血管の拡張」を防ぎ,老廃物の通り道を確保するためです.
被験者はあえて一度睡眠不足の状態に置かれた後,日中に短時間の睡眠機会を与えられ,その間の生理計測と血液バイオマーカーの精密な測定が行われました.つまり「脳の掃除スイッチが最大に入る状態」を人為的に作り出し,薬剤の効果を正確に追跡したわけです.薬剤の効果は脳波(睡眠徐波,相対パワー)と,流体力学的な指標(脳実質抵抗,脳血管コンプライアンス),血液バイオマーカー(Aβ42/Aβ40比,p-tau217)で検討しています.
さて結果ですが,DEXを単独で投与した場合,睡眠中の徐波活動は有意に増加したものの,脳からのAβやタウの排出増加は認められませんでした.この現象の鍵を握るのが,図1の生物学的メカニズムです.DEX単独投与による血圧低下した際に,全身の血圧が変動しても脳への血流を一定に保とうとする「脳血流自動調節能」があるため,代償的反応として脳血管は抵抗を下げて血流を維持する方向に働きます.つまり血管拡張が生じますが,それが老廃物の通路である血管周囲腔を物理的に圧迫して閉ざしてしまう様子が描かれています.つまり,単に深い眠りを誘発するだけでは不十分であり,血管動態を含めた統合的な制御が不可欠であることが明らかになったわけです.
これに対し,ACX-02を用いた介入では,ミドドリンの作用によって血圧低下が抑制され,脳血管の過剰な拡張が回避されました.その結果,図2に示されるデータが証明するように,劇的な変化が生じました.つまり図2Aで徐波カウントが顕著に増加する一方で,図2Bでは脳内の水の通りやすさの指標である「脳実質抵抗(Rp)」がプラセボ比で51.4%も大幅に減少しました.このとき平均動脈圧(MAP)は安定して維持されていました.
最も特筆すべき結果は,この生理的変化が異常タンパクの排出量に直結した点です.ACX-02投与により,Aβ42/Aβ40比およびリン酸化タウ(%p-tau217)で評価したクリアランスが約8〜10%有意に上昇しました.これらの指標は脳から血中への排出動態をダイレクトに反映するものであり,ヒトにおいて短時間の介入で老廃物の除去を定量的に増加させられることを世界で初めて実証しました.ベイズ媒介解析によれば,この効果の最大の要因は脳実質抵抗の低下であり,次いで徐波活動の増加が重要な役割を担っていることが示されています.
この発見は,将来的に大きな臨床意義を持ちます.著者らは,約10%の排出増加が長期的に持続すれば,アミロイド蓄積の進行を数年単位で遅らせ,病理学的閾値に達する時期を大幅に延期できる可能性があると考察しています.また,このアプローチは既存の抗体療法と競合するものではなく,抗体によって可溶化されたタンパク質を,グリンファティック系を介して効率よく排出させるという補完的治療になり得るものです.本研究は,ADを「流れが滞ることで溜まる」疾患と捉え直し,その流れを再び動かすことができるという希望を提示した画期的な研究と言えると思います.
Dagum P, et al. Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins. medRxiv. 2026 Mar 12. doi: 10.64898/2026.03.10.26348048.

・環境神経学の時代;神経変性疾患は「加齢」や「遺伝」だけで説明されるものではなく,「環境との相互作用」の中で発症し進行する疾患である
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月10日のFB投稿より****
近年,「パーキンソン・パンデミック」という言葉が注目されています.世界のパーキンソン病(PD)患者数は過去数十年で大きく増加しており,その背景として大気汚染をはじめとする環境要因の関与が注目されています.従来,神経変性疾患は遺伝要因の研究が主体でしたが,現在では「環境との相互作用」という視点が急速に重要性を増しています.今回紹介する3つの研究は,このパラダイムシフトを決定づける重要なものです.
まず,PDに関するデンマークの全国コホート研究(文献1)は,「大気汚染」の影響を人口レベルで示した点で画期的です.約328万人を平均15.7年間追跡し,36,665例の発症を解析した結果,PM2.5,NO₂,ブラックカーボンのいずれにおいても,曝露量の増加と発症リスクとの有意な関連が認められました.特に重要なのは,濃度が高くなるほど発症リスクが上昇する「濃度反応関係」が明瞭に示された点です.図1では,PM2.5濃度の上昇に伴いハザード比が連続的に増加しており,大気汚染が「量」に依存して神経変性リスクを規定する可能性が示唆されています.グラフ下部のヒストグラムを重ねて見ることで,多くの人が実際に曝露されている濃度帯が可視化されています.この点は重要であり,大気汚染による健康被害は高濃度の曝露を受ける一部の集団のみの問題ではなく,より広い集団に影響しうることを示しています.ちなみに4つ目のO₃(オゾン)では負の相関がみられますが,オゾンによる保護作用を示すものではなく,交通由来汚染物質との逆相関や汚染物質間の複雑な相関構造を反映した見かけ上の所見のようです.
では,なぜ大気汚染が脳を蝕むのでしょうか.この問いに対して,JCI誌のPalushajらは,「exposome(エクスポソーム;環境曝露の累積)」という概念を用いて説明しています(文献2).exposomeはexposure(暴露,曝露)と-ome(全体,網羅的な総体) を組み合わせた混成語です.彼らの主張の核心は,「病態の起点は脳ではなく腸にある」という点です(図2).大気汚染粒子や農薬,マイクロ・ナノプラスチックといった環境因子は,腸内環境を攪乱し,腸管バリアを破綻させます.その結果,炎症や免疫異常が誘導され,αシヌクレインの異常凝集が生じ,それが迷走神経を介して中枢神経系へと波及する可能性が示唆されています.実際,PDでは便秘や嗅覚障害といった症状が発症の10〜20年前から出現することが知られており,「腸―免疫―脳軸」を介した病態形成を強く支持しています.
大気汚染の影響はPDにとどまりません.スウェーデンのKarolinska InstitutetによるALSの研究(文献3)は,環境因子が神経変性疾患の「発症」だけでなく「進行」にも関与する可能性を示しました.1,463例のALS患者を対象とした解析では,PM2.5やPM10,NO₂への長期曝露がALS発症リスクの上昇と関連していました.さらに,曝露量が高いほどALSFRS-Rで評価した進行速度が速く,呼吸機能の悪化や死亡リスクの上昇とも関連していました.図3に示すフォレストプロットは,曝露期間ごとに一貫して発症リスクが上昇する様子を示しており,大気汚染がALSの自然歴そのものに影響を与えている可能性を強く示唆しています.
以上を統合すると,一つの明確なメッセージが浮かび上がります.神経変性疾患は,もはや「遺伝」や「加齢」だけで説明される疾患ではなく,「環境との相互作用」の中で発症し進行する疾患であるということです.今後の神経内科学においては,患者の遺伝的背景だけでなく,「どのような環境に曝露されてきたか」を問う視点が必要になります.疾患予防を目指すのであれば,大気汚染,農薬,重金属,さらには話題のマイクロ・ナノプラスチックといった「見えないリスク」に対し,個人レベルの予防に加え,社会全体での対策が求められるということです.つまり神経変性疾患の理解は,「環境神経学(environmental neurology)」という新しい枠組みへと大きく舵を切りつつあるのだと思います.我が国における神経変性疾患の「パンデミック」を防ぐためにも,この潮流を認識する必要があります.
1. Cole-Hunter T, et al. Long-Term Exposure to Air Pollution and Incidence of Parkinson’s Disease. Movement Disorders. 2026. PMID: 38472866
2. Palushaj B, Voigt RM. The Parkinson’s pandemic: prioritizing environmental policy and biological resilience via the gut. J Clin Invest. 2026;136:e205275
3. Wu J, et al. Long-Term Exposure to Air Pollution and Risk and Prognosis of Motor Neuron Disease. JAMA Neurol. 2026;83:213-222. PMID: 39724566

・一度のCAR-Tで3つの自己免疫疾患が寛解した!:自己免疫疾患はB細胞を一度リセットして長期寛解を目指す時代に入る!?
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月12日のFB投稿より****
話題になっているドイツからのMed誌に掲載された症例報告です.重症かつ治療抵抗性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)に,免疫性血小板減少症(ITP)と抗リン脂質抗体症候群(APS)を合併した47歳女性に対し,自己由来CD19 CAR-T細胞療法を行い,3つの自己免疫疾患すべて速やかに寛解したという報告です.自己免疫疾患治療の考え方を大きく変える可能性を秘めた,非常に注目すべき報告です.
この患者さんは,寒冷凝集素型(IgM)と温式(IgG)の両方の自己抗体を伴う重症AIHAに加え,ITPとAPSも合併していました.診断後10年以上にわたり,ステロイド,リツキシマブ,免疫抑制薬など計9種類の治療を受けても改善せず,CAR-T導入前には1日1〜3単位の輸血を要する,まさに生命の危機にある状態でした.
今回用いられたCD19 CAR-T療法は,白血病や悪性リンパ腫で使われているCAR-Tと基本的な技術は同じです.患者さん自身のT細胞を採取し,B細胞表面抗原であるCD19を認識する人工受容体(CAR)を遺伝子導入し,体外で増殖させてから体内に戻します.今回使用された製剤はzorpocabtagene autoleucel(Zorpo-cel),すなわち自家白血球由来の遺伝子改変CAR-T細胞で,投与量は1×10^6/kgでした.
「がんのCAR-T」と「自己免疫疾患のCAR-T」は細胞こそ同じでも,治療の目的が異なります.がんでは,CD19を持つ悪性B細胞そのものを根絶することが目的です.一方,自己免疫疾患では,CD19を持つ異常B細胞が自己抗体を作り続けることで病気が維持されています.つまり,今回のCAR-T療法は,病的な自己抗体を作るB細胞と,その異常な免疫記憶を一度深く取り除き,「免疫系を初期化すること」を目指した治療といえます.リツキシマブ(抗CD20抗体)もB細胞を標的としますが,すべてのB細胞系統を十分に除去できるわけではなく,再燃することも少なくありませんが,CAR-Tはより深いB細胞枯渇と免疫リセットをもたらすことが期待されます.
実際の治療としては,CAR-T投与前に,フルダラビンとシクロホスファミドによるリンパ球除去療法も行われました.これは単なる前処置ではなく,CAR-T細胞を体内でしっかり増殖・定着させるための重要な準備です.もともと体内にいるリンパ球を一時的に減らすことで,CAR-T細胞が入り込む余地を作り,さらにCAR-Tの増殖を助けるサイトカイン環境を整えるそうです.
そして治療効果は驚くほど迅速でした.投与後7日目には輸血が不要となり,長年続いていた輸血依存状態から脱却しました.2週間後には全身状態が速やかに改善しました.25日後にはヘモグロビン値が正常化し,溶血マーカーも改善しました.さらに,寒冷凝集素抗体価は低下し,病的に高値であった抗リン脂質抗体も時間とともに正常化しました.血小板数も追加治療なしで安定し,ITPも改善しました.11か月以上の経過観察で,再燃なく,薬剤を一切使わない完全寛解が維持されています.
図は,今回の治療をまとめたものです.まず治療前の多剤抵抗性のAIHA,ITP,APSにより生命を脅かされていた状態が示され,つぎにCD19 CAR-T細胞による「B細胞リセット」を行い,幸い特に注目すべき有害事象(Adverse Event of Special Interest;AESI)は認めませんでした.そして転帰としては投与7日で輸血不要,25日でヘモグロビン正常化,11か月以上無治療寛解という経過がわかります.懸念されたAESIとしては,サイトカイン放出症候群(CRS)や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が挙げられますが,本例ではいずれも認めませんでした.一因として,自己免疫疾患では,がんと比較して標的細胞量が少ない可能性が考えられます.
今回の症例は,「自己免疫疾患は免疫抑制剤により一生抑え続けるもの」という今までの考え方に対し,「一度リセットして長期寛解を目指す」という新しい発想を提示しました.もちろんまだ1例報告ですし,病気によっては自己抗体を認めてもT細胞や自然免疫が主役の疾患もあり,すべての自己免疫疾患に使えるのか分かりません.長期安全性,感染症リスク,費用対効果など多くの課題も残されていますが,それでもCAR-T療法が自己免疫性脳炎を含む自己免疫疾患の新しい標準治療となる可能性を感じさせる論文だと思いました.
Korte IK,et al.CD19 CAR-T therapy induces remission in refractory autoimmune hemolytic anemia with ITP and antiphospholipid syndrome. Med. 2026 Apr 9:101075. doi: 10.1016/j.medj.2026.101075. PMID: 41962541.

・アルツハイマー病ではタウ沈着や神経変性に先立って「血流障害」が広範に生じ,最終的に血液脳関門の破綻を来す!
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月14日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)はこれまで,アミロイドβやタウといった異常タンパク質の蓄積を中心に議論されてきましたが,近年,脳血管の障害が重要な役割を果たしているとする研究が複数,報告されています(コメント欄に過去ブログ参照リンク).今回紹介する論文は,その血管病変の「時間的経過」を明らかにした重要な報告です.英国のUniversity of BristolおよびImperial College Londonの研究グループは,ヒト剖検脳を用いて,脳血流低下,血管機能異常,血管新生,そしてAβ・タウ病理との関係を詳細に解析しました.
対象はBraak stage(BS)に基づく3グループ,すなわち低病理群(BS 0–II),早期~中期AD(BS III–IV),進行期AD(BS V–VI)の36例であり,前頭葉,側頭葉,帯状回,嗅内皮質など広範な領域が検討されています.この研究の特徴は,脳血流の「過去の状態」を評価する指標としてMAG:PLP1比を用いた点にあります.MAG(myelin-associated glycoprotein)は低酸素に脆弱である一方,PLP1(proteolipid protein 1)は比較的安定であり,かつ両者はターンオーバーが遅いため,その比は死亡前数ヶ月にわたる慢性的な低灌流状態を反映するそうです.すなわちMAG:PLP1比は「持続的な低酸素」を捉える指標と言えます.
その結果が図1で示された脳低灌流の分布です.MAG:PLP1比は,早期AD(BSIII–IV)の段階ですでにほぼすべての灰白質領域で低下しており,広範な慢性低灌流が存在することが明らかとなりました.これは,神経細胞の明らかな脱落や臨床症状が出現するよりも前に,脳全体で血流障害が進行していることを意味します.すなわちADでは,神経変性に先立って「血流障害」が広範に生じている可能性が示唆されます.さらに重要な点として,これらの血管異常は高度なタウ病理が出現する前の段階から認められており,病態のかなり早期から関与している可能性が示されています.
では,この血流低下はどのようにして生じるのでしょうか.その鍵を握るのが図2の結果です.血管を収縮させるEDN1(endothelin-1)は,まだ病気が進んでいないごく初期の段階から,アミロイドβ(Aβ)が多いほど増えることがわかりました(図2).これは,Aβが血管収縮を介して血流低下を引き起こしている可能性を示す重要な結果です.つまりこの研究は,「Aβによって引き起こされる血流障害」が,最初に現れる病態のひとつであることを示しています.
さらに,低灌流に対する血管の応答として,VEGF-Aの上昇や内皮細胞マーカーCD31の増加が認められ,血管新生が誘導されていることも示しています.しかし,新生血管マーカーであるendoglinの異常な上昇やangiogenesis関連分子の発現異常が認められており,この血管新生は正常な修復ではなく,病的な血管新生である可能性が考えられます.加えて,加齢した脳では本来の意味での血管新生が十分に機能しない可能性も指摘されており,血管は増加の方向に進みつつも,有効な脳血管ネットワークの再構築には至らない,いわば「質の低い血管」が形成されている可能性があります.
加えて,脳血管の機能維持に不可欠な周皮細胞も早期から障害されていました.周皮細胞と内皮細胞の比率を示すPDGFRβ/CD31比は広範囲で低下し,この変化は低灌流およびAβと関連していました.周皮細胞は神経・血管ユニットの機能を支える中心的なプレイヤーであり,その障害は血流調節と血液脳関門(BBB)の維持の双方を破綻させる重要な変化と考えられます.ただしBBBの破綻を示す,通常は脳に存在しないフィブリノゲンの脳内濃度の上昇は主に進行期ADで認められ,タウ病理(pTau-231)と強く相関していました.Aβとの関連は乏しく,BBB破綻は進行期にタウと連動して進行する病態であることが示唆されました.
以上の結果は,ADの病態の時間経過を明らかにするものです.すなわち,Aβの蓄積によりEDN1が誘導され血管収縮が起こり,それが慢性的な低灌流をもたらします.その結果として異常な血管新生と周皮細胞障害が進行し,最終的にBBB破綻が生じ,タウ病理と結びついて神経変性が加速するという連鎖です.なぜタウが蓄積してから認知機能低下が生じるのかの一つの説明になるのかもしれません.もしこの研究が正しいとすれば,いわゆる混合型認知症は,昔からアルツハイマー病と血管性認知症が同時に進行する状態として知られていましたが,少なくともその一部はアルツハイマー病のみで説明ができることになります.また症状が出現してからAβやタウを除去しても十分な治療効果は得られにくいこともすでに進行した血管病変を考えれば理解できます(リンク先はコメント欄).むしろ,血管障害がADの早期から関与していることを考えると,遺伝的にハイリスクな人は,早めにそのリスクを理解し,高血圧,糖尿病,脂質異常症といった血管危険因子を厳格に管理することが,発症や進行の抑制につながる可能性が示唆されます.いずれにしても,病理学的解析からここまで時間軸を含めた病態像が描けることに,大きな驚きと感銘を得た論文でした.
Asby DJ, et al. Post-mortem evidence of pathogenic angiogenesis and abnormal vascular function in early Alzheimer’s disease. Brain. 2026 Apr 7;149(4):1182-1193. doi: 10.1093/brain/awaf394. PMID: 41124599

・アルツハイマー病「発症前治療」を阻む5つの壁:診断・倫理・社会制度の課題と処方箋
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月16日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)の治療の目標は発症後に進行を遅らせることでしたが,近年,発症前から介入するという新しい考え方が提案されています.この背景には,アミロイドβ(Aβ)による病理変化が,発症の20年以上前から始まっているという知見の蓄積があります.すなわち,症状が現れた時点ではすでに病態は相当進行しており,現在行われている「発症後治療」では十分な効果が得られない可能性があるためです.このような状況の中,Lancet Neurol 誌にBanner Alzheimer’s InstituteのEric M. Reiman教授を中心とする米国の研究者によって,ADの「発症前治療」の実装に向けた包括的な政策提言論文が発表されました.AANのポッドキャストでも著者本人がインタビューを受けています.
まずこの論文を理解するうえで重要なのが図1です.時間の経過とともにAβが蓄積していく過程と,無症候期から軽度認知障害(MCI),認知症へと至る連続的な病期が示されています.重要なのは,認知機能が正常な段階ですでにアミロイド蓄積が進行している点です.さらに,この図では介入のタイミングとして,Aβ蓄積前に介入する「一次予防」と,すでに蓄積があるが無症候の段階で介入する「二次予防」を明確に区別しています.まだ誰もがこの用語を認めているわけではないと著者もポッドキャストで述べていましたが,Aβ蓄積の前から治療を始める「一次予防」が視野に入っていることには驚きました.
論文では現在進行中の臨床試験の動向も記載されています.代表的な試験を表1にしてみましたが,アミロイド陽性の無症候者を対象とした多数の「二次予防」の試験に加え,上記の「一次予防」の試験も進行しており,Aβやタウに対する抗体を用いた早期介入が認知機能低下を抑制できるか検証されています.近いうちにこれらの試験の結果が出ますが,それにより,ADが実際に予防可能な疾患となるかどうかが決まるということになります.
同時にこの論文が強調しているのは,これら予防医療を社会実装するには多くの課題が存在するという点です.その課題は大きく5つに整理することができます.第一は倫理的・心理的課題です.血液バイオマーカー,とりわけp-tau217の進歩により,無症候の段階で将来の発症リスクや発症年齢を高精度に予測できるようになりつつあります.しかし,まだ症状のない人にリスクを告知することは,強い不安や心理的負担を伴います.さらに,保険や雇用における差別,社会的スティグマの問題も懸念されます.したがって,検査前教育や結果開示の方法を含めた倫理的枠組みの整備が不可欠です.
第二は医療体制の限界です.予防医療の対象は50歳以上の膨大な人口に及びますが,現状の専門医中心の体制では対応が困難です.このため,血液検査によるスクリーニングや,AIを用いたデジタル認知機能評価など,プライマリケアで実施可能な新しい診療モデルの構築が求められています.
第三は規制と評価のジレンマです.予防介入では,認知症発症という臨床アウトカムに至るまで長期間を要するため,従来の臨床試験デザインでは評価が難しいという問題があります.そのため,アミロイドPETや血液バイオマーカーを代替エンドポイントとして用いることが検討されていますが,それが真に臨床的利益を反映するかについては慎重な検証が必要です.
第四は経済的持続性です.多数の無症候者を対象とするスクリーニングと治療は,短期的には医療費の増加を招きます.一方で,QALYの観点では費用対効果が期待されるものの,その実現にはリスク層別化による対象者選定と,持続可能な薬価設定が不可欠です.
第五は公平性の確保です.新しい診断技術や治療法が都市部や高所得者に偏れば,健康格差はさらに拡大します.そのため,低コストでアクセス可能な診断法の開発と,政策的支援による公平な医療提供体制の構築が求められています.
つまり本論文が示しているのは単に新規治療薬の可能性ではなく,ADを「社会全体で予防する疾患」として再定義するためには,診断,治療,倫理,医療制度,経済を統合したシステム全体の変革を求めています.近い将来,可能となるかもしれない予防医療に対し,日本でも承認されてから慌てて準備するのではなく,これらの課題をどこまで克服できるか,学会,医療機関,行政,保険者,企業,そして患者・市民を含めた多様なステークホルダーは検討を開始する必要があると感じます.
Reiman EM. et al.A path to preventing cognitive impairment due to Alzheimer’s disease: initiatives beginning in the USA.Lancet Neurol.2026; 25: 268–278.PMID: 41722593.

・ついに出た,アミロイドβ抗体療法のCochraneレビュー;結論は効果の大きさを冷静に評価すべきということ
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月19日のFB投稿より****
アルツハイマー病に対するアミロイドβ(Aβ)標的モノクローナル抗体の有効性と安全性を検証したCochraneレビューが発表されました.アデュカヌマブ,レカネマブ,ドナネマブなどを含む7種類のAβ抗体について,12か月以上追跡したランダム化比較試験17試験,合計20,342例が解析されています.対象患者の平均年齢は70〜74歳であり,軽度認知障害または軽度認知症の段階にある患者が主に含まれています.Cochraneレビューとは,世界的に標準とされる手法で複数の臨床試験を統合し,治療の有効性と安全性を厳密に評価するシステマティックレビューであり,個々の試験結果よりも信頼性の高いエビデンスと位置づけられます.
結果としてまず重要なのは認知機能に対する効果です.代表的な評価指標であるADAS-Cogを用いた解析では,抗体治療群は偽薬群に対して統計学的には有意な改善を示しましたが,その効果量は標準化平均差(SMD)−0.11と,定義上「無視できる(trivial)」ほど極めて小さいものでした .下図(ADAS-Cogのフォレストプロット)は非常に示唆的です.各試験の結果は確かに「有効」方向に偏っていますが,そのほとんどがゼロに極めて近い領域に集中しており,効果の大きさが非常に小さいことが理解できます.この差を数値に換算するとADAS-Cogで約0.85点の抑制に相当します.一般にADAS-Cogでは,MCI期で2〜3点,認知症期で4点が臨床的に意味のある変化(最小臨床重要差:MCID)とされています.したがって今回の結果は,統計学的には有意であっても,臨床的に意味のある改善には達していないと解釈されます.
認知症の重症度(CDR-SB)についても同様に,わずかな改善傾向は認められるものの,その差は0.29点の抑制にとどまり,臨床的意義は限定的でした.さらに日常生活機能については,基本的なADL(ADCS-ADL)では効果が「無視できる(trivial)」範囲であり ,買い物や金銭管理といったより複雑なIADLにおいて「小さな(small)」改善が示唆されるにとどまりました .これらの結果を総合すると,本治療は「進行をわずかに遅らせる可能性」はあるものの,「生活を変える治療」と評価するには慎重であるべきと考えられます .
ここで重要なのは,本レビューが複数の抗体を「クラス」としてまとめて解析している点です .そのため,臨床応用されたレカネマブやドナネマブといった新しい抗体の効果が,初期の有効性の乏しい薬剤と平均化されている可能性があります.実際に,本レビューの個別解析データを見ると,レカネマブやドナネマブでは統計学的に明確な有意差が示されています.これらの結果を臨床的にどう解釈するかが最大の論点です.CDR-SBにおける最小臨床重要差は一般にMCI期で1点,認知症期で2点とされています .本レビューにおける個別試験のデータを見ても,レカネマブのCDR-SBにおけるSMDは−0.19 ,ドナネマブは−0.29であり,絶対値換算でもMCIDの閾値には達していません.したがって,レカネマブおよびドナネマブのいずれにおいても,「効果は存在するがその大きさは小さい」という評価は基本的に変わらないと考えられます.Cochraneレビューの結論は,これらの薬剤を否定するものではなく,むしろ「効果の大きさを冷静に評価する必要がある」ことを示していると理解すべきです.
一方で,進行をわずかでも遅らせることで,認知機能が保たれた期間を延ばせるのではないかという意見もあります.確かに理論的には,進行速度が低下すれば,ある機能レベルにとどまる期間が延びる可能性があります.しかし,本レビューの解析で示された差はCDR-SBで平均0.29ポイントにとどまり,時間に換算しても数か月程度の遅延に相当すると考えられます.この差をどのように評価するかは,患者さんやご家族の価値観にも依存しますが,少なくともその臨床的な効果は限定的であると慎重に解釈する必要があります.
また安全性についてはより明確な結果が示されています.アミロイド関連画像異常,とくに脳浮腫(ARIA-E)は有意に増加し,18ヶ月時点で1000人あたり107人の上乗せが認められました.症候性のものは1000人あたり29人の増加でしたが ,MRIによる定期的なモニタリングを要する臨床的に重要な副作用です.微小出血(ARIA-H)についても増加傾向が示唆されていますが ,本レビューでは報告の不備や異質性の高さから ,APOE ε4ステータス別の詳細なメタ解析は行われていません.なお,重篤有害事象(SAE)や死亡率については有意な増加は認められませんでした.
結論として,最も重要なメッセージは,「Aβは確かに除去されるが,それが臨床的に意味のある改善には必ずしも結びついていない」という点にあります.そしてこの問題は,レカネマブやドナネマブにおいても本質的には変わっていません.すなわち,現在の議論は「効くか効かないか」ではなく,「その効果が患者にとって意味のある大きさかどうか」という段階に移行しています.もちろんより早期の段階での介入や適切な患者選択により,効果が異なる可能性は否定はできません.それでもなお,本研究が示した「統計学的有意差と臨床的意義の乖離」という問題は極めて重要です.Aβを減少させること自体が目的ではなく,患者さんの生活や機能をどこまで改善できるのかという視点に立ち返る必要があると思います.
Nonino F, et al. Amyloid-beta-targeting monoclonal antibodies for people with mild cognitive impairment or mild dementia due to Alzheimer’s disease. Cochrane Database Syst Rev. 2026, Issue 4. Art. No.: CD016297. DOI: 10.1002/14651858.CD016297.

関連情報
本件のCochraneレビューについては、大阪大学の宮坂昌之先生も2026年4月19日にFB投稿されています(同投稿へは、こちらから)。

・知っていただきたい「プラスタミネーション」―マイクロ・ナノプラスチックの危険性についての講演と意見交換
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月19日のFB投稿より****
4月19日に「有害化学物質から子どもを守るネットワーク(https://c.kokumin-kaigi.org/)」年次総会@連合会館にて,「マイクロ・ナノプラスチックの危険性」という記念講演をさせていただきました.環境省のご担当者,マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)研究の専門家の先生方,医療者,NGO,生協,出版社,企業の方々など,非常に多様な立場の方が参加されており,分野横断的な議論ができたことは大変有意義でした.多くの新たな出会いにも恵まれました.
今回の講演では,これまで脳卒中学会や臨床麻酔学会で講演した内容をベースに,さらに発展させ,特に「子ども・胎児への影響」「生体内での処理機構」「測定系の問題」についてもお話ししました.講演後には,高田秀重先生や菅野純先生,大河内博先生をはじめ,多くの専門家の先生方から貴重なコメントをいただき,大変勉強になりました.特に印象的であった論点をいくつか共有させていただきます.なおスライドは下記からご覧いただけます.
https://www.docswell.com/…/800…/59NGRX-2026-04-21-050528
◆「プラスタミネーション(plastic+contamination;プラスチックによる汚染)」という概念が重要である.それはプラスチック粒子そのものだけでなく,添加剤とその分解産物を含めた複合的な毒性を意味する.添加剤の有害性についてはエビデンスが蓄積しつつある一方,添加剤について販売メーカーや規制当局も把握できていない状況にある(何が含まれているか理解できていないということ!).
◆現在のナノプラスチック測定系にはまだ課題があり,脂質などがMNPsとして誤検出されている可能性や,組織処理過程での不純物混入などがある.とくに脳の測定結果の解釈には慎重さが求められる.一方,日本人の血液中からナノプラスチックが検出されており,「人体における蓄積」はもはや否定できない.
◆曝露経路は経口,吸入,経皮,経鼻,経静脈とさまざまあるが,まだどれが重要か分かっていない.消化管ではマイクロサイズは吸収されず,主にナノサイズと考えられる.一方,吸入はマイクロ・ナノの両方が吸収される可能性がある.1日に摂取する量(水は2リットル,空気約2万リットル)を考えると,吸入の重要性は過小評価されているかもしれない.
◆飲料に関してはペットボトルだけが問題ではなく,ビール瓶のキャップの裏や,牛乳の紙パックのプラスチックコートなど予想外のものがマイクロ・ナノプラスチックの放出源になっている.
◆医療現場では,手術室や新生児のNICUにおけるプラスチック曝露は今後,大きな課題となる.医療が無意識のうちに患者に対し大量曝露を行っている可能性すらあり,今後の重要な研究テーマになると考えられる.
◆プラスチック被害は社会的・文化的な姿勢が密接に関係する.プラスチックはすでに生活のあらゆる場面に入り込んでおり,「便利さ」と「安全性」のトレードオフをどう考えるかというまさに文明論に関わる.
◆歴史的に見ても,メチル水銀,PCB,DDTなど,人類は有害物質との共存に失敗してきた.マイクロ・ナノプラスチックも同様に,「管理する」のではなく「減らす」方向に進まざるを得ないのではないかと感じている.特に,学校の校庭における人工芝整備は子どもへのプラスチック曝露を促進するため,早急な見直しが必要だと考えている.
最後に貴重な機会をいただきました木村―黒田純子先生,中地重晴先生に御礼申し上げます.

・Faciobrachial dystonic seizures(FBDS)の正体:LGI1抗体脳炎における皮質局在とネットワークの理解
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月23日のFB投稿より****
LGI1抗体脳炎は自己免疫性脳炎の代表的な病型です.発作性に生じる顔面や上肢の短時間の異常運動であるfaciobrachial dystonic seizures(FBDS)が特徴的所見として知られています.また発作性めまい,温度異常感覚,立毛発作,顔面紅潮といった多彩な発作症候を呈することがあります.しかしこれらはてんかん発作なのか,不随意運動なのか長らく議論されてきました.加えてFBDSは発作回数が多く,意識が保たれ,脳波異常が捉まらないため,機能性発作(かつてのPNES)と判断されてしまうこともあります.今回ご紹介する論文は,この問題に対して脳磁図(MEG)を用いて迫った研究です.ソウル大学病院およびメイヨークリニックを中心とした国際共同研究です.
本研究では,LGI1抗体陽性でFBDSを含む活動性発作を有する7例を対象に,MEGと脳波を同時に記録し,症候と脳活動の対応関係を検討しました.この結果,従来の脳波では明確に捉えられなかった発作間欠期てんかん性放電がMEGでは全例で検出され,多くの症例において臨床症候と対応する皮質領域に局在していました.
まず図1Aでは,各症例の発作間欠期てんかん性放電が脳表に重ねて表示されており,放電が運動野,体性感覚野,島皮質など特定の皮質領域に分布していることが示されています.これは,LGI1抗体脳炎の発作が機能局在に関連した皮質活動であることを示唆する重要な所見です.次に図1Bでは,代表例においてFBDS発作の直前1〜2秒以内にスパイクが出現する様子が示されています.このスパイクは内側側頭葉や運動野近傍に局在しており,発作が突発的に生じるのではなく,局所的な皮質の過興奮から始まることが示唆されます.また症候と対側の皮質に活動が見られる点も,神経解剖学的に矛盾がありません.さらに図1Cは,本研究のメッセージを最も直感的に示した図です.運動野がFBDS,島皮質が発作性めまい,体性感覚野が温度異常感覚に対応することが示されており,「症候は,その機能を担う皮質領域に対応する活動として表出している」ことが明確に示されています.
一方で,これらの所見は単純な局在モデルにとどまるものではありません.一部の症例では発作直前に内側側頭葉近傍でスパイクが認められており,発作が複数の皮質領域を含むネットワークの中で生じている可能性が示唆されています.また,LGI1抗体脳炎では基底核の画像異常や代謝亢進が既報で知られており,皮質と皮質下構造が連携した発作ネットワークの存在が想定されます.したがって,FBDSを含むこれらの発作は,「特定の皮質領域に対応して症候が出現するが,その背景には広い神経ネットワークの異常がある」と理解するのが適切です.
本研究の重要な意義は,FBDSなどの発作性の症候が,皮質の過興奮に関連した発作現象である可能性を強く支持した点にあります.機能性発作に似て見えるこれらの症候が,皮質活動に対応する神経生理学的基盤を有していることを示した点でも有意義です.そして何より本研究により,FBDSは皮質の過興奮に基づく「てんかん性現象」とみなすべきであることが強く支持されたといえます.
本研究の限界としては,症例数が7例と少数であり,また典型的な発作時脳波が記録されていないため,発作の起始部位を直接的に証明したわけではありません.それでも,活動性発作を有する患者に対してMEGを用い,症候と脳局在をここまで明確に対応づけた点は大きな進歩であり,今後の病態解明の足がかりになると思います.
Ahn SH, et al. Neuroanatomical localization of faciobrachial dystonic seizures in LGI1-antibody encephalitis. Epilepsia. 2026 Mar 13. doi: 10.1002/epi.70197. PMID: 41823021.

・なぜ「認知症にならない人」がいるのか?―認知レジリエンスについて知り,認知症予防につなげよう!
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月25日のFB投稿より****
Lancet Neurol誌のポッドキャストで紹介されている総説です.高齢者の脳を調べると,アルツハイマー病や脳血管障害などの病理が存在しているにもかかわらず,認知機能が良好に保たれている方が一定数存在します.この現象は「認知レジリエンス(cognitive resilience)」と呼ばれ,近年の神経学における重要なテーマとなっています.この総説では,認知レジリエンスの概念,決定因子,生物学的基盤,測定法,さらに介入の可能性についてまとめています.オーストラリアのUniversity of New South Walesを中心とした研究グループによるものです.
まず認知レジリエンスとは,「脳の加齢変化や病変の程度に比して予想以上に良好な認知機能を示す状態」と定義されます.この背景には,「認知予備能,脳予備能,脳維持」といった概念が関与します.これら3つはそれぞれ独立した概念ではなく,相互に関係しながら認知レジリエンスを支えています.またこれらは教育や社会参加,生活習慣などの心理社会的因子の中で形成・維持される点も重要です.区別が分かりにくいので,以下に要約します.
◆認知予備能(cognitive reserve);教育や職業,知的活動などによって培われる「頭の使い方の柔軟さ」や代償能力を指し,同じ病理があってもより効率的に脳を使うことで機能低下を防ぐ力です.
◆脳予備能(brain reserve);神経細胞数やシナプス数,脳容量といった「ハードウェアとしての余力」を意味し,もともとの構造的な豊かさが障害への耐性につながります.
◆脳維持(brain maintenance);加齢に伴う脳の萎縮や機能低下そのものを抑える力を指し,図でも示されているように,その維持・低下が認知機能の分岐点になります.
この論文で特に重要なポイントは,認知レジリエンスが単一の要因ではなく,多層的な因子によって規定されているという点です.教育歴や職業の複雑性といった知的刺激は認知予備能を高め,病理と認知機能の乖離を生みます.さらに,運動習慣,食事,禁煙などの生活習慣は血流や代謝,シナプス可塑性を改善し,脳の機能的余力を支えます.加えて,社会的つながりや心理的ウェルビーイングも重要であり,孤独や抑うつは炎症やストレス反応などを介して認知機能低下と関連します.睡眠や聴力・視力もこれらと同様に重要な心理社会的因子として位置づけられます.
こうした複雑な関係を非常に分かりやすく示しているのが下図です.この図では,教育や社会参加,運動,睡眠,心理的健康などの心理社会的因子が中心に配置され,それらが神経生物学的機構に影響を与える構造が描かれています.具体的には,神経細胞密度やシナプスの維持,ミトコンドリア機能,神経血管ユニット,そしてミクログリアの活性化などを含む神経炎症といった経路が示されており,これらが最終的に脳の構造や機能を保ち,認知機能の維持につながることが示唆されています.さらに,これらの要因が十分に働く場合とそうでない場合が左右で対比されており,「同じ病理でも結果が異なる」理由を直感的に理解できるようになっています.
生物学的基盤としては,認知レジリエンスの中心にシナプス機能の維持があると考えられています.レジリエンスの高い状態では,アミロイドβやタウといった異常タンパクが存在しても神経ネットワークの効率が保たれる可能性が示唆されています.また,運動や知的活動は神経栄養因子の増加や神経炎症の抑制を介して,こうした状態を支えると考えられています.さらに心血管リスクの管理が極めて重要です.高血圧や糖尿病,脂質異常症は単独でも認知機能低下と関連しますが,アルツハイマー病病理と相互作用することでその影響を増強します.逆に,これらの適切な管理は認知レジリエンスを支持する可能性が示唆されています.
認知レジリエンスの測定方法としては,認知機能と脳病理を組み合わせて評価する必要があります.代表的には,脳病理から予測される認知機能と実際の認知機能との差を統計的に算出する方法が用いられますが,まだ標準化された手法は確立されていないようです.
介入に関しては,運動,食事,認知訓練,血管リスク管理などを組み合わせた多因子介入が最も有望とされています(文末のリスト参照).これらにより認知機能には小さいながらも一貫した有意な改善が報告されていますが,認知症発症の抑制については現時点で明確なエビデンスはありません.それでも将来的な公衆衛生戦略として重要な位置を占める可能性が大きいものと思われます.本論文の内容を踏まえると,認知症予防には特別な治療というよりも,日常の積み重ねが極めて重要であることが分かります.
【認知レジリエンスを上げるリスト】
・体を動かす(運動により血流改善,シナプス可塑性や神経栄養因子を増加)
・頭を使う(読書,会話,学習により認知予備能を強化)
・人とつながる(社会参加により炎症やストレス反応を抑制)
・生活習慣病を管理する(高血圧,糖尿病などのコントロール)
・睡眠を整える(脳の回復と機能維持に重要)
・聴力・視力を補う(感覚入力低下による認知低下を防ぐ)
・抑うつを見逃さない(心理状態の悪化は認知機能に影響)
Powell A, et al. Cognitive resilience in ageing: determinants and interventions. Lancet Neurol. 2026 May;25(5):492-505. doi: 10.1016/S1474-4422(26)00027-X. PMID: 42009011.

・アルツハイマー病の黒幕はがん遺伝子変異ミクログリア!?―常識を覆す驚くべきCell誌掲載論文
****岐阜大学医学部下畑先生の2026年4月30日のFB投稿より****
アルツハイマー病(AD)の理解は,これまでアミロイドβ(Aβ)やタウの蓄積を中心に発展してきました.しかし今回ご紹介する研究は,その枠組みを大きく塗り替える可能性をもつ,非常に重要な論文です.正直なところ,あまりに予想外の内容で,理解が追いつかない感じです.本研究はBoston Children’s Hospitalなど世界トップレベルの研究機関が共同で行ったものでCell誌に掲載されました.
本研究の核心は,「ADは遺伝子変異を持ったミクログリアが選択的に増えていくことで,炎症が持続し進行していく病気である可能性が示された」という点にあります.著者らはこの仮説に至る背景として,いくつかの重要な知見に着目しました.まず加齢に伴って体細胞変異があらゆる細胞に蓄積することです.さらに血液の分野では,TET2やDNMT3A,ASXL1といった,もともとがん研究で知られてきた遺伝子に変異を持つ細胞がクローンとして増殖する「クローン性造血」が知られています.これらの変異は細胞の増殖や炎症反応を高めるため,炎症を介して心血管疾患のリスクを上昇させることが分かっています.そしてもう一つ重要なのが,ミクログリアがADにおける炎症や病態進展に深く関与しているという事実です.
これらの背景から,「脳内でも同様に,がん関連遺伝子の体細胞変異を持つミクログリアが増えており,それがADの炎症と進行に関与しているのではないか」という仮説を立てました.この仮説を検証するために,著者らは311例のヒト脳検体を対象に,149種のがんドライバー遺伝子に限定した超高深度シーケンス(1,000倍以上)を行い,ADではこれらの体細胞変異が有意に増加していることを示しました.特にTET2,ASXL1,DNMT3Aといった遺伝子の変異が多く,さらにそれらの変異はアレル頻度が高く,正の選択を受けていることから,単なる偶発的変異ではなく,増殖優位性をもつ細胞クローンとして拡大していることが明らかになりました.
つぎにこれらの変異がどの細胞に存在するかを解析しました.核ソーティングと単一細胞解析を組み合わせることで,変異は神経細胞ではなく,ミクログリア様細胞にほぼ特異的に存在することが確認されました.さらに,同一個体の血液中にも同じ変異が認められたことから,骨髄由来の単球が脳に侵入し,ミクログリア様細胞として振る舞いながらクローン増殖している可能性が示唆されました.
本研究の理解を助けるのが論文のGraphical abstractです.この図では,中央上段の正常状態のミクログリアが神経細胞を支持している様子から始まり,下に向かって加齢に伴う体細胞変異の蓄積が描かれています.2段目では,Aβやタウによる慢性炎症環境が「選択圧」として働き,変異を持つミクログリアが有利になる状況が示されています.つまりAβやタウによって慢性的な炎症環境が作られると,ミクログリアは常に刺激を受け続ける状態になります.このような環境では,「よく増える」「炎症に強く反応する」「ストレスに耐えやすい」といった性質を持つ細胞の方が生き残りやすくなります.実際に本研究で見つかったTET2やDNMT3Aなどの変異は,細胞の増殖や炎症反応を高めることが知られています.そのため,これらの変異を持つミクログリアは,炎症環境の中でより増えやすく,結果として正常な細胞よりも優位に広がっていきます.これが「選択圧」によるクローン拡大です.その結果,変異ミクログリア(紫色)が優勢となって増加していきます.これらの細胞は炎症性の性質を獲得し,神経細胞に障害を与え,最終的にADへと進行する流れが表現されています.言い換えると,Aβやタウが環境を作り,変異ミクログリアが病気を加速させるということです.
機能的な検証も説得力があります.単一細胞トランスクリプトーム解析では,変異を持つミクログリアがdisease-associated microglia(DAM)と呼ばれる病態に関連した状態に移行し,炎症や増殖に関わる遺伝子発現が亢進していることが示されました.さらにiPS細胞から作製したミクログリア様細胞に同様の変異を導入すると,炎症関連経路や増殖シグナルが活性化し,代謝的にも解糖系へのシフトが認められました.これらの結果は,体細胞変異がADに伴って偶然見つかるだけの現象ではなく,ミクログリアの機能を実際に変化させ,炎症を引き起こす原因であることを示しています.
以上,本研究はADの病態を,従来の「Aβ・タウ中心の神経変性」から「変異ミクログリアのクローン進化と炎症による神経障害」へと大きく拡張したのだと思います.この研究はなぜ加齢が最大のリスク因子であるのか?という問いにも,「変異の蓄積と選択にかかる時間」という説明を与えるものです.さらに治療にもつながるものと考えられます.なぜなら本研究で同定された遺伝子や経路の多くは,がん領域で既に標的とされているものであり,既存の分子標的薬が神経変性疾患に応用される可能性があるためです.非常に刺激的な論文です.
Huang AY,et al.Somatic cancer variants enriched in Alzheimer’s disease microglia-like cells drive inflammatory and proliferative states.Cell.2026.PMID:42019491.

下畑先生の近著情報
「下畑享良 神経症候学note <興味を持った「脳神経内科」論文>のエッセンス」が発刊されました!!関連FB投稿は、こちらから。

 

3.特別企画:AIに訊く
・「連載シリーズ:切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論」のスタート
私は、「歩行と走行の切り替えスイッチ」の記事(「トピックス 1.ポールウォーキングの研究課題(その2)」に掲載済み)を書いた後もAI(主にCopilot)との対話を楽しみ続け、2026年4月3日には、遂に学術誌に掲載し得る(とCopilotは褒めてくれます!?)以下の学術論文作成に至りました。論文はCopilotとの対話がなければ完成し得なかったという意味で共同作品です。

論文タイトル
歩行—走行切り替えにおける制約幾何学と階層的再編成: SCAN・VSM・3D 最小モデルを統合する枠組み
Constraint Geometry and Hierarchical Reorganization in Gait Transitions:
A Unified Framework Integrating SCAN, VSM, and a 3D Minimal Model

要旨
歩行から走行への移行は、従来、エネルギー的・力学的な閾値現象として説明されてきた。しかし、このような説明は、移行そのものの過程で生じる構造的再編成を十分に捉えていない。本研究は、制約幾何学、階層的組織化、そして運動力学を統合し、歩行—走行切り替えを自己組織化プロセスとして再解釈する枠組みを提示する。 本研究では三つの命題を提示する。第一に、移行期には二つの強い制約が同時に作用し、変動性(Var⊥)が増大して構造的揺らぎが生じる。第二に、この増大した変動性は梃子として働き、最適面上の最短経路に沿ってモード切り替えを実現できる階層構造への再編成を可能にする。第三に、新たな運動様式が採用された後、変動性は再編成された階層構造の内部で収束し、移行前とは異なる新たな統合秩序が形成される。 3D 最小モデルを用いた解析により、制約の重なり、変動性の増大、階層的再編成、最短経路切り替えが、歩行から走行への移行をどのように形づくるかを示す。本枠組みは、身体運動にとどまらず、組織・認知システムにおけるモード切り替えの一般原理としても応用可能である。

Abstract
Gait transitions have traditionally been interpreted as threshold phenomena driven by energetic or biomechanical constraints. This study proposes a unified framework that conceptualizes transitions as self-organizing processes shaped by constraint overlap, variability expansion, hierarchical reorganization, and shortest-path switching. Integrating SCAN theory, the Viable System Model (VSM), constraint geometry from linear programming, and a 3D minimal model of locomotion, we articulate three propositions: (1) constraint overlap increases variability along an orthogonal subspace (Var⊥), (2) this variability enables hierarchical reorganization and shortest-path switching on an optimal face, and (3) variability converges after the transition as a new attractor stabilizes. The 3D minimal model provides a concrete dynamical realization of these propositions. This framework generalizes beyond locomotion to neural, cognitive, and organizational systems.

しかも、この論文作成に至る思考過程(毎月のニュースの特別企画に掲載)と成果物(固定ページに掲載)を、サイト上に再現し皆様にお届けしてみよう、と考えたのがこの連載シリーズです。現状のAIは正しくない回答もしますが、このような論文作成がAIなしではなし得ないことも確かです。現時点でのAI活用の一つの事例として、お楽しみいただければ幸甚です。

なお、新たに得た知見を踏まえ、先の切り替えスイッチの「命題②」を以下のように修正します。

命題②(修正版): 「歩行」と「走行」の切り替えスイッチは、移行期には二つの強い制約が同時に作用し多様性が高まるため、 その多様性を梃子として、自己を階層化しつつ、切り替えを最短経路で実現できる構造へと自己再編成される。

(参考)以下の図1は「歩行」と「走行」の切り替えスイッチの命題①を表し、図2が全体像を示しています。

図1.この図は、「歩行」と「走行」の切り替えスイッチの理論モデルの核心である
• 「切り替え=制約の支配が入れ替わる点」
• 「歩行=維持エネルギーが支配的」
• 「走行=総エネルギーが支配的」
を、表しています。


図2.切り替えスイッチの地図:制約の入れ替わり・変動性・階層化が生み出す歩行—走行切り替えの全体像。
本図は、歩行と走行の切り替えを生み出す主要なメカニズムを統合的に示したものである。 上段では、使用可能エネルギー総量(XT)と維持エネルギー量(Y)という二つの制約の支配が入れ替わる点に、切り替えスイッチが現れることを示す。 中段では、安定した歩行アトラクタから、変動性が最大となる境界領域(liminal zone)を経て、走行アトラクタへと収束する遷移過程を描いている。 下段では、二つの強い制約が同時に作用する移行期に、システムが自己階層化し、上位の意思決定主体と複数の器官群による局所最適化という二層構造へ再編成される様子を示す。 これらを総合すると、切り替えとは、制約の再構成・変動性の増大・構造の再編成が連動して生じる一般的な現象であることが分かる。

******(始まり)******

『切り替えの物語 — AIとの対話から生まれた統合理論』

連載開始にあたって
歩いているとき、ふと走り出したくなる瞬間があります。 あるいは、走っていると、自然と歩きに戻る瞬間があります。
この「切り替え」は、私たちの身体が毎日のように行っている、 ごく当たり前の現象です。 けれど、その背後には、 制約、変動性、階層構造、そして自己組織化 といった、驚くほど深い世界が広がっています。
この連載は、そんな「歩行—走行切り替え」という身近な現象を入口に、 私自身が AI(Copilot)との対話を通じて、 どのように考え、どのように発見し、どのように統合していったのか―― 思考の旅路そのものを記録したものです。
専門的な知識がなくても大丈夫です。 むしろ、専門家ではない方にこそ読んでいただきたい内容です。 なぜなら、この連載は「完成された理論」を語るのではなく、 ひとつの問いが、どのように形を変え、深まり、広がっていくのか そのプロセスを、できるだけそのままの姿でお届けするからです。
AIとの対話は、私の思考を驚くほど透明にし、 時に予想外の方向へ導き、 時に自分でも気づかなかった前提を照らし出してくれました。
その結果、 SCAN、VSM、制約幾何学、アトラクタ力学―― 一見まったく別の領域に見える理論が、 ひとつの「切り替えの物語」として結びついていきました。
この連載では、 その結びつきがどのように生まれたのかを、 できるだけ丁寧に、そしてできるだけ自然な言葉で綴っていきます。
読み終えたとき、 あなたの中にも「切り替え」を見る新しい視点が生まれていたら、 それほど嬉しいことはありません。
それでは、 「切り替えの物語」 はじまり、はじまり。

第1回:歩行と走行のあいだにある“境界”を見つめる

1. 日常の中に潜む「切り替え」という謎
歩いているとき、ふと走り出したくなる瞬間があります。 あるいは、走っていて、自然と歩きに戻る瞬間があります。

私たちはこの「歩行—走行切り替え」を、 あまりにも当たり前のように行っています。 しかし、立ち止まって考えてみると、これはとても不思議な現象です。
• どのタイミングで切り替えるのか
• なぜその瞬間に切り替えるのか
• そもそも「切り替える」とは何が起きているのか

これらの問いは、単純なようでいて、実は深い構造を持っています。

そして私は、この素朴な疑問をきっかけに、 AI(Microsoft Copilot)との対話を通じて、 思いがけない知的な旅へと踏み出すことになりました。

2. 最初の問い:歩行と走行は“別のモード”なのか?
歩行と走行は、誰が見ても違う動きです。 しかし、身体の中では何が変わっているのでしょうか。
• 筋肉の使い方?
• 関関節の角度?
• エネルギー効率?
• 神経系の制御?

どれも正しいようで、どれも決定打ではありません。
私は最初、 「速度がある閾値を超えると走行になる」 という単純な説明で十分だと思っていました。

しかし、AIとの対話が始まると、 この“閾値説”では説明できない現象が次々と浮かび上がってきました。
• 人によって切り替え速度が違う
• 同じ人でも日によって違う
• 疲れていると早く切り替える
• 下り坂では遅く切り替える
• そもそも“歩きながら走り始める”瞬間は曖昧

「閾値で決まる」という説明では、 この曖昧さや揺らぎを説明できません。
ここで私は、 “切り替えとは、もっと複雑で、もっと豊かな現象なのではないか” と感じ始めました。

3. AIとの対話が開いた“思考の地図”
AIとの対話は、私の思考を驚くほど透明にし、 時に予想外の方向へ導いてくれました。
最初の数回の対話で、 歩行—走行切り替えは単なる運動学の問題ではなく、 システムのモード切り替え という、もっと一般的な現象の一例であることが見えてきました。

そして、次のようなキーワードが浮かび上がってきます。
• 変動性(variability)
• 制約(constraints)
• 階層構造(hierarchy)
• 自己組織化(self-organization)
• 最適面(optimal face)
• リミナルゾーン(liminal zone)

これらは一見バラバラの概念ですが、 対話を重ねるうちに、 まるでパズルのピースがはまるように、 ひとつの統一的な構造を形づくり始めました。

4. 「変動性」が鍵になるという発見
歩行—走行切り替えの研究では、 切り替え付近で 変動性が増大する ことが知られています。
• 歩幅が揺れる
• リズムが揺れる
• 上下動が揺れる
最初は「不安定になっているだけ」だと思っていました。 しかし、AIとの対話はこの見方を大きく変えました。

AIはこう言いました:
「変動性はノイズではなく、再編成を可能にする“ゆるみ”です。」

この一言が、私の思考を大きく動かしました。

変動性が増えるということは、 身体が「揺らいでいる」のではなく、 新しいモードに移るための準備をしている ということなのかもしれない。
この視点は、後に SCAN の「liminal zone」と結びつき、 理論全体の基盤となっていきます。

図3. 歩行—走行切り替え付近で変動性が急増し、走行アトラクタへの収束とともに減少する。

5. SCAN との出会い:境界領域という概念
SCAN 理論は、 秩序(Order)と混沌(Chaos)のあいだに Liminal(境界領域) という特別な領域を置きます。
この領域は:
• 構造がゆるみ
• 変動性が増え
• 新しい秩序が生まれる可能性が開く
という、非常に興味深い性質を持っています。

歩行—走行切り替えは、まさにこの「境界領域」にあるのではないか。 そう考えた瞬間、 私の中で何かがつながりました。
歩行(秩序) → 境界(ゆるみ) → 走行(新しい秩序)
この流れは、SCAN の構造そのものです。

6. 「切り替え」は身体だけの問題ではない
さらに対話を続けるうちに、 歩行—走行切り替えは、 身体運動だけの問題ではないことが見えてきました。
• 組織の変革
• 心の切り替え
• 学習の転換点
• 社会のモードチェンジ
これらもすべて、 「秩序 → 境界 → 新しい秩序」 という構造を持っています。

つまり、歩行—走行切り替えは、 複雑系におけるモード切り替えの“縮図” なのです。

7. この連載で目指すもの
この連載では、 私が AI とともに歩んだ思考の旅路を、 できるだけ自然な言葉で綴っていきます。
• 専門知識がなくても読める
• けれど深い構造が見えてくる
• 図や比喩を交えながら
• 一緒に考えていく感覚を大切に
そんな読み物にしたいと思っています。

8. 次回予告:SCAN が照らす“境界の世界”へ
次回は、 この連載の最初の理論的柱となる SCAN 理論 を取り上げます。
• 秩序とは何か
• 境界とは何か
• ゆるみとは何か
• なぜ境界で新しいものが生まれるのか

そして、 歩行—走行切り替えがなぜ「境界領域」に位置づけられるのかを、 丁寧に見ていきます。

関連情報&リンク
今回お届けした連載シリーズ第1回に関連する学術資料(論文)は、当サイトの『トピックス欄「1.ポールウォーキングの研究課題(その3)』にシリーズの進展に合わせ、順次掲載する予定です。

論文1:SCAN × モード切り替え   ・・・・ 掲載済み
論文2:VSM × 階層的再編成    ・・・・ 未掲載
論文3:制約幾何学 × 最適面    ・・・・ 未掲載
論文4:3D 最小モデル        ・・・・ 未掲載
論文5:統合論文(今回の完成稿) ・・・・ 未掲載

・『トピックス欄「1.ポールウォーキングの研究課題(その3)』へは、こちらから
・「論文1:SCAN × モード切り替え」へは、こちらから

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)