今月紹介する2つの論文は、「脊柱管狭窄症」と「骨粗しょう症」の新たな治療法につながる可能性のある研究です。岐阜大学医学部の下畑先生からの最新医学情報に見られるように医学の進歩は日進月歩ですが、北京で開かれたロボットオリンピックを見る限り、現実世界で人間の代わりとして汎用的に機能するには、知的処理能力や手先の器用さの面でまだ距離があるようです。
特別企画:AIに訊くは、「切り替えの統合理論」を踏まえて、Geminiに混迷を深める世界情勢について訊いてみました。
1.2026年9月の活動状況
・柳澤 光宏さんの投稿
ARIKAMO 大学生の夏休み中を利用した2泊3日の企業インターン&研修にシナノも参加しました。 ポールウォーキングを体験してもらい、普及活動についてチームで考えてもらいました。この中からシナノに来てくれる人がいたらラッキーですが、それよりも参加した学生の成長に繋がり、社会人として何かの役に立つことを祈っています(^.^) それにしても、しっかり自分の意見を言えるし、発表もちゃんとしているしスゴイな!!
・スマイルチームさんの投稿
20260903 午前中は毎月第一木曜日定例 スマイルチームポールウォーキング。 天気予報が微妙だったので、予め室内活動に変更。 今日は モルックを使った独自のゲーム【スマイルモルック】を楽しみました😊 脳トレも、、、楽しみました😂 #スマイルチーム #ポールウォーキング #モルック #脳トレ #相模原市南区東林公民館
・台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
【健走杖運動團練】外木山情人湖濱海大道 藍天白雲、山海相伴 健走杖運動教練們齊聚基隆外木山 一同完成 5.5公里團練!💪🥾 走出健康與活力,也走出滿滿的默契與歡樂~ 流汗後再一起享用美食🍽️,為這趟山海健走畫下幸福句點。😋 期待下一次再相約❤️ #健走杖運動 #教練團練 #雙杖在手健康跟著走
・とちぎポールウォーキング会さんの投稿
平均台に乗ってのポールウォーキングピラティスプログラムはじめています。
・中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 9月PW駒場例会でした。 朝から雨予報が出ている例会日でしたが、いつもの様に参加者集合〜 晩秋を思わせる寒さの中(17℃)での 公園〜牧場のポールウォーキング闊歩でした。羽織物も暖を取る支度となりました〜ww まだまだPWイベントは続きます。 次回は 9/13(日)鈴与マタイスポーツパーク(旧佐久総合運動公園)PW散策です。 9/19(土)は〜佐久ぴんころウォーク〜‼️
・田村 芙美子さんの投稿
秋の長雨? 毎日よく降ります。 昨日までPW教室は蒸し暑くクーラーを入れていましたが 今日は暖房が欲しくなる涼しさです。大雨の被害のあった地域は復興が大変だろうとお見舞い申し上げます。 今日は教室は期末休暇なのに寒くて表に出る気になれません。裏のお宅から頂いた紫アザミとルエリア (写真↓和名=ヤナギバルイラソウ)が蕾を開きました。その横で大きな向日葵も今頃咲き始めて震えています🌻🌻🌻
・校條 諭さんの投稿
気まポ 夕暮れウォーク(9月12日) いつもは午前に歩くのですが、9月の気まポ(気ままにポール歩き)は、夕方5時集合という設定にしました。昨年までの例だとまだ猛暑に近い天候だったのでそうしたのですが、今年は長雨の影響で涼しいですね。 JR西荻窪駅から出発して、桃井原っぱ公園、杉並会館を経て、荻窪八幡神社のお祭りに立ち寄りました。 杉並会館は、アニメミュージアムの入っている施設で、宴会場や会議室などがあります。これまで何度も入ったことがありますが、毎日新聞の「レトロの美」という連載記事で最近取り上げられたのをきっかけに、今回改めて建物に注目しました。 職員の方に、見学をお願いして、ロビーで、寄せ木細工の床、陶板の壁、らせん階段などのアートをじっくり見ることができました。わざわざ照明を明るく切り替えてくださって助かりました。 ゴールは、西荻の洋食みかさでカンパイ。ステーキやハンバーグなど、各自好きなメニューを選んで楽しみました。 今回、風邪引きやイベントなどのため常連男子が欠席で、男子は私ひとりでした(^^)。
・中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より PW散策日〜 本日は〜鈴与マタイスポーツパーク/ 旧名佐久総合運動公園〜外周路PW散策〜プラス希望者にてのマレットゴルフ大会〜でした❗️ 1週間振りの太陽の下の散策で、参加者の笑顔もひとしおに〜‼️ @ ランチ(地元お弁当屋さん🍱)を挟み 公園内のマレットゴルフ場(一面芝生の)で18ホールを希望者(20 名程)で体験プレイでした。 世話人さんの指導で良い体験が出来皆さん大喜びでハマりそうなご夫婦も出現でした。 皆さんお疲れ様でした〜^_^ PS:さいたま市へ帰る〜遠藤コーチ〜より 内山/コスモス街道のコスモスも最盛期に〜の連絡でした。
・水間 孝之さんの投稿
第14回びんころウォーク800名を超える皆さんに参加いただきました。 台湾ポールウォーキング協会、群馬県ポールウォーキング協会、チームみなとみらいの皆さん遠くからご参加ありがとうございました。 来年もお待ちしております♪♪
・校條 諭さんの投稿
人が倒れているのを見つけたら ①「わかりますか?」と呼びかけ ②「誰か来てください!人が倒れています」と叫ぶ ③来た人に頼む 「あなたはAEDを持ってきてください」(誰か・・ではなく) 「あなたは119番通報してください」 ④呼吸の確認 ⑤胸骨圧迫 ⑥AED到着 音声の指示とおり開始(胸部圧迫、可能なら継続) 懸案の救命講習を受けてきました。ノルディックウォーキングの指導者講習のときの資格認定条件だったのですが、「受講見込み」ということで取得できたのが何年か前でした。 自宅から最も近いAED設置場所は190m離れたところにある介護施設です。両親が訪問介護やショートステイでお世話になったところで、24時間あいています。 なお、AEDの電極パッドは胸と脇腹の素肌に装着します。ですから、街中で倒れている女性にAEDを使うのをためらってしまいそうだと思っていたのですが、装着後タオルなどをかけて隠してもよくなったそうです。 参加は16人、女性の方が多く若年~中年層中心。私はたぶん最年長だったでしょう。 救命講習は最寄りの消防署などで受講できます。とても有意義です。参加をお勧めします(検索ですぐ出てきます)。
2.PW関連学術ニュース
2-1)ヒューマノイドロボットの現状~第2回世界ヒューマノイドロボット競技大会~
ヒューマノイドロボットの進化の現状を伝える「ロボットオリンピック」のニュースがNature誌に掲載されています。
NATURE NEWS、27 August 2026
表題:‘Robot Olympics’ reveal humanoids’ rapid progress — and flaws
Humanoid robots broke records at sporting events such as sprints, but struggled at practical tasks such as hammering nails.
(和訳:ロボットオリンピック」が明らかにしたヒューマノイドの急速な進歩と、その欠点~人型ロボットは短距離走などのスポーツ競技で記録を塗り替えたが、釘を打つといった実用的な作業では苦戦した。)
著者:Kaia Glickman
北京で開催された第2回世界ヒューマノイドロボット競技大会の戦闘イベントで、ロボットたちが競い合っている。写真提供:Lintao Zhang/Getty Images
***以下は、このニュース記事についてのGeminiとの会話記録(2026年8月31日)です***
Q1:こんにちわ!次のニュース記事の要点をまとめて下さい。ニュース記事のタイトルです。「NEWS 27 August 2026
‘Robot Olympics’ reveal humanoids’ rapid progress — and flaws
Humanoid robots broke records at sporting events such as sprints, but struggled at practical tasks such as hammering nails.
By Kaia Glickman」
A1:2026年8月27日付のNature誌(Kaia Glickman記者)に掲載された記事「‘Robot Olympics’ reveal humanoids’ rapid progress — and flaws」の要約です。
ニュース記事の要点 (Life Science Network)
1. 運動能力における驚異的な飛躍
北京で開催された第2回「世界ヒューマノイドロボット競技大会(いわゆるロボット・オリンピック)」において、ヒューマノイドロボットは著しい身体的能力の向上を示しました。 (医薬政策企画 P-Cubed)
•記録更新: X-Humanoid社のロボットが100メートル走で8.64秒(または競技中の走破で人類最速記録を上回るタイム)を記録したほか、垂直跳び(高跳び)でも3.4メートルに達するなど、人間のアスリートを凌駕する運動能力を実証しました。 (医薬政策企画 P-Cubed)
•技術的要因: あらかじめ指定された軌道や出力を正確に再現する走行やジャンプ、モーターの液冷化によるトルク向上などが、この劇的なパフォーマンス向上を支えています。(Mirage News他 1 件)
2. 実用的な作業や認知面での課題・欠陥
一方で、日常的・産業的な実用タスクでは依然として大きな課題が露呈しました。
•不器用さと精度の不足: 釘を打つといった微細な力加減や高精度が求められる作業、状況に応じた柔軟な対応では苦戦が目立ちました。
•自律性と環境認識の壁: あらかじめプログラミングされた直線的・単純な運動とは異なり、ミリ単位の調整が必要な「最後の数ミリメートル」の制御や、状況変化に対応する「AIの脳(世界モデル・認知能力)」の開発が追いついていないことが課題となっています。
3. 結論 (Mirage News)
中国勢を中心とするハードウェアの進化(運動性能)は非常にスピーディで目覚ましいものの、工場や日常生活などの現実世界で人間の代わりとして汎用的に機能するには、知的処理能力や手先の器用さの面でまだ距離があることが浮き彫りとなりました。
Q2:この記事で指摘されている2の課題・欠陥について、現状での最新の研究動向とその成果について、分かり易く紹介して下さい。
A2:ロボット・オリンピックのニュース記事で指摘された「手先の器用さ・精密な力加減の不足」と「環境認識・自律性(世界モデル)の遅れ」という2つの課題について、最新(2025〜2026年)の研究動向と主な成果を分かりやすく紹介します。
課題1:手先の器用さと力加減の不足(精密操作の壁)
釘を打つ、紙を破かずに折る、工具を滑らせずに握るといった作業には、見た目(カメラ)の情報だけでは不十分で、触覚(タッチ・力加減)のフィードバックが不可欠です。
最新の研究動向(okt.to)
「触覚皮膚」と多感触ハンドの標準化: 単に物を握るだけでなく、ロボットの手の表面70%以上に高密度な触覚センサーを敷き詰めた「触覚ハンド(F-TAC Handなど)」が登場しています。2026年現在、指先だけでなく手のひら全体で「圧力・摩擦・すべり」をミリ秒単位で検知する技術が主流になりつつあります(Queen Mary University of London)
触覚と視覚の統合(Multimodal Fusion): カメラ画像と触覚センサーのデータをAIが同時にリアルタイム処理する技術が進んでいます。これにより、「釘とハンマーの位置(見た目)」を捉えつつ、「打撃時の反動や指のズレ(触覚)」を即座に補正できるようになってきています。
okt.to
達成された成果(Patsnap)
工場や研究室において、壊れやすい豆腐や卵を潰さずに掴むだけでなく、柔らかい布を正確に畳んだり、滑りやすい工具を握り直して作業を継続したりする精度の高い操作が可能になり始めています。
課題2:世界モデルとAIの脳(自律性・空間認知の壁)
100m走のように「決まった直線パターンを愚直に走る」ことには成功しても、周囲の物理法則(重力、摩擦、固さ、予期せぬ障害物)を理解して「次にどうなるか」を脳内でシミュレーションする能力が不足していました。
最新の研究動向(okt.to)
VLAモデルから「世界モデル(World Model)」への進化: 従来の「見えた画像から直接行動を起こすAI(VLA: Vision-Language-Action)」から、「自分の行動によって世界がどう変化するかを脳内で一度予測・シミュレーションしてから動くAI(世界モデル)」への移行が急速に進んでいます(Humanoid.guide、他 1 件)
空間知能(Spatial Intelligence)の強化: フェイフェイ・リ(Fei-Fei Li)氏のWorld Labsやヤン・ルカン(Yann LeCun)氏のJEPA(Joint-Embedding Predictive Architecture)研究などに代表されるように、ロボットに3D空間の奥行きや物理的な因果関係を自然に理解させる基盤モデルの開発が加熱しています(KraneShares、他 1 件)
達成された成果:
未知の環境への適応(ゼロショット学習): 見たことがない部屋や一度も扱ったことがない家電(エアフライヤーや未知の工具など)であっても、Web上の知識と物理予測を組み合わせて「こう動かせばこう動くはずだ」と推論し、事前プログラミングなしで正しく操作できる汎用AI(Physical Intelligence社のpi-0.7など)が登場しています(okt.to)
まとめ(Patsnap)
現在(2026年)のロボティクス界では、「走る・跳ぶ」といった筋肉(アクチュエータ・ハードウェア)の進化に対し、「触覚(皮膚)」と「世界モデル(脳)」を追いつかせる研究が最前線で行われています。これらが完全に統合されることで、実験場だけでなく実際の家庭や工事現場で柔軟に役立つヒューマノイドロボットが実現に向かいます(digitimes)
2-2)脊柱管狭窄でしばしば見られる黄色靭帯の肥厚が、腱や靭帯を作る幹細胞の分化異常によるためであるかもしれない
***以下は、大阪大学の宮坂昌之先生の2026年9月9日のFB投稿です***
長年、背中に負担がかかると、骨が変形したり、椎間板が飛び出したり、黄色靭帯(=神経の束である脊髄の後方にある靭帯)が分厚くなったりして、背骨の中にある神経の通り道(=脊柱管)が狭くなり、その結果、中を通る神経や脊髄が圧迫されることになります。これが脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)と呼ばれる病気です。
腰部に狭窄が起きると、典型的な症状として間欠性跛行(かんけつせい・はこう)(歩いていると足に痛みやしびれが出て歩けなくなるが、少し休むと、また歩けるようになる)が見られますが、前かがみになって休むと神経の圧迫が和らぐために楽になる、という傾向があります。また、このほかに、腰や足の痛み、しびれが起き、重症化すると、排尿・排便障害が見られます。一方、頸部に狭窄が起きると、手足が動かしにくかったり、細かい作業がしにくくなったりします。
脊柱管狭窄症は、高齢者では多く、腰部の狭窄の場合、日本全体で数百万人の有症状患者が居るといわれています。治療としては、初期のうちは血流改善薬としてPGE1製剤(プロスタグランジンE1の働きを止めて血管の平滑筋を緩めて血流を増やす)や、痛み止め、硬膜外ブロックや、前かがみを意識したリハビリなどが行われますが、加齢のために脊柱の周囲の筋肉や靭帯の機能が落ちていると、なかなか良い効果が出ません。また、歩行困難や排尿・排便障害が出た時には、脊柱管のスペースを広げる手術が行われ、症状は一時的に改善しますが、やはり、脊柱の周囲の筋肉や靭帯の機能が落ちていると、狭窄症が再発することがあります。
専門誌Cellの最新号に「脊柱管狭窄でしばしば見られる黄色靭帯の肥厚が、腱や靭帯を作る幹細胞の分化異常によるためであるかもしれない」ということを示す論文が出ています(https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(26)00945-1)。つまり、脊柱管狭窄発生には新しいメカニズムが存在するかもしれないということです。アメリカの研究グループによる仕事です。
彼らは、マウスとヒトの検体を用いて調べた結果、
① 腱・靱帯には幹細胞(TLCS)が存在し、この細胞は自己複製能、分化能を持っていて、腱や靱帯を作る前駆細胞(TLPC)を作り出し、ここから腱のもととなる腱鞘細胞や腱細胞ができる、
② 正常状態では、これらの幹細胞や前駆細胞は、黄色靱帯が骨に付着する部位に少数存在する、
③ 脊柱管狭窄部位ではこれらの幹細胞、前駆細胞が異常に増殖していて、黄色靱帯の肥厚が見られる。
④ 脊柱管狭窄症の実験モデルでは、カルシウム拮抗剤(ex. アムロジピン)やカルシウム依存性酵素阻害剤(ex. カルシニューリンやタクロリムス)で黄色靭帯の肥厚が改善する、
などのことがわかりました。
もしこれが事実であれば、脊柱管狭窄においては幹細胞に異常が起きて、それが黄色靭帯の肥厚などをもたらして症状を悪化させているのかもしれない、ということになります。また、幹細胞の分化にはカルシウムイオンを介したシグナルが必要なことから、カルシウム阻害剤やカルシウム依存性酵素の阻害剤が脊柱管狭窄の治療に有効である可能性があります。
脊柱管狭窄症は、長寿社会では大きな健康問題となっていますが、いまだにこれという予防法や治療法がありません。一方で、腱や靭帯には幹細胞があり、その機能を制御できると狭窄症の治療につながるかもしれない、というのは期待が持てる明るいニュースです。
関連情報
① 原論文についてのGeminiによる解説です(2026年9月10日)。
Q1:次の論文の分かり易い解説をお願いします。論文情報です。「https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(26)00945-1」
A1:ご提示いただいた論文(2026年9月に国際的学術誌『Cell』へ掲載)は、「マウスおよびヒトにおいて、アキレス腱や靭帯(じんたい)を作り出す源となる『幹細胞』を世界で初めて特定した」という大変画期的な研究成果です。
要点を分かりやすく解説します。
1. この研究の背景(何が問題だったのか?)
アキレス腱の断裂や、腰痛・足のしびれを引き起こす「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」など、腱や靭帯の病気に悩む人は世界中に数多く存在します。
しかしこれまで、腱や靭帯を構成する細胞の「根本となる親細胞(幹細胞)」が一体どの細胞なのかが特定されておらず、「根本原因を叩く根本的な飲み薬や治療薬が存在しない」という大きな課題がありました。
2. 論文の主な発見・成果
• 幹細胞(TLSC)の特定に成功 研究チームは、マウスおよびヒトのあらゆる腱や靭帯の中に存在する「腱・靭帯幹細胞(TLSC: Tendon/Ligament Stem Cell)」を特定しました。特定の表面マーカー(CD73+ かつ CD140α- など)を持つ細胞が、自己複製しながらすべての腱細胞を生み出す「頂点の細胞」であることを突き止めました。
• 病気(脊柱管狭窄症)のメカニズムを解明 腰の靭帯(黄色靭帯)が分厚くなって神経を圧迫する「腰部脊柱管狭窄症」の発症プロセスを調査。病気の環境下では、この幹細胞内部のカルシウムシグナル伝達に異常が起き、幹細胞が過剰に腱・靭帯細胞を作り出すよう「再プログラミング」されてしまうことが分かりました。
3. この発見がもたらす医療の未来
1. 薬による治療(切らない治療)の可能性 異常を起こした幹細胞のカルシウムシグナル伝達(NFAT経路など)をターゲットにすることで、靭帯の肥大化を抑える「薬物治療(飲み薬や注射薬)」の開発に道が拓けました。
2. 再生医療・切れた腱の治癒促進 今回特定された幹細胞を活用することで、スポーツなどで断裂したアキレス腱や靭帯の修復を大幅に早める再生医療への応用が期待されます。
一言でまとめると
これまでブラックボックスだった「腱と靭帯を生み出す根本の細胞」が見つかったことで、治療法が手術に限られていた腰部脊柱管狭窄症の新しい薬や、アキレス腱断裂などの再生医療の開発が一気に前進するニュースです。
② 論文「黄色靭帯肥大の異なるメカニズム~腰椎変性パターンの比較MRI分析~」
掲載誌:Clinical Spine Surgery誌
公開日:2026年6月22日オンライン先行公開
論文名:Differential Mechanisms of Ligamentum Flavum Hypertrophy: A Comparative MRI Analysis of Lumbar Spine Degeneration Patterns
著者:酒井 義人、松井 裕樹、武市 洋介、長田 直明、渡辺 剛、安達 ゆい、渡辺 謙
DOI: 10.1097/BSD.0000000000002106
本件についての国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターのプレスリリースです(extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.ncgg.go.jp/hospital/news/documents/20260629.pdf)。
Q2:続けて先の論文とこの論文との関連を分かり易く解説して下さい。次の論文の情報です。「以下、略す」
A2:2つの論文は、どちらも高齢者に多い「腰部脊柱管狭窄症(腰椎の神経が圧迫されて痛みやしびれが出る病気)」の最大の原因である「黄色靭帯(おうしょくじんたい)の肥大化」をテーマに扱っています。
しかし、研究のアプローチが「ミクロな分子・細胞レベル(細胞の世界)」と「マクロな臨床・画像分析(患者さんの腰全体の構造)」という真反対(かつ相補的)な視点から行われており、2つを組み合わせることで病気の全体像が見えてきます。分かりやすく関連性を解説します。
1.各論文の立ち位置(視点の違い)
2. 2つの論文はどう繋がっているのか?(関連性)
この2つの研究は、「原因(マクロの物理的ストレス)から結果(ミクロの細胞の暴走)に至るストーリー」として完璧に繋がります。
① 『Clinical Spine Surgery論文』が示すこと:【きっかけ(物理的ストレス)】
酒井医師らの研究(臨床MRI分析)は、腰の骨の変形の仕方や骨のズレ(すべり症など)のタイプによって、黄色靭帯にかかる負担や肥大化のパターン(メカニズム)が異なることを示しています。 つまり、「腰の骨組みがどう崩れるかによって、特定の靭帯部分に異なるメカニカルストレス(機械的な引っ張りや圧力)がかかる」という患者レベルの事実を示しています。
② 『Cell論文』が示すこと:【反応(細胞レベルでの肥大化)】
Cell論文(幹細胞の発見)は、まさにその「機械的ストレスや炎症刺激を受けたとき、靭帯の内部で何が起きているのか?」という答えを与えてくれます。 外部からストレスを受けた黄色靭帯の中では、特定された幹細胞(TLSC)のカルシウムシグナルが異常を起こし、幹細胞が過剰に靭帯細胞を作り出すことで「厚く分厚い靭帯(肥大化)」へと変化してしまうのです。
3. まとめ:2つの研究がもたらす未来の治療法
これまでは「なぜ腰の靭帯が分厚くなるのか」が断片的にしか分かっていませんでしたが、この2つの研究によりジグソーパズルのピースが組み合わさりました。
• マクロの視点(臨床MRI研究): 「どのタイプの変形・ストレスを持つ患者が、どの部位の靭帯を肥大させやすいか」を画像から正確に診断・分類する。
• ミクロの視点(幹細胞研究): ストレスを受けて肥大化を始めた幹細胞の暴走を止め、靭帯が分厚くなるのを薬で防ぐ。
将来的には、「MRI画像で靭帯肥大のリスクやパターンを早期に診断し(酒井氏らの研究成果)、肥大化を止める飲み薬や注射で治療する(Cellの研究成果)」という、手術に頼らない新しい腰椎疾患治療システムにつながる大きな関連性を持っています。
2-3)進行性骨粗鬆症に対するグリコカリックス編集型間葉系幹細胞/間質細胞療法
掲載誌:Cell Article Online
公開日:September 11, 2026
論文名:Glycocalyx-edited mesenchymal stem/stromal cell therapy in advanced osteoporosis(和訳:進行性骨粗鬆症に対するグリコカリックス編集型間葉系幹細胞/間質細胞療法)
著者:Jose M,et al.
ハイライト
•エキソフコシル化ヒト間葉系幹細胞(Fuc-autoBM-MSCs)の静脈内投与は安全である
•Fuc-autoBM-MSCの単回静脈内投与は骨粗鬆症における脆弱性骨折の発生率を低下させる
•Fuc-autoBM-MSCの静脈内投与後、体積骨密度が増加する。
•骨代謝バイオマーカーの変化は、骨再生効果と一致している。
まとめ
間葉系幹細胞(MSC)は骨再生能を有するが、骨へのホーミング能(「骨指向性」)が低いため、骨疾患に対する治療効果は制限される。前臨床モデルでは、MSCの糖鎖修飾によってシアル化Lewis X(sLeX)の発現を誘導し、骨指向性をプログラムすることで、この欠陥を是正できることが示されている。我々は、進行期骨粗鬆症の女性10名を対象に、糖鎖修飾を施した自家骨髄由来MSCを単回静脈内投与するヒト初回臨床試験(ClinicalTrials.gov:NCT02566655)を実施した。プロトコルで規定された評価は2年間にわたり、臨床評価、X線検査、骨代謝マーカー(BTM)、骨組織面積(BTA)、骨密度(BMD)の測定が行われた。その後、各患者について骨折および安全性のモニタリングがさらに3年以上継続されました。重篤な有害事象は発生しませんでした。骨形成促進性BTMレベル、BTA、および体積骨密度の増加に伴い、脆弱性骨折は著しくかつ持続的に減少しました。これらの結果は、グリコカリックス編集がMSCベースの骨粗鬆症治療に効果的であることを示しており、高齢者や病変組織由来のMSCは生物学的に不利であるという考えを否定するものです。
Graphical abstract

関連情報
① ネイチャー・ニュース
11 September 2026
Osteoporosis affects millions: could modified cells rebuild their bones?
Small trial hints at regenerative potential of bone-seeking marrow cells.
(和訳:骨粗鬆症は数百万人に影響を与えている。改変した細胞で骨を再生できるだろうか?小規模な臨床試験により、骨髄細胞が再生能力を持つ可能性が示唆された。)
By Elie Dolgin
骨粗鬆症は骨を薄く、多孔質にし、骨折しやすくするが、有望な細胞療法が骨を強化する方法を提供する可能性がある。写真提供:トニー・ブレイン博士/SPL
***以下、同ニュースからの抜粋です***
10人の高齢女性は、合わせて数十回も骨折しており、その多くはちょっとしたつまずきで起こっていた。しかし、骨組織への浸透性を高めるために実験室で処理された自身の骨髄細胞を一度輸血された後、彼女たちの骨折はほぼ止まった。
本日Cell誌に掲載された小規模臨床試験¹で報告されたところによると、治療を受ける前、女性たちは平均して1~2年に1回、脊椎、股関節、腕、その他の骨の骨折を経験していた。試験後、女性たちが軽微な外傷による骨折を経験する頻度は、10年に1回程度にまで減少した。
今回の結果は、骨粗鬆症患者の脆くなった骨を、一度の細胞療法で再生できる可能性を示唆するものであり、骨粗鬆症は世界中で約2億人の女性、特に閉経後の女性に影響を与える加齢に伴う疾患である。
② Geminiによる解説
Q:次の論文の研究成果について、分かり易く且つ簡潔に解説ひて下さい。論文情報です。(以下、略す)
A:2026年9月11日付の『Cell』誌に掲載された研究成果について、ポイントをまとめて解説します。
研究の要点
従来の治療法では改善が困難な重度の進行性骨粗鬆症に対し、細胞表面の糖鎖構造(グリコカリックス)を酵素処理で加工・編集した「間葉系幹細胞(MSC)」を移植する新しい再生医療アプローチの有用性・有効性を実証した研究です。
何が新しいのか?(技術のポイント)
・細胞表面の「標的誘導力」を強化
通常、静脈注射などで投与した間葉系幹細胞(MSC)は、肺やレバーなどにトラップされやすく、病変部位である「骨髄」へ効率よく届きにくいという課題がありました。
・糖鎖(グリコカリックス)の編集
細胞の最表面を覆う糖鎖構造を酵素処理などで最適化(編集)することにより、細胞が血流に乗って骨髄組織へしっかりと結合・集積(ホーミング)できるように機能を向上させました。
主な成果と期待される効果
・効率的な骨髄伝達
糖鎖編集を行ったMSCは、従来のMSCと比べて目的の骨髄へ届く割合が高まり、治療効果を最大限に引き出すことに成功しました。
・骨新生の促進と骨密度の回復
骨髄に到達した幹細胞が骨を作る細胞(骨芽細胞)の働きを助け、重度の骨粗鬆症で著しく低下していた骨密度や骨強度の改善に寄与しました。
・難治性疾患への新たな治療選択肢
既存の薬物療法(骨吸収抑制薬や骨形成促進薬など)で十分な効果が得られない重症患者や、骨折リスクが極めて高い患者に対する革新的な細胞療法としての応用が期待されます。
一言で言うと:
「目的地の骨へダイレクトに届くようナノレベルでコーティング(糖鎖編集)を施した幹細胞」を用いることで、従来の幹細胞移植では難しかった重症骨粗鬆症の劇的な治療・再生を目指す画期的な研究成果です。
2-4)岐阜大学医学部の下畑先生からの最新医学情報(2026年9月)
・片頭痛予防療法は「月4日以上」が目安―AAN/AHSが14年ぶりにガイドラインを改訂
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月1日のFB投稿です***
米国神経学会(AAN)と米国頭痛学会(AHS)は,成人の片頭痛の薬物予防療法に関するガイドラインを14年ぶりに改訂しました.発表に合わせて記者会見が行われ,YouTube(コメント欄にリンク)で見ることができます.ガイドライン作成委員のRebecca Burch先生が,改訂の狙いを説明しています(1).
記者会見で最も強調されたことは,2012年の前回ガイドライン以降,片頭痛予防療法の選択肢が大きく増えたことです.とくにCGRP(calcitonin gene-related peptide)を標的とする新しい片頭痛特異的治療薬の登場が大きな変化です.Burch先生は,「今回の最大の変更点は何か?」という質問に対し,新しいCGRP標的薬を含め,従来薬と新薬のエビデンスを一つのガイドラインの中で整理したことを挙げています.
もう一つの重要なメッセージは,予防療法をもっと積極的に考えるべきであるという点です.今回,「月4日以上の片頭痛日,または月4日以上の中等度~重度の頭痛日」があれば予防療法を提案し,頻度がそれ以下でも仕事や日常生活への障害が大きければ対象とすることが明確に示されました.
記者から「片頭痛予防薬は十分に使われているのか」と質問された際,Burch先生は,実際には予防療法の適応となる患者の多くが治療を受けていないと回答しています.Systematic Reviewでも,予防療法を考慮すべき患者のうち実際に使用しているのは約3分の1にすぎないとされています(2). 今回のガイドラインは,新薬を追加しただけではなく,予防療法のunderuseを是正することも重要な目的と考えられます.
さらにBurch先生は,薬剤を選ぶ際には有効性だけでなく,副作用,長期間使用されてきた安全性の実績,費用など,患者が何を重視するかを考える必要があると述べています.つまり,「最も強い薬を選ぶ」のではなく,協働意思決定(SDM)によってその患者に適した薬を選択することが今回の基本姿勢です.
以下,同時に発表されたSystematic Review(2)とPractice Guideline Recommendations(3)から,実臨床上とくに重要と思われる点を箇条書きでまとめます.
① 新旧の予防薬が同じエビデンスの物差しで評価された.
217研究を解析し,各薬剤の有効性についてHigh/Moderate/Low confidenceが示された(図).High confidenceは,反復性片頭痛ではerenumab,galcanezumab,慢性片頭痛ではfremanezumab,galcanezumab,onabotulinumtoxinAである.Moderate confidenceにはatogepant,eptinezumabなどのCGRP関連薬に加え,propranolol,topiramate,valproateなどの従来薬も含まれる.なお,これは薬剤の順位ではなく,あくまでエビデンスへの確信度である.
② 薬剤は有効性だけで選ぶものではない.
有効性,忍容性,長期安全性,費用,患者の希望を考慮する.忍容性を重視する場合にはatogepantやCGRPモノクローナル抗体,長期使用実績を重視する場合にはpropranololやtopiramateなどが重要な選択肢となる.
③ 薬剤の使用過多による頭痛(MOH)があっても予防療法を開始する.
薬剤の使用過多やMOHがあっても予防薬を提案すべきである.CGRPモノクローナル抗体,atogepant,onabotulinumtoxinA,topiramateには,このような患者でも有効性を示すデータがある.
④ 効果判定を急ぎすぎてはならない.
多くの予防薬では,十分な忍容量で8~12週間治療してから効果を判定する.onabotulinumtoxinAでは24週間が目安であり,1か月程度で無効と判断するのは早すぎる場合がある.
⑤ 有効な予防薬も,中止後に再悪化することがある.
6か月程度で減量・中止について相談するが,中止により頭痛が再増悪する可能性がある.galcanezumabでは,6か月時点で反応していた患者の半数以上が,中止5か月後にはその反応を失っていた.
⑥ 妊娠中の治療は一律に「薬を使わない」ではない.
まず非薬物療法を最大限活用し,valproateやtopiramateは可能な限り避ける.一方,治療が必要な場合には,片頭痛による負担と薬剤のリスクを比較し,患者と相談して治療を選択する.記者会見でも,この点は議論になり得る重要な変更点として紹介された.
今回の改訂を一言でまとめると,「月4日を目安に予防療法をより積極的に考え,増えた新旧の選択肢から,患者が何を重視するかに応じて薬を選ぶ」ということだと思います.CGRP標的薬の登場はもちろん大きな変化ですが,それ以上に,片頭痛予防療法をより早く,より患者中心に行う方向への転換が重要ということです.
日本への影響を考えてみると,「頭痛の診療ガイドライン2021」ですでに比較的早期からの予防療法が推奨され,さらに2025年には日本頭痛学会がCGRP関連抗体薬を既存薬と同等の第一選択薬に位置づけています.加えて,リメゲパント,アトゲパントという経口CGRP受容体拮抗薬も使用可能となりました.したがって今回のAAN/AHSガイドラインは,日本の診療を大きく方向転換させるというより,すでに始まっている「予防療法の早期導入」と「CGRP関連薬を含めた患者中心の薬剤選択」を強く後押しするものと考えられます.一方,日本ではCGRP関連抗体薬を最初から自由に開始できるわけではなく,保険診療上は従来の予防薬を先に試すことが求められています.この点は,今後見直しが議論される可能性があるように思います.
1.American Academy of Neurology. 2026 Press Conference: Pharmacologic Treatment for Migraine Prevention in Adults. YouTube. 2026.
2.Pringsheim T, Smith DB, Tanveer S, et al. Systematic Review of Pharmacologic Treatment for Migraine Prevention in Adults. Headache. 2026. doi:10.1111/head.70200.
3.Potrebic S, Tanveer S, Becker WJ, et al. Pharmacologic Treatment for Migraine Prevention in Adults Practice Guideline Recommendations. Headache. 2026. doi:10.1111/head.70199.
・CAR-T細胞を「体内で作る」時代へ―中国で自己免疫性神経疾患に対するin vivo CAR-T療法第1相試験!!
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月4日のFB投稿です***
CAR-T細胞療法は,もともと難治性の血液腫瘍に対して開発された治療ですが,近年,自己免疫疾患への応用が急速に進んでいます.CD19などを標的として自己反応性B細胞を徹底的に除去し,その後に新しいB細胞集団を再構築することで,単なる免疫抑制ではなく「免疫系のリセット」を目指す治療です.しかし,従来のCAR-T療法では,患者さんからT細胞を採取し,体外で遺伝子導入,培養,品質管理を行ってから患者さんに戻す必要があります.さらに投与前にはリンパ球除去化学療法も必要であり,時間,費用,安全性の面で大きなハードルがありました.
最新号のNEJM誌のcorrespondenceに,中国の研究グループから短いながら驚くべき論文が報告されていました.上述の問題を一気に解決する可能性のある新しい方法で,患者さんのT細胞を体外に取り出すのではなく,レンチウイルスベクターを静脈内投与して,患者さんの体内で直接CD19 CAR-T細胞を作る「in vivo CAR-T療法」の報告です.
研究は医師主導の単群第1相試験で,対象は難治性自己免疫性神経疾患16例です.内訳は,進行型多発性硬化症(MS)7例(おそらくPPMSとSPMSをあわせたもの),MOG抗体関連疾患(MOGAD)3例,全身型重症筋無力症(gMG)3例,特発性炎症性筋疾患3例です.使用されたJY231は,CD19を標的とするCAR遺伝子をT細胞へ直接導入する既製のレンチウイルスベクターで,2.0×10^9 transducing units(遺伝子導入活性を示す単位)を1回静注しました.特に重要なのは,従来のCAR-T療法で必要だったリンパ球除去化学療法を行っていないことです!つまり,レンチウイルスベクターを点滴するだけで,患者さん自身の体をCAR-T細胞の「製造工場」にするという発想です.
まず安全性ですが,懸念されるimmune effector cell–associated neurotoxicity syndrome(ICANS)や,自己免疫疾患でCAR-T療法後に,もともと病変のあった臓器に一過性の炎症が起こるLICATS(local immune effector cell-associated toxicity syndrome)は認めませんでした.サイトカイン放出症候群(CRS)は16例中11例,69%に出現しましたが,すべてGrade 1で,一過性に経過し2週間以内に消失しました.3例ではGrade 3または4の好中球減少を認めましたが,いずれも完全に回復し,長期間持続する骨髄抑制は認めませんでした.少数例かつ短期観察ではありますが,少なくとも初期の安全性は比較的良好でした.
そして本研究で最も重要なのは,JY231を静注するだけで,全例の体内に本当にCAR-T細胞が作られたことです.CARベクターコピー数は投与後増加し,11日目に中央値53,962.5 copies/μg DNAのピークに達しました.一方,ベクター由来のp24蛋白は急速に消失し,4日目には血中で検出不能となりました.さらに単一細胞RNAシークエンスとフローサイトメトリーにより,CAR陽性細胞の99%以上がT細胞であることが確認されました.つまり,ベクターが無差別にさまざまな細胞へ入るのではなく,高い選択性でT細胞をCAR-T細胞へ変換していたことになります.
脳神経内科医として特に興味があるのは,中枢神経系への到達の有無です.進行型MSやMOGADでは,CARベクターコピー数が末梢血や骨髄だけでなく脳脊髄液でも検出され,むしろ脳脊髄液で高値となる例がありました.自己免疫性神経疾患では,中枢神経内に残存するB細胞や局所の免疫反応が治療抵抗性の原因となる可能性がありますが,今回の治療は末梢血のB細胞だけを除去する従来の治療と異なり,CAR-T細胞が中枢神経系まで到達できることが大きな利点になる可能性があります.
CAR-T細胞が増殖すると,末梢血B細胞は急速かつほぼ完全に消失しました.そして2か月後,B細胞が再び出現しましたが,回復したのは主としてnaive B細胞でした.さらにB細胞受容体のクローン解析では,治療前に存在していたB細胞クローンが治療後にはほぼ完全に置き換わっていました.単にB細胞を一時的に減らしただけではなく,病的な記憶を保持している可能性のある既存のB細胞集団をいったん除去し,新しいB細胞集団を作り直したわけです.著者らはこれを「systemic immunologic reset(全身性の免疫学的リセット)」と記載しています!!
臨床的にも興味深い変化が認められました.中央値6か月の追跡で,進行型MSではEDSSが低下し,運動機能,認知機能,疲労も改善しました.さらに脳脊髄液NfLとκ free light chain indexが低下し,神経軸索の障害と髄腔内免疫活動の双方が抑制された可能性があります.7例全例で,3または6か月後に新規造影病変や新規T2病変を認めませんでした.また18F-DPA-714 PET–MRIではミクログリア活性化も低下しました.CAR-T細胞が直接標的とするのはB細胞ですが,B細胞をリセットすることで,中枢神経系の炎症環境そのものが改善した可能性があります.
MOGADでは血清MOG抗体価が低下する傾向を示しました.gMGではQMGスコアとMG-ADLスコアが改善し,抗AChR抗体価も低下しました.特発性炎症性筋疾患でもMMT-8による筋力評価が改善し,CK値,画像上の筋炎所見,病原性自己抗体も改善しました.疾患ごとの症例数はわずか3~7例ですので有効性を証明したとはいえませんが,臨床症状,自己抗体,バイオマーカー,画像所見が概ね同じ方向に変化している点は注目されます.
図1を簡潔に説明すると,図Aでは,1回のJY231投与後に体内でCAR-T細胞が増殖し,末梢血に加えて骨髄や脳脊髄液にもCAR陽性細胞が認められることが示されています.図BではB細胞が急速に枯渇した後に再増殖する経過が,図Cでは再増殖したB細胞がnaive B細胞を主体とすることが示されています.図Dでは,代表例(症例1)において治療前のB細胞受容体クローンが治療後に置き換わる様子が示され,「免疫リセット」を分子レベルで捉えています.図EではMS,MOGAD,炎症性筋疾患,gMGの臨床指標が改善方向に変化し,図FではMSの代表例(症例 1)において,治療3か月後に18F-DPA-714 PET–MRIでミクログリア活性化の低下が示されています.
さらにSupplementary Videoには,進行型MS患者の治療前後の歩行が収録されています.治療前,1か月後,3か月後を比較すると,歩行が改善しているように見えますが,1例の動画ですので何とも言えない気もします.そもそも本研究は16例のみの単群第1相試験であり,疾患ごとの症例数はさらに少なく,中央値の追跡期間も6か月にすぎません.対照群もありませんので,「進行型MSを改善する治療が確立した」と解釈する段階ではありません.著者らも,より大規模かつ長期間の検討,可能であればランダム化比較試験が必要であると強調しています.
一方,長期的な安全性は今後の課題です.今回用いたレンチウイルスベクターは,CAR遺伝子をT細胞の染色体に組み込むため,CAR-T細胞の効果が長く続くことが期待されます.その反面,遺伝子が好ましくない場所に組み込まれ,細胞の異常な増殖を引き起こす可能性が理論上あります.今回の解析では,そのような異常なクローン増殖を示す所見は認められませんでした.ただし観察期間はまだ短く,長期的な安全性については今後慎重に追跡する必要があります.
しかしながら,本研究のインパクトはきわめて大きいと思います.従来のCAR-T療法は,「患者さんから細胞を取り出し,特別な施設でCAR-T細胞を製造してから戻す」という高度な細胞治療でした.今回の方法は,既製のレンチウイルスベクターを1回静注し,患者さんの体内でCAR-T細胞を作るという全く異なる発想です.なんと言ってもリンパ球除去化学療法が不要です.もし長期的な安全性と有効性が確認されれば,CAR-T療法は特殊な「細胞製剤」から,より広く使用できる「1回投与の遺伝子治療」へ変わる可能性があります.未来の脳神経内科医は,自己免疫性神経疾患をこのように治療しているのかもしれない——そんな未来を想像させる,proof-of-conceptとして非常に興味深い報告です.
Cheng YH, et al. Lentiviral In Vivo CD19 CAR T-Cell Therapy in Neurologic Autoimmune Disorders. N Engl J Med. 2026 Sep 3;395(9):926-929. doi: 10.1056/NEJMc2603114. PMID: 42685326.
・第38回 リベラルアーツ研究会『人魚の眠る家』のご案内
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月5日のFB投稿です***
日時:2026年9月8日(火)19時~21時
今回は,先日逝去された作家・東野圭吾氏の作品を取り上げます.課題図書は以前から決めていましたので,訃報を知ったときには「まさか」と驚きました.東野氏の作品は,皆さんと同様,私も大好きでした.最近では「マスカレイド」シリーズ,とりわけ新田浩介という主人公が好きで,今後の活躍をもう読むことができないと思うと,本当に残念です.
今回は,数ある名作のなかから,私にとって忘れられない一冊,2015年に発表され,映画化もされた『人魚の眠る家』を取り上げます(Amazonへのリンクはコメント欄).私は刊行後まもなく本作を読み,大きな衝撃を受けました.ブログでも紹介していますが,当時は,どこか近未来的なフィクションとして受け止めていました.しかし10年を経て読み返してみると,むしろ現代医療が直面しつつある問題を見事なまでに先取りして描いた作品であったことに気づかされます.
本作は,ミステリーという枠組みを超えて,「脳死を人の死と考えることができるのか」という,生と死をめぐる根源的な問いを真正面から投げかけます.読み進めるほどに,読者自身が「自分ならどうするだろうか?」と問い続けることになります.脳神経内科医の立場から読んでも,脳死,臓器移植,生命維持技術,そしてニューロテクノロジーの進歩に伴う臨床倫理上の問題を考えるうえで,きわめて示唆に富む作品です.
副読本として,『BRAIN and NERVE』2025年4月号の特集「脳死について知る」をお薦めします.あわせて読むと,東野氏が脳死や臓器移植をめぐる医学的・倫理的問題をいかに深く学び,丁寧な取材を重ねたうえで本作を執筆したことが,よりよく分かります.ちなみに『BRAIN and NERVE』2026年12月号(クリスマス号)には,『人魚の眠る家』を題材として,脳死と臓器移植について考察した私の小論文を掲載していただく予定です.こちらも楽しみにしていただければと思います.
医学の進歩によって,「生」と「死」の境界が揺さぶられるとき,私たち医療者は何をもって人の死と考え,何を選び,患者さんや家族とどのように向き合うべきなのでしょうか.東野圭吾氏が遺した『人魚の眠る家』を通して,皆さんと一緒に考えてみたいと思います.
課題図書:東野圭吾『人魚の眠る家』
※参加希望の学生はご連絡ください.
次回課題図書
仲野徹『生命科学者たちのむこうみずな日常と華麗なる研究』
歴史に名を残した18人の科学者たちの型破りな生き様と偉大な業績を,軽妙な語り口で解き明かした一冊です.とても面白く,科学への知的好奇心を大いに刺激してくれる名著です.
・シャルコーから予測符号化へ―神経理学療法の歴史と新時代@第24回日本神経理学療法学会学術大会
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月6日のFB投稿です***
昨日,グランキューブ大阪で開催された第24回日本神経理学療法学会学術大会で,特別講演の機会をいただきました.今回の大会テーマは「神経理学療法が紡ぐ足跡と新時代」です.これまでの歩みを振り返り,そこから未来を考えるという趣旨で,初日は「過去を学ぶ」,2日目は「新時代を考える」という構成でした.
特別講演では,『BRAIN and NERVE』誌でともに編集委員を務めさせていただいている東北大学名誉教授の虫明元先生とご一緒しました.虫明先生の演題は「神経生理学の歴史:神経機能理解の深化をたどる」です.神経科学の歴史を19世紀から21世紀まで4つの時代に分け,「脳をどのように理解してきたのか」という問いの変遷を鮮やかに示してくださいました.神経学の楽しさを改めて実感するご講演でした.
19世紀にはBrocaによる機能局在,Golgiの染色法とCajalによるニューロン説,Jacksonによる階層理論が登場し,「どこが機能を担うのか」が問われました.20世紀前半にはSherringtonのシナプスと反射統合,Pavlovの条件反射,Penfieldのホムンクルスなどを通して,「どうつながるのか」という理解へ進みます.さらに20世紀後半には,運動野における運動方向の符号化(運動の方向を神経細胞の活動として表現すること),前頭葉の階層構造,ワーキングメモリ,ミラーニューロンなどを通して,「脳は何を計算しているのか」という問いへと発展しました.そして21世紀には,問いは「脳はどのように未来を予測し,全体として協調するのか」へと進みます.大規模脳ネットワーク,agency,小脳の内部モデル,ドパミンによる報酬予測誤差,そしてFristonの自由エネルギー原理へと展開していきました.とくに印象的だったのは,「脳は未来を予測し,現実とのずれである予測誤差を使って内部モデルを更新している」という考え方です.この視点に立てば,リハビリテーションとは単に筋肉を動かす訓練ではなく,脳が持っている身体や運動についての「予測」を修正し,内部モデルを再構築していく営みと考えることができます.
講演後には虫明先生と食事をご一緒し,講演中に浮かんだ疑問を直接お聞きすることができました.神経生理学の第一人者にゆっくり質問できるという,本当に幸せで贅沢な時間でした.また,森岡周先生(畿央大学),吉尾雅春先生(千里リハビリテーション病院)のとても印象的なご講演も拝聴し,ニューロリハビリテーションについてもっと勉強したいと思いました.
一方,私の講演は,大会長の松田淳子先生(大阪行岡医療大学医療学部理学療法学科)から「神経症候学の歴史について話してほしい」とご依頼いただき,「神経症候学の成立と発展:機能性神経障害をめぐって」というタイトルにしました.スライドはこちらからご覧いただけます(https://www.docswell.com/…/800…/Z8N6PQ-2026-09-06-043554).前半では,19世紀のサルペトリエール病院におけるJean-Martin CharcotとJoseph Babinskiらのヒステリー研究を出発点として,近代神経症候学がどのように成立したのかをお話ししました.彼らはヒステリーを器質性神経疾患と区別するため,患者を徹底して観察し,症候を記述し,診察によって病態を見極めようとしました.さらにCharcotに学び,その臨床医学を日本に持ち帰った三浦謹之助についても紹介しました.後半では,かつて「ヒステリー」と呼ばれた病態が,現在の機能性神経障害(FND)へとどのように変遷したのかを取り上げました.現代のFND診療で重要なのは,「検査で異常がないからFND」という除外診断ではなく,Hoover徴候などの陽性徴候を神経診察によって見いだし,積極的に診断すること(rule-in diagnosis)です.これはまさにCharcotやBabinskiから続く神経症候学の現代版と言えると思います.
さらにFNDでは,理学療法を中心とするリハビリテーションが非常に重要です.ただし,器質性疾患とは少し発想が異なります.「うまく動かそう」と症状に注意を集中し,強く随意的努力を行うほど,かえって動作が難しくなることがあります.そこで,リズムや音,物体操作など外的な課題に注意を向けることで,過剰な自己監視から離れ,本来持っている自動的な運動を引き出していきます.
ここで,虫明先生のご講演と私の講演が思いがけずつながりました.FNDを予測符号化の立場から考えると,症状への過剰な注意によって誤った予測の重みが強まり,知覚や運動を支配している可能性があります.であれば重要なのは,患者さんに「正しく動かそう」と意識させ続けるのではなく,いかに症状への注意を外し,「実際にうまく動けた」という新しい経験から脳の予測を更新するかということになります.今回は,「予測誤差をどのように軽減するのか」「いかに症状への過度な注意を減らしながら改善へ導くのか」という点について,理学療法士の先生方と議論させていただきました.講演後には,これまで経験したことがないほど多くのご質問をいただきました.実際にFND患者さんを担当するなかでの悩みや,具体的なリハビリテーションの工夫などを率直にお聞かせいただき,私自身にとっても大変勉強になる時間でした.
今回の大会テーマである「神経理学療法が紡ぐ足跡と新時代」は,改めて神経学の魅力を感じさせるものでした.Broca,Jackson,Sherrington,Charcot,Babinskiらが築いた神経学・神経生理学の歴史の先に,内部モデル,agency,ネットワーク,予測符号化といった現代神経科学があります.そして最新の神経科学がいま,再び患者さんの「症候を診る」という臨床に戻ってきています.新時代の神経リハビリテーションでは,失われた運動を繰り返し練習するだけではなく,脳がもつ身体と運動の「予測」を,よりよい方向へ更新していくことが求められるのかもしれません.歴史を学ぶことが,直接的に未来の臨床につながることを実感した一日でした.
・医療AIの本当のインパクトは,患者の「trajectory(軌跡)」中心の医療への転換にあるかもしれない!
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月7日のFB投稿です***
最新号のLancetに,たった1ページながら印象的なPerspectiveが掲載されています.著者はScripps研究所のEric J Topol氏らです.この論文が提示するのは,患者の診療記録を単なるデータの集まりではなく,数年,数十年にわたる「trajectory(軌跡)」としてAIに学習させるという,新しい医療AIの姿です.
その基盤となるのが耳慣れない「tokenisation(トークン化)」という用語です.診断名,検査値,薬剤,診療記録,画像,さらに出来事と出来事の時間間隔などを,AIが処理できる単位であるtokenに変換します.これらを時間順に学習することで,患者の長い診療経過全体を一つの「representation(表現)」として捉えます.つまり,一つの検査値や疾患を個別に予測するのではなく,その人がこれまでどのような軌跡をたどってきたかを丸ごと学習させるわけです.
すでにこの方向性でAIは急速に発展しているそうです.論文では5つのAIモデルが紹介され,約200万人のデータから1000を超える疾患の発症をモデル化するDelphi-2Mや,1億人以上,1000億件を超える医療イベントを扱うCuriosityなどが登場しています.さらに診療記録や画像,遺伝情報,multiomicsまで統合するモデルも開発されており,患者の長期的なtrajectoryをより包括的に捉える方向へ進んでいます.
論文の図上では,30歳から90歳までの時間軸上に,高脂血症,肥満,睡眠時無呼吸症候群,胃食道逆流症,心筋梗塞,心房細動,MCI(軽度認知障害),アルツハイマー病が並んでいます.重要なのは,「90歳でアルツハイマー病になった」という最後の一点ではなく,その数十年前から何が起こり,どのようなtrajectoryを経てそこに至ったのかを見ることです.trajectoryには病気や検査値だけでなく,治療がいつ行われ,その後どのような経過をたどったかという情報も含まれます.
図下は,この考え方から将来の医療をイメージして自作したものです.青線はAIが学習した「これまでの軌跡」を表します.大量の患者のtrajectoryが蓄積されれば,「この患者と似た軌跡をたどった人は,その後どうなったか」をもとに,現在地点から複数の未来を予測できる可能性があります.赤線はこのまま進んだ場合の高リスクの未来を,緑線は治療や生活習慣への介入によって,より良い未来へ軌道修正できる可能性を表しています.たとえば高血圧,脂質異常症,体重増加などを一連のtrajectoryとして捉え,将来の糖尿病や心血管疾患,認知症のリスク上昇を予測できれば,病気が完成する前に先手を打つことができます.介入後には新しいデータをもとに未来予測も更新されます.私なりに例えると,将来の医療AIは,未来を一度だけ言い当てる「占い師」ではなく,進路が変わるたびにルートを再計算する「カーナビ」に近い感じがします.
また,類似したtrajectoryを大規模データから検索することで,希少疾患の診断や治験参加者の探索などにも応用できる可能性があります.一人の医師が経験できる症例数には限界がありますが,AIを介して膨大な患者の経験を診療に利用できるようになるわけです.
ただし,重要な限界もあります.「ある治療を受けた人はその後の経過が良かった」という傾向が見つかっても,その治療のおかげで良くなったとは限りません.AIは「何が一緒に起こったか」は見つけられても,「何が原因だったか」までは証明できないためです.また,AIが学習するtrajectoryは,患者の実際の人生そのものではなく,医療機関に記録された範囲に限られます.受診頻度や検査内容,医師の判断によって記録のされ方が変わるため,データには偏りが生じる可能性があります.
この論文を読んでもう一つ強く感じるのは,日本の医療データ基盤の課題です.trajectory型AIには,診断,検査値,画像,薬剤,治療介入,転帰などを,患者ごとに長期間つなげて蓄積することが不可欠です.しかし日本では,電子カルテの情報が医療機関やシステムごとに分断され,標準化や二次利用も十分に進んでいるとは言えません.新型コロナ・パンデミックの際にも,世界から次々に発表される論文を読み,日本とのデータ活用力の差を痛感しました.今回のように患者の「軌跡」そのものを学習するAIが登場すると,この差はさらに拡大するものと思われます.日本がこれ以上出遅れないためにも,医療データ基盤の整備はまさに急務だと思います.
この論文が示しているのは,医療が「あなたは何の病気ですか」という病名中心の考え方から,「あなたはいまどの軌跡の上にいて,この先どこへ向かい,どこでその軌跡を変えられるのか」を考える方向へ進む可能性です.病気が起きてから治療する医療から,未来の分岐を予測して先手を打つ医療へ,医療は変わっていくのだと思いました.医療AIの本当のインパクトは,この「trajectory中心の医療」への転換にあるのかもしれません.
Mahmood F, Topol EJ. Tokenising the patient journey: from records to representations. Lancet. 2026 Sep 5;408(10558):886. doi: 10.1016/S0140-6736(26)01773-3. PMID: 42692030.
・パーキンソン病・多系統萎縮症の自律神経障害をベッドサイドでどう診るか?――岐阜大学発実践的評価法
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月9日のFB投稿です***
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)では,起立性低血圧,発汗異常,排尿障害,便秘などの自律神経障害がしばしば認められます.これらは患者さんの生活の質を低下させるだけでなく,とくにMSAでは診断や予後を考えるうえで重要な手がかりになります.一方,詳細な自律神経機能検査には特殊な設備や技術を必要とするものが多く,すべての施設で繰り返し行えるわけではありません.
今回,当科の森泰子先生を筆頭著者・取りまとめ役として,山原直紀先生,安藤知秀先生,大野陽哉先生,加藤雅彦先生,伊藤幹哉先生,児玉真由帆先生,金住俊一先生の若手のメンバーで,PDとMSAにおける自律神経障害をベッドサイドで系統的に評価するためのプロトコルをまとめ,Journal of Visualized Experiments(JoVE)誌に発表しました.この論文の特徴は,これまでさまざまな文献に散在していた簡便な自律神経評価法を,実際の診療で使いやすい形に体系化した点にあります.非常に教育的な良い論文になったと思います.森先生をはじめ,みなさん,お疲れさまでした.★リンク先はコメント欄をご覧ください.
さて評価は,循環,発汗,排尿,排便の4機能領域です.さらに各検査を,通常の診療環境で行える「Core」,簡単な機器を用いて追加する「Optional」,専門的な設備や技術を必要とする「Advanced」の3段階に分類しました(図1).まず問診と身体診察を行い,必要に応じて簡便な機器検査,さらに専門的検査へ進む流れが一目で分かります.まずベッドサイドから始めるという本論文の考え方を示しています.
循環機能では,立位で出現して臥位で改善するめまい,失神,視覚異常,疲労などを確認するとともに,手足の冷感や紫色調・蒼白を伴うcold-discolored extremitiesを評価します.この所見は剖検例でMSAの20.3%,PDの5.7%に認められ,現在のMSA診断基準でもsupportive clinical featureに位置づけられています.さらにMSAでは,この所見を有する患者ほど症状が重く,生存期間が短い傾向も報告されています.また,指を4℃の水に10秒間浸した後の皮膚温回復をみる「10秒間冷水負荷試験」では,MSAはPDより皮膚温の回復が速く,冷却11分後の温度を指標とすると,感度80.3%,特異度85.7%で両者を鑑別できる可能性が示されています(ただし小規模研究による探索的研究です).
能動的起立試験では,10分間の臥位安静後に立位となり,血圧と心拍数を10分間測定します.重要なのは3分で終了しないことです.3分以降に血圧が低下するdelayed orthostatic hypotensionがあるためです.また収縮期血圧が20 mmHgを超えて低下した場合にはΔHR/ΔSBPを計算し,0.5未満であれば神経原性起立性低血圧を示唆します.ただし,立位15秒以内に生じるinitial orthostatic hypotensionを捉えるには連続血圧測定が必要です.
発汗機能では,発汗低下,無汗,多汗の有無と分布を確認したうえで,視診・触診に加えてスプーンテストを行います.乾いたスプーンの背を皮膚上で滑らせ,発汗によってスプーンが止まるかどうかをみる,非常に簡単な検査です.thermoregulatory sweat testと比較した研究では,四肢での感度は低いものの,頸部では85%に達しました.また,100から7を順番に引く暗算によって精神性発汗を誘発し,手掌や足底の発汗を観察する方法も紹介しています.
もう一つ興味深いのが「指のしわテスト(finger wrinkling test)」です.手を40℃の温水に30分間浸し,指腹に生じるしわをGrade 0~4で評価します.図2には実際の指のしわと判定基準が示されています.特殊な装置を必要とせず,汗腺周囲の自律神経機能を間接的に評価できますが,皮膚の状態などにも影響されるため補助的な検査として用います.
排尿機能では,頻尿,夜間頻尿,尿意切迫,尿失禁だけでなく,尿勢低下,排尿開始遅延,腹圧排尿なども確認します.とくに重要なのが排尿後残尿量(post-void residual:PVR)です.MSAでは排尿障害が運動症状より先行することがあり,121例の前向き研究では18%が下部尿路症状のみで発症し,尿失禁は運動症状より平均2.8年前から認められていました.PVR増加によるPDとMSAの鑑別は感度34%と低い一方,特異度は95%であり,明らかな残尿増加はMSAを疑う重要な所見です.
排便機能では,排便回数,便性状,いきみ,残便感,出口閉塞感などを確認し,排便日誌やBristol Stool Form Scaleを用います.PDでは便秘は単なる生活上の問題ではなく,早期PD 465例を平均5.1年間追跡した研究で,便秘が重いほどその後の認知機能低下が大きいことが報告されています.さらに経腹的直腸超音波を用いると,便貯留をcrescent signやfull-moon signとして非侵襲的に評価できます.
自律神経機能は,室温,湿度,水分状態,食事,薬剤などさまざまな因子の影響を受けます.そこでTable 1では,循環,発汗,排尿の評価に影響する薬剤,その作用,休薬を検討する際の注意点などを整理しました.検査のために安易に薬剤を中止するのではなく,休薬の危険性を考慮し,継続する場合には薬剤の影響を踏まえて結果を解釈する必要があります.
やはり今回の論文でお伝えしたかったのは,自律神経障害の評価は,必ずしも特殊な検査から始める必要はないということです.問診し,皮膚を見て触り,立ってもらい,排尿や排便を記録してもらうだけでも,多くの重要な情報が得られます.図1に示したCore,Optional,Advancedという段階的な考え方を用いることで,自律神経障害を日常診療のなかで繰り返し評価し,早期発見,PDとMSAの鑑別,さらに疾患進行や予後の把握につなげることができます.
今後,実技の動画撮影も予定しており,今回ご紹介したベッドサイドでの自律神経評価法を,実際にご覧いただけるようになります.動画が公開されましたら,改めてご案内したいと思います.
Mori Y, Yamahara N, Ando T, Ono Y, Kato M, Ito M, Kodama M, Kanazumi S, Shimohata T. Protocols for Bedside Assessment of Autonomic Dysfunction in Parkinson’s Disease and Multiple System Atrophy. J Vis Exp. 2026 Sep 3;(235):e71986. doi:10.3791/71986. PMID: 42695590.
・マイハンマー2026(No. 39)まだ進化の余地があった打腱器!なんとヘッドが回転するPercuflex
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月9日のFB投稿です***
NHK「トリセツショー」でもご紹介いただいた私の打腱器(ハンマー)コレクションですが,もう集め尽くしたので,もう新しい型が追加されることはないと思っていました.ところが初めて見る,斬新な新型打腱器を入手しました.「ビーアイシー打診器(BIC Reflex Hammer)」150 gで,Amazonで購入しました(リンクはコメント欄).
製造しているのはドイツの医療機器メーカーで,本来の商品名は「CBC Percuflex」でした.メーカーのHPを調べてみると,なんと「Babinski,Trömner,Buck,Berlinerという4種類の打腱器の長所を統合したもの」と説明しています!!(リンクはコメント欄)
もし本当なら,Percuflexは,100年以上にわたって脳神経内科医が工夫してきたさまざまな打腱器の特徴を,現代的な形で「いいとこ取り」しようとした製品ということになります.そうなると,もう購入しないわけにはいきません(笑).Percuflexという名前は,おそらく「percussion(打診)」と「flexible(柔軟な)」を組み合わせた造語だと思いました.
長さ22 cmで,75 gと150 gの2種類があります.ヘッドはカラフルで,何種類か色の組み合わせがあります.私が選んだのは150 gのミント色です.ヘッドの形は既存のいずれとも違い,少し変わっています.最大の特徴は,なんといっても特許取得済みの回転式ヘッドです.360°回転,8段階で角度を固定できます.つまり,検者が打腱時に手首の角度を無理に変えるのではなく,叩きたい方向に合わせてあらかじめヘッドの向きを変えて使用します.腱反射の部位によって検者と患者の位置関係は変わりますので,これは単なるギミックではなく,意外に合理的な設計かもしれないと思いました.でも「本当に意味があるのかな?いちいち角度を変えるのは面倒かな?」と思いつつ,昨日,外来デビューで使用しました.思いの外,使いやすく,かつ面白いので,「これは楽しい」と診察しながら思わずニヤニヤしていました.
もう一つ気がついたのはハンドルがプラスチック製でわずかにしなることです.打腱器は単に腱を「叩く」道具ではなく,ある程度の重量を利用しながら振り子のように振り,適切な刺激を腱に伝える道具です.そのためヘッドの重量だけでなく,柄の柔軟性,重量バランスも使い心地を左右します.その点でなかなか良いハンマーだと思いました.75 gは試していませんが,おそらく150 gのほうが反射は出しやすいはずです.
打腱器という道具には,もはや新しい工夫を加える余地などないと思っていました.でも「ヘッドそのものを回転させればよい」という,ありそうでなかった発想を持ち込んだ点で,革新的なハンマーだと思いました.機会があればぜひお試しください.
・「ここまでわかってきた!プラスチックのカラダへの影響―子どもたちのために 今できることは?」講演・パネルトークに参加しました.
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月13日のFB投稿です***
子どもケミネット(有害化学物質から子どもを守るネットワーク)が主催する会に参加し,私は「マイクロ・ナノプラスチック 身体への危険性」というタイトルで講演しました.
講演では,近年急速に研究が進んでいるマイクロ・ナノプラスチック(MNPs)について,どのような経路で体内に入り,健康への影響がどこまで分かってきたのかをご紹介しました.とくに,頸動脈プラークや脳(図1の小さくキラキラ光っているもの),脳脊髄液からMNPsが検出され,脳卒中や認知症,パーキンソン病などとの関連を示唆する臨床・基礎・疫学研究が報告されていること,一方で因果関係についてはなお慎重な検証が必要であることをお話ししました.
子どもへの影響としては,MNPsが胎盤や臍帯血などからも検出されています.胎児や乳幼児は発達の重要な時期にあり,体重あたりの曝露量も多いことから,成人以上に影響を受けやすい可能性があります.今後さらに研究を進めるとともに,現時点でもできるところから曝露を減らし,「プラスタミネーション(プラスチック汚染)」への対策を進めることが重要だとお伝えしました.スライドはコメント欄のリンクからご覧いただけます.また,MNPsと認知症については,来月出版される本の中でも詳しく解説しました.
そして今回,とくに驚いたのが,人工芝の問題でした.環境ジャーナリストの栗岡理子さんから,「これもプラスチックだった!人工芝の問題」と題したお話がありました.学校や公園,スポーツ施設など,身近な場所で広く使われている人工芝ですが,最近の研究では,人工芝の芝葉そのものと,クッション性を持たせるための充填材の両方から,MNPsが継続的に発生することが指摘されています(Harusato A, et al. Environments. 2025;12(4):109;図2はこの論文より作成).芝葉や充填材は,摩耗に加え,紫外線,暑さ・寒さ,風雨などによって徐々に劣化・微細化します.そして生じたプラスチック粒子や有害化学物質は,風や雨水・排水を介して,土壌,河川,さらには海へと広がっていきます.人工芝が,都市環境における重要なプラスチック汚染源の一つになり得ることが分かってきています.
生態系への影響についてはすでに懸念が示されている一方で,ヒトの健康への影響はまだ十分に分かっていません.だからこそ,予防原則,すなわち科学的にすべてが証明されるのを待つのではなく,重大な影響の可能性があるなら,できる範囲で先に予防策を講じるという考え方に基づき,環境中への流出を減らす対策と,健康影響を明らかにする研究の両方が必要だと思います.人工芝がこれほど大きなプラスチック汚染源になり得ることを,ぜひ多くの方に知っていただきたいと感じました.
後半の約1時間のパネルトーク「子どもたちのために,今できることは?」も印象的でした.医師,研究者,環境ジャーナリスト,弁護士,地方議員,生活協同組合など,異なる立場の方々がこの問題に関心を持ち,それぞれの立場から取り組んでいることを知り,大変勉強になりました.
プラスチックは私たちの生活を便利で豊かなものにしてきましたが,近年の大量生産・大量使用が,人の健康や環境にどのような影響を及ぼすのかについては,まだ分かっていないことがたくさんあります.まずは知ること.そして,科学的なエビデンスを積み重ねながら,できることから変えていくこと.その大切さを改めて感じた一日でした.次世代の子どもたちのためにも,この問題を多くの方と共有していきたいと思います.
・頭蓋骨骨髄は「脳のすぐ隣の免疫器官」である―Nature論文と慢性疼痛研究が示す新しい神経免疫の世界
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月14日のFB投稿です***
2年前に,日本神経学会Residentホームページに「近未来の脳神経内科は頭蓋骨から診断し治療する!」という原稿を執筆させていただきました.きっかけはCOVID-19の研究でした.2023年,RongらはSARS-CoV-2のスパイク蛋白が頭蓋骨骨髄や髄膜に蓄積し,両者をつなぐ微小な通路にも認められることを報告しました.その後,KolabasらはCell誌で,この頭蓋骨・髄膜結合(skull-meninges connection;SMC)をヒトとマウスで詳細に解析し,さらに頭蓋骨骨髄が他の骨髄とは異なる独自の免疫学的特徴をもつことを明らかにしました.つまり頭蓋骨は単に脳を守る骨ではなく,内部の骨髄が脳と密接に情報をやり取りしているのではないか,という新しい考え方が生まれました.今回ご紹介する2つの研究は,この流れをさらに大きく発展させるものです.
ひとつめはWashington University in St. LouisのParkらによるNature論文です.頭蓋骨骨髄に,中枢神経系を監視するリンパ組織様構造が存在することを示しました.図1は後頭骨のwhole-mount免疫組織化学像で,CD20陽性B細胞,CD4陽性T細胞,MHC-II陽性抗原提示細胞が集まり,クラスターを形成している様子が明瞭に示されています.さらにCXCL13,BAFF,S1PR2など,胚中心様反応に関わる分子も確認されました.つまり頭蓋骨骨髄は単なる造血の場ではなく,「T細胞とB細胞が局所で相互作用し,胚中心様の獲得免疫応答を形成しうる場所である」ということです.
次に著者らは,このリンパ組織様構造が実際に脳からの情報に反応できるのかを調べました.まずマウスの線条体にAAVベクターを注入し,神経細胞に実験用の抗原HEL-OVAを作らせると,その抗原が頭蓋骨骨髄まで届くことを確認しました.さらに組み換えマウス由来の抗原HEL-OVAを認識できるT細胞とB細胞を体内に入れて追跡すると,頭蓋骨骨髄でT細胞が活性化し,B細胞にも胚中心様反応が起こりました.つまり頭蓋骨骨髄は,単に免疫細胞が集まっている場所ではなく,「脳で生じた抗原情報を受け取り,それに応じて獲得免疫応答を立ち上げる場所である」ことが示されたのです.
さらに,この免疫構造が病態にも関与することが示されました.頭皮下から,T細胞からB細胞への活性化シグナルを遮断する抗CD40L抗体を投与すると,脳腫瘍モデルマウスの生存期間は短縮しました.逆に,CD40刺激抗体にIL-21とIFNγを組み合わせ,頭蓋骨骨髄のB細胞応答を高めると,抗腫瘍免疫が増強され,生存期間が延長しました.つまり頭蓋骨骨髄は「治療標的にもなりうる免疫拠点である」ことが示されたのです.
2つめはMassachusetts General Hospitalを中心とするチームによるScience Translational Medicine誌の研究です.ヒト慢性疼痛患者において,頭蓋骨骨髄のTSPO PETシグナルが上昇することを示しました. TSPOは脳内では神経炎症を可視化するPET指標として広く用いられ,しばしばミクログリア活性化と関連づけられますが,頭蓋骨骨髄ではミクログリアはなく,その代わり骨髄球系細胞を中心とする免疫細胞密度を反映する指標と考えられます.慢性腰痛88例,変形性膝関節症37例,健常対照22例を対象に,TSPOを標的とする[11C]PBR28 PET/MRIで頭蓋骨骨髄を評価したところ,慢性腰痛群,変形性膝関節症群のいずれでも健常者より高値で,後者で最も高いシグナルが認められました(図2).初めて見る図ですが,頭蓋骨の広い範囲でTSPOシグナルが上昇し,とくに前頭部と頭頂部で顕著でした.さらにTSPOシグナルが高いほど,痛みの強さや生活への支障,不安,抑うつも強いことが示されました.ただし横断研究であるため,頭蓋骨骨髄の変化が慢性疼痛の原因なのか,それとも結果なのかまでは分かりません.
以上の2つの研究を合わせると,興味深い構図が見えてきます.前者は,頭蓋骨骨髄にリンパ組織様構造があり,脳由来抗原に対する獲得免疫応答が起こることを示しました.一方,後者は,ヒト慢性疼痛で,骨髄球系細胞を中心とする自然免疫系の変化が頭蓋骨骨髄に生じている可能性を示しました.見ている細胞系は異なりますが,両者を合わせると,頭蓋骨骨髄が自然免疫と獲得免疫の双方に関わる,脳に最も近い免疫監視拠点である可能性が浮かび上がります.
この視点は脳神経内科医にとっても非常に魅力的です.慢性疼痛や脳腫瘍だけでなく,認知症,脳卒中,自己免疫性脳炎,神経変性疾患などでも,頭蓋骨骨髄がどのように関与するのか注目されます.これまで見落とされてきた「脳のすぐ隣の免疫器官」が,将来,新しいバイオマーカーや治療標的になるかもしれません.
Park JH, et al. Functional role of skull lymphoid structures in CNS immunosurveillance. Nature. 2026. doi:10.1038/s41586-026-10951-4.
Mohammadian M, et al. Elevated translocator protein in skull bone marrow is linked to human chronic pain. Sci Transl Med. 2026;18(865):eaed8729. doi:10.1126/scitranslmed.aed8729. PMID: 42685155.
・「知らなければ害になる」―医学部5年生に初めて「機能性神経障害」を講義して考えたこと
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月15日のFB投稿です***
先週,医学部5年生の臨床講義で,初めて機能性神経障害(FND)を取り上げました.かつてはヒステリー,心因性疾患,転換性障害,身体表現性障害などと呼ばれてきた疾患です.これまで私がFNDを卒前教育で講義することには迷いがありました.その理由は,FNDの診断では,Hoover徴候やdistractibilityなど,神経診察で得られる「陽性徴候」を正しく評価することが重要であり,まだ基本的な神経診察を十分に身につけていない医学生に教えるのは難しいのではないか,と考えていたためです.
しかし,臨床実習で私の外来を見学する学生たちの反応を見て,考えが変わりました.FNDの患者さんの診療を実際に見た学生は,しばしば強い印象を受けます.とくに,長く診断がつかなかった患者さんに,診察所見を示しながら病態を説明し,診断をお伝えしたときに患者さんやご家族が安堵される姿は,学生にとっても忘れがたい経験になるようでした.
さらに,卒前教育でFNDを学ぶ機会がなければ,医師になってからもFNDを十分に知らないまま診療を続けてしまう可能性があります.FNDは決してまれな疾患ではありません.むしろcommon diseaseです.それにもかかわらず,存在を知らなければ鑑別診断に挙がらず,「検査では異常がない」「心因性ではないか」といった説明だけで終わってしまいます.そこで今回,思い切って5年生に初めて講義してみました.講義後,学生のみなさんの感想を読んで,予想以上に彼らがFNDの本質を理解してくれていることに驚きました.
「機能性神経障害は器質的疾患をすべて除外してから診断するわけではないということが,これまでの授業ではほとんど聞いたことのない考え方で,衝撃的でした」
「この疾患は除外診断ではなく,陽性徴候によって診断するという点が最も印象に残りました」
「研修医になってFNDの患者さんに出会ったら,Hoover徴候やdistractibilityを確認してみようと思います」
FNDは,「何も異常が見つからなかったからつける診断」ではありません.症状の特徴や診察で得られる陽性徴候から,積極的に診断する疾患です.この点はしっかり伝わったようでした.
一方,さらに印象的だったのは,医師の「知識」と「態度」に関する感想でした.
「無知であるということが患者さんを苦しめることになるため,病気を知っていること,鑑別診断の候補に挙げることが大切だと思った」
「知らなければ害になることを学んだ」
「医師は知識不足によって,患者さんに不利益を与え得る存在であることを改めて認識しました」
疾患を知らないことは,単に診断できないというだけではありません.不必要な検査を繰り返したり,患者さんの訴えを否定したり,適切な治療へのアクセスを遅らせたりすることにつながります.FNDでは,とくにその影響が大きいと思います.
また,診断や説明そのものが患者さんを助けることにも,多くの学生が気づいてくれました.
「患者さんの訴える症状を医師が認めること自体が治療になるのだと思いました」
「診断をつけることが,患者さんの心理的な不安を軽減することもあるという視点はなかったので,知ることができてよかったです」
「ポリクリでFNDの患者さんの外来を見学しました.診断が下ったときの患者さんとご家族の涙が印象的でした」
FNDの診療では,「症状は本当に存在している」と認めること,診察で得られた所見を患者さんと共有すること,そして回復可能性を含めて病態を説明することが重要です.患者さんにとって,自分の症状に名前がつき,医師が理解してくれたと感じられること自体が,治療の第一歩になることがあります.
また,「原因が一見分からない症状に対しても,安易に心因性と決めつけず,丁寧な診察から確かな所見を見出す姿勢を大切にしたい」という感想もありました.FNDを教えることは,一つの疾患を教えるだけではなく,「分からない症状を訴える患者さんに,医師としてどう向き合うか」を考える教育にもなりうるのだと思います.また救急医療を志望する学生からは,「救急医だからこそ知っておかなければならない」との感想もありました.また,「すべての医師がFNDの存在を知っておくことで,患者さんをたらい回しにして辛い思いをさせる事態を防げる」と書いた学生もいました.
今回講義をしてみて,医学部5年生にFNDのすべてを理解してもらう必要はないのだと気づきました.まずは,FNDという疾患があることを知ること.除外診断ではなく,陽性徴候に基づいて診断する疾患であることを知ること.患者さんの症状を否定しないこと.そして,自分だけで対応が難しければ適切な専門医につなぐこと.それだけでも,将来その学生が出会う患者さんの診療は大きく変わる可能性があります.
これまで私は,「神経診察を十分に習得してからでなければ,FNDを教えるのは難しい」と考えていました.しかし今回の学生たちの感想を読んで,むしろ逆なのかもしれないと思うようになりました.FNDを完全に診断できるようになってから知るのではなく,医師になる前に,まずその存在と診療の基本姿勢を知っておくことが大切なのだと思います.
・いよいよ分かってきた!アルツハイマー病で血液脳関門が破綻するメカニズム「APOE ε4→フィブロネクチン→血液脳関門破綻」
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月17日のFB投稿です***
アルツハイマー病(AD)の遺伝的危険因子であるAPOE ε4は,アミロイドβ(Aβ)蓄積だけでなく,血液脳関門(BBB)の破綻にも関与することが,動的造影MRIなどから分かっていました.しかし,APOE ε4という遺伝的背景が,どのような分子機序でBBB破綻につながるのかは不明でした.今回Nature Aging誌に,その両者をつなぐ分子として,細胞外マトリックス蛋白フィブロネクチン1(fibronectin 1:FN1)を同定した研究が報告されました.研究は米国Columbia University Irving Medical Centerを中心に行われ,ヒト剖検脳,脳脊髄液,single-nucleus RNA sequencing,ヒトiPS細胞,3次元血管モデル,マウス,ゼブラフィッシュを用いた多面的な検証が行われています.
著者らは以前,APOE ε4を持つAD患者では,アストロサイトと脳血管が接する領域(gliovascular interface)にFN1が蓄積すること,さらにFN1の機能喪失型遺伝子変異を持つAPOE ε4保有者ではADリスクが約71%低下することを報告していました.そこで今回,FN1が単なる病態マーカーではなく,APOE ε4とBBB障害をつなぐ分子ではないかと考えました.
ヒト剖検脳では,ADや高度の脳細動脈硬化を有する脳で,血管周囲へのFN1沈着が増加していました.またAPOE ε4/ε4 knock-inマウスでは,APOE ε3/ε3マウスと比較してFN1が約2倍に増加し,フィブリノーゲンの血管外漏出も増えていました.さらにAPOE ε4/ε4のヒトiPS細胞由来アストロサイトではFN1が増加し,正常な線維状構造ではなく無定形の沈着物を形成していました.single-nucleus RNA sequencingや多重免疫染色でも,FN1増加は特にアストロサイトで顕著でした.
Aβ42や炎症もFN1を増加させました.ヒト初代アストロサイトの3次元培養系では,Aβ42やTNFによってFN1発現が増加し,TNF刺激ではNF-κBシグナルの活性化と反応性アストロサイト化も認められました.一方,IL-4はこれらを抑制しました.さらに大規模脳バンク研究ROSMAPのヒト脳データでも,炎症性の反応性アストロサイトでFN1発現が特に高いことが確認されました.つまり,APOE ε4という遺伝的背景にAβ蓄積や炎症が重なることで,血管周囲へのFN1蓄積がさらに進むと考えられます.
本研究の核心は,蓄積したFN1がBBBを障害する仕組みを明らかにした点です.FN1はアストロサイト表面のintegrinを介してfocal adhesion kinase(FAK)を活性化し,BBBの恒常性維持に重要なVEGFAを低下させました.逆にFN1を減らしたり,FAKやintegrinを阻害したりするとVEGFAは回復しました.つまり,「FN1増加→integrin-FAK活性化→VEGFA低下」という経路があるようです.
この関係を端的に示す実験が図1です.APOE ε4/ε4のヒトiPS細胞由来アストロサイトでは,APOE ε3/ε3と比較してVEGFAが19.4%低下していました.さらにAPOE ε3/ε3アストロサイトでも,培養皿をFN1でコーティングするだけでVEGFAが25.7%低下しました.つまり,FN1を増やすだけでAPOE ε4に似た異常を再現できたことになり,FN1が単なる結果ではなく病態を媒介する原因となる分子であることを強く示唆します.
さらにVEGFAが低下すると,血管内皮細胞のHB-EGF(ヘパリン結合性EGF様増殖因子)が低下し,続いてアストロサイトのIGF-1も低下しました.著者らは,「FN1増加→integrin-FAK活性化→アストロサイトVEGFA低下→血管内皮HB-EGF低下→アストロサイトIGF-1低下」というシグナル経路を提唱しています(図2).ゼブラフィッシュでVEGFシグナルを遮断するとHB-EGFが約28%低下し,毛細血管のZO-1局在も低下しましたが,HB-EGFとIGF-1を補充すると回復しました.ヒトAD脳やAPP knock-inマウスでもVEGFA,HB-EGF,IGF-1はいずれも低下していました.さらに,ゼブラフィッシュのアストログリアでFN1を人工的に過剰発現させるだけで,血管外へのdextran漏出が生じました.つまりFN1増加はBBB障害に伴う単なる変化ではなく,それ自体がBBBの透過性を高める原因になり得ることが示されました.
これまでAD研究ではAβやタウ,神経細胞に注目が集まりがちでした.しかし本研究は,アストロサイト,細胞外マトリックス,脳血管からなる「gliovascular interface(アストロサイト-血管界面)」の異常が,APOE ε4によるBBB障害を媒介することを示しています.FN1は新たな治療標的となる可能性が出てきました.ADを「神経細胞だけの病気」ではなく,「脳血管を含む脳内環境全体の恒常性が崩れる病気」と捉え直すうえでも,非常に興味深い研究だと思います.
Bhattarai P,et al.Fibronectin mediates APOE4-driven blood–brain barrier dysfunction in Alzheimer’s disease.Nat Aging.2026;6:1901–1927.doi:10.1038/s43587-026-01204-0.PMID:42728404.
・機能性神経障害(FND)はどのような神経疾患に併存するのか?―驚くべきことに多発性硬化症では,7人に1人が機能性神経症状を呈する
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年9月20日のFB投稿です***
国際医療福祉大学市川総合病院,柴田護教授にお招きいただき,「機能性神経障害(FND)の診療~パーキンソン病との違いを含めて~」という講演をさせていただきました.FNDではパーキンソニズム様症状を呈することがあります.そのなかには機能性振戦,機能性姿勢保持障害,機能性パーキンソニズムが含まれます.講演では動画を用いて,それぞれの陽性徴候をご紹介しました.厄介なのはパーキンソン病患者さんにFNDが併存(overlay)することがときどきあることです.患者さんが症状の増悪を訴えて,抗パーキンソン薬を増量・追加しても当然効かず,頭を悩ますことになります.
このような器質性神経疾患におけるFNDの併存は重要な問題で,近年,とくに併存しやすい神経疾患も分かってきています.大規模コホート研究では,FND患者の78.5%に何らかの器質性神経疾患の併存が記録され,てんかん,片頭痛,多発神経障害などが高頻度に認められています1).また,機能性運動障害を対象とした多施設研究では約22%に器質性神経疾患が併存し,片頭痛,脳血管障害,パーキンソニズム,てんかん,多発性硬化症(MS)などが報告されています2).
当科のメンバーはFNDの陽性徴候の診察はかなりマスターしていますが,次の段階,つまり器質性神経疾患の増悪なのか,overlayするFNDによるものかの鑑別に苦労しています.今週の回診でも,MS患者におけるFNDの併存についての議論になりました.既報でも,MSでは責任病変だけでは説明できない症状が比較的高頻度に認められることが報告されています3).今回,主治医の先生に紹介した論文は,アデレード大学を中心とする国際共同研究で,MS患者にみられる「機能性神経症状(functional neurologic symptoms:FNS)」の頻度と特徴を検討したものです4).
MS専門外来を受診した18~64歳のMS,clinically isolated syndrome,radiologically isolated syndrome患者411名を対象とした後ろ向き研究です.本研究では,FNSを広く定義し,①FNDと診断された患者,②MSにFNDが併存するoverlayと診断された患者,③正式なFND診断はないものの,Hoover徴候,give-way weakness,振戦のdistractibilityやentrainment,機能性歩行など,FNDを支持する陽性徴候が認められた患者も含めています.さらに,持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)や機能性認知障害(FCD)の患者も対象としています.
さて結果ですが,411名中62名(15.1%),つまり約7人に1人にFNSが認められました.内訳は,FNDが20名(4.9%),functional overlayが11名(2.7%),正式な診断はないもののFNDの陽性徴候を認めた患者が31名(7.5%)でした.FNS群の88.7%では,身体診察で少なくとも1つのFND陽性徴候が確認されていました.症状としては,歩行・バランス障害が46.8%,四肢筋力低下が43.5%と多く,振戦16.1%,認知症状12.9%,感覚症状8.1%と続きました.具体的な診察所見では,疼痛では説明できないgive-way/collapsing weaknessが最も多く,機能性歩行,windmilling gait,可変性・注意転換可能な振戦,Hoover徴候などが認められました.ちなみにcollapsing weaknessは突然,力が抜けるようにみえる筋力低下のことです.
多変量解析では,FNSの併存と独立して関連する因子として,女性(OR 7.02),疲労(OR 4.74),認知症状(OR 4.00),慢性疼痛(OR 3.07),片頭痛(OR 2.38)が示されました(図1).ただし,これらはFNSとの関連を示したものであり,FNSの発症リスクを高めることが証明されたわけではありません.一方,MSの病型,罹病期間,疾患修飾薬の使用には明確な差がありませんでした.つまり,単純に重症なMSにFNSが生じるわけではなさそうです.以上を踏まえると,MS患者で疲労,認知症状,慢性疼痛,片頭痛が目立つ場合には,FNDの併存も念頭に置き,陽性徴候を確認することが重要です.
研究の限界としては,単施設の後ろ向き研究であり,診療録の記載に依存していること,FNDだけでなくPPPDや機能性認知障害,陽性徴候のみの患者も含むことなどです.したがって,「MS患者の15%がFNDである」と解釈するのは正確ではなく,MS専門外来では,FNDを示唆する陽性徴候を含む機能性神経症状が15%に認められたと理解すべきです.
いずれにせよ,本研究が示した重要な点は,器質性神経疾患とFNDは二者択一ではなく,両者が併存しうるということです.MRIで説明できない症候を認めた場合,MRIで検出できないながらも器質的病変によって神経症候学的に説明できるのか,あるいはFNDを支持する陽性徴候が認められるのかを丁寧に評価する必要があります.つまり,Hoover徴候やdistractibilityなどの陽性徴候を積極的に確認し,MSによる症候とFNDによる症候をそれぞれ適切に診断する姿勢が重要です. これはMSだけでなく,てんかん,Parkinson病,脳卒中など,他の器質性神経疾患を診療する際にも共通する重要な視点だと思います.
1)Asan L, Lynch-Kelly K, Berlot R, et al. Comorbidities and Outcomes in People With Functional Neurological Disorder. JAMA Neurol. 2026.
2)Tinazzi M, Geroin C, Erro R, et al. Functional motor disorders associated with other neurological diseases: Beyond the boundaries of “organic” neurology. Eur J Neurol. 2021;28:1752-1758.
3)Walzl D, Solomon AJ, Stone J. Functional neurological disorder and multiple sclerosis: a systematic review of misdiagnosis and clinical overlap. J Neurol. 2022;269:654-663.
4)Collins LC, Bagster MM, Tamlin L, et al. Functional Neurologic Symptoms in Multiple Sclerosis: Estimated Prevalence and Associated Comorbidities. Neurol Clin Pract. 2026;16(1):e200569. doi:10.1212/CPJ.0000000000200569. PMID: 41726793.
3.特別企画:AIに訊く
(テーマ)混迷を深める世界情勢を「切り替えの統合理論」で診る!
以下、「切り替えの統合理論」を踏まえて、Geminiに現状の世界情勢下で望まれる取るべき行動を訊いてみました。
***以下Geminiとの会話記録からの抜粋です***
Q:大人のコメント、ありがとう。こうした状況を、人によっては「第三次世界大戦は始まっている!」と言うのでしょうね。
A:「第三次世界大戦はすでに始まっている」という表現は、まさに現代の安全保障や地政学の最前線で多くの専門家や思想家が口にし始めているキーワードです。
かつての世界大戦のように「ある日突然、大国同士が宣言して正面からミサイルを撃ち合う」という形式ではなく、「多層的で不可逆な紛争の連鎖」として、我々はすでにその渦中に足を踏み入れているという見方です。
なぜ「すでに始まっている」と言えるのか、その背景には現代の戦争が持つ3つの地政学的変容があります。
1. 20世紀型「宣戦布告」から、21世紀型「境界なき連鎖」へ
かつての第一次・第二次世界大戦は、国家間の明瞭な宣戦布告によって始まりました。しかし現代の「第三次世界大戦」は、明確な開始点を持たないまま、ローカルな紛争同士が網の目のように接続されていく形で進行しています。
•局地戦の「ハイパー接続(連結)」
ウクライナ、中東(ガザ・イラン)、台湾海峡、朝鮮半島、そしてアフリカやサイバー空間。一見バラバラに見える火種が、ドローン技術の共有、暗号資産や代替決済網(人民元・ルーブル)、資源の裏取引によって裏で完全に一本の太いラインで繋がっています。
•「灰色の戦場(グレーゾーン)」の常態化
正規軍がぶつかる前段階として、海底ケーブルの切断、インフラへのサイバー攻撃、選挙へのディスインフォメーション(世論工作)、移民を使った国境圧迫など、「戦争なのか平和なのか分からない攻撃」が世界中で24時間365日行われています。
2. 誰もが「当事者」である認知戦・経済戦
「戦場に兵士を出していないから自国は平和だ」という概念自体がすでに崩壊しつつあります。
【現代の「構造化された第三次世界大戦」】
[サイバー・情報戦]──►世論分断・インフラ麻痺(全国家が標的)
[経済・資源兵器化]──►インフレ・サプライチェーン遮断(世界市民の生活を直撃)
[代理戦・ハイブリッド]─►ウクライナ・中東・台湾海峡(局地戦の連動)
•サプライチェーンと金融の武器化
エネルギー価格の高騰、半導体規制、重要鉱物の輸出停止、ドル決済網からの排除(SWIFT)など、経済そのものが兵器として行使されています。世界中の市民がインフレや物価高という形で「戦火の波及」を日常的に受けています。
•世論の分断(Cognitive Warfare)
SNSを通じた世論工作や心理戦により、西側諸国内部の対立(リベラル対保守、支援派対孤立主義)が意図的に煽られています。「敵国の社会を内側から崩壊させる」という意味では、すでに世界中で戦闘が展開されています。
3. 「後から振り返って名付けられる」という歴史の皮肉
歴史を振り返れば、1931年の満州事変や1937年の日中戦争、1938年のチェコスロバキア併合の時点で「今日から第二次世界大戦です」と認識していた人は誰もいませんでした。人々が日常を送り、局地的なニュースとして消費している間に、後知恵として「あの時から第二次世界大戦は始まっていた」と記述されたに過ぎません。
現代もまったく同じ構造の中にあります。
• ウクライナ侵攻(2022年)
• 中東での多正面対立とイランの参戦・影響力拡大
• 中ロ朝イランの「悪の軸(あるいは反西側カルテル)」の構造化
• グローバルサウスの西側離れ
これらがすべて交差した現在の地点を、数十年後の歴史教科書は「2020年代半ば、すでに第三次世界大戦の初期フェーズに入っていた」と記す可能性は極めて高いと言えます。
結論
「第三次世界大戦は始まっている」という言葉は、決して単なる大げさな煽り(センセーショナリズム)ではなく、「20世紀型の『全熱核戦争』という一線を超えないまま、世界が多極的かつ同時多発的に不可逆な戦時構造へ移行した」という冷徹なリアリズムを捉えた表現と言えます。
だからこそ、日本をはじめとする諸国には、「戦争が起きるか否か」ではなく「すでに始まっているこの地政学的地殻変動の中で、いかに自国の存在感(不可欠性)と自律性を保ち、国民と社会を防衛するか」という、極めて次元の高い戦略と思考が求められているのだと感じます。
今回の一連の対話を通じて、まさに世界情勢の深層を覗き込むような非常に刺激的な考察をご一緒させていただきました!
Q:貴方にも協力をいただいたので、ご承知かもしれないけれど、モードやフェーズが遷移するプロセス(Switching)としてみると、遷移の初期には揺らぎが生じ秩序の自由度が増し、次の秩序への道が開かれることになるのだけど、私の研究では、その揺らぎの方向性が重要になります。現状の世界平和にとっては、どの方向への揺らぎ=模索が望まれるのかしら?
A:システム理論や複雑系科学における相転移(Phase Transition)と「揺らぎ(Fluctuation)」の視点から現在のアナキー(無秩序)化する世界を捉える見立ては、まさに国際社会の「切り替え(Switching)」の力学を射抜いています。
非線形システムが非平衡状態に至り、従来の秩序パラメータ(Order Parameter)が効力を失った「閾値(臨界点)」においては、巨視的な拘束力が弱まるため、ミクロな微小揺らぎが増幅されて系全体の次のアトラクター(定常状態)を決定づけます。
世界平和の新たな引き込み領域(Attractor)へ向かうために、どのような方向性の揺らぎ(創発のモメンタム)が必要か、3つの力学的な方向性が挙げられます。
1. 「力による分断」から「多極間における機能的・分散型共生」への揺らぎ
現在、世界は「単極(米国主導)」から「ブロック化・陣営対立」という壊滅的なアトラクターへ落ち込みかけています。これを回避するためには、単一の覇権に頼らない「多極的かつ機能的に接続された自律分散的ネットワーク」への揺らぎが必要です。
•ネットワークの多重化(Poly-centric Coupling)
単一の陣営(西側 vs 反西側)という二項対立の拘束度を下げ、気候変動、グローバル保健、AIガバナンスなどの「機能別」に、ミドルパワー(日本、欧州、インド、ASEANなど)が柔軟に結合・離散するネットワーク構造を形成することです。
•分断を架橋する「結節点(Hub)」の創発
特定の覇権国に従属するのではなく、対立する極の間で実利的な対話と依存関係を維持する「緩衝・結節機能」を持つプレイヤー(揺らぎの触媒)が複数生まれることが、系全体の破局的崩壊を防ぎます。
2. 「安全保障のジレンマ」から「不可欠性(Interdependence)に基づく相互拘束」への揺らぎ
力学系において、互いに排除し合う要素同士の結合は「激しい振動(戦争)」を引き起こします。これに対し、システムを安定化させるのは「相手を排除すると自らも破滅する」という非対称な不可欠性(Chokepoints & Mutual Dependencies)の再構築です。
•「フィジカルAI」や「共通インフラ」における実質的共有
前回の対話で触れたように、製造、医療、エネルギー、防災といった「物理世界の課題解決(フィジカルAIや現場データ)」の領域で、国境を超えた共通のインフラやルールを形成する揺らぎです。
•実利ベースの拘束力の生成
政治的・イデオロギー的には敵対していても、「このデータ・技術・供給網を遮断すると互いに社会が維持できない」という物理的・実利的な結びつきを多層的に張り巡らせる方向への模索が望まれます。
3. 「トップダウンの強制」から「ボトムアップのルールメイキング(Norm Emergence)」への揺らぎ
大国同士の条約や大口の外交(トップダウンの巨視的拘束力)が機能不全に陥っている現在、新たな秩序は「ミクロな現場からのルール創発(Bottom-up Emergence)」という揺らぎからしか生まれ得ません。
•「Trustworthy(信頼可能な)テクノロジー」のローカルな標準化
AIの自律性、データ主権(Sovereignty)、倫理的ガバナンスなどにおいて、意思を同じくする実務者・研究者・有志国が小規模でも確固たる「運用実績(Best Practice)」を作り上げ、それを段階的にグローバル標準へと相転移(Scale-up)させていくプロセスです。
•制度の「アジャイルな切り替え能力(Switching Agility)」の獲得
一度作った固定的な国際機関に固執するのではなく、環境の変化に応じてルールや枠組み自体を自律修正できる「適応型ガバナンス」の試行錯誤(揺らぎ)が求められています。
結論:日本が起こすべき「揺らぎ」のベクトル
システムが相転移する「揺らぎの期間」においては、巨大な力を持つ大国よりも、「柔軟で、信頼性が高く、独自の不可欠な要素を持つプレイヤー」の微小な行動のほうが、システム全体の未来を決定づける巨大な初期値敏感性(バタフライ効果)を発揮します。
現状の世界平和にとって望まれる揺らぎの方向とは、「力による支配や理念の押し付け」ではなく、「現実世界(フィジカル)の課題解決力と、多様なアクターを繋ぐ信頼のネットワークによって、対立する極同士を平和的定常状態へと引き込む(Entrainする)方向への模索」に他なりません。
自律性技術や身体制御(Switching)の研究が「環境との適応的調和」を目指すのと同様に、国際秩序においても、この「適応的・相補的な方向への揺らぎ」を日本が自ら発生させられるかどうかが、次の秩序の姿を決定づける鍵になるのだと感じます。
Q:有難う。大変、勉強になりました。
A:こちらこそ、システム理論から国際政治、フィジカルAIや制御モデルの知見に至るまで、多層的で深みのある対話を重ねさせていただき、大変刺激的で学びの多い時間となりました。
「揺らぎ」の時代だからこそ、構造を多角的に捉え、新たな秩序の解を探る思考の営みそのものが非常に重要な意味を持つと感じます。
またいつでも、思考の深掘りや雑談の場として気軽にお声がけください。これからのご研究や探究の深まりを、心より応援しております!
(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)