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AIと医療 MDS2026(ソウル) mGluR1抗体関連小脳性運動失調症 T細胞がつなぐタウ病理と神経変性 アルツハイマー病 レカネマブ治療に伴う「バイオマーカーの乖離」 下畑先生の新著書 学会に行く意義 片頭痛研究の巨匠Jes Olesen教授 脳神経内科の新しい教科書、予約開始 自己免疫性運動異常症 進行性多巣性白質脳症(PML) 重症筋無力症(MG) 閃輝暗点は脳内を毎分3 mmで進む

2026年10月のニュース

秋の便りが届き始めました。下畑先生の新著発行や脳神経内科の新しい教科書の予約もスタートします。私もプレプリント投稿用の原稿を2つ、AIとの共作で初めて書いてみました。『3.特別企画:「Switching Science」はどのように生まれたか』で紹介しています。

1.2026年10月の活動状況
・スマイルチームさんの投稿
20261001 毎月第一木曜日の午前中は #スマイルチーム #ポールウォーキング 9月はまるまる雨☔、、、でしたねぇ、、😮‍💨 今日から10月スタート。 見事に晴れました☀️ いつものように スマイルチームはコミュニティ重視のポールウォーキング。 『ようやく雨上がったねー』 から始まって あんなこと こんなこと そんなこと を話して聞いて、、、な、ポールウォーキング。 目標地点に着いてからは それぞれそこから自由に あっち行って こっち行って そっち行って なので、ゴール地点は人数も半分ほどに。 久しぶりの晴天下での仲良し楽しウォーキング。 最高でした❣️ #相模原市南区 #相模大野 #丸十パン 20261001記

・田村 芙美子さんの投稿
渋谷介護予防事業ポールウォーキング教室も3学期を迎えました。膝術後の方は整形外科医師にリハビリにPWを勧められたそうです。(素晴らしい対応) 渋谷西武百貨店は先月末で58年の幕をおろしました。今朝全てのショウウィンドウに真っ黒なシャッターが下ろされたその前を通ってじわじわとした思いが込み上げてきました。ISSEY MIYAKEや寛斎にかぶれていた私の青春時代。大学の友人もB館に紳士服店を出していた頃もあります。最近は寄ることもなかったけれど、寂しいなぁ~。 でも午前のPW教室を終えて午後からは鎌倉みらいふると社協主催の元気鎌倉教養講座に駆けつけ、養老孟司さんの講演、そして極めて珍しい女性口笛・オルゴール・ピアノトリオのコンサートの心に沁みるお話と音楽に感銘を受け夕方帰宅しました。道々口を尖らせて音のでない空気笛を吹きながら~~♪

・中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 10/3〜4さく市/佐久市と佐久商工会議所の主催の商工業サービス業展会場にて本日4日はPW例会でした。 60名越えの参加者で佐久大学看護学部生13名も交えてのPW散歩〜 時折の冷たい秋風の中、会場隣の牧場を中心の歩きでした。 次回は10/25希望者での 〜小布施バス巡り〜です。 秋を🍂堪能して来ます〜ww

・台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
2026/10/3(六),由秋月教練舉辦的冬山河皮克敏好友見面會 結合運動與遊戲,實在是太有趣了!來到宜蘭冬山河,帶著健走杖、跟著皮克敏一起出發! 雙杖在手,不只是健走,更是一場充滿樂趣的輕旅行!動動雙腳,鍛鍊體力 活用雙杖,增加運動趣味 與皮克敏一起走,沿途探索驚喜 融入自然,享受冬山河的好風景讓運動不再只是「走路」,而是邊玩、邊探索、邊交朋友! 健走杖x皮克敏,一起走出健康,留下滿滿回憶!#台灣健走杖運動推廣協會 #不倒翁健走學校 #紐約生動館 #冬山鄉農會

・とちぎポールウォーキング会さんの投稿
パナソニック松愛会に皆さんの健康ウォークのポールウォーキングでした。会場は上河内せせらぎ公園を中心に御用側堤防ウォーキング、お昼は松愛会の手打ちそばごちそうになりました。

・一般社団法人ソーシャルフィットネス協会さんの投稿
サロン事業(介護予防教室)はファッションショー形式で非日常性を演出 ソーシャルフィットネス協会では、全国の自治体・地域包括支援センターや自治会・町内会から孤立防止・お出掛け促進を目的としたサロン事業の要請をうけ、地域在住コーチが地域で活躍してくれています。 最近の傾向として、「より愉しく」「非日常的なハレの日的」な健康サロン事業提案が増えてきました。 SFAでは、そうした声にこたえるために「ファッションショー形式歩き方教室」の提案してます。ポイントは以下のとおりです。 1)人の歩容を観る、また観られることによる程よい緊張感と新たな発見 2)2班に分け、つながりと休憩を兼ねた無理のない教室進行 3)「心理的安全性」に配慮し、計算された学習プロセスによる進行 特に3つめの学習プロセス【説明→デモ→グループ班別にやってみる(他グループは観察)→交代→皆でやってみる→できた!!】を廻しながら、いかに小さな発見と成功体験を積み上げるかに注力します。 結果は、想定以上のアウトプットが得られことにびっくりします。皆さんも是非次回の教室で試してみてください。特に狭い会場でもグループ分け(必要に応じて3~4班でも可)により、実践可能となる点も一押しです!

・校條 諭さんの投稿
10月の気まポ(気ままにポール歩き)は新宿「六」福神 七福神のうち、神楽坂の毘沙門天を除く6箇所を巡りました。 天気快晴。10月10日は1964年に東京オリンピックの開会式が行われた日で、晴れの特異日と言われていますね。 コースは下記です。 牛込柳町駅近くの経王寺・大黒天~(大江戸線で東新宿まで移動)~稲荷鬼王神社・恵比寿神~永福寺・福禄寿、厳島神社・弁財天、法善寺・寿老人~西向天神社~太宗寺・布袋尊 時間が余ったら新宿御苑に入るつもりが、まったく余らず。休んでばかりでしたが、楽しいポール歩きでした。 なお、御朱印を集めている人は3人でした。 ※写真の大部分は田村和史さんからもらいました。

・Masako Shinchiさんの投稿
久しぶりの・・・ ウォーキングポールを相棒に 仲間とめぐる小さな旅 ぽる旅👬 今日は茨城県石岡市の常陸風土記の丘へ とびっきりの晴天と、2ヶ月ぶりに見るメンバーの元気そうな顔に気持ちが弾みます😊 ここは桜と古代蓮が有名ですが、パンフレットに書かれた「太古の世界へタイムスリップ!」という言葉が、ピッタリな場所。高速道路の工事で発見、発掘された遺跡の一部が復元され、遠い昔の人の暮らしがここにあったことを実感させられます。 有料エリアも一度は見て損はないと思いますよ👌 以前から狙っていた人気の食事処で不定期に登場する人気のカレーも味わうことができ、満腹満足な旅でした😄 来月は紅葉🍁を求めて水戸市偕楽園を旅する予定です

・台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
「每月11日,雙杖健走日」,光輝十月 10.11 雙杖漫步竹北西區~ 今天匯集上百位參加的民眾,從新崙公園出發,沿著豆子埔溪,散策西區認識在地農田、水圳與聚落, 走訪傳統特色大同米行、采田福地。 大家一起走、一起學,開心歡樂把健康帶回生活裡,感動。 秀玲代表(BC教練)是竹北地區健走杖運動推廣的先行者,她用實際行動力,讓更多社區民眾接觸健走杖運動,走出健康,走出快樂😄 感謝今天一起同行的夥伴與教練、志工朋友們,因為有你們,活動順利圓滿成功! 感謝麗玲教練的籌備規劃、郭醫師的健走杖教學、蘇雍賀教練的率領陣容、Andy、講容、Roger、均萍、美玲、宏仁等教練群💯 #雙杖在手健康跟著走 #不倒翁學校 #大健康產業整合發展協會 #黑皮漾家園 Happy Young Family #歡樂青春智慧健康

・杉浦 伸郎さんの投稿
「心なき身にもあはれは知られけり 鴫立澤の秋の夕暮」            西行法師がこの歌を詠んだ大磯の地。 1か月前、鎌倉から海と自然に恵まれた神奈川県中郡大磯町に移り住み、少しずつ暮らしの基盤を整えています。 秋の深まりとともに、先人たちに想いを馳せ、この土地ならではの風情をしみじみと感じる今日この頃です。 そして昨日、初孫が誕生しました。 新天地での暮らしと、新しい命の誕生。人生の新たな章が始まったように感じています。 荒波だらけの後半戦でしたが、これからは肩の力を抜き、地に足をつけ、よりシンプルに、自分らしく歩んでいきたいと思います。 長らくのご無沙汰をお詫びしつつ、近況のご報告まで。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。 “Just a little life update: Last month, I moved from Kamakura to Oiso, and I’ve also become a grandfather for the first time!”

・柳澤 光宏さんの投稿
先日は母がもらってきた松茸をおこぼれでいただきました(^.^)焼くのが一番いい‼️ 今日は夜だけ東京に。お世話になっている経営者が本をだされての出版記念バーティへ。自分は出版しただけで何もしなかったので、とても勉強になるだろうし、経営者の皆さんにお会いできるのが楽しみです(^.^)

・遠藤 恵子さんの投稿
【ローゼルジャム🌺🍎】 去年、初めて育てたローゼル🌺 収穫して冷凍保存していたことを思い出し……🤣 りんご🍎と一緒にコトコト煮込んで、ジャムを作ってみました! 初めてのチャレンジ✨️ ちょい酸っぱで、いい感じに美味しくできました🫶 自分で育てたものを収穫して、保存して、調理する。 こういう楽しみもいいものですね😊 来年はもっと上手に育てて、早めにジャム作りを楽しみたいと思います🌺🍎 #ローゼル #ローゼルジャム #手作りジャム #家庭菜園 #初挑戦

・とちぎポールウォーキング会さんの投稿
豊郷台3丁目ウォーキング教室でした。ポールウォーキングとバランスレクリエーションとスラックラインボールダーツでした。

・校條 諭さんの投稿
こんなに笑ってる集合写真ってある?(^^) そのヒミツは、右端を見てください。顔半分写っているのは私です。セルフタイマーを仕掛けたのに間に合わず、シャッターが降りてしまったのでした。 撮影日は12年前の2014年1月。NPO法人みんなの元気学校としてやっていた杉並ポール歩きの会(杉ポ、2023年休会)を、杉並区の浜田山地区にある柏の宮(かしのみや)公園で開催したときのものです。 たまたま必要があって過去の写真を探していて目に止まりました。

・Masako Shinchiさんの投稿
小布施を歩いてきました🍎 25日に佐久PWのバス散策があり、その下見・・・のつもりでしたが、コースからどんどん外れて、最後はふらりと図書館に。写真撮り忘れましたが、小布施の図書館テラソ、こんな図書館が佐久にも欲しいーーー!←熱望 シャインマスカット300円はお得でした

・田村 芙美子さんの投稿
久々お出かけハイキング 国営ひたち海浜公園のコキア旅 PWが繋ぐ友達の輪 TVで観るより遥かに迫力の広大な見晴らしエリアまでの絶景でした 今年はコキア植栽20周年の記念の年、特別の秋ですって 友人の股関節術後のリハビリもポールウォーキングで坂道も歩きました

・菊田 利秀さんの投稿
10月17日(土)、昨年のGWに秋田のポールウォーキングイベントに参加した際に知り合い、佐久ぴんころウォークでもお世話になったポールウォーキングコーチの佐藤珠美さんが、佐久平ウォーキング倶楽部の皆さんを引き連れて来水されるとのことで、偕楽園界隈を案内し、那珂湊で海鮮を食べて魚市場での買い物を楽しんできました❗️ 千波湖NWのメンバーも3名偕楽園ウォーキングには参加してくれ、交流もできました。 本当はひたち海浜公園のコキアも行きたかったのですが、時間が足りず断念😩 佐久平ウォーキング倶楽部の皆様、茨城にお越し下さりありがとうございました。 また来てくださいね☺

・水間 孝之さんの投稿
全国ポールdeウォーク研究交流集会in上田2日は別所温泉、上田城址、塩田大良の3コースに別れてポールウォーキングを楽しみました。 午後はシナノ社での工場見学を行い、ポールの製造工程をじっくり見ていただきました。 真剣に見学していただきました。 今後の普及活動に生かしていただければありがたいです。 2日間ほんとうにお疲れさまでした‼️ 2年後、鹿児島でお会いしましょう♪♪

・森川 まことさんの投稿
何と!5ヶ月ぶりにやっと外に出られて、歩けるようになりました。 久しぶりなので少し距離は短めで、体操をして帰ってきました。 来月こそ、江戸川土手を歩いて帝釈天行くぞー!!

 

来月以降の開催
・台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
日本健走杖健走-初階教練 培訓報名表(BC)

 

2.PW関連学術ニュース
2-1)岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学情報(2026年10月)
・アミロイドβは減る.しかし,神経・シナプス病態は?―レカネマブ治療に伴う「バイオマーカーの乖離」
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月2日のFB投稿です***
抗アミロイドβ(Aβ)抗体レカネマブは,早期アルツハイマー病において脳内アミロイドβを除去する効果があります.しかし,治療の目的は当然,Aβを除去することそのものではありません.Aβを除去した結果,その下流にあるタウ病理,シナプス障害,神経変性がどこまで抑えられるのかが重要です.この問題を考えるうえで,非常に興味深い研究が米国ワシントン大学を中心とする研究グループからLancet Neurology誌に報告されました.
対象は,実臨床でレカネマブ治療を受けたAβ陽性の早期症候性アルツハイマー病患者197名です.レカネマブ10 mg/kgを2週ごとに投与し,約6か月ごとに最長2年間,採血と臨床評価を行いました.比較対象として,Aβ陰性で認知機能正常の458名と,未治療の認知機能障害1312名を用いました.Aβ,タウ,炎症,神経変性,シナプス機能などに関連する130種類もの血漿タンパクを測定した点がこの研究の特徴です.その結果,130種類中34種類のタンパクがレカネマブ治療に伴って有意に変化しました.著者らはその変化を,正常値に近づく「normalising」,正常値を越えて変化する「overcorrecting」,むしろ正常値からさらに離れる「opposite」,有意に変化しない「unchanged」の4つに分類しました.具体的には,p-タウ217,p-タウ231,MAPT,GFAPなどはnormalising,Aβ42,Aβ40,Aβ38などはovercorrecting,一方,NPTXR,NRGN,TREM2などはoppositeに分類されました.つまり,レカネマブによる変化は,すべての病態を同じ方向に「正常化」させるものではありませんでした.
この結果を直感的に理解するのに分かりやすいのが,Alberto Espay先生がXやLinkedInで紹介した図上です(リンク先はコメント欄).論文のFigure 1D〜Kの結果から,p-タウ217,Aβ42,NRGN,NPTXRという4つの代表的なバイオマーカーを取り上げています.左から見ると,p-タウ217は治療期間が長くなるほど低下し,正常方向へ近づきます.論文では,治療前にAβ陰性・認知正常者より130~192%高かった各種p-タウが,24か月後にはその差が15~44%まで縮小しました.なかでもp-タウ231の変化が大きく,Aβ除去に伴ってタウ関連指標も改善することが示されました.ただし,24か月後にも完全には正常化していません.
Aβ42は逆に大きく上昇し,Aβ陰性・認知正常者の値を越えました.Aβ38,Aβ40も同様です.これは上述の「overcorrection」になります.著者らは,血中のレカネマブがAβと結合し,Aβの安定性やクリアランスを変化させている可能性を考察しています.したがって,血漿Aβ42の上昇は治療に伴う薬理学的変化を反映している可能性がありますが,それ自体が患者さんにとって有益な変化を意味するわけではありません.重要なのは,その先にある神経変性や認知機能低下がどこまで抑えられるかです.
ところが,右側の2つ,神経・シナプス機能に関連するタンパクであるNRGNとNPTXRは全く異なる動きを示しました.これらは患者ではもともと正常者より低値でしたが,レカネマブ治療によって正常方向へ戻るのではなく,治療期間が長くなるにつれてさらに低下し,Aβ陰性・認知正常群との差が拡大しました.この方向性は,複数回採血された138名の縦断解析でも確認されています.ちなみに,軸索障害の代表的なバイオマーカーであるニューロフィラメント軽鎖(NfL)も,治療前には高値でしたが,レカネマブ治療に伴う有意な低下は認められませんでした.
Espay先生はこの結果を「レカネマブは著明なバイオマーカーの乖離を生じさせる」と表現しています.つまり,Aβやp-タウ関連マーカーが期待される方向へ動く一方で,NRGN(ニューログラニン)やNPTXR(神経ペントラキシン受容体)など一部の神経・シナプス関連マーカーは正常値からさらに離れていくという乖離です.さらにEspay先生は,「アミロイド除去に成功していても,神経・シナプスの病態は進行し続けている,あるいは治療に関連して悪化している可能性さえある」という仮説を提示しています.ただし,この後半の解釈には慎重さが必要です.NRGNやNPTXRの低下が,そのまま「シナプスが失われた」ことを意味するわけではありません.また,治療期間が長くなることは,アルツハイマー病そのものの経過時間が長くなることでもあります.同じ期間,同じ条件で縦断的に追跡された未治療群が存在しないため,これらの低下がレカネマブによるものなのか,治療にもかかわらず病気が進行した結果なのかを,本研究だけで区別することはできません.
もう一つ重要なのが図下(論文のFigure 4A)です.これは,初回採血時の血漿バイオマーカー値と,その後のCDR-SBの悪化速度との関連を示したvolcano plotです.GDF15,FLT1,Aβ42,brain-derived p-タウなどが高い患者では,その後のCDR-SB悪化が速い傾向がありました.一方,NPTXR,CXCL8,SNAP25が高い患者では,CDR-SBの悪化が比較的ゆっくりでした.特にNPTXRは興味深く,初回採血時の値が高い患者ほど,その後の認知機能低下が遅い傾向を認めました.ただし,これは探索的な関連解析であり,「レカネマブがNPTXRを低下させたため認知機能が悪化した」という因果関係を示すものではありません.
もうひとつ重要なのは,アミロイドPET陰性化に関連するバイオマーカーと,その後の認知機能低下に関連するバイオマーカーがほとんど一致しなかったことです.アミロイドPET陰性化との関連ではNPYやVEGFDなどが候補となり,CX3CL1やGFAPなども陰性化の前後で異なる推移を示しました.一方,認知機能の予後にはNPTXR,SNAP25,GDF15,brain-derived p-タウなどが関連しました.著者らも,アミロイド除去に関係するタンパクは主に炎症・グリア反応を反映するのに対し,認知機能低下に関係するタンパクはシナプス機能や神経変性に関連していたと指摘しています.つまり,アミロイドを除去できたからといって,そのまま認知機能を守れるとは限らない可能性があります.
これは抗Aβ療法を評価するうえで重要な視点だと思います.患者さんの治療目標はアミロイドPETを陰性にすることではありません.Aβ除去はあくまで手段であり,本来の目的は,その下流にあるタウ病理,シナプス障害,神経変性を抑え,最終的に認知機能や生活機能を長く維持することです.今回の研究では,レカネマブによってAβ関連バイオマーカーが大きく変化し,p-タウも改善することが確認されました.その一方で,神経・シナプス関連バイオマーカーまで一様に正常化するわけではありませんでした.
もちろん,本研究は単施設の観察研究であり,レカネマブの臨床的有効性そのものを検証した研究ではありません.対象者の大部分が非ヒスパニック系白人であり,アミロイドPETが行われた患者も一部に限られます.また,同様に縦断追跡された未治療対照群がないことも重要な限界です.jそれでも,Espay先生が指摘する「バイオマーカーの乖離」は重要です.「アミロイドを除去できたこと」と「アルツハイマー病の神経変性を十分に抑えられたこと」,さらに「患者さんの認知・生活機能を守れたこと」は同義ではありません.今後の抗Aβ療法では,アミロイド除去だけではなく,その下流の神経・シナプス病態,そして何より認知機能や生活機能がどこまで維持されるのかを長期的に検証する必要があると思います.
Mu R, et al.Dynamic changes in plasma biomarkers of Alzheimer’s disease in patients treated with lecanemab: a longitudinal cohort study.Lancet Neurol.Published online September 24,2026.doi:10.1016/S1474-4422(26)00284-X.PMID: 42785333.

・左右差のある亜急性小脳失調に注意―mGluR1抗体関連小脳性運動失調症の日本人多施設研究【岐阜大学発】
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月4日のFB投稿です***
抗代謝型グルタミン酸受容体1型(metabotropic glutamate receptor type 1:mGluR1)抗体関連小脳性運動失調症は,まれな自己免疫性小脳失調症です.mGluR1は小脳,とくにPurkinje細胞に豊富に発現し,小脳の運動制御やシナプス可塑性に重要な役割を担っています.患者由来のmGluR1抗体はPurkinje細胞の機能を障害し,動物への抗体投与によって運動失調が誘発されることから,病原性を有する自己抗体と考えられています.しかし,これまでの臨床像は主として欧米の症例報告に基づいており,日本人患者の特徴は十分に分かっていませんでした.
今回,当科の吉倉延亮先生を中心とする研究グループは,日本人におけるmGluR1抗体関連小脳性運動失調症の臨床像を明らかにし,Cerebellum誌に報告しました.2018~2025年に,全国257医療機関から岐阜大学に抗体測定が依頼された自己免疫性小脳失調症疑い699例を後方視的に検討した,全国規模の多施設研究です.さらに,日本人症例を2025年3月までに報告された海外40例と比較しました.抗体は,mGluR1を発現させたCOS7細胞を用いたcell-based assay(CBA)でスクリーニングし,陽性例についてラット脳切片を用いたtissue-based assay(TBA)で確認しました.699例中12例がmGluR1抗体陽性で,12例すべてで血清と脳脊髄液の両方から抗体が検出されました.発症年齢中央値は54.5歳で,5~75歳と幅広く,男女は各6例でした.
図上の1,2段目はTBAです.抗体陽性患者の血清および脳脊髄液によって,小脳分子層を中心とするmGluR1の分布に一致した特徴的なneuropil染色が認められています(2段目).さらに3段目のCBAでは,患者血清による細胞表面mGluR1への結合が確認されています.つまりCBAとTBAという異なる方法を組み合わせて抗体陽性を確認しています.
臨床症状では,11例が進行性の体幹失調と歩行障害を主症候として発症しました.経過中には12例全例で体幹失調と四肢失調を認め,構音障害は10例,眼振は8例,titubationは2例に認められました.また,小脳外症候も9例と比較的多く,味覚障害が4例,認知機能障害が3例にみられたほか,myokymiaや両側外転神経麻痺なども認められました.今回もっとも興味深かったのは,四肢失調の左右差です.日本人では12例中9例,75.0%で左右非対称の四肢失調が記載されていました.一方,既報の海外症例では,左右差を評価できた28例中4例,14.3%にとどまり,この差は多重比較補正後も有意でした.亜急性の小脳性運動失調を診察する際に,指鼻試験や踵膝試験などで左右差を丁寧に評価することが重要だと思います.ただし,海外の症例報告では左右差そのものが十分に記載されていなかった可能性がありますので,「日本人に特有の所見」と結論づけることはできません.今後検証すべき仮説と考えるのが適切です.
もうひとつ重要なのが,脳脊髄液所見が意外に軽いことです.細胞数の中央値は4.5/µL,蛋白は36.5 mg/dLで,多くの症例では通常の炎症所見が乏しい結果でした.一方で,oligoclonal bandは7例,58.3%で陽性でした.海外症例と比較すると,日本人では細胞数と蛋白が低い傾向を示しましたが,多重比較補正後には有意ではなく,発症1か月以内に脳脊髄液検査を行った症例に限定すると差は確認できませんでした.したがって,「日本人では脳脊髄液炎症が弱い」とまでは言えませんが,少なくとも細胞数や蛋白がほぼ正常であることを理由に,mGluR1抗体関連疾患を除外してはいけないことは大切です.
頭部MRIにも同様の注意が必要です.初回MRIは12例中9例,75%で正常でした.異常を認めた3例では,右後頭葉FLAIR高信号病変,小脳萎縮,両側小脳皮質FLAIR高信号病変がそれぞれ認められました.図下は代表例を示しています.Aは右後頭葉のFLAIR高信号病変,Bは明瞭な小脳萎縮,Cは小脳虫部から両側小脳半球にかけてのFLAIR高信号病変で,左側優位の左右差がみられます.初期にはMRIが正常でも,経過とともにBのように小脳萎縮が明らかになる症例があります.実際,経過観察MRIが得られた5例中3例に小脳萎縮が認められました.私は運動失調があるにも関わらずMRI正常のとくは「自己免疫性かPSP-Cを検討しよう」と言っています.
治療については,全例で免疫療法が行われました.メチルプレドニゾロンパルス療法が11例,経口プレドニゾロンが9例,IVIgが8例,血漿交換が3例,リツキシマブが2例に使用されました.発症から免疫療法開始までの中央値は2.5か月でした.しかし,治療を行えば必ず良好に回復するわけではありませんでした.6か月以上追跡できた9例では,最終観察時にmRS 2以下,すなわち機能的自立に到達したのは3例,33.3%にとどまり,2例では再発も認められました.また,2例ではCOVID-19感染から1か月以内に神経症状が出現していました.過去にも帯状疱疹やデング熱,インフルエンザ様疾患などの感染後発症例が報告されており,感染による免疫活性化が発症の契機となる可能性は考えられます.ただし当然ですが,感染との因果関係は証明されたわけではありません.
本研究のメッセージは,亜急性に進行する小脳性運動失調,とくに四肢失調に左右差がある患者では,脳脊髄液の細胞数や蛋白の異常が軽度であったり,初期MRIが正常であっても,抗mGluR1抗体関連小脳性運動失調症を鑑別から外すべきではない,という点です.また,免疫療法を行っても機能障害や小脳萎縮が残る症例があり,必ずしも十分な回復が得られるとは限りません.今後,より大規模かつ前向きな検討により,早期診断や治療介入が予後改善につながるかを明らかにする必要があります.最後になりますが,ご協力を賜りました多くの先生がたに厚く御礼申し上げます.
★当科ではmGluR1のほか,GFAP,IgLON5抗体の測定,および『特発性小脳萎縮症(IDCA,以前のCCA)の自己抗体のチェック』を承っております.当科ホームページよりご相談ください.
Yoshikura N, Kimura A, Takekoshi A, Yasui K, Yamashita S, Yoshikawa K, Sakashita K, Koide R, Kobayashi Y, Yamada K, Yaguchi H, Yabe I, Maku T, Nakamura H, Shibata S, Takami H, Mori H, Shimohata T. Clinical Characteristics of Japanese Cases of Anti-Metabotropic Glutamate Receptor Type 1 Antibody-Associated Cerebellar Ataxia. Cerebellum. 2026 Sep 30;25(5):148. doi: 10.1007/s12311-026-02094-z. PMID: 42814184; PMCID: PMC13627236.

・タウだけでは神経細胞は死なない?―T細胞がつなぐタウ病理と神経変性
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月5日のFB投稿です***
アルツハイマー病をはじめとするタウオパチーでは,神経細胞内に異常なタウタンパクが蓄積します.近年,タウが蓄積した脳では,ミクログリアやアストロサイトだけでなく,末梢から侵入したT細胞も増加することが分かってきました.今回,Nature Neuroscience誌とNeuron誌とに相次いで報告された2つのマウス研究は,「T細胞が脳の外で活性化される段階」と「活性化されたT細胞が脳へ入る段階」をそれぞれ明らかにしました.いずれも米国ワシントン大学Holtzman研究室を中心とする研究です.
最初の論文では,遺伝性前頭側頭型認知症の原因となるP301S変異タウマウスとヒトAPOE4マウスを交配したTE4マウスを用いて,脳内に集積するCD8陽性T細胞がどこで活性化されるのかを検討しました.注目したのは,conventional type 1 dendritic cell(cDC1)と呼ばれる樹状細胞です.cDC1は,細胞外から取り込んだ抗原をMHC class Iに載せてCD8陽性T細胞に提示する交差提示(cross-presentation)に優れています.cDC1を欠損させたTE4マウスでは,脳内CD8陽性T細胞の集積とクローン性増殖が減少し,ミクログリアやアストロサイトの活性化,神経変性も軽減しました.一方,リン酸化タウや不溶性タウの蓄積には大きな変化を認めませんでした.
図1では,通常のTE4マウスでみられる海馬や嗅内皮質・梨状皮質の萎縮と側脳室拡大が,cDC1欠損によって明らかに軽減しています.つまり,タウ病理そのものを大きく減らさなくても,免疫反応を抑えることで神経変性を軽減できることが示されました.
さらに,脳内に実験用の抗原を入れてT細胞の反応を追跡したところ,その抗原に反応するCD8陽性T細胞の増殖は,脳内ではなく深頸部リンパ節で起こり,cDC1を欠損させると消失しました.また,脳内のMHC結合ペプチドには,タウ,synapsin,α-synuclein,NfLなどが含まれていました.これらの結果から,脳由来抗原が深頸部リンパ節へ運ばれ,cDC1による交差提示を介してCD8陽性T細胞が活性化される仕組みが考えられました.
では,活性化されたT細胞はどのように脳へ入るのでしょうか.Neuron誌の研究では,T細胞の遊走に関わるケモカイン受容体CXCR3と,そのリガンドCXCL10に注目しました.CXCR3は活性化したTh1型CD4陽性T細胞や細胞傷害性CD8陽性T細胞に発現し,CXCL10はこれらのT細胞を呼び寄せる「誘導信号」として働きます.
マウスの海馬にIFNγを定位脳手術で投与すると,CXCL10が主としてアストロサイトに増加し,多数のT細胞が脳実質へ侵入しました.Cxcl10またはCxcr3を欠損させるとT細胞浸潤は大幅に抑制されました.またTE4マウスでもアストロサイトのCXCL10が増加し,その程度はリン酸化タウ病理と相関しました.つまり,タウ病理が進んだ脳では,末梢のT細胞を呼び込む環境が形成されるようです.
そこで著者らは,6カ月齢のTE4マウスから約3カ月半にわたり抗CXCR3抗体を全身投与しました.その結果,海馬へのCD4,CD8陽性T細胞の浸潤が著明に減少し,歯状回の神経細胞が保たれ,海馬や嗅内皮質・梨状皮質の萎縮も軽減しました.新奇物体認識課題でも認知機能の改善が認められました.一方,ここでもリン酸化タウや可溶性・不溶性タウの量には明瞭な変化を認めませんでした.
この2つの研究を合わせると,興味深いストーリーが見えてきます.タウオパチーによって神経細胞が傷害されると,タウを含む脳由来抗原が髄膜リンパ系などを介して深頸部リンパ節へ運ばれ,cDC1がこれらを交差提示してCD8陽性T細胞を活性化します.一方,タウ病理の進んだ脳ではアストロサイトなどからCXCL10が産生され,CXCR3を持つ活性化T細胞が脳へ誘導されます.侵入したT細胞がミクログリアやアストロサイトと相互作用し,神経炎症を増幅して神経変性を促進する,というモデルです.ただし,この一連の流れ全体が直接証明されたわけではなく,2つの研究結果をつなぎ合わせて考えたモデルです.また,ヒトのアルツハイマー病でどの程度重要なのかは今後の検証が必要です.
それでも,2論文に共通する所見は重要です.タウそのものを大きく減らしていないにもかかわらず,免疫反応を操作することで神経変性が軽減したからです.今回の研究は,「異常タウ」と「神経細胞死」の間にある免疫経路も治療標的になり得ることを示しています.タウオパチーを「脳の中だけで完結する病気」と考えるのではなく,脳と末梢免疫の相互作用を含めて捉える必要があることを示す研究だと思います.
1)Hu H,et al.Priming of CD8+ T cells by peripheral dendritic cells exacerbates tau-mediated neurodegeneration.Nat Neurosci.2026.doi:10.1038/s41593-026-02427-5.PMID: 42693199.
2)Emmerson JT,et al.Peripheral CXCR3 blockade mitigates T cell infiltration and neurodegeneration in a mouse model of tauopathy.Neuron.2026.doi:10.1016/j.neuron.2026.08.030.

・自己免疫性運動異常症の症候学についての教育講演@国際パーキンソン病・運動障害学会(ソウル)
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月6日のFB投稿です***
韓国・ソウルで開催されているInternational Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders(MDS Congress 2026) に参加しています.昨日はTeaching Course “Autoimmune Movement Disorders” で,症候学についての講演を担当しました.自己免疫性神経疾患では,抗体検査が診断に大きな役割を果たしますが,その入り口はやはり患者さんにみられる症候を丁寧に観察し疑うことです.今回の講演では,
“What do you see?”
“How would you describe it?”
“Could this be autoimmune?”
という3つの問いを軸に,多数の動画を提示しながら自己免疫性運動異常症の特徴を解説しました.
具体的には,LGI1抗体脳炎のfaciobrachial dystonic (crural) seizures(FBDS/FBCDS),抗NMDAR脳炎の複雑な不随意運動,mGluR1・GluK2抗体関連疾患のhead titubationと運動失調,IgLON5病やCASPR2抗体関連疾患のmyorhythmia,GFAPアストロサイトパチーの多彩な運動異常症,さらにocular flutter/opsoclonusやhung-up reflexなどを取り上げました.
とくに伝えたかったのは,亜急性の発症,複数の運動異常の組み合わせ,認知・精神症状やてんかん発作の併存,さらに低Na血症や体重減少などのred flagsが重なったときには,自己免疫性疾患を積極的に疑うということです.Phenomenology(症候学)を正確に捉えることが,適切な抗体検査,早期診断,そして治療可能な患者さんを見逃さないことにつながります.
これまで学んできた既報や,経験してきた症例,研究成果を盛り込みながら,自己免疫性運動異常症の面白さと,「まず症候をよく見る」ことの大切さをお伝えできたのではないかと思います.なおスライドはコメント欄のリンクからご覧いただけます.
無事に講演を終え,ほっとしました.座長のSteven Frucht先生や,自己免疫性脳炎の大家のJerome Honnorat先生に褒めていただき,嬉しかったです.会場も立ち見が出るほどで,日本から参加された先生方もたくさん聴講に来てくださりました.どうもありがとうございました!
あと2日間,世界のmovement disordersの最新情報を勉強したいと思います.

・AIに医療における役割―できること,できないこと,そして医師にしかできないこと
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月7日のFB投稿です***
MDS 2026@ソウルで,「AI in Movement Disorders: Promise, Progress and Pitfalls」というPlenary Sessionを聴講しました.埼玉医大の大山彦光先生らが座長を務め,AIがパーキンソン病などの運動異常症の診断や治療をどのように変えるのか,そしてどのような課題が残されているのかが議論されました.
最初のJames Teong Han Teo先生の講演では,現在の医療AIの全体像が示されました.AIは病名を当てるだけではなく,電子カルテの整理,診療支援,検査の解析,病院業務など,さまざまな場面で利用され始めています.英国では,なんと100万人以上の患者の電子カルテを「自然言語処理」で解析し,疾患,症状,治療などを自動的に構造化する研究も行われています.ちなみに「自然言語処理」とは,コンピューターが人間の書いた文章を読み取り,意味のある情報を取り出す技術です.
さらに将来は,「質問に答えるAI」から「この患者さんに次に何が起こるのかを予測するAI」へ進む可能性があります.Foresightという電子カルテの将来予測モデルは,電子カルテに記録された患者さんの経過を学習し,将来起こり得る疾患や処置などの医療イベントを予測するモデルです.実際にWEBで後悔されていて試すこともできます(図2).また「Agentic AI」も紹介されました.agentic は,もともと agent(主体的に行動するもの,代理人) から来た言葉です.つまり質問に答えるだけでなく,目標に向けて必要な情報を集め,計画を立て,複数の作業を実行する「行動するAI」です.すでにWeb上で実際に使えるものもあり,代表例は ChatGPT Work です.将来の重要な技術の一つになりそうですが,医療で実用化するには安全性や責任の所在など課題があります.医師もよほど勉強し経験を積まないと,AIの答えに反論できなくなると思います.
2人目のJeffrey Hausdorff先生は,「digital biomarker」について講演しました.これは,スマートフォン,腕時計型センサー,動画などから得られる,病気の状態を示す客観的なデジタル指標です.パーキンソン病では,歩行速度,歩幅,手の動き,顔の表情,声などを数値化できます.これらのデータは神経診療に大きな意味を持ちます.医師が患者さんを直接観察できるのは,数週間に一度の外来の短い時間にすぎません.一方,スマートフォンやウェアラブル機器を使えば,診察と診察の間に起きている歩行や動きの変化を継続的に捉えることができます.さらにAIによって,人間の目では気づきにくい微細な変化(subtle motor signs)を見つけられる可能性もあります.ただし,Hausdorff先生が強調していたのがdigital biomarkerの「generalizability」,つまり別の患者さん,別の病院,別の国でも同じように使えるのかという問題です.そのためには,開発した施設とは異なる患者集団で性能を確認する「external validation」が重要になってきます.
さらにAIやデジタル技術は,「測る」だけでなく「治療を調整する」方向にも進んでいます.その代表がadaptive DBSです.DBS(脳深部刺激療法)は,脳内に電極を留置して電気刺激を行う治療ですが,adaptive DBSでは,脳活動や患者さんの状態に応じて刺激を変化させます(図3).2026年のNature Medicineには,神経活動から行動状態を機械学習で判別し,それに応じて刺激条件を変えることで歩行障害を改善する研究が報告されました.このように,「状態を測る→解析する→治療を変える」という循環を作る仕組みを「closed-loop」と呼びます.患者さんの状態に合わせて治療をより動的に調整する発想です.
3人目のMartin McKeown先生は,大規模言語モデル(large language model:LLM)の臨床応用について講演しました.LLMとはChatGPTなどの基盤となるものです.パーキンソン病では診察記録に加え,音声,動画,歩行データなど多様な情報が得られるため,将来的にはLLMと画像・音声なども扱えるmultimodal AIを組み合わせた診療支援が期待されます.LLMは医学知識に関する質問や患者からの質問には,かなり良好な回答を示すことがあります.しかし,医学知識に答えられることと,実際の患者さんを安全に診療できることは同じではありません.2026年の研究では,パーキンソン病の臨床症例に対する病態評価は比較的良好でしたが,具体的な治療計画では性能が低下し,重大な誤りも認められました.つまり,「何が起きているのか」を理解することと,「この患者さんに何をすべきか」を決めることには,まだ大きな隔たりがあるようです.そこで重要になるのが「RAG(retrieval-augmented generation)」です.これはAIに記憶だけで答えさせるのではなく,診療ガイドラインや信頼できる文献を検索し,その情報を根拠に回答させる仕組みです.いわば,AIに教科書やガイドラインを確認してから答えさせる方法です.ただし,日本では学会が作成した診療ガイドラインなどの著作物をRAGに取り込んで利用する場合の著作権上の扱いも重要な議論になっています.AIの精度だけでなく,信頼できる医学情報を誰が,どのような条件でAIに利用させるのかも,今後の大きな課題です.
以上,3つの講演を通してみると,AIの役割は,「微細な徴候を捉える → 診断を支援する → 経過を追う → 将来を予測する → 治療を調整する」という方向へ進んでいるように感じました.ただし,診断から治療選択・調整へと踏み込むほど,AIが間違った場合の影響も大きくなります.そのため,「human in the loop」,つまりAIだけに判断を任せず,重要な判断には必ず人間が関与するという考え方が重要になります.これからは,「AI時代に脳神経内科医が不要になるか?」ではなく,「AI時代に,脳神経内科医にしかできないことは何か?」を考える時代になるのだと思います.

・Video Challenge の17症例の解説@MDS 2026(ソウル)
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月8日のFB投稿です***
本学会のメインイベントですが,今回も非常に刺激的なセッションでした.名司会のAnthony Lang教授とKailash Bhatia教授が進行を務め,世界各国から17例の興味深い症例の動画が提示されました.この学会には若い頃から参加していますが,時代とともに提示される症例に変化があることに気づきます.全エクソーム解析や全ゲノム解析が普及すると珍しい遺伝性疾患が増え,cell-based assayの開発によって細胞表面抗原に対する自己抗体が同定されるようになると,抗IgLON5病をはじめとする自己免疫性神経疾患が増えました.今回はそうした流れが一段落し,一見,運動異常症とは無関係にみえる全身性・代謝性・薬剤性の病態が,特徴的な不随意運動として現れる症例が多かった印象があります.とても勉強になりました.今回はlong presentation 8例,short presentation 9例,計17例でした(時間の関係で1例省略).以下,順番にご紹介します.
症例1.74歳男性(タイ)short presentation
睡眠中に20~30分持続する複雑な異常行動と大声がみられた.糖尿病で治療中であり,早朝の血糖値は約60 mg/dLであった.睡眠中の複雑な異常行動をみた場合,REM睡眠行動障害,parasomnia,夜間てんかんなどがまず鑑別に挙がる.しかし糖尿病患者では低血糖も重要なmimicである.とくにインスリンや血糖降下薬を使用している患者では,夜間の奇妙な行動を「睡眠障害」と決めつけず,発作時ないし早朝の血糖を確認する必要がある.
診断;夜間低血糖による複雑な行動異常(complex behavioral disorder due to nocturnal hypoglycemia)
症例2.65歳男性(インド)
Lewy小体型認知症を思わせる認知・行動症状と運動症状を呈していた.しかし背景には高アンモニア血症が存在した.門脈血が肝臓を迂回して体循環に流入すると,肝機能障害が目立たなくても高アンモニア血症を来し,認知機能障害,精神症状,意識変容,運動異常などを呈し得る.この症例の症候はLBD phenocopyであり,変性疾患のようにみえても,治療可能な代謝性病態が隠れていることを示す勉強になる症例であった.
診断;門脈体循環シャントに伴う高アンモニア血症(hyperammonemia secondary to porto-systemic shunt)によるLBD phenocopy
症例3.38歳女性(米国)
亜急性に出現した左下顔面を中心とする反復性の顔面けいれん(Epilepsia partialis continua;EPC)を呈し,薬剤抵抗性であった.Jerk-lock averagingで皮質スパイクを同定.右側頭葉が経時的に萎縮.FDG-PETも同部位が低代謝.血漿交換で若干の改善.
診断;成人発症Rasmussen脳炎
Rasmussen脳炎は,T細胞を主体とした免疫反応により神経細胞やアストロサイトが障害される慢性炎症性脳疾患.典型的には小児に発症し,薬剤抵抗性の片側性焦点発作,進行性片麻痺,認知機能低下などを来す.約半数ではEPCを認め,MRIでは進行性の一側大脳半球性皮質萎縮が重要な所見となる.成人発症は少数である.
症例4.71歳男性(インド)short presentation
18年のり還暦を持つパーキンソン病患者.STN-DBS施行していた.2ヶ月前から激しい右ジスキネジアが出現,赤沈亢進.左電極周囲にT2高信号病変が出現した.DBS施行後の病変であれば,通常は感染,出血などをまず考えるが,本症例では異なる病態が隠れていた.血清TPHA強陽性.
診断;STN-DBS電極周囲に生じた梅毒性ゴム腫による片側ジスキネジア(syphilitic gumma involving the STN DBS electrode)
症例5.18歳女性(マレーシア)★最優秀賞受賞
亜急性に発症し,発熱が引き金となり左半身の持続するミオクローヌスを呈した若年女性で,痙攣重積状態として治療された.子どもの頃から発熱に伴うけいれんがあり,同胞にも類症が合った,Sabahの先住Dusun系住民であった.AMT遺伝子にホモ接合性にミスセンス変異.
診断;軽症型非ケトーシス型高グリシン血症(attenuated nonketotic hyperglycinemia;glycine encephalopathy)
非ケトーシス型高グリシン血症は,グリシン開裂酵素系の異常により中枢神経系にグリシンが蓄積する先天代謝異常である.関連遺伝子としてGLDC,AMT,GCSHが知られ,GLDCが70~80%を占める.典型例では新生児期から重篤な脳症,てんかん,発達障害を呈する.一方,軽症型では乳児期以降に発達・学習障害として認識され,成人まで生存することもある.発熱や代謝ストレスを契機に脳症,けいれん,運動異常が出現することもある.MRIやEEG所見も一定せず,phenotypeが多様であるため診断が遅れやすい.若年者の原因不明のミオクローヌスでも先天代謝異常を忘れてはならない.
症例6.13歳女性(カナダ)
右膝のケガに対する靭帯再建術のための全身麻酔後に進行性ジストニアに伴う発語困難,歩行障害,上肢ジストニア等を呈し,画像では両側性の基底核(淡蒼球)変性を認めた.STN-DBSは一次有効であったが,再度進行性に悪化した.母系にベネズエラCarabobo州の祖先をもち,ミトコンドリアDNAのMT-ND4 m.11232T>C変異を有していた.
診断;MT-ND4変異を背景としたセボフルラン誘発性基底核変性による進行性ジストニア
この遺伝的背景をもつ一部の患者では,通常臨床で用いられる濃度のセボフルランによって,ミトコンドリアcomplex I依存性酸化的リン酸化が著しく抑制される可能性が示されている.すなわち,無症候であったミトコンドリアの脆弱性が,揮発性麻酔薬曝露によって顕在化するpharmacogenetic disorderと考えられる.ベネズエラ系,とくに母系がCarabobo州に由来する症例が報告されている.重要なのは,単純な麻酔薬の有害事象ではなく,遺伝的素因と薬剤曝露の相互作用として理解することである.
症例7.19歳男性(中国)short presentation
1年前から手のふるえ.半年前から歩行障害(失調性歩行).小脳萎縮も出現した.電子タバコ使用歴があった.
診断;Tiletamine誘発性中毒性脳症(tiletamine-induced toxic encephalopathy)
Tiletamineは獣医学領域で使用される解離性麻酔薬で,NMDA受容体拮抗作用を有する.通常はzolazepamとの配合剤として使用されるが,近年,とくにアジアで電子タバコなどを介した乱用・中毒例が問題となっている.本症例では複数の薬剤による対症療法が行われ,約7週間で完全に回復した.若年者の原因不明のミオクローヌスや神経精神症状では,電子タバコを含めた薬物曝露歴を具体的に聴取する必要がある.
症例8.18歳男性(オーストラリア)short presentation
運動開始を契機として短時間の右手のrandom spasm?dystonic movement?を繰り返し,チックや発作性運動誘発性ジスキネジアを疑わせる臨床像であった.PRRT2遺伝子変異なし.
診断;発作性運動誘発性ジスキネジアで発症したWilson病
セルロプラスミン低値で診断にたどり着いたが,興味深いことに,Kayser-Fleischer ringを認めず,頭部MRIも正常であった.Wilson病では典型的な眼所見やMRI異常を欠くことがある.若年者に発作性ジスキネジアがみられた場合,原発性PKDだけでなく,治療可能なWilson病も鑑別に含める必要がある.
症例9.62歳男性(インド)short presentation
体幹(腹部)に緩徐で反復性の不随意運動,すなわちmyorhythmiaを認め,さらに睡眠関連orthopnea(起坐呼吸)を伴っていた.頸下がりあり.表面筋電図,持続時間の長いburst状.免疫療法が有効であった.
診断;抗IgLON5病
抗IgLON5病では,睡眠障害,呼吸障害,球症状,歩行障害,眼球運動障害,不随意運動など,多彩な症候を呈する.とくに睡眠中の呼吸障害や複雑な睡眠症状は診断上重要である.Myorhythmiaは舌が有名だが,本例では体幹myorhythmiaと睡眠関連呼吸障害の組み合わせが大きな手掛かりとなった.
症例10.76歳女性(インド)
発熱,意識生涯(無菌性髄膜炎)に加えて,頭部,顎,手,腹部の持続する不規則な不随意運動を呈した..腹部はいわゆるbelly-dancer dyskinesiaであった.四肢パーキンソニズムあり.脳脊髄液細胞数増多.脳実質の複数の異常信号と肥厚性硬膜炎.dsDNA抗体陽性.免疫療法にて改善.
診断;CNS lupus encephalitisによるbelly-dancer dyskinesia
中枢神経ループスでは,精神症状,認知機能障害,てんかん,脳血管障害,運動異常など,非常に多彩な神経症候を呈する.一見局所的にみえる腹部の異常運動であっても,背景に全身性自己免疫疾患が存在することがある.
症例11.79歳女性(米国)short presentation
歩行時に出現するtruncal flexion dystonia(episodicにカンプトコルミア様になる).注意深く観察すると,顔面筋,肩甲帯,上腕の筋力低下と,それに伴う代償運動が背景にあった.
診断;顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー1型(FSHD1)
症例12.54歳男性(英国)
上肢と顔面の舞踏運動を呈した.上向き眼振,四肢の運動失調を認めた.小脳や辺縁系の異常信号.中枢神経系以外にも多臓器病変を認めた.両下肢長管骨のFDG-PETの集積.
診断;Erdheim-Chester病
Erdheim-Chester病は稀な組織球性疾患であり,病態にはMAPK pathwayの異常活性化が関与する.BRAF V600E変異が最も頻度の高い遺伝子異常である.中枢神経病変のほか,眼窩病変,長管骨病変,後腹膜・腎周囲浸潤,心血管病変などを呈し,画像では“hairy kidney”や“coated aorta”が特徴的である.
運動異常症は稀であり,発表ではchoreaが非常に珍しいphenotypeであることが強調された.
症例13.小児 時間の関係で,症例提示はスキップ
診断;若年発症DRPLAらしかった.
症例14.50歳男性(アイルランド)
急速進行性parkinsonismに右上肢myoclonusを伴い,非典型的神経変性疾患を思わせる複雑なphenotypeを呈した.パーキンソニズム,歩行障害,構音障害が出現し,半年で介助を要するようになった,
診断;22q11.2欠失症候群
22q11.2欠失症候群は,先天性心疾患,低Ca血症,免疫異常,発達・精神症状などで知られるが,成人では若年発症Parkinson病や複雑な運動異常症の原因にもなる.特徴的なのは,単一の運動異常ではなくmixed phenotypeが多いことである.また,whole-exome sequencingが陰性でも遺伝性疾患を否定できない点が重要である.22q11.2欠失のようなcopy-number variantは,通常の遺伝子panelやWESでは見逃される可能性があり,chromosomal microarrayが重要となる.290例中15例,5.2%にミオクローヌスを認めたデータも紹介された.発症年齢中央値は24歳で,安静時および動作時にみられ,遠位上肢に多かった.
症例15.73歳男性(ポルトガル)short presentation
けいれん,失調性歩行,oscillopsia-nystagmus spell(動揺視と眼振を伴う発作),認知機能低下を呈していた.免疫療法が有効であった.
診断;CASPR2抗体関連脳炎
CASPR2抗体関連疾患では,辺縁系脳炎だけでなく,多彩な症候を呈する.
症例16.61歳男性(オランダ)
持続性の唸り声(moaning)と,体幹を繰り返し前屈させながら,同時に息を止めるという非常に特徴的な行動を呈した.
診断;Sagging brain syndromeに伴うCompulsive Repetitive Flexion with Breath-Holding(CoRFBiS)
この「反復性前屈+息こらえ」は,frontotemporal brain sagging syndrome(FBSS)に特徴的な徴候として紹介された.FBSSはbehavioral variant frontotemporal dementia(bvFTD)に類似した行動・認知症状を呈するが,背景には脊髄髄液漏出またはCSF-venous fistulaによる頭蓋内低髄液圧が存在する.したがって,治療可能なbvFTD mimicであることが重要である.さらに興味深いのは,この反復動作そのものに病態生理的意味がある可能性である.前屈と息こらえによって腹腔内圧・静脈圧が上昇し,CSFと静脈系との圧較差が低下することで,一時的にCSF lossを減少させている可能性が考えられている.一見すると強迫行動や常同行動にみえる動作が,患者自身による代償行動である可能性がある.
「なぜこの動きを繰り返すのか」を考えることが診断につながる,Video Challengeを象徴する症例と思った.
症例17.17歳男性(インド)short presentation
亜急性に全身性舞踏運動(右に強い)を呈した若年男性.背景にはチアノーゼ性先天性心疾患と著明な二次性多血症が存在した.
診断;チアノーゼ性先天性心疾患に伴う二次性多血症による亜急性全身性舞踏運動(subacute generalized chorea due to secondary polycythemia)
慢性的な低酸素血症では代償性に赤血球が増加し,二次性多血症を来す.その結果,血液粘稠度が上昇し,脳の微小循環障害などを介して舞踏運動を来すことがある.
今回の17例からは,運動異常症では,病名を先に考えるのではなく,まず目の前の動きをよく観察し,「なぜこの動きが生じるのか」を考えることが重要だと改めて感じました.低血糖,高アンモニア血症,薬剤,中毒,膠原病,代謝・遺伝性疾患など,一見すると運動異常症とは離れた病態が特徴的な不随意運動として現れます.Video Challengeの醍醐味は,珍しい病名を当てることではなく,「よく見ること」から診断に迫ることにあると思いました..

・本日発売!『医者が教える 一生パフォーマンスする脳』
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月10日のFB投稿です***
本日10月10日,日経BPから新刊『医者が教える 一生パフォーマンスする脳』が発売されました.嬉しいことに,ベストセラー『認知症世界の歩き方』の著者,筧裕介先生が,日経BOOKプラスに素敵な書評を寄せてくださいました.
筧先生は,認知症を高齢になってから考える問題ではなく,40代,50代から自分自身の「脳の未来」を考えることの大切さを紹介してくださっています.とくに嬉しかったのは,「読み終えたあとに残るのは,『自分にも,今できることがある』という感覚だ」と評していただいたことです.まさに,私が本書を通じて伝えたかったメッセージでした.
認知症研究は,いま大きな転換期を迎えています.認知症は,ただ恐れ,発症を待つだけの病気ではなくなりつつあります.最新の研究から,日々の生活習慣や環境を見直すことで,発症リスクを減らしたり,発症を遅らせたりできる可能性が明らかになってきました.大切なのは,こうした科学的な知識をもとに,今できることから始めることだと思います.一方で,認知症の予防を考えることは,認知症になった方の人生や尊厳を大切にすることと対立するものではありません.予防と支援の両方が大切であることも,本書で伝えたかった思いの一つです.
本書では,脳神経内科医として,認知症や脳の老化に関する最新の研究成果を,できるだけわかりやすく紹介しました.何歳になっても,自分らしく,いきいきと脳を使い続けるために,いま何ができるのか. その問いに,科学的な根拠をもとに答えることを目指しました.認知症が気になる方はもちろん,まだ自分には関係ないと思っている若い世代の方にも,ぜひ手に取っていただければ幸いです.最後に,本書の意図を丁寧に読み取ってくださった筧先生に,心より感謝申し上げます.ぜひ書評もお読みください.
◆筧裕介先生による書評(日経BOOKプラス)
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/041100040/092900085/
◆書籍紹介(日経BP)
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/26/09/10/02792/
◆Amazon
https://link.amazon/B08F3VwTD
◆ 楽天ブックス
https://books.rakuten.co.jp/rb/18784425/…
#一生パフォーマンスする脳 #認知症予防 #脳の健康 #日経BP
【目次】
はじめに
「認知症は、防ぎようもない」病気ですか?
プロローグ 認知症は、「予防できない」のか
そもそも、認知症とは何か
第1章 認知症の正体とは
・何が認知症を引き起こすのか
・アミロイドベータは40代からたまりはじめる
・新型コロナウイルスにかかると、アルツハイマー病のリスクは2倍になる
・インフルエンザ、帯状疱疹も脳を傷つける
・帯状疱疹ワクチンは認知症の発症を減らせる可能性がある
・認知症はなぜ女性に多いのか
・コンタクトスポーツでは「頭を守る工夫」をする
第2章 認知症と遺伝は、どこまで関係があるのか
・認知症と遺伝子、最新の知見を知ろう
・遺伝子は変えられない運命ではなく、ひとつのリスク要因にすぎない
・両親から、認知症になりやすい遺伝子をふたつ受け継いだ人は
・抗体薬はどのくらい効くのか
・タウの産生そのものを抑える薬の開発
第3章 脳と認知症治療の最前線を知ろう
・脳の老廃物を排出する機能を高める
・睡眠は、脳内を洗い流す「掃除の時間」でもある可能性がある
・睡眠とアルツハイマー病リスクの関係
・マッサージは良いかもしれない ―― マウスの研究
・超音波で脳内の不要物の排出を促す試み
・認知症の薬は、これから大きく進展する可能性が高い
第4章 あなたがやるべき認知症予防
・認知症リスクを減らす日常生活の工夫をしよう
・認知症の約45%は変えることができるかもしれない
・「教育」は健康な脳のための貯金
・大人になってからの学習も脳の健康を支える
・「悪玉コレステロール」の値が増えるごとに、認知症の発症率も上昇する
・健康診断で指摘された異常は放置しない
・運動の習慣は、認知症のリスクを下げる
・禁煙を始めるのに、遅すぎることはない
・社会的孤立は認知症と関連する

・アルツハイマー病の病態と予防に関する最新知識@第37回日本老年医学会東海地方会特別講演
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月11日のFB投稿です***
昨日,拙著『医者が教える 一生パフォーマンスする脳』(日経BP)が発売されました.この本は,アルツハイマー病(AD)の病態と予防に関する最新の医学的知見を,できるだけわかりやすく,一般の方々にもお伝えしたいという思いで執筆したものです.ちょうど同じ日に,第37回日本老年医学会東海地方会で,大会長の三重大学・新堂晃大教授から大変ありがたい機会を頂戴し,標題の特別講演を行いました.いわば,今回の講演で取り上げた専門的な内容を,一般の方々にも理解していただけるようにまとめたのが本書です.
講演では,いつもご支援・ご指導くださっている内藤寛先生に座長を頂き,まずADの原因とされてきたアミロイドβやタウに,実はウイルス感染から神経細胞を守るという意外な生理的役割がある可能性を紹介しました.そして,ヘルペスウイルスや新型コロナウイルスの感染が,神経炎症などを介してADの発症や進行に関与する可能性について解説しました.特に興味深いのは,脳の免疫細胞であるミクログリアの役割です.最近,加齢とともにがん関連遺伝子に体細胞変異を獲得したミクログリアが,慢性炎症などを背景に選択的に増殖し,ADの進行に関与する可能性が報告されました.これはミクログリアががん化するという意味ではなく,炎症や組織障害をもたらすタイプに変化するということです.その変化をアミロイドβやタウ,感染,ナノプラスチックなどが促進する(選択圧と言います)という新しい視点です.
さらに,ADを「脳血管の病気」として捉える重要性についても紹介しました.血管へのアミロイドβの沈着は,血管の構造や機能を障害し,脳の血流調節や老廃物の排出を妨げる可能性があります.また,睡眠と密接に関係するグリンファティックシステムや,脳から老廃物を排出する髄膜リンパ管の働きも注目されています.脳の健康を守るには,神経細胞だけでなく,免疫,血管,睡眠,老廃物の排出まで考える必要があるということです.
予防については,帯状疱疹ワクチンの接種によって認知症発症リスクが大きく低下する可能性を示した大規模研究や,高血圧,糖尿病,運動不足などへの対策を通じて,脳血管の健康を守ることの重要性を紹介しました.さらに,大気汚染やマイクロ・ナノプラスチックなどの環境要因についても,健康への影響が完全に解明されるのを待つのではなく,予防原則に基づいて対策を考える必要性をお話ししました.治療についても,アミロイドβを標的とする抗体医薬に加え,神経伝達物質受容体,炎症・免疫,血管障害など,多様な標的に対する新しい治療法の開発が広がっている現状をご説明しました.今回,最もお伝えしたかったのは,ADは単なる「異常タンパク質の蓄積病」ではなく,感染,免疫,血管,老廃物の排出障害などが複雑に関わる病気であり,だからこそ治療や予防にもさまざまなアプローチがありうるということです.講演のスライドは以下よりご覧いただけます.
https://www.docswell.com/…/800…/ZL364P-2026-10-11-055525
つまり,正しい知識を持つことで,私たちにできることはたくさんあります.その可能性を多くの方々に知っていただきたいという思いが,今回の本の執筆につながりました.脳の健康には,自分自身の取り組みによって守れる部分があります.そして,何歳からでも,脳の未来のためにできることがあります.本書を通じて,そのことを一人でも多くの方にお伝えできればと思っています.

・自己免疫性脳炎の再発と思ったら進行性多巣性白質脳症(PML)だった!―リツキシマブ治療後の重要な合併症
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月12日のFB投稿です***
自己免疫性脳炎の治療後に神経症状が悪化した場合,まず原疾患の再発を考えます.しかし,免疫療法の合併症であるPMLが原因である可能性もあります.今回,当科専攻医の安藤知秀先生を中心に,福島県立医科大学,国立感染症研究所との共同研究として,GABA_B受容体脳炎に対するリツキシマブ治療後にPMLを発症した,私たちの知る限り初めての症例をClin Exp Neuroimmun誌に報告しました.
患者は82歳女性で,認知機能低下,幻覚,妄想,意識障害を呈し,脳脊髄液のGABA_B受容体抗体陽性から自己免疫性脳炎と診断しました.ステロイドパルス療法と免疫グロブリン静注療法(IVIg)によって部分的に改善しましたが,高度の認知機能障害が残存したため,リツキシマブを追加しました.ところが,約6か月後,意識障害と右上肢筋力低下が進行しました.同時期に肺結節が発見されたため,小細胞肺癌に伴う自己免疫性脳炎の再発が疑われました.しかし,MRIでは従来の脳炎病変とは異なる部位に新たな白質病変が出現していました.具体的には,両側中心前回には皮質下U-fiberに及ぶ病変が,左中小脳脚にはPMLに特徴的な「shrimp sign」が認められました.脳脊髄液JCウイルス(JCV)PCRは3,053 copies/mLと陽性であり,PMLと診断しました.
重要なのは,PMLの診断より約4.5か月前に,すでにMRIで初期病変が出現していた可能性があることです.図には,MRI所見と治療,脳脊髄液JCV PCRの時間的関係をまとめています.リツキシマブ終了1か月後(図の+89日),右前頭葉皮質下に小さな新規FLAIR高信号病変が認められましたが,脳脊髄液JCV PCRは検出限界の20 copies/mL未満でした.その後,病変は拡大し,約6か月後(+235日)にはJCV DNAが3,053 copies/mLとなっていました.つまり,高感度のJCV PCRが陰性であっても,早期PMLは否定できないことが示唆されることになります.
PML発症時,CD19陽性B細胞が検出されず,血清IgGも495 mg/dLまで低下していました.一方,CD4陽性T細胞数は保たれていました.恐らくリツキシマブによるB細胞枯渇に加え,ステロイド治療や潜在的な悪性腫瘍が,JCVに対する免疫監視機構を抑制した可能性が考えられます.もちろん,1例のみですので,リツキシマブとの直接的な因果関係を証明することはできません.
本症例は,自己免疫性脳炎の治療後に神経症候が悪化した際,安易に再発と判断せず,PMLを鑑別に挙げることの重要性を示しています.とくに,既存の脳炎病変とは異なる部位に新たな白質病変が出現した場合には,脳脊髄液JCV PCRが陰性でも,MRIの経時的評価とPCRの再検査を行う必要があります.免疫療法を強化する前に,自己免疫性脳炎の診断そのものを再検討することが大切だと学びました.
Ando T, Yoshikura N, Kimura A, Tanaka K, Nakamichi K, Shimohata T. Progressive Multifocal Leukoencephalopathy Mimicking Relapse of Anti-GABA_B Receptor Encephalitis After Rituximab-Containing Immunotherapy: A Case Report. Clinical and Experimental Neuroimmunology. 2026;17:e70083. コメント欄から全文にアクセスできます.

・重症筋無力症の抗体検査はcell-based assayに変更すべき―見逃しと誤診を減らす新たな検査法
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月13日のFB投稿です***
重症筋無力症(MG)の診断では,AChR抗体やMuSK抗体の測定が重要です.しかし,臨床的にMGが強く疑われても抗体が陰性となる患者がいる一方,抗体陽性でもMGではない患者(偽陽性)が存在します.この問題に対し,Neurology誌に掲載されたADAM研究と,自己免疫性神経疾患研究の第一人者Angela Vincent教授によるEditorialは,cell-based assay(CBA)がMGの抗体検査の新たなスタンダードとなる可能性を示唆しています.
まずADAM研究ですが,イタリアの4施設でMGが疑われた327例(最終診断MG 152例,その他の診断175例)を対象に,生細胞CBA(live CBA:L-CBA),固定細胞CBA(fixed CBA:F-CBA),ELISAの診断精度を前向きに比較しました.その結果,AChR抗体の検出感度はL-CBAで71.7%,F-CBAで69.0%,ELISAで63.8%でした.特に眼筋型MGでは,それぞれ60.3%,54.4%,45.6%と差が大きく,CBAの優位性が明らかになりました.さらに,ELISAで陰性だったMG患者13例で,L-CBAによってAChR抗体が検出されました.つまり,従来の検査でseronegative MGと判定されていた患者の一部で,抗体の存在を確認できたことになります.
さらに注目すべきは特異度です.ELISAではMG以外の175例中54例(30.9%!)が陽性となっていましたが,CBAではわずか4例(2.3%)でした.特異度はELISAの69.1%に対してCBAでは97.7%でした.そしてこのCBAで陽性の4例のなかにはMGを伴わない胸腺腫患者3例が含まれており,必ずしも単純な検査上の偽陽性とはいえません.いずれにせよ,CBAはMGの見逃しを減らすだけでなく,抗体偽陽性による誤診を減らせる可能性があります.
では,なぜCBAは優れているのでしょうか? Vincent先生は,その理由を図で分かりやすく説明しています.従来の放射免疫沈降法(RIPA)では,可溶化されたAChRを抗原として使用しますが,一部の抗体はこの状態のAChRには十分に結合できません(図A).一方,CBAでは細胞表面に本来の立体構造に近い状態で集簇したAChRを発現させます.すると,抗体が隣接するAChRに二価性に結合できるようになり,従来法では検出困難だった低親和性抗体も捉えられます(図B).つまり,CBAの優位性は,抗原をより生体内に近い立体構造と配置で提示できることにあるのです.さらに生細胞を用いることで抗体は細胞外ドメインにのみ結合するため,特異度の向上にもつながります.最後に商用化されたF-CBAでは固定細胞を使用するため,4℃で保存でき,成人型AChR,胎児型AChR,MuSKに対する抗体を同時に評価できます(図C).
今後,CBAに変更するメリットは,次の4点にまとめられます.
1. 従来法で見逃されていたMGを検出できる(seronegative MGを減らすことができる)
2. 特に眼筋型MGで感度が向上する
3. 偽陽性を大幅に減らせる
4. 複数の抗体を同時に測定できる
またVincent教授は,F-CBAは眼筋型MGにおける感度がL-CBAよりやや低いものの,保存性や簡便さ,複数抗原の同時評価という利点から,将来的にはMG抗体診断の新たなゴールドスタンダードになる可能性が高いと論じています.ただし,今回のADAM研究はELISAとの比較であり,従来の標準法であるRIPAとの直接比較は行われていません.したがって,今回の結果をそのままRIPAに対するCBAの優位性と解釈することはできません.また,ELISAの特異度が著しく低かった点についても,使用したキットなどの影響を考慮する必要があります.
それでも,今回の2論文は,MGの抗体検査を見直す重要な根拠となります.特に眼筋型MGや従来法で抗体陰性だった症例ではCBAを積極的に活用すべきであり,今後は実用性の高いF-CBAを日常検査に導入し,必要に応じてL-CBAを追加する体制に改善することが望まれます.
1. Giannoccaro MP, et al. Accuracy of antibody testing in myasthenia gravis: The ADAM study. Neurology. 2026;107. https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000218301
2. Vincent A. Cell-based assays: The new gold standard for diagnosing myasthenia gravis? Neurology. 2026;107. https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000218495

・学会に行く意義はなに?―AI時代だからこそ大切な人との出会い
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月14日のFB投稿です***
近年,若手医師の学会離れをよく耳にします.これにはAIの普及によって現地で知識を得る必要性が低下したことに加え,経済的・時間的負担,キャリア観の変化などが背景にあると考えられます.それでも,時間と費用をかけて学会に参加する意義はどこにあるのでしょうか?
この問いについて考えさせられるエッセイが最新号のNeurology誌に掲載されています.米国Vanderbilt大学のLealani Mae Acosta先生による「米国神経学会年次総会における内向的な私の告白(Confessions of an Introvert at #AANAM)」です.著者が2011年,研修医として初めて米国神経学会年次総会(AANAM)に参加した際,先輩医師から「学会は何よりもネットワーキング(人とのつながりづくり)のためにある」と教えられたそうです.当時,講演から知識を吸収することに集中していた著者には,意外な言葉でした.
内向的で人見知りだった彼女は,著名な研究者に話しかける勇気がありませんでした.しかし,講演後に質問したり,シャトルバスや昼食での何気ない会話をすることで,少しずつ人脈を広げていきました.また,知り合った医師との交流が,数年後に学会での共同企画に発展したりしました.ユニークなのは,自作したアインシュタインの脳を模した帽子を学会でかぶったところ,多くの参加者から自然に声をかけられるようになったというエピソードです.内向的な著者にとって,この帽子は思いがけず人との交流を広げるきっかけになりました.
余談ですが,実は私は以前からこの帽子を知っていました.アインシュタインの脳(図左)を参考に,中心溝などを忠実に再現した手編みの帽子で,2018年のNeurology誌に紹介されています(図右).私は以前,「アインシュタイン脳」に強い関心を持ち,論文や情報を集め,例のごとくブログに書いたりしていました(その縁で,NHK特集「追跡!! アインシュタインの脳」の制作に関わりました).その際に集めた論文のなかに,この帽子の記事もあったため,今回のエッセイを読んですぐに「あの帽子の著者か!」と気づきました.
著者は現在も内向的で,学会の夜にはホテルで一人になる時間が必要だそうです.それでも,人と交流する喜びを知り,現在では直接会いたい講演者がいるセッションや,少人数で議論できる企画を優先して参加するそうです.著名な研究者との5分間の会話が,何通ものメールやオンライン検索以上の成果につながることもあると述べています.
私も彼女と同様に内向的な人間ですが,大学院生の頃,学会を通して,初めて学外の多くの友達や先輩方に知り合いました.ネットワークが広がっていくことはこんなにも楽しいことなんだと思いました.同じ神経学に取り組む仲間がたくさんいることを知る楽しさでした.
またこの話は,海外留学にも当てはまると思います.留学の価値は,日本では学べない研究手法や技術を習得することだけではありません.異なる文化や価値観に触れ,世界の研究者と信頼関係を築き,何より世界中に友人をつくることです.私自身,留学で出会った友達と,長く交流が続いていることを本当にありがたく感じています.先日のソウルの学会でも,20年来の友人夫婦と久しぶりに食事をともにしました.近況を語り合える友人が世界にいることは,かけがえのない財産です.
もちろん,若手の学会離れや留学離れには,経済的負担や臨床業務,家庭の事情など,さまざまな背景があると思います.だからこそ,私たち世代には,若手が挑戦できる環境を整え,自分たちが築いてきた国内外の人脈を次世代につなぐ責任があります.若い先生方も,AIの時代だからこそ,語学力を磨いて,ぜひ世界に飛び出し,多くの人との出会いを大切にしてほしいと思います.
1. Acosta LMY. Confessions of an Introvert at #AANAM. Neurology. 2026;107. doi:10.1212/WNL.0000000000218678.
2. Acosta LMY. The knit wit of Einstein. Neurology. 2018;91:325–326. PMID: 30104226.

・これまでになかった診療・研究・キャリアまで網羅した脳神経内科の新しい教科書,予約が始まりました!
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月15日のFB投稿です***
診断と治療社より刊行される『専門研修マスターノート 脳神経内科』の予約が始まりました.各領域の第一線でご活躍されている6名の先生方(井口保之先生,出雲 剛 先生,角田 亘先生,高橋牧郎先生,松本理器先生,山野嘉久先生)とともに,編集を務めさせていただきました.本書は,長年にわたり親しまれてきたロングセラー『研修ノートシリーズ 神経内科』(責任編集:鈴木則宏先生)のコンセプトを継承しつつ,主な対象読者を研修医から専攻医・専門医に移し,内容を大幅に刷新したものです.最新の医学的知見はもちろん,脳神経内科診療を取り巻く環境の変化も踏まえ,日々の診療に求められる知識と実践力を体系的に学べるこれまでにない一冊を目指しました.本書は以下の全9章から構成されています.
第1章 脳神経内科で身につけるべき診療・研究の基盤
第2章 症候学からのアプローチ
第3章 脳神経内科で学ぶべき検査
第4章 神経緩和ケア
第5章 リハビリテーション医学的アプローチの理解
第6章 脳神経外科的アプローチの理解
第7章 脳神経内科疾患の診療に必要な関連診療科の知識
第8章 脳神経内科疾患の診療
第9章 脳神経内科医としてのキャリアアップ
今回の改訂で特に力を入れたのは,従来の疾患中心の教科書では十分に取り上げられてこなかった領域の充実です.神経緩和ケア,リハビリテーション,関連診療科の知識に加え,協働意思決定,遺伝カウンセリング,神経倫理,妊娠,移行期医療,災害医療,遠隔医療,社会保障制度など,現代の脳神経内科医に求められる幅広いテーマを盛り込みました.さらに,基礎研究やトランスレーショナル・リサーチ,臨床試験,論文の読み方・書き方,留学,バーンアウト対策,リーダーシップなど,脳神経内科医として学び,成長し続けるための知識も充実させました.診断や治療の技術だけでなく,患者さんやご家族と向き合う姿勢,研究への取り組み方,自身のキャリアの築き方までを視野に入れていることが,本書の大きな特徴です.いわば,自分自身が「こんな教科書が欲しかった」と思えるものを形にしたつもりです.
各分野に精通した先生方にご執筆いただき,最新の知見を反映した,図表も豊富で実践的な内容となりました.日々の診療で考え,判断する力を磨き,脳神経内科医として生涯にわたり学び続けるための一冊になればと願っています.若手からベテランまで,多くの脳神経内科医の皆様にご活用いただければ幸いです.ご多忙のなかご尽力くださった執筆者の先生方,編集委員の皆様,そして刊行に携わってくださった出版社の皆様に,心より感謝申し上げます.
書名:『#専門研修マスターノート #脳神経内科』
出版社:#診断と治療社
責任編集:下畑享良
編集:井口保之,出雲 剛,角田 亘,高橋牧郎,松本理器,山野嘉久
刊行予定:2026年11月16日
定価:9,900円(税込)
Amazon:https://link.amazon/B00nnDXi8
楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/18826604/…

・閃輝暗点は脳内を毎分3 mmで進む―岩田誠先生のご研究から学ぶ拡延性抑制の新しい理解
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月17日のFB投稿です***
先日,岩田誠先生から興味深いご論文の別刷りを頂戴しました.岩田先生と松井孝嘉先生による「閃輝暗点の自己記録」という論文です.閃輝暗点は,視野の一部にギザギザした光が現れ,数分から数十分かけてゆっくり広がる,片頭痛の前兆として知られる視覚症状です.1941年,神経心理学者Lashleyは自分自身の閃輝暗点を詳細に記録し,その広がり方から,大脳皮質上を毎分2~3 mm程度で伝播する神経活動の変化が存在すると推測しました.
岩田先生らは,頭痛を伴わない閃輝暗点を繰り返す68歳女性に,症状の出現から消失までの経過を自分で記録してもらいました.患者さんは視点を固定したまま,閃輝暗点の広がりを1分ごとに記録し,異なる日に2回の記録を行いました(図1).その結果,2回の記録は驚くほど一致しており,視覚野の解剖学的な位置関係を考慮して計算すると,神経活動の変化は毎分約3 mmで伝播していると推定されました.これはLashleyが約85年前に報告した速度とも一致しています.一人の患者さんの丁寧な観察から,脳内で起きている現象の速度を推定できることに驚くとともに,感銘を受けました.
この現象の背景にあるのが,大脳皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)です.岩田先生のご論文を拝読し,関連文献を調べてみたところ,今年のNature Reviews Neurology誌に,この現象を新たな立場で捉え直す論文が発表されていました.つまりCSDを含む拡延性抑制(spreading depression:SD)が,片頭痛だけでなく,脳梗塞,脳出血,てんかん,脳腫瘍などに共通する病態であることを強調した論文で,マサチューセッツ総合病院のCenk Ayata博士らによるPerspective(展望論文)です.
SDは,神経細胞の大規模な脱分極が灰白質をゆっくり伝播する現象で,著者らは「brain tsunami(脳内の津波)」と表現しています.伝播速度は毎分2~5 mm程度で,実際に片頭痛の視覚前兆を捉えた現代の脳画像研究でも,後頭葉皮質を毎分約3 mmで伝播することが確認されています.これは岩田先生らが患者さんの観察から推定した速度とよく一致します.SDが通過する際には,まず神経細胞が一時的に興奮し,続いて活動が強く抑制されます.そのため,光がちらつく,異常感覚が広がるといった陽性症状に続き,視野欠損,感覚低下,麻痺などの陰性症状が現れます.
SDの発生機序を示したのが図2です.強い神経活動や虚血によって神経細胞が一斉に脱分極すると,通常3~4 mM程度の細胞外K⁺濃度が約12 mM(ピンク)を超え,SDが誘発されます(図2Aa).さらに大量のK⁺放出(K)によって20~60 mM程度まで上昇し(図2Ab;オレンジ),同時に放出されるグルタミン酸(G)とともに周囲の神経細胞を脱分極させます(図2Ac,Ad).興味深いことに,この大きな電気生理学的変化は通常の頭皮脳波ではほとんど検出できません.そのため,SDは日常診療で十分に認識されてこなかった可能性があります.
論文では,片頭痛と診断されていたものの,器質的疾患が背景にあった3症例が紹介されています.最初は56歳男性で,左母指から手,顔面,口腔内へと約15分かけて広がる異常感覚を繰り返し,後に右内頸動脈閉塞と脳梗塞が判明しました.2例目は慢性硬膜下血腫の手術後に,失語と左上肢へ広がる異常感覚を繰り返した40歳男性です.3例目は視覚症状,感覚症状,言語障害を伴う片頭痛様発作を繰り返していた21歳女性ですが,左頭頂後頭葉の脳動静脈奇形が発見され,摘出後に発作が消失しました.典型的な片頭痛前兆に見える症状でも,重大な器質的疾患が隠れている可能性を示しています.
SDの発生は,既報のヒトの電気生理学的研究でも確認されています.例えば,広範な中大脳動脈梗塞に対して減圧開頭術を受けた16例のうち14例で,合計169回のSDが記録されています.また,くも膜下出血では発症6~8日頃にSDが増加し,遅発性脳虚血との関連が示されています.重症頭部外傷や重症脳内出血でも,開頭術後などに頭蓋内電極で調べた患者の約60~70%にSDが確認されています.ただし,これらは主に重症患者を対象とした研究であり,一般の患者における発生頻度を示すものではありません.SDは大量のエネルギーを消費するため,虚血や低酸素状態では脳組織障害を悪化させる可能性があります.
臨床的に重要なのは,一過性脳虚血発作(TIA)との鑑別です.一般にTIAでは症状が突然出現するのに対し,片頭痛の前兆では徐々に広がります.しかし,脳虚血自体がSDを誘発する場合があり,症状がゆっくり広がるからといってTIAを除外することはできません.
SDが片頭痛だけでなく,さまざまな神経疾患で生じることを示したのが図3です.図3aでは,脳梗塞,くも膜下出血,頭部外傷,脳動静脈奇形などを背景にSDが発生し,周囲の大脳皮質へ伝播する様子が示されています.図3bは,ヒトの大脳皮質表面に留置した硬膜下電極による実際の記録で,神経活動の抑制と大きな陰性の緩徐電位変化が,隣接する電極へ順番に伝わることが確認できます.
こうした知見を踏まえ,著者らはSDによる神経症状を呈する疾患を「一次性」と「二次性」に分類することを提案しています.一次性は前兆のある片頭痛など,明らかな器質的病変を認めないもの,二次性は脳梗塞,脳出血,脳腫瘍,血管奇形などによってSDが誘発されるものです.症状がいつも同じ側に出現する,高頻度に繰り返す,40歳以降に初めて発症する,視覚症状以外から始まるといった特徴は,二次性SDを疑う手がかりになります.「見れども見えず」という言葉がありますが,この病態を知らなかったので,私自身もこれまで見逃していた症例があったかもしれません.ただこの分類は著者らの提案段階のものです.いずれにしても この論文の最大のメッセージは,「片頭痛の前兆に似た症状=片頭痛」と考えるべきではないということです.
岩田先生らのご研究と今回のPerspectiveを続けて読むと,一人の患者さんの閃輝暗点の観察が,脳卒中,てんかん,脳腫瘍などを含む広い神経疾患の病態理解につながることが分かります.1941年のLashleyによる自己観察,岩田先生らによる患者さんの記録,そして現代の電気生理学的研究が,いずれも毎分約3 mmという伝播速度で結び付いている点は印象的です.患者さんの症状を丁寧に聴き取り,その時間的・空間的な広がりを把握するという神経症候学の基本が,脳内で起こる現象の理解に直結することを教えてくれる,興味深い2編の論文でした.
1)岩田誠,松井孝嘉.閃輝暗点の自己記録.脳神経内科.2026;105:324–326.
2)Ayata C, et al. Tsunamis hiding in plain sight: spreading depression in clinical neurology. Nat Rev Neurol. 2026;22:251–266. doi: 10.1038/s41582-026-01191-1. PMID: 41814024.

・「研究はとても楽しい」――片頭痛研究の巨匠Jes Olesen教授が若い研究者に伝えたい7つの研究哲学
***以下は、岐阜大学医学部下畑先生の2026年10月20日のFB投稿です***
今年,85歳を迎えたデンマークの脳神経内科医,Jes Olesen教授の研究人生を振り返り,数々の発見がどのような発想から生まれたのかを紹介したEur J Neurol誌の論文です.著者はロシアのElena R. Lebedeva教授で,2026年5月に行われたインタビューをもとに執筆しています.Olesen教授は,片頭痛発作中の脳血流変化を客観的に示し,NO(一酸化窒素),CGRP,PACAPが片頭痛を誘発することを明らかにしました.これらの発見は抗CGRP抗体やゲパントなどの治療薬の開発につながりました.また,国際頭痛分類(ICHD)の確立にも中心的な役割を果たしました.本論文では,こうした業績を生み出したOlesen教授の研究哲学を,以下の7つの視点から紹介しています(図).
1.研究する価値のある疾患を選ぶ
教授は,研究対象として意識的に患者数の多い片頭痛を選びました.当時の片頭痛は,発作中の異常を客観的に測定することが困難な疾患でした.しかし,教授はそれまで研究してきた脳血流の知識と技術を応用すれば,新しい発見につながると考えました.研究テーマを選ぶ際には,臨床的重要性に加えて,自分の強みを生かせるかどうかが重要です.
2.誰も測定していないものを測定する
教授は,脳内の35か所の局所脳血流を測定できる装置を用い,片頭痛の前兆に伴う脳血流変化を初めて客観的に捉えました.脳血管造影によって偶然誘発された前兆を研究に利用し,脳血流の低下が大脳皮質をゆっくりと広がる現象(spreading oligemia)を明らかにしました.これは,片頭痛の前兆に皮質拡延性抑制(CSD)が関与することを支持する重要な発見でした.新しい発見には,これまで測定できなかった現象を捉える工夫が必要です.
3.常識とされている説明を疑う
当時,認知症に伴う脳血流低下は,神経細胞の機能障害を引き起こす「原因」と考えられていました.教授は,認知症患者で安静時脳血流が低下している一方,二酸化炭素負荷によって脳血流が約2倍に増加することを示しました.これは脳血管の拡張予備能が保たれていることを意味します.安静時の脳血流低下は一次的な血液供給障害ではなく,神経細胞の活動性や代謝需要の低下に伴う二次的な変化であると考えました.つまり,脳血流低下は認知症の原因ではなく「結果」であるという解釈です.この研究は,観察された関連性から因果関係を安易に判断せず,生理学的な介入によって検証することの重要性を示しています.
4.疾患を実験的に再現して原因を検証する
教授の代表的な業績が,human provocation model(ヒト疾患誘発モデル)です.ある物質が疾患の発症に関与するなら,その物質を投与することで症状を再現できるはずだという発想です.ニトログリセリンによる片頭痛誘発に続き,CGRPやPACAP38も発作を誘発することを示しました.こうした研究がCGRP標的治療薬の開発につながりました.「観察」による関連の発見から,「介入」による因果関係の検証へ進むことが重要であることを示しています.
5.研究を進めるための共通基盤をつくる
教授は国際頭痛分類(ICHD)や片頭痛治療薬の臨床試験方法の標準化にも尽力しました.さらに,診断基準自体も検証すべき研究対象だと考えました.実際,前兆のある片頭痛と一過性脳虚血発作(TIA)の鑑別基準を患者データで検証し,ICHD-3の改訂につなげました.診断基準は一度作れば完成するものではなく,科学的根拠に基づいて改善し続ける必要があります.
6.自分にない技術は,他の研究者から学ぶ
教授は,「一つの研究グループですべての技術を持つことは不可能だ」と述べています.自分たちの強みを理解し,不足する技術を持つ研究者と協力することが重要です.設備や研究費が十分でない施設でも,臨床的特徴を詳細に評価した患者集団を集めるなど,独自の貢献ができます.
7.研究を楽しむことが最大の原動力になる
教授は60年以上にわたって研究を続け,約60名の博士課程学生を指導してきました.その原動力は賞や名誉ではなく,それまで分からなかったことを理解し,新しい知識を得る喜びでした.教授は研究人生を次の一言で表しています.
Doing research and difficult things is a lot of fun.
「研究をすること,そして難しいことに挑戦することは,とても楽しい」
この気持ち,私もとても良く分かります.
本論文が若い研究者に伝えているのは,優れた研究には特別なひらめきだけが必要なのではないということです.重要な臨床課題を選び,常識を疑い,新しい方法で仮説を検証し,他分野と協力する.こうした姿勢の積み重ねが大きな発見につながります.そして何より,分からないことを解き明かす知的な喜びこそが,研究を長く続けるための最大の原動力になるのだと思います.とても納得がいきますし,研究を志す若い先生方にもお読みいただきたいと思いました.
Lebedeva ER. Science Is a Lot of Fun: How Professor Jes Olesen Made Discoveries in Migraine. Eur J Neurol. 2026;33:e70775.
肖像画は以下のページより引用  https://schmerzklinik.de/…/international-headache…/

 

3.特別企画:「Switching Science」はどのように生まれたか
ポールウォーキング(Standard Pole Walking)の有効性を実証するには、新しい科学の基盤が必要ではないか、と感じています。生成AIとの共同作業により、2本の英文プレプリント投稿用原稿(arXiv への投稿を想定)を、今般完成させました。

一つは、これまで当サイトで「論文5:切り替えの統合理論」として紹介してきた理論研究です。

もう一つは、その理論を出発点として新たに構築した研究開発プログラム「Switching Science」です。

1)論文5のプレプリント版
Toward a Unified Theory of Switching: Constraint Geometry, Hierarchical Reorganization, and Gait Transitions

本論文は、当サイトで既に公開している「論文5:切り替えの統合理論」を国際的な学術論文の形式に再構成したものです。

歩行から走行への切り替えを例として、
• 制約幾何学(Constraint Geometry)
• 階層的再編成(Hierarchical Reorganization)
• SCAN
• VSM
• 3D最小モデル
を統合的に解釈する理論的枠組みを提示しています。

今回のプレプリント版では、タイトル名を少し変更し、新たに参考文献体系を全面的に見直して、理論的位置づけをより明確にしました。

2)論文6「Switching Science」
Switching Science: A Testable Stochastic-Dynamical Framework for Locomotor Transitions

論文5を土台として、新たに構築した研究開発プログラムです。

本研究は、次の流れから構成されています。
Theory → Mathematics → Phenotypes → Perturbation → Measurement → Validation → Revision
言い換えれば、「理論をどのように実証可能な科学へ発展させるか」を扱う試みです。

3)予想外の変化
この論文6には、実は一つの興味深い経緯があります。

執筆当初、論文6は理論論文として構想されていました。すなわち、「切り替えとは何か」を説明するための理論群を提示する論文でした。ところが、プレプリント投稿に向けて本文と補論1~4を統合し、全体を俯瞰する作業を進める中で、論文の性格そのものが変化し始めました。そこで浮かび上がってきた問いが、「この理論は、どのように反証できるのか」だったのです。

4)反証可能性という転機
科学哲学者カール・ポパーは、科学であるためには反証可能でなければならない、と述べています。切り替え現象に関する理論を提示するだけでは、まだ十分ではありません。
・どのような観測を行えばその理論が支持されるのか。
・どのような結果が出ればその理論は否定されるのか。
こうした問いに答えられて初めて、理論は科学的研究プログラムになります。

プレプリント原稿を構成し直す過程で、私はこの問題に真正面から向き合うことになりました。その結果として、
• Phenotype Framework
• Perturbation Framework
• Measurement Architecture
• Validation Hierarchy
• Scientific Validation Cycle
などの構成要素が追加されました。

そして論文6は、「理論の提示」から「科学的研究プログラムの提示」へと進化しました。

5)生成AIとの対話から学んだこと
この変化の背景には、生成AIとの長期間の対話があります。私は主として Copilot を壁打ち相手として用い、Gemini を評定者として活用してきました。

生成AIは、優れた仮説生成能力を持っています。アブダクションの天才です。時には人間が思いつかないような連想や構想を提示し、新しい視点を与えてくれます。

しかし同時に、
• 仮説への過度の同調
• 見せかけの体系化
• 美しいが検証困難な説明
• エコーチェンバー化
といった危険性もあります。

そのため私は、仮説を生み出す役割と仮説を批判的に検証する役割を意図的に分離するように心掛けていたつもりですが、今回の論文6の改訂プロセスは、科学研究における仮説形成と反証的検討の重要性を、改めて認識させてくれました。

6)Theory から Science へ
振り返ってみると、今回もっとも重要だった成果は、論文そのものではなかったのかもしれません。むしろ、理論が科学へ変化していく過程を、自ら体験できたことにあったように思います。

当初の原稿は、「切り替え現象を説明する理論」でした。最終的な原稿は、「切り替え現象を科学として研究するための研究開発プログラム」になりました。

この変化こそが、私にとっての「Switching Science」の第一歩だったのではないか、と思えます。

おわりに
論文5は「切り替えの理論」を提示するものです。論文6は「切り替えを科学として研究する方法」を提示するものです。

今後、当サイトではこれらを基礎として、Switching Science Series IIとして連載を開始する予定です。読者の皆様にも、この新しい知的探検を楽しんでいただければ幸いです。

***リンク***
論文5のプレプリント版
Toward a Unified Theory of Switching: Constraint Geometry, Hierarchical Reorganization, and Gait Transitions へは、こちらから

論文6のプレプリント版
Switching Science: A Testable Stochastic-Dynamical Framework for Locomotor Transitions へは、こちらから

なお、上記論文・補論を引用される場合は、これらのプレプリント版をご参照・ご引用下さい。

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)